2018/04/01 のログ
ご案内:「ルナン家本邸の最奥」にディアーヌ・ルナンさんが現れました。
ディアーヌ・ルナン > 初夏の頃より、ディアーヌ・ルナンの魔力は急激な衰えを見せた。
異能者や異邦人に対する憎悪により魔力を昂ぶらせ、そのことによって生命を維持していた彼女にとっては、魔力の衰えは、急速な死の接近を意味する。
表に出ることが無くなってなお「ルナン派」の精神的支柱であり続けた彼女の延命のために、あらゆる措置が講じられたが…その努力は支払った対価に見合うほどの成果を見せなかった。

彼女自身はほとんど知覚もしていなかった、慌ただしい周辺の動き。
それがぷっつりと途絶えた束の間の静寂、目を開く力すら持たなかった彼女の頭に、平静ながらも秩序だった思考が出来るだけの意識が舞い戻ったのである。

ディアーヌ・ルナン > (…どれほど、眠っていたのかしら)

どれだけの時間が経っているのかも、もはや分からない。
はっきりとした最後の記憶は、「クローデットとともに幸せであれ」と懸命に諭してくれた、小柄な青年の叫びと…ひたすら自分に謝り続けた、クローデットのすすり泣き。

(謝らなきゃいけないのは、私の方だったのに…)

失ったものの埋め合わせを求めようと、欲することばかりに囚われ過ぎた。
クローデットを苦しめ続けただけではない…きっと、他にもあまりに多くのものを失ってしまったのだろう。
しかし、それらに想いを馳せるだけの力は…今はもちろん、精力的であった頃の自分にも乏しいものだろう。

白魔術しか見えなかった。そんな自分がこの家を継ぐことになり…魔術師の中の狭い世界に安住することを、自分も、家族も許した。
それが最初の、大きな間違いだったのかもしれないが…失った時間は、もはや取り戻せない。
自分のものも、他人のものも。

ディアーヌ・ルナン > あのまま囚われ続けていたら、もっと大切な、かけがえのないものを、取り返しのつかない形で失っていたのかもしれない。
何とか、最後に「与える喜び」を思い出して、大切なもの達のために手放すことは出来たけれど…それ以上のことを為す力は、自分には残らなかった。
最後に残ったのは、目を開けることも、声を出すことも叶わない、どうしようもなく衰弱した、この体だけ。

そして、それももう間もなく手放すことになるのだろう。

ディアーヌ・ルナン > ここまで衰弱した肉体にもはや未練はないけれど、解放された魂の行く先は、きっと「愛して失ったもの達」とは違う場所だろう。

でも、それでいい。
欲することに囚われるあまり、自分自身が多くのものを失っただけではない。あまりに、多くのものを奪った。
今、この安らぎの中にあれることが奇跡なのだから、十分だ。

ディアーヌ・ルナン > クローデットのことは心残りだけれど…あれだけ強く賢い彼女ならば、いつかあの子なりの道を定めるだろう。
だから、自分はここで退いても大丈夫だ。きっと、「彼」も傍にいてくれるのだろうし。

(私の名前、結局知る機会はあったのかしら?)

瑞々しいくすぐったさが、束の間心の中に踊った。ここまでの時を重ねれば、これらの感情の動きをはっきりと捉えられること自体も、また1つの奇跡だ。
それを表現出来ないほどに、体は弱りきってしまっているけれど。

ディアーヌ・ルナン > ディアーヌ・ルナンはあくまで「ルナン派」の精神的な支柱であり、実務からは遠ざかって久しい。

だから、知らないのだ。
欧州の多くの地域で「同志」が壊滅的な被害を被った後、その残党がこちらに集結し、その多様さ故に統制が困難になってきていることを。
そして、自身の死によって精神的な支柱の一つを失う「同志」達は、ますます混乱していくだろうことを。

ディアーヌ・ルナン > しかし、それを知る術など、彼女自身はもはや持ちようがない。
ただ、彼女が愛し、そしてこれからを生きていくだろうもの達が、少しでも幸福を感じられる生を歩めることを願うだけだ。

ミモザの花が咲く頃。
ディアーヌ・ルナンは最期の息をか細く吐き、その心臓は動きを止めたのだった。

ご案内:「ルナン家本邸の最奥」からディアーヌ・ルナンさんが去りました。