2018/04/07 のログ
鈴ヶ森 綾 > 「ラウラが喜んでくれたのなら、食材を選んだかいがあったわ。」

随分気分が昂ぶっているのか、いつもよりはしゃいだところのある彼女の様子に小さく微笑んで答える。

「ごめんなさい、ただちょっと、あんまり綺麗だったものだから…。
 それじゃ、この辺に敷きましょうか。」

真上には張り出した桜の枝、横を見れば斜面一面に咲く菜の花。
木の根を避けて陣取ったその場所にテキパキとシートが広げられ、準備万端整うと促されるままに靴を脱いでその上へと腰を下ろす。

「それにしても、随分大荷物だとは思っていたけど…他には何を持ってきたのかしら?」

自分のトートバッグの中から二つの弁当箱と水筒。
さらに手拭きと割り箸もそれぞれの分を取り出し、それらを手渡しながらちらりと彼女のリュックに視線を向けた。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「えへへ、綾さんの手料理ならなんだって嬉しいですけど、
 そこに意味が付いてくるとさらに嬉しいです」

普段一人でいるときはうまく笑えないことも多いのだが、
今に限った話をすればとても楽しそうである。
まるで幼い子供の様にだといわれればそのたとえがぴったりだろう。

「これですか?野戦セット……いわゆるキャンプに使う道具一式ですね。
 祖父の代から使ってるものです。
 飯盒と防水マッチ、寝袋、携帯用コンロとランタン……
 戦うわけじゃないので武器とかそういうのは置いてきましたけど」

場所取りが済んで二人で腰を落ち着けると、
彼女がお弁当を取り出しながら質問を投げかけてくる。
リュックから取り出されるのは小道具の数々だ。
前線に出てゲリラ的に戦う部隊じゃない分、荷物が多くなるのだと説明して>

鈴ヶ森 綾 > 「あら嬉しい。なんなら、週に一度ぐらい一緒にご飯でも作りましょうか。」

屈託のない笑顔を見ていると、こちらも嬉しくなってしまう。
ついつい手を伸ばし、彼女の頭を二度三度と撫でた。

「寝袋にランタン…今は必要ないし、置いてきても良かったのじゃなくて?」

花見に持って来るにはかなり大仰な装備に少しばかり苦笑してしまう。
この島にあるもう一つの山、青垣山の方なら置いてきたという武器も含めて必要になるかもしれないが。
一方こちらは、野犬すら滅多にでないと聞く。

「でもこういう道具が用意できるなら、現地で調理する事もできるわけね…。」

携帯用コンロを手にしてふむと一言。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「同じ寮に住んでいるのでそれもアリですね!
 一緒にご飯作って、一緒に食べて」

まるで夫婦みたい!なんて言うが、
頭を撫でられる様は夫婦というより犬と飼い主に近い。

「なんて言うんですかね。これは祖父からの教えなんです。
 『山に入るときは一泊できるようにしなさい』って。
 まぁここは日本ですし、暖かくなってきているので持ってくるか迷ったんですけど」

無いと無いで不安になっちゃって。そんな風に笑う。
自分でも心配性だとは思うが、祖父からもらったこの道具たちだけは置いてこれなかった。

「夏になればキャンプとかも楽しそうですよね。
 日本の山も自然が豊かですし、そういうところで調理するのもなかなかいいものですよ」>

鈴ヶ森 綾 > 「お祖父様の?ふぅん…でも、これだと一人でしか泊まれないわね。
 二人で一つの寝袋で寝てみる?」

家族や親類というのは、今ひとつピンとこない。
そのせいだろうか、少し茶化したような口調になってしまったのは。

「ふふ。まぁ、調理はまたの機会にして、そろそろご飯にしましょ。」

ウェットティッシュで軽く手を拭いて、弁当箱の蓋を外す。
中身は菜の花の辛子和え、ウドとたけのこの煮物、、甘く煮た黒豆、野菜とキノコの巾着。彩りのためにミニトマトも入れてきた。
特に強く意識したわけではないが、肉や野菜の入っていない精進料理弁当だ。

「後はこれ…はい、おにぎり。」

バッグの中から追加で取り出したのは、ラップに包まれたたけのこご飯のおにぎり。
巾着に使って残った分の油揚げも使っている。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「祖父は私よりもずっと獣人に近い存在でしたから。
 こういう道具がなくても山で過ごすことができたんです。
 獣人の血よりも人間の血が濃いお父さんの代からは、装備なしではとても……
 え……っと、さ、さすがに二人は狭いですよ。
 私はこういう装備がなくてもいいよう訓練されてますし!」

つまるところ、子孫のために祖父は自ら野山で生きる術と道具を私と父に教え込んだのだ。
それほど人間と獣人は差のある存在なのだ。
そして彼女の言葉の意図をどう解釈したのか、少し恥ずかしそうにする。

「そ、そうですね!食べましょ!
 ……このおにぎりっていう食べ物、すごく合理的ですよね」

こちらも手を拭いてお弁当を出すのを手伝う。
そしておいしそうな料理の数々に目を輝かせるが、
おにぎりを渡されるとそれをじっと見つめる。
米という食文化が薄いせいなのだが、日本のおにぎりの携帯性に感心している様子で>

鈴ヶ森 綾 > 「…血を薄めて、そういう力を失ってしまう事に抵抗はなかったのかしら。」

やや踏み込んだ質問だが、殊更平然とした口調でそう聞いた。
合わせたように自然な動きで水筒から冷たいお茶をカップに注ぎ、それを彼女に差し出す。

「あら、あなたの代は装備無しではとても…なんじゃ?
 もし寝泊まりする事態になったら、私だけ暖かいところで寝るなんてできないわ。」

その様子にクスリと笑みを零し、少し意地の悪い表情を浮かべた。

「合理的…かしらね?パンはパンで良いものだと思うけど。」

小さく首を傾げながら包みを解き、まずは一口。
合理的かどうかはともかく、味は良好だ。出汁の味がよく効いていて、手前味噌だが久しぶりに作った割にできがいい。

「ところで…献立は特に相談せずに決めてしまったけど、何か不満は無いかしら?
 肉や魚が入っていたほうが良かった?」

そんな話をしながら、時折食事の手を休めて頭上の桜を眺める。
満開からは少し過ぎてしまったようで、風が吹くとそれに合わせて花びらが宙を舞う。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「むしろ血を薄めたかったみたいですよ。
 人間と変わらない存在になれば隔離されることも、兵役義務もなくなりますから」

もっとも、大変容が起きて薄める必要もなくなりましたけどね。
なんて言う口調は少し悲しげだ。
力があるがゆえに虐げられてきたというのに、
大変容で力を持つことは不思議なことではなくなったのだから。

「獣人として野宿はできませんけど、これでも軍隊で鍛えられた身、
 綾さんに装備を貸しておつりがくるくらいですよ!」

えっへん!という効果音が聞こえてきそうな感じで無い胸を張る。
少なくとも、寒さに弱い彼女を優先するというのは合理的な判断だと思う。
存在としても、育った場所にしても、訓練の量にしても、
寒さをしのぐという観点では私のほうが有利なのだから。

「日常生活の主食なら私はパンのほうが親しみがありますけど、
 こういう風に持ち運ぶとなるとおにぎりってすごく便利だと思います。
 私は好き嫌いないので不満はありませんよ?」

おにぎりを食べながら視線を上にあげると、空を覆うように桜が咲いている。
時折風に流されて舞う花弁はまるで冬の初めに降る雪の様に幻想的だ>

鈴ヶ森 綾 > 「………。」

なんと言葉を返すべきだろうか。
それが分からなくて、誤魔化すわけではないが代わりに彼女の肩を抱いて少しこちらへ抱き寄せた。

「まぁ、必要な時には私も自分の分をちゃんと用意するわ。」

得意げな彼女に感謝をこめつつ、いい子いい子とまた頭を撫でてやる。

「ふぅん…馴染みがあリ過ぎると分からなくなるものなのかしら。」

ふやけた海苔と歯ごたえのあるタケノコ、味の染みたご飯をじっくりと噛み締めてから飲み込む。
やはりピンとこない。
その後は弁当箱の中身へと手をつけていく。詰める前に味見はしているはずだが、環境のおかげか、味が数段良くなっている気がした。

「花は綺麗で、ご飯は美味しくて…こんなにも静かで…来てよかったわ。」

水筒のカップにはらりと花びらが舞い落ちる。
茶の上に浮いた桜を取り除くのは簡単だが、暫くは手を止めたまま手元を見つめていた。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「えへへ、私ももう少し獣人の血が濃ければ、
 綾さんと近い立場に居れたかもしれないんですけどね」

肩を抱き寄せられると、少し笑ってそんな冗談を口にする。
しかし気丈にふるまう割に、身体は彼女に預けたままだ。

「そしたら二人でキャンプですね。
 お互い、自然の中のほうがなじみが深いみたいですし」

彼女が今までどういう環境に身を置いていたかはわからないが、
おそらく街の中にいるよりこういう場所のほうが慣れているのだろう。
再び頭を撫でられると心地よさそうに頬を緩ませる。

「隣の芝が青く見える、ってだけなのかもしれませんけどね」

日本に長く生きる立場とそうでない立場。
軍隊に長く生きる立場とそうでない立場。
ものの見方はやはり変わるのだろう。
それでも、おいしいものはおいしいし、美しいものは美しい。
その感性だけはこの場において共通だ。

「遠出して正解でしたね。
 いつもと違う場所で、きれいなものを見ながら食べるご飯がおいしくないわけないです」

やはり美味しいものがあったほうが花見は映えるし、
花を見ながらのほうが食べ物はおいしい>

鈴ヶ森 綾 > 「うーん…どうかしら。なじみが深いというのは、少し違う気もするの。
 時間で言えば都市部に済んでいた時間の方が長いはずよ。
 どちらかと言うと…思い出深い?」

そう表現してみたものの、どこかそれも違うような気がして、またうーんと唸りながら首を傾げる。

「うん、それはあるかもしれないわ。だって、ね。」

何かに深く納得したように頷いて今度は頭ではなく彼女の髪を撫でた。
彼女自身はあまり自信を持っていないようだったが、自分は彼女のこの髪が好きなのだ。
撫でるだけでは飽き足らず、指に絡ませて流したりと弄ぶ。

「……来年も、またここに来たいわね。」

しみじみと呟き、二人並んで白と黃、二つの花を見ながら時を過ごした。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「そうなんですか?思い出、ですか……」

自身は軍隊にいたとはいえ、野山で過ごす時間がかなり長かった。
彼女の言葉に首を傾げるが、彼女自身もじぶんの 言葉に納得できていない様子で。

「ええ、やっぱり一緒にあるものや一緒にいる人って大事だと思います。
 一人でここにきてもこんなに楽しくなかったでしょうし」

そんなことを言いながらまたお弁当を一口。
彼女がこちらの髪をなでたり、指に絡めたりする様子を見て、少し笑う。
どうやら彼女は私の髪を気に入っているらしい。
自身ではそこまできれいだとか、そういうことは思わないのだが、
満足げにする彼女を見ていて悪い気はしない。

「そうですね。来年もまたここに来たいですね」

ふいに呟かれたそんな言葉にうなずく。
どこにもそんな保証はないが、来年もここに二人で来れる気がする。
なんだかんだ談笑して箸を進めるうちに、
楽しい時間はあっという間に過ぎていった>

ご案内:「農業区」から鈴ヶ森 綾さんが去りました。
ご案内:「農業区」からラウラ・ニューリッキ・ユーティライネンさんが去りました。