2015/10/23 のログ
クローデット > 路地裏の方に視線を投げる。
どうやら、「カツアゲ」と呼ばれるタイプの、軽いノリの恐喝が行われているらしい。

(…ただのチンピラ風情は風紀委員会の職分でしょう)

学園祭の警邏において、公安委員会と風紀委員会は必要な場合連携を取ることになっている。
クローデットは、適当なタイミングで通りの端に寄ると、警邏メンバー用の通信機器を作動させた。

「…ええ、歓楽街西部担当のクローデット・ルナンと申します…路地裏で恐喝が発生しておりますので、風紀委員の方に対処をお願いしたいと思いまして…

………あら、あたくしが対処してよろしいんですか?越権行為になりませんか?」

クローデットは、風紀委員会の職分としてイメージされやすい領域の職務を極力避けていた。
風紀委員会と公安委員会の権力争いはそれはそれで島の体制の崩壊を誘発するので「望ましい」が、それを自らが誘発すれば目立ってしまうし…
何より、体制に関わる度合いの低い風紀委員会の職分は、クローデットの思惑から遠くて「面白くない」のだ。

「…そうですわね、あたくしが近くにいる事ですし…何かあっては遅いですから。
…念のためお名前を頂けますか?他の風紀委員の方に事情を説明する際、越権行為を咎められると話が面倒ですから」

通話の相手が戸惑ったのだろうか、くすりと口元で笑みを作る。
…それでも、恐喝現場は「魔術的に」記録し、被害者と加害者も「魔術的に」捕捉しているのだが。

クローデット > 通話の相手は少し渋ったが、それでも名前を開示させられたらしい。

「ありがとうございます…それでは、対処の後、風紀委員会派出所の方まで連行致しますわね。どうか、他の委員の方によろしくお伝え下さいませ」

そう言って通信を終わらせると、路地裏の方に、優雅に足を進める。
そこには、如何にも頭の悪そうなアクセサリーまみれの青年と、如何にも気の弱そうな、栗色の髪の少年。
丁度「金銭の授受」が終わろうとしているところだった。

クローデット > 『ちっ、しけてんなー…学園祭だぜ?もっと持ってねーのかよ』
『そんなこと言われたって、うちの仕送りじゃ…』

あまり多くない紙幣を数える青年と、萎縮する少年。
そこに、女性らしい綺麗な声が響いた。

「失礼致しますわね」

優美な微笑を添えて、堂々と犯罪現場に乱入するクローデット。
『ぁあ!?』と凄んだ青年が、公安委員会の腕章を見て、顔色を変えた。

「学園祭期間は良くも悪くも『賑やか』ですから、公安委員会と風紀委員会が連携して警邏に当たっておりますの。
風紀委員会派出所に、ご同行頂けますかしら?手荒な真似はしたくはありませんもの」

優美な笑顔を崩さないまま、淡々と告げる。
手荒な真似はしたくないのは、手荒な真似が嫌いだからではなく、落第街以外で騒ぎを起こすと後が面倒だからでしかないが…少なくとも、嘘ではない。

クローデット > 『ちっ』

奪った金をその場に放り投げて、その隙にと言わんばかりに駆け出す青年。

『あっ』

その場に散乱する紙幣を必死にかき集める少年を尻目に、クローデットは、「魔術的に」捕捉した青年に向けて…穏やかに呪文を唱えた。

「大地よ、我が敵の動きを封ずる枷となれ…『泥の足枷(アトラーヴ・ドゥ・ブー)』」

次の瞬間、青年の足が地面に取られ、「沈む」。
青年の足下だけが、高粘度の泥と化しているのだ。

『…くそっ…何だこれ…!』

青年は何とか脱出しようともがくが、泥の粘度は相当なようで、まとわりついて離れない。
そうしている間にも、クローデットは悠然とした足取りで青年に迫っていた。

クローデット > 「素直に従っていれば、余計な恥をかかずに済みましたのよ?『浮遊(フロッテゾン)』」

足を取られた青年(もはや脛の中ほどまで沈んでいる)を見下ろしながらクローデットがそう唱えると、今までの粘度がまるで嘘のように、青年の身体が軽々と宙に浮かび上がった。

『うわ、うわぁっ』

青年は空中でじたばたと抵抗するが…足場をどうにかする手段などは備えていないらしく、その抵抗は何の意味も成さなかった。
意味のない抵抗を続ける青年から視線を外し、クローデットは小規模な泥の沼と化した路面の一部を見る。

「解除(ルヴェ)」

そう唱えると、泥の沼は、まるで最初から存在しなかったかのように、ただの地面に戻った。
…それでも、青年の足にその名残はしっかりと残されているのだが。

「それでは、参りましょうか」

改めて、にっこりと満面の笑みを青年に向けると、表通りに向けて歩き出す。
…すると、付随するかのように、宙に浮かされた青年もするすると表通りに向けて引っ張られて行くのだ。

クローデット > 『や、やめてくれ、下ろしてくれよ…歩くから、自分で歩くから…!』

いよいよ通りに出るところで、青年が悲痛な叫びをあげる。
しかし、クローデットは優美な微笑のまま、取り合わない。

「それでまた逃げられてはたまりませんので…しばし空の旅を御堪能下さいな」

青年の表情が、恥辱と絶望が入り交じったものに変わる。
そうして、通りに出たところで…今度は、クローデットは被害者の少年に向き直った。

「事件のあらましについて、あなたのお話も聞かれることになるかと思います。
…派出所まで、ご同行頂けますか?」

今までの様子を呆然と眺めていた少年が、血の気を引かせてがくがくと頷いた。
これで拒んだら、自分も加害者だった青年のような目に遭うと思ったのだろう。
その様子がおかしかったので、クローデットはくすりと笑んだ。

「…犯罪被害者に過ぎませんから、拒んでもどうにかしたりは致しませんわ。
後日連絡が出来るように、学生証だけは見せていただく必要がありましたけれど」

それを聞いて、幾分少年の緊張はほぐれたようだ。
まだ表情は硬いが…それは自分に対する脅威というよりは、加害者だった青年をさらし者にしてまるで悪びれる様子を見せない、クローデットに対する、得体の知れない恐怖感によるものだっただろう。
青年はもはや抵抗する気力もなく、顔色を赤くしたり青くしたりしながら、空中で宙づりになっていた。

クローデット > 歓楽街中心部に比べれば幾分出店の少ない通りを、ゴシックロリィタで武装した美女と、気の弱そうな少年と、宙づりにされた青年が往く。
その異様な光景は、しばし目を引いたことだろう。
うわさ話になろうものなら、その青年はしばらくまともに外に出られないかもしれない…。

ご案内:「歓楽街・落第街沿い」からクローデットさんが去りました。