2015/12/25 のログ
ご案内:「常世コミュニティセンター」に美澄 蘭さんが現れました。
美澄 蘭 > コミュニティセンターの児童室のピアノの傍、ブロンドに碧眼の女性が集まった子ども達に語りかけている。

『………ですから、イエスが生まれたこの日をクリスマス、としてお祝いすることになったわけです』

クリスマスの謂れを、宗教的な面からある程度距離を置く形で説明している。

蘭は、その背後で子ども達の様子を見ていた。
音楽の先生の伝手で、クリスマスソングの指導を中心にアシスタントを依頼されたのだ。

美澄 蘭 > 無論、クリスマスについて説明をしているのは主催者ジェーン・グリーン先生である。
彼女は地球ではかなり知名度を得ているキリスト教発祥のこのイベントを、異邦人に布教することに余念がない。

『…それで、クリスマスには子ども達が街の家々を回って特別なお祝いの歌を歌う習わしもあるんですよ。この時に歌うのが、今日みんなで一緒に歌うクリスマス・キャロルです。
今日は、みんなで英語で歌うことにチャレンジしてみましょう』

にっこりと、人懐っこい笑みを浮かべるジェーン先生。はーい、と、子ども達の無邪気な返事が返った。

『まずは先生達がお手本に歌ってみせますよー。それから、みんなで練習しましょうねー』

音楽の先生のピアノで伴奏が始まる。最初の曲は「We Wish You a Merry Christmas」だ。
蘭はお手本の中には加わらない。小さい子達の面倒を見る先生達と一緒に、子ども達の様子見である。

美澄 蘭 > 先生達のお手本歌唱が終わると、英語歌詞の上にカタカナでルビを振ったものが書かれたホワイトボードが出てくる。

『それでは、みんなで練習していきましょうねー』

音楽の先生が手を挙げて、子ども達の注意を引く。
まずはテンポを落として、8小節ごとにフレーズを区切っての練習だ。

ここでやっと蘭の出番である。

リズムに乗り切れていない子がいないか。
英語の発音でついていけていない子がいないか。
歌詞の意味で引っかかって上手く歌にのれていない子がいないか。

子ども達の様子を見て、フォローが必要な子がいないか探す。

美澄 蘭 > 実はこの「We Wish You a Merry Christmas」、歌詞の意味が可愛らしいので英語教育的には定番なのだが、三拍子な上に弱起なので音楽的にはあんまり親切ではないのだ。少なくとも、日本人に対しては。
実際、日本人らしき小さい男の子が戸惑っているようだ。

「この曲はね、1、2、3、1、2、3って拍子をとる曲なのよ。
横でお姉さんが数えてるから、1、2、3の3で歌い始めましょうね」

というわけで、まずは気付いたこの男の子のリズム把握をお手伝いである。

美澄 蘭 > 幼いだけあって飲み込みが早い。少し付き合ってみるだけで、男の子はあっさり三拍子をマスターしてしまった。

「よく出来ました」
『うん!ありがとーおねーさん!』

頑張って三拍子をマスターした男の子に優しい笑顔を向けて、引き続き子ども達の様子見。
すると、先ほどの男の子より少しだけ年上の女の子が蘭にひっそりと声をかけてきた。

『ねえ、おねえさん…あそこ、英語だとすきまがあるのにカタカナだとつながってるの、いいの?』

こそこそと、ホワイトボードを指差す女の子。
指しているのは…多分「wish you」のルビが「ウィッシュー」になっている部分だろう。

「英語は、似たような発音とか…後ろがアイウエオになってる所の発音は結構くっつけちゃうところがあるの。
歌に合わせると言い直すのも難しいし、あれでいいのよ」
『ふーん…』

納得したかどうかはさておき、理解は出来たようである。
蘭は、そういう細かいところを気にするさまに、幼い頃の自分をほんの少しだけ重ねた。

美澄 蘭 > 『それじゃあ、始めから終わりまで、みんなで一緒に歌ってみましょう』

区切り区切りの練習を終え、通しでの合唱。
子ども達の無邪気な歌声が、よく響いた。

『素晴らしい!みなさんよく出来ました!』

ジェーン先生が、日本人からすれば少し大げさなくらいの感情表現で讃える。

『ちなみに、この歌詞に出てくる「フィギープディング」は、イチジクという果物を使ったお菓子なんです。
今はそのままのお菓子はイギリスにもないんですが、クリスマスのための特別なプディングはこの後みなさんと一緒に食べたいと思います。
…ちょっぴり大人の味がしますから、楽しみにしていて下さいねー?』

ジェーン先生の言葉に、おおー、と子ども達のどよめきが広がる。

ちなみに、コミュニティセンターには調理実習室があり、クリスマスプディングは現在そちらで寝かされている。
こういった設備も中に入っているのも、コミュニティセンターの利点なのだ。

美澄 蘭 > 『じゃあ、次の曲を紹介しますよー。
「Silent Night」です。日本では「きよしこのよる」として知られていますねー。
この曲は、元々はギターで伴奏する珍しいお祝いの歌なんですけど…今日はみなさんの声に負けないように、ピアノで伴奏しますよー。』

そして、再度先生達によるお手本歌唱。

美澄 蘭 > そして、お手本の後、再度区切りながらの練習。
この曲も三拍子だが、先ほどのように弱起ではないし、リズムもゆったりしているので比較的スムーズに進んでいるようである。

そんな中、蘭に、先ほどの女の子が声をかけてきた。

『…おねえさん、「ヨン」って何?』
「………えーっとね…」

蘭の顔がおもむろに引きつった。

問題のフレーズは1番にある
『Round yon virgin mother and Child.』
の、「yon」の部分である。

(前置詞っぽいけど、意味なんなんだろ………)

蘭が普段受けている英語の講義は読解・文法に偏っている。
こういう文学的?な表現には、あまり詳しくないのだ。

「………ジェーン先生に聞いてくるから、ちょっと待っててね」
『………うん』

女の子のジト目を受けながらジェーン先生の元へ早足で。
視線が痛い。

(…ごめんね、年上のお姉さんでも分からないことは分からないの…!)

そんな言い訳を、心の中でだけ。

美澄 蘭 > 「………ジェーン先生」

こそこそと、どこか挙動不審が入った動きでジェーン先生に話しかける蘭。

『あら、どうしました?』
「…あそこの女の子に、英語の意味を聞かれたんですけど、分からなかったもので…あの、「yon」って何なんですか?」
『ああ、あれ?』

からからと笑い、歌の練習を音楽の先生に任せて蘭に説明をする。

『「あそこの」とか「向こうの」っていう…日本語でいうところの形容詞ね。
でも、英語に興味を持ってくれてる子なのね、嬉しいわ』
「…私も、小さい頃をちょっと思い出します」

蘭がそう漏らすと、ジェーン先生は楽しそうに笑って

『美澄さんも、ああいう子だったの?』

と返してくる。蘭の目が、露骨に泳いだ。

「………割と………」

それが中学校時代に凄くよくない方向に作用してしまったので、蘭としては「気分は黒歴史」という部分がなくもなかったりした。

美澄 蘭 > 歌の練習の区切りが良いところで、またさっきの女の子のところへ。
ジェーン先生に聞いた意味を伝える。

「………なんだって。
普段の英語ではあんまり見ないから、私も知らなかったの」
『そっか、いつもは見ないんだ…
ありがとう、おねえさん』

女の子はひとまず納得してくれたらしい。ほっと胸を撫で下ろした。