2016/05/08 のログ
■クローデット > 『もちろん、世界の捉え方は多様にあって、それらにあった、たくさんの種類の魔術が存在する。
…そして、世界の捉え方が対立しないなら…理解しうる限り、僕ら魔術師は、理論上何種類でも魔術を習得することが出来る。簡単じゃないけどね』
軽い口調で語るこの男は、そのくせ幅広い魔術を修めています。
そして、修める魔術の多様さと水準で、一族はおろか「同胞」の中ですらこの男に並ぶ者がいないことも、私は、よく聞いて知っていました。
■クローデット > 『世界の捉え方の対立軸は、大きく二つ。
人の力を信じるのか、超常の力を信じるのか。
…人の心を信じるか、信じないか。
禁術の領域は、人の心を「信じない」ことで至りやすいとされているね』
禁術。魔術の領域の、極み。
それを使いこなせるようになれば、私は「同胞」の…ひいおばあ様のお役に、より立てるようになるのでしょうか。
私の興味に、父は感づいたのでしょう。
少し表情を陰らせます。
『…でも、白魔術は人の力と、祈る心を信じることが重要な魔術だ。
白魔術と、他の魔術を一緒に習得することは何も問題はないけど…「禁術」の領域は、そうはいかない』
「…でも、ひいおばあ様は随分禁術を使われましたけれど、今も白魔術を使うことが出来ておりますが」
私が食い下がると、父はどこか疲れたように、首を横に振りました。
『…でも、昔ほどじゃない。
それに………ひいおばあ様は、魔術師のあり方として、随分変わっているんだ。
あれは………なかなか実現しない上に、とても、苦しいあり方だよ。』
「あなたが…あなたがひいおばあ様を悲しませているのに、何故そんな他人事みたいに言うの!?」
あまりにも淡々として聞こえた語り口に、私は思わず声を荒げてしまいました。
■クローデット > 『………すまない』
父の声は、どこか重たく聞こえました。
『…でも、恐らくね。
ひいおばあ様はお優しい人だから…クローデットが、ひいおばあ様と「そっくり同じに」なることは、望まれていないはずだよ。
…信じられないなら、ひいおばあ様にも尋ねてみると良い』
父の表情は…何故か、ひいおばあ様と、どこか似ているように感じられました。
■クローデット > 父の講義の後、私は真っ先にひいおばあ様のところへ向かいました。
「ひいおばあ様、「あの男」、凄く変なことを言っていたんです。
聞いて頂けますか?」
ひいおばあ様は、ベッドから身体をゆっくりと起こして、困ったように眉を寄せました。
『あら、まあ………なんて?』
「ひいおばあ様は、私がひいおばあ様のようになることを望まれていないはずだ、って。
そんなこと、ありませんよね?」
■クローデット > その後のひいおばあ様の表情を、私はどう捉えれば良かったのでしょう。
先ほどの困った顔とは別の…何か、痛そうな…そんな、表情をしていらっしゃいました。
『………そう、ねぇ………』
ひいおばあ様は声を絞るように出しながら…それでも、私に優しく笑みかけて下さって、こう仰いました。
『…あなたが最終的にどんな魔術師になっても…私の傍にいてくれるなら、味方でいてくれるなら、それで良いのよ。
あと…禁術を使うのが危ないのは本当だから。
まずは白魔術と、それに対立しない魔術を勉強していって…しっかり、力をつけないとね』
ひいおばあ様は、前よりも枯れた手で、優しく私の頭を撫でて下さいました。
『あなたはあの子に…アルベールに負けないくらい、立派な魔術師になれるわ。
だから…焦らないで、しっかり魔術の勉強をするのよ』
「はい、ひいおばあ様」
私が頷くと、ひいおばあ様は、痛そうな顔で笑うのをやめて、とても、嬉しそうな顔で笑って下さいました。
■クローデット > その後、私は父の指導に沿って、白魔術と、それに対立しない魔術の勉強と鍛錬に努めました。
父の警告と、どこか気乗りしないような声。
ひいおばあ様の「痛み」と、苦しみ。
その意味を、私はまだ少しも理解出来ていませんでした。
ご案内:「クローデットのおもいで」からクローデットさんが去りました。