2017/02/24 のログ
ご案内:「スラム地下」に三拍子天歩さんが現れました。
■三拍子天歩 >
いくつもの死体があった。
新鮮な死体であった。妙な言い方だが、その通りで間違いない。
なにせ死にたてほやほやだ。ついさっき彼らは銃殺された。焼殺された。刺殺された。
「数が多いんだよぅ」
グチグチと――誰に向かうでもなく彼女は呟く。
ここにはいま、彼女を除いて誰もいない。別に誰も来ないわけではないが、好き好んで人が寄ってくる場所ではない。
スラム下水道の汚物と泥土を踏破した先にある、この広間には。
■三拍子天歩 >
体育館と呼ぶにはまあ狭い。しかし教室と言うには広すぎる。
適切な表現は難しいが、広さだけで評するとすれば――学校らしく言うなれば――多目的ホールとでも言えようか。
尤も、いまは死体安置所だか火葬場だか、あるいは貧民の共同墓地となっているのだが。
「『日の巻』」
彼女が首を左右に振り始める。
髪と髪が、髪と肌とがぶつかりあって、小さな小さな音を立てる。
幾重にもなる三つの拍子。その一連が一つの術となる。
大きく息を吸い込めば、世界に溢れる大きな力を、この小さな心身と練り合わせ、チャクラに換える。
これも数度繰り返し――
ピタリと正眼に死体の群れを見据えて。
「『時転々身』」
唱える。
■三拍子天歩 >
「やあ」
そして彼女は声をかける。
生きた人間たちに向かって。
「違反部活動に精を出し、風紀の名の下に無事粛清を食らった皆さん、ご機嫌よう。――私は三拍子天歩。君たちを生き返らせた者だ」
混乱する男たちに優しく告げた。
それで混乱が解けるわけではないけれど。
「正確に言えば、君たちが死ぬ前に、“過去の時間軸へ身代わりの術を差し込んだ”ってところだから、君たちはそもそも『死んでいない』んだけど……
その辺は詳しく言うことでも無いだろう。
それはあくまでも事実上の話だ。
しかし君たちの認識上は違う。
――君たちは、確かに一度死んだ。……記憶が、身体が、それを覚えているよね?」
何がなんだか、と言った風な男たちであったが、『確かに一度死んだ』と。そう言われた直後、各々に顔を凍りつかせた。
自覚があるのだろうから。
■三拍子天歩 >
にっこり。
「分かったところで……おっと、崇める必要はないよ。
時空間転移くらい平気でこなす能力者なんてチラホラ居るさ。
まあ、そういう人たちが君たちのようなドクズを救うかどうかは別としてだ」
彼女は両の足で立つ。
男たちは思い思いの格好で居住まいも正さないままそこに居るが、彼女より目線を高くしているものはいない。
誰が矯正したわけでもないが、それは一種の上下関係のようにも見える。
神体を見下ろす宗教がないようにだ。
「君たちは死んで仕方ないようなことをしていたし、私としてもこうやってゲロ吐くほど疲れる術を使う必要はなかったんだけどね。オエッ」
ベロをべっと出して、吐き真似。それから、
「だけど、殺される人間の気持ちが分かったいまの君たちは違う」
表情が消える。無表情は――怒りに見えるのだ。
「死ぬなんて嫌だろう?
出来る限り長く生きたいと願っただろう?
そうだよね、それが普通の感性だ。
君たちは、私たちは、本来そんなどうしようもなく普通の感性を持っている人間なんだよ。
表で生きている生徒と何も変わらないはずなんだ。
なのに何故殺されてしまったのか。――それは、逸脱したからには他ならない。
君たちは死ぬ運命を作ってしまったのは紛れもなく君たちだ。
日頃の行いが悪い。陳腐な言い方だけど、これ以上に的を射ている答えはない。
じゃあどうするのか?
聞くまでもないよね」
元外道の人間に。
極悪非道を貫いて死んだ人間に。
唯一にして絶対の救いを齎した先で。
「平穏に生きること」
彼女は説く。
■三拍子天歩 >
「我々落第街の人間が、正規島民と区別される謂れはないんだよ。
環境我人間を変えしまうんだ。
だから変わらない様にね、私はこうして言うよ。
ただ生きればいい。
ただ生きることを続ければいい。
富を求めるな。贅を求めるな。欲を求めるな。
生きることこそ最高にして至極の喜びだと、いまの君たちなら分かると、私は思いたい。
答えは聞かない。
もしも賛同するなら、そこから真っ直ぐ地上へ帰るんだ。
ここは廃棄物とヘドロの国。全ての死が流れ着く場所。
その屍を踏み越えて、生者が住む世界に帰るんだ
私たちはここで生きていい
ここで増えていい
さあ――この素晴らしい世界で、共に生きよう。
『何事もなく』」
■三拍子天歩 >
やがて――彼女は一人になった。
死体も消えた地下の広場で空を見上げた。
灰色の空。
「死体は全て処理しましたよ、跡形もなく始末しました。
見に来ますか? 大丈夫? ご飯前なんかに来ることをおすすめしますよ。
まあ現場には風紀委員が立ち入った証拠さえ残らない……かどうかは分かりませんけど。
まあ、公安や生徒会にホームズが居ないことを祈っててください。私は知らないんで。
……何か余計なことはしてないかって?」
通話中のようだ。電話越し、彼女は笑って告げた。
「するわけないじゃないですか。
これでも私は事なかれ主義なんですから。
落第街から悪人が減った。
ただそれだけのことじゃないですか……」
ご案内:「スラム地下」から三拍子天歩さんが去りました。