2017/05/20 のログ
ご案内:「学区内緑化部分」に宵町 彼岸さんが現れました。
宵町 彼岸 > 校舎から少し離れた処に緑化区画がある。
その中の一か所は俗にいう中庭や庭園に近い環境になっていて、休み時間や授業の無い生徒が
遊歩道やベンチに腰掛け、柔らかな空気を楽しんでいるような場所になっている。
今でこそ人影もまばらなものの、少し前の昼休憩時にはそこそこの数の生徒が集まる事も多く
特に派手さはないもののまるで時間がゆるりと進んでいくようで、ひっそりと愛されているような……
その中でひときわ大きな木の根元に今、一つの人影があった。

その木の根元にもたれかかっている彼女は片手にはハードカバーの本を持ち、
ちぐはぐで着崩れた制服の上に白衣を羽織り、暑がりなのか少しだけ汗ばんでいる。
ポケットから零れ落ちたDAPに繋がったイヤーカフ式の白いイヤホンは片方が外れ、胸元に落ちてしまっている。
その胸は規則的に上下しており、閉じられた瞳からも彼女が転寝してしまっている事が伺えるかもしれない。

「……――」

その人影が僅かに身じろぎし、僅かに目を開く。
戸惑うように見上げた今日は随分と穏やかな日差し。
のんびりと上を見上げるとまるで水面のような深緑の隙間から
踊るようにきらきらと光が降り注ぐ。
風も柔らかい香りと温かさを肌に伝えていて……
そんな中で寝るなという方が無理に近いかもしれない。
もとよりこの後の授業はフリータイム。
特に選択制の授業に関してはレポートだけを要求される事の方が多い。
彼女の場合授業に出る事よりもそれに関する研究報告を提出する事の方が
求められている行動に近いのだから、授業に出るよりはそちらに専念した方が良いのだろう。
少なくともそれに着手するだけの時間を彼女は与えられている。

けれど、今は研究をしようにも、あまりそれに集中できる状態でもない。
本を持っているのはいつもの癖の様なもので、本を読むというのも何だか言い訳めいた理由で……。
結局図書館とこの場所と、そしてもう一か所をさんざん迷った結果
人気の少ないこの場所で本を読むことにした。

宵町 彼岸 > とは言え、実際読み始めたのは良いものの、その内容はほとんど視界に入っていなかった。
元々選んだものはもう何度も読んだことのある一冊で、今更読み直さなくとも
その内容は完全に頭に入っている。
ただ読みやすいから、好きだから。そんな理由で選んだ一冊を
ただただ捲りながら、考えるというよりはぼんやりと問い続けている。
その結果……こうして睡魔に緩やかに捉えられる羽目になってしまった。

「……似合わなぁぃ」

我ながらいろいろな意味で似合わない行動だとは思う。
これでは考えているというよりただ思っているだけ。
問いをこねくり回すのはただの現実逃避で、それは考えているのではなく連呼しているのと同じこと。
連呼したところで何も解決はしないし、ただ時間が過ぎていくだけの事。
……そうわかっていても答えを出すことなく、結論付ける事もなく
なんとなくただただ漫然と言葉を唇の階で遊ばせている。
ぼんやりとそんな事をし続ければ眠たくなるは当然というのが
唯一出てきた結論かもしれない。
そんな事に思考が飛ぶほど、彼女の頭はゆっくりと回転していた。

宵町 彼岸 > 切っ掛けは些細なことかもしれない。
何の気なしの気まぐれな行動だったと言われればまったくもってその通り。
いつもかぶっていた仮面を少しだけ外し、不用心ともいえるような行動をとった事、
少しだけ遊んでみたこと。そして、きっと願っている事とその意味。
……こうして考えるだけでも、きっと面倒だろうなぁと思う。
この有様だけでもなんというか……

「……重すぎるというかぁ、嗤えないよねぇ」

考えた……というより並べてみてもそれが何かに繋がるわけでもない。
実際のところ、むしろ問題は考え過ぎという所で
知らないわけでも、例を知らないわけでもなく……
ただただ誰かに重い荷を背負わせてしまうだけ。
そうしていても理解できないだけなのだから、
これを続けても何もしていない事と大して変わり映えはない。

「……ふわぁ」

ただ時間つぶしのような事をしていると瞼が重くなってきた。
温かい日差しに、進まない問いかけ
眠気を誘うにはこれ以上ないロケーション。
このまま眠っても、別に誰が怒るでもない。
ゆっくり、ゆっくりと眠りの淵に落ちていく。

宵町 彼岸 > 嗚呼……退屈だ。
何よりもそう思う。
他の誰よりも自分自身にそう思う。
未来に向かう事もなく、糧となる捉え方をするでもなく
ひたすらに救いようのない鈍痛の様な思考と過去。
まるで腫物のように扱われる一助になっている事は間違いない。
普段ならそれを偽装するだけでよかったはず。今までもそうやってきた。
だからこそ、多少変わっていてカワイソウな子でも
ヒトの群れの中に辛うじて受け入れられてきた。
それで良かったし、そう振舞い続ける筈だった。

けれど、この島に来て特に最近はそう居られない時がふえてきたような気がする。
別に誰かに理解されたいわけでもない。受け入れられたいと願っているわけでもない。
ただ、ただ自由気ままに遊んでいたいだけ。それなのに何故か……

「……どうしてなのかなぁ」

無意味と分かっている事を心のどこかで期待している。
心地よい言葉を何処かで待ち受けている。まるで歌劇のように。
それはどこまでも無意味で、そして彼女にとって何処までもヒトらしい願い。
そんなものはもう望みたくもないのに。
望むべき事ではないと遠い昔に知ったはずの事なのに。
その場所に望む物など一つもない。
其処ではどこまで行っても一人なのだから。

宵町 彼岸 > 微睡みながら小さくクスリと笑う。
矛盾する事は当たり前。そもそも、そういう物。
停滞するにはあまりにも幼い問いだと笑ってしまう。
そんなものに対する答えなんて、書にも実にもあふれている。
あり触れた、つまらない退屈な偶像……そんなものに誰かが成る事を望んでいるわけでも
望みたいと願っているわけでもない。
余計な事は必要ないことだ。直ぐに忘れてしまう、そんな退屈な事。
なら、忘れてしまえれたらいい。

「……お馬鹿さんなんだからぁ」

重い瞼の中、ゆっくりと頭上を見上げ、手を伸ばす。
仰ぐは美しい、万華鏡の様な日の光。
もうすぐ夏が来ると告げるような、美しい宝石の様な色がそこには溢れていた。
とても眩しくて、憧れるような光はこの島にいま穏やかに降り注いでいる。

……この世界が好きだとただただそう思う。
例えどこまでも矛盾し、救いようのない
残酷で、理不尽な……どうしようもなく美しいこの世界が。
そう成れないからこそ、望めないからこそ
何よりも輝いて見えるものがそこにはある。

「……それだけの事なのにねぇ」

――そこに"どうして"なんて必要ないはず。
綺麗なものはただ綺麗、それだけの事。

宵町 彼岸 > きっと私は不安だったのだろう。
私はあまりにも退屈そのものだから。
きっと私は恥ずかしかったのだろう。
あの人があまりにも奇麗に見えてしまったから。

それはありふれた、わかりやすく、特別でない想い。

それはきっと、随分人らしい物だろうと思う。
それの名前は即知らないけれど、クラスの誰かが
時に夢見がちな声色で、時に弾むような黄色い声で語っていて……
そして流行りの歌が歌う様なそんな何か。
それはふわふわとして、同時に締め付けられるような鈍い痛みと苦さのある爪痕を
何処か深い所にそっと優しく残していく。
けれど、それはきっともっと優しい誰かにだけ許された願い。

「……ばっかみたい」

三文小説でももう少し面白味があるかもしれない。
与えられた役割に殉ずる分、人形の方が幾分まし。
それすらできなくなれば、それはもう人形とすら呼べない。
そんなものを私は望んだのだろうか。望むべきなのだろうか。

「そんなの判り切ってるのに」

とても冷たい、疲れ切った声で誰かがそう呟いた。
……もう少しだけ眠ろう。これを忘れてしまう為に。
起きた頃にはきっと全てを忘れているはず。
そんな物よりも大切で綺麗なものが、もっともっとたくさん私の手にはあったはず。
今も昔も大切な物はそれだけ。それだけをただ大切に守り続けてきた。
だから、他の物に気を向ける事を私は私に許してはいけない。
……その他の物はいつか全て手放すのだから。

「きれーなもの、沢山残るといいなぁ」

望みは安寧と停滞。願いはただ美しくあれという事だけ。
それ以外は望まない。そう言い聞かせるように小さく呟き
温かい日差しの中彼女は再びゆっくりと瞼を閉じる。
もはや大切なものを思い出すことも叶わなくなってしまっている事をも忘れ
ただただ無邪気な、まるで夢見る小さな少女のような微笑みを浮かべながら。

ご案内:「学区内緑化部分」から宵町 彼岸さんが去りました。