2018/02/01 のログ
ご案内:「MMO「マルドゥークオンライン」」にアリスさんが現れました。
アリス >  
私、アリス・アンダーソンはゲームが好きだ。
ゲームの中では違う自分になれるから。
とはいってもキャラメイクがあると自分に似たアバターを作りがちなのだけれど。

今日はMMORPG、マルドゥークオンラインに自宅からアクセスしている。
基本的に剣と魔法の世界だけど、度重なるアップデートとコラボの果てに割りと何でもありな世界観になっている。

今日こそはあの悪辣なるPKを倒さねばならない。
私は明日の宿題をマッハで終わらせてPCの前に座っている。

アリス >  
初心者用の狩場、『ルセッタの森』でPK行為…
プレイヤーキラーという、キャラを殺すために活動する輩を排除するのが今日の目的。

私のキャラ、ルイスは錬金術師だ。
攻撃、防御、サポート、共に高レベルでまとまっている。
(その代わりに全部の要素が特化キャラには負ける、高レベルというのも錬金術師にしてはの話で)
私の所属するギルド、聖夜騎士団(ギルドマスターの話だとホーリーナイツと読むらしい)は、
PKを排除して初心者が安心してゲームできる環境を作るために今夜、動く。

「アイテム足りるかしら……ううん、今日は採算度外視でいっぱい持っていっちゃえ」

アリス >  
「おはこにゃばちにんこです」
『ルイスおはー』
『その挨拶好きだね、おはおは』

うちでは挨拶は全部おはようだ。
よくわからない慣習があるらしい。
でもおは、から始まっていれば通じるので私はすごく適当にタイピングする。

「時間だしそろそろやっちゃう?」
『やろかやろかー』
『つらたんだったらギルマスが来るってさ』

部屋が寒いので用意していた紅茶が既にアイスティーになっている。
異能で何か創ったら温められないだろうか……とか考えながら冷たい紅茶を飲む。

ルセッタの森に入ると、いきなりPKの連中が陣取っている。
キャラの名前の上にあるギルド名を確認。
悪賭……アクトと読む彼らは、マルドゥークオンラインの嫌われ者だ。

アリス >  
「悪賭さんらチィーッス、初狩りやめてください」

とりあえず会話からスタート。
少女錬金術師は錬金銃と呼ばれる武器を持っていることが多い。
けど、銃を構えずに相手の言い分を伺う。

あ、初狩りとは初心者狩りのことで。ダメ、絶対。

『え、いやです。むりむり』

悪賭の中心人物がすごく適当に返答をよこした。
漢字の変換くらいしてほしい。

「なんでー? 初心者が困ってるじゃん!」
『orera,misu,俺ら困ってる人が見たいの』

な、なんて奴ら。
最早交渉の余地なし。悪賭死すべし。

『あ、あいつアレじゃん。ロリアバター使ってるネカマのルイス』

!?

ネ、ネカマ(ネットゲームでリアル女のフリをしている男)……!?
ちがうし!! リアル女の子だし!!
悪賭殺すべし!!

アリス >  
「<SYSTEM:使用できない言葉が含まれています。>」
『落ち着いてルイス』

激昂してちょっと汚い言葉を使ってしまった。
戦闘開始。

ギルドメンバーがサポート魔法を唱える。
私も練成壁を作って遠距離から一方的に攻撃できる環境を整える。

ギルドメンバーのバリカタ麺さんが防御アップのスキルを使って大きな盾を構えてくれた。
た、頼れる。

それに対し、悪賭はすごく適当な動きだ。
恐らく、連携なんか取らなくても個々人がすごく強いから何とかなってきたタイプのPK。

これはコンセプトの戦い。負けられない!

アリス >  
「《銃弩》いきます」

両手に持った錬金銃、二丁拳銃タイプを装備して攻撃スキルを使う。
練成壁の覗き穴を通すように銃弾が放たれる。

しかし、悪賭たちは回避スキルを使って遠距離攻撃を凌いでいく。
手強い! でも向こうの攻撃もバリカタ麺さんが防いでくれるはず!

次の瞬間、
バリカタ麺さんのHPがゼロになっていた。
十字架のマークが浮かんで倒れこむバリカタ麺さん。

バ、バリカタめーん!!

防御アップスキルを使ったメイン盾を一撃で!?
火力が違いすぎる!! 戦略を覆す戦術なんて到底認められない!!

『ホーリーナイツ(笑)弱杉りゅううううううう』

さらに全体チャットで煽られてる……こいつら嫌い。

アリス >  
『がめおべらー』
仲間が言う、ゲームオーバーを意味するマルドゥークオンライン用語。GAMEOVERをそのまま読んだだけ。

『これは全滅?』
『個人チャットでギルマス呼んだけど間に合うかな』
仲間達から弱気な発言が飛び出してくる。

「なに言ってるの! バリカタ麺さんがいなくなっても!」
「私たちは負けてないっしょや!? ファッキンキャットさんの魔法も残ってるし!」
「†聖魔☆黒麒麟†さんの両手剣スキルのCTも貯まってるはず!」
「妖怪ししゃも露店さんは私と一緒に時間を稼いで!!」

どうでもいいけどうちのギルドは変な名前の人が多い。

アリス >  
みんなを鼓舞しておいて自分だけ後ろでぬくぬくとHPを温存するわけにはいかない。
前線に出て私は近接寄りなステータスに変化するスキル、《銃型》を使う。

「ルイスいきます!」

悪賭たちに向かって突撃、二丁拳銃でポーズを決めながら接近射撃を試みる。

次の瞬間、相手の《シールドバッシュ》で軽く小突かれた。
こっちの攻撃はキャンセルされ、HPが残り一割まで減る。

「<SYSTEM:使用できない言葉が含まれています。>」
『ルイス落ち着いてまた汚い言葉使ってる』

うちの黒魔導師ファッキンキャットさんに窘められた。
震える指で全回復アイテムを設定してるショートカットキーを押す。
ああ、このアイテム高かったのに。

基本的に私のお小遣いだと課金はあんまりできない。
だから限られたアイテムでやりくりしている。
こっちの懐事情を見ているかのように、悪賭の連中はギリギリ死なない攻撃でこっちを削ってくる。

アリス >  
《峰打ち》で、《クイックフレイム》で、《シールドバッシュ》で。
悪賭たちは私のキャラのHPを死なない程度に削ってくる。

半泣きで回復アイテムを使う私。

『ルイスもういい、撤退しよか。月初からトータル赤字になるぞ』

嫌だ!! ここで負けたら初心者の人たちは狩場が安心して使えないままじゃない!!

悔しい、悔しい、悔しい……!
けど、もうどうしようもない……
もどかしくて、PCの前で足をばたばたと動かした。

アリス >  
その時。

白銀の鎧を纏った騎士がルセッタの森に現れる。

「ギ……ギルマス!!」

そう、あのキャラは聖夜騎士団のギルドマスター。
私たちを統率する勇敢なる騎士。

『ギルマスきたああああ』
『これはアガる』

仲間達も安堵の表情を浮かべている。
悪賭たちは嘲笑う顔文字を使いながら、ギルマスに襲い掛かっていく。

彼が来た時点でこの話はもう終わってる。
だって、ギルマスは。

ギルマスは。

『うげ、鬼強』
『廃人ワラえる、ってか死ねる』
『PKK乙、はーやってらんネ』

ギルマスは――――とっても強いのだ。
振るわれる光輝く両手剣こそ、彼の勇猛を示している。
あっという間に悪賭の連中を全員、戦闘不能にしてしまった。

「ありがとう、ギルマス!」

戦闘不能になっていた仲間達を復活させてから、ギルマスの元にキャラを移動させる。

『みんな、よく頑張ったな!』

そう爽やかに言うギルマスの名前は、『ブルーレットを砕け』である。

やっぱうちのギルド、変な名前の人しかいない!!

ご案内:「MMO「マルドゥークオンライン」」からアリスさんが去りました。