2018/08/03 のログ
ご案内:「常世公園のベンチ」に鈴ヶ森 綾さんが現れました。
ご案内:「常世公園のベンチ」にラウラ・ニューリッキ・ユーティライネンさんが現れました。
鈴ヶ森 綾 > 夜、時刻は間もなく日付が変わる頃合い。昼間は賑わいを見せるこの場所も今は閑散としている。
そんな人気の失せた公園の一角にあるベンチで呼び出した相手をじっと待つ。

「………」

呼び出し相手の部屋に差し込んだ手紙には、この時刻と、自分の名前と、公園のベンチで待つとだけ書いた。
この公園はかなりの広さがあり、ベンチと言っても相当な数が設置されている。
それでも伝わると思ったのは、些か感傷が過ぎただろうか。
二人が初めて出会ったその場所を、彼女が思い至らないとは考えなかったのだ。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「……ここ、でしたか。
 まぁ、なんとなくここかなとは思ってましたけど」

夜の公園。夏になって、陽が沈んでも熱気が残る夜。
暗い公園を照らす街灯には無数の虫が集まって、慌ただしく飛び交っている。
しかしそんな慌ただしさとは裏腹に、照らされた公園の時間は驚くほどゆっくりだ。

最低限のことだけが書かれた手紙。
それを受け取った時、相手の意図がくみ取れなかったが、
こうも静かな空間にいるとなんとなくわかる気がする。
そして、自分が相手にどうするべきか、ごちゃごちゃとした思考が頭の中を占めていた>

鈴ヶ森 綾 > 「ああ、良かったわ。覚えていてくれたのね。…それに、ちゃんと来てくれた。」

最後にあった時の様子から、やってこない可能性もあると考えていた。
それでもこうして来てくれた事に少しばかり安堵したように表情を緩ませて応じる。

「なんだか、久しぶりに会うような気がするわね。ほんの一週間ほど顔を合わせなかっただけなのに。
 あれから変わりはない?」

どちらともなく出会わないようにした結果だろうか、あの日落第街の路地裏で逢って以来、
寮でも互いに顔を見る機会は無かった。
その空白を埋めるような世間話を続けようとする。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「ええ、覚えてますよ。初めて会ったのも、クリスマスを過ごしたのも、ここでした。
 はい、ちゃんと、きました。
 …………正直、ここに来るの、迷ったんです」

世間話をしようとする彼女を遮って、話しをする。
話そうと決めたことだ。余計な話をすれば、折角の決意が揺らぐようだったから。

「正直、この一週間変わりがないといえば嘘です。
 変わったことしかなかった。
 一人になったという部分は元通り、とでもいうべきでしょうけど」

変わりはないか。
そう問われれば、世間話の代わりに本当のことを話そう。
この一週間、一人で考えていたことだ>

鈴ヶ森 綾 > 「そう…。」

短い返事の中に隠しきれない喜びの感情が混じる。だがそれも続く彼女の言葉で鳴りを潜める。

「……やっぱり、私が怖いかしら。それとも許せない?あんな事をしている私が。」

相手の言葉を受けて暫しの間押し黙る。
視線を少し彷徨わせたり、足を組んだりと落ち着きない様子を見せた後、覚悟を決めたように閉じていた口を再度開いた。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「ええ、怖い。
 私、謝らないといけないです。
 『今まで人外の相手ばっかりだったから、綾さんみたいなのは慣れっこ』って。
 でも私、綾さんみたいな存在を消す側だった。
 きっと、今までの覚悟のまま接していたら、いつか、軍人としての私が綾さんを始末してしまう」

この一週間抱えていた怖さ、それは食べられるんじゃないかとか、
行為が許せないとか、そういう表面的なものだけじゃなかった。
ようやくわかったのだ。どうしてあの時あれだけの感情がわいてきたのか。

「私、どこかで『綾さんと、他の人外は違う』って思ってたんです。
 でも、いざ綾さんの本質を覗いたら、今まで始末してきた存在に対して抱いていた気持ちが沸き起こったんです。
 『目の前にいる存在を始末しなければ。じゃないとこちらが消される』って」

だから、今日は私、何も持たないで来たんです。
そう言葉を続けて>

鈴ヶ森 綾 > 「…そういう事だったの。そんな風に考えていたなんて、夢にも思わなかったわ。」

彼女の話はこちらの意表をついたものであった。
ただその言葉を受けても、予め出していた結論に変化はなかったように思う。

「あれから少し、考えてみたわ。どうしたら貴方の不安や恐れを払ってあげられるか。
 …でもね。何も、何もないのよ。私はあなたに何一つ保証なんてしてあげられない。」

女郎蜘蛛の雄は、雌の作った巣の中で共生する。
しかし体格で大きく劣る雄はしばしば雌に獲物と間違われて捕食される事がある。
知性を得た今でさえ、先日のような事態は起こりうる。だから。

「だからね…ただ、私を信じて欲しいの。あの時、私の部屋にあなたを招いた時、私は言った。
 私は貴方を信じたわけじゃないけど、信じたいと思っている。
 今は信じているわ。貴方に私が殺される日なんて、一生来ないって。
 だから貴方にも、信じて欲しいの。私が貴方を食べてしまう日なんて、一生来ないって。」

そう言って、手を差し伸ばす。
表情はただ穏やかで、彼女がどのような選択をしても怨みはすまいという胸中が現れていた。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「私自身、自分が綾さんのことをこんな風に考えていたと理解した時は絶望しました」

結局、自分は軍に飼いならされた犬なのだと。
本質は何も変わらないのだと。

「……えへへ、やっぱり、似た者同士ですね。
 安心しましたよ。
 わたしだって、綾さんの信用に応えていく保証なんてありません。
 私が綾さんを始末したりしないと、そう信じてくれというしか、私にはできない」

彼女が知性を得てもなしえなかったように、
私自身も軍を抜けても変化しえなかった。
お互いがお互いを保証することなど、できなかったのだ。
彼女は昔と同様に人を喰らうし、私は昔と同様人外を始末する。

「だから、お互い様。
 綾さん、私は綾さんを殺したりしません。
 そう、誓うことしかできません。
 私が貴女を殺してしまう日なんて、一生来ないって。」>