2015/07/12 のログ
ご案内:「朽ちた小劇場<レインボウクエスト>」にギルバートさんが現れました。
ギルバート > ≪生命反応なし。動体反応多数。≫
≪間違いありません。どうぞ。≫

作戦開始を告げるI-RISの声。
衛星軌道上に位置する彼女の"目"は、古びた構造物を見通すのに10秒とかからない。
ガラス張りの天井が砕き割れ、次々と重武装の隊員たちがロビーへと降り立った。
彼らを待ち受けていたのは屍の群れ。
それも二足で歩行するタイプのだ。

「マジでゾンビとはね。」

ギルバートも、流れに続いてラベリングロープを伝う。
目下では銃撃によって火線が散っていた。
それに続けと少年の手のひらの中で、短機関銃が小刻みに震え弾丸を吐き出す。
まるで映画のワンシーン。
撮影用のカメラは当然なく、監視カメラが無機質に、その光景を見つめている。

ギルバート > 彼らは護島第一隊。
ギルバートの所属する公安委員会の一組織。
小規模での作戦を担当し、状況の改善に努める正義の味方。
……などと言えば聞こえはいいが、あくまで公務員。
世界を救う不思議な力もなければ、大精霊様の加護もない。

「ロビークリア。続いて三方面。事前通達通りABCに班を分割するぞ。」
「最終目標は中央部の劇場フロアだ。」
「I-RIS、ナビゲートを頼む。」

≪よろしくどうぞ。≫

作戦責任者と思わしき大男。
シェフがフルーツでも切り分けるかのように、端的に指示を出す。
隊員が3手に分かれる中、彼とは別班となったギルバートは、その姿を見送った。

「さあて、いっちょかましてやろうかネェ!」

少年の班を率いるのは青肌の異邦人。
カートゥンめいた極端に腕の太い巨漢である。
固定機銃をそのまま持ち出してきたかのような、特注の重機関銃がトレードマーク。
名をバスクと言った。

「ゴーゴー! ゴーだぜェ!」

今から二次会にでも行くような豪放さに、思わず少年はくすりと笑い追従する。

ギルバート > 割れた花瓶。枯れきり崩れた花。
ひび割れた絵画に伝うくもの巣が、文明からの逸脱を物語る。
もっとも、この細い通路を闊歩する屍人に比べれば、違和感など些細なものであるが。

「班長。在宅中スかね、標的は。」

襲い掛かる屍人を打ち倒し、拳銃のトリガーを二度ほど引き絞る。
頭部を破砕されれば、さしもの死体も動きを止めた。

「いやァ、いるよ。いるいる。」
「ビンビン来てんだヨ。」

切欠はここ数日、墓地が盗掘にあったという通報が相次いだことによる。
中世の暗黒時代なら兎も角、今はあれから何百年と経っている。
人は歴史を繰り返すとは言うが、それにしたっておかしな話だ。
公安が彼らを差し向けるには、もう一つの理由がある。
捜査線上に違反部活の関与が認められたのだ。

名を"フェニーチェ"。予てより島の治安を脅かしてきた、狂人のための演劇集団。
目撃証言から墓泥棒は、劇団に所属するポール・ギメスという男だと特定された。
別名『死体漁り(スカウトマン)』。

「死体に踊らせようってわけスか。」

「……昔そんな映画があった。」

「……マジスか。」

横から口を挟むのは、獣人タイプの異邦人。茶褐色の毛並みをした狐顔の女。

「(メイザさん、よくそんなの知ってるな……。)」

少年はカルト映画のことは詳しくないが、少なくとも今この惨状のように
ロクでもない映像なのだけは想像できた。

ギルバート > 四方八方で、銃撃音と水袋を叩いたような気味の悪い弾着音が轟いている。
群を抜いて壮絶なのはこの班だったが、原因のひとつであるバスク班長の重機関銃がからからと空転し暫しの静寂が訪れる。

「少し下がるぜェ。ったくよォ!」

上りの螺旋階段の手前。
下りてきたゾンビの群れは悉く肉の破片となって散り散りに。
床に広がるその様は、まるで踏み心地の悪い絨毯のよう。
一陣過ぎて第二陣。メイザとギルバートが前進し、追加のゾンビの群れに当たる。

前衛はメイザ。獣人特有の俊敏な動き。
彼女が握る円柱状のカジェットは、瞬時に刃を形成する。
淡い青の軌跡が尾を引けば、前方三体の屍が頭部を失った。
手首をくるりと返し、悪戯に挑発するメイザ。
自我の欠落した屍が殺到するたび、床に零れる肉の層が厚くなる。

「続け。」

軽やかに路を切り開いていく彼女を追い、奥方の屍から散らしていく。
階段を上り切るころには、増援もすっかりと収まっていた。
最後の一人を壁に縫いつけて、ギルバートの短機関銃も空転を起こす。

「班長、こっちもリロードッス。」

目前には劇場フロア。
どうやら彼らの班が一番乗りのようであった。

「準備ができ次第、祭だゼェ。」

≪劇場内は同じく生体反応なし。≫
≪気をつけてください。≫

「どーかなァ~~~~~~?」

AIを茶化す班長の意地悪い顔と声に、ドッと沸き立つ班員達。
ギルバートも雰囲気に乗せられ笑いつつも、マガジンの交換を終える。

「OKス。」

「っし。」
「ゴーゴー! ゴー!」

ギルバート > 劇場内に雪崩れ込む班員達を迎え入れたのは、座席に陣取る観客の群れ。
眩い光が一斉に班員達を照らせば、観客もそちらに向き直る。
その顔全てが腐敗しており、既に脱落を始めている者もいる。

「やあやあやあ。撮影お疲れ様!」
「生憎と撮影機材がなくてね、画質は落ちるが監視カメラで代用させてもらうよ!」

「あァン?」

ドドド、とバスクの重機関銃が火を噴いた。
事の首謀者、『死体漁り』の上半身が爆ぜて落ちる。

「班長!?」

慌てるギルバートを他所に、足腰と泣き別れした『死体漁り』が言葉を紡ぐ。

「ひどいじゃあないか!」
「まあどんでん返しも劇の華か!?」
「華だな!」

「それみろ。あの手の奴ァ撃っても死にゃしねェのヨ。」

呆れる少年。その後ろから、次々と別の班が到着する。

「それじゃあクライマックスをお楽しみください!」
「出番だぞさあ、俺のかわいいス……」

上方の照明器具から飛び降りた3m超の巨漢は、『死体漁り』を踏み潰しついに沈黙せしめた。
継ぎ接ぎだらけの歪な身体。蒸気を噴出す赤黒の肌。
首から提げたネームプレートには『スプリガン』の文字。

「……ッ!」

        「マズいぞ!」

   「撃て! 撃て!」

劇場は一転して地獄絵図!
『スプリガン』に浴びせかけられる無数の銃弾は、その肉を啄ばむが命までは届かない!
跳ね飛ぶように座席から座席へと飛び移り、屍を雑に踏み砕いて隊員達へ襲い掛かる!

「退避しろよォ!」

体当たり一つで壁を叩き潰し、あわや大惨事といったところ。
続々と元来た道へと退く中、後詰として先陣を切っていたバスクらが居残った。

「班長、どうするんスかこれ。」

指示を仰ぐ少年の前で、メイザと『スプリガン』が切り結ぶ!
座席の残骸や瓦礫など光刃を阻むものではないが、一度でも間合いを誤れば命はない。
それこそ、無数に散らばる屍の仲間入りだ。
それでも彼女は果敢に攻め入るが、骨まで達するほどの深手は与えられてはいない。

「うーん、仕方ねェよなァ。」
「I-RIS、イレイサーの準備だ。」
「チェッカーはおめえに任せるヨ。」

≪わかりました。イレイサー起動まで2分少々。≫
≪射線の確保をお願いします。≫

バスクの太い手から投げ渡されたのは、小型の拳銃。
彼の指先が大き過ぎるだけで、ギルバートには普通のサイズなのだが。

「何スかこれ!?」

「合図でコイツをあのバケモンにぶち込むんだヨォ。」
「一度でも外すと、被害は鰻登りだからな。」
「わかったか! よぉし、じゃあ……」

「走れェッ!!」

バスクの大声を合図に、後詰もついに動き出す。
追う『スプリガン』! 閉所や通路のサイズを無視して、全てを突き崩して追いかけてくる!

ギルバート > 螺旋階段を抜け通路を抜け、順路を真逆にひた走る!
『スプリガン』に追いつかれそうになるたび短機関銃にて顔を啄ばんでやるものの、怯むばかりで絶命しない!
ついには弾薬数の方が先に音を上げて、道すがらベルトを外して投げ捨てる。

「祭は祭でも牛追い祭かよォ~~~~~クソがァ~~~~~!」

何処か楽しげなバスクを先頭に、後詰が漸くロビーへ到着。
問題は未だ突いてくる『スプリガン』の処遇なのだが。
崩壊した天井の上には遥か高く、太陽から日差しが差し込んでいる。

「今だよ、今今! 今ァ~~~~!!!」

「えっ今スか!? 早く言ってくださいよ!」

「いいから今なんだって!」

バスクの突然の命令に、戸惑うギルバート。しかし身体は早く。
少年は反転し『スプリガン』と刹那の交差!
手渡された拳銃から放出された無数の弾丸は、怪物の懐に食い込み根を張った!
大股の下を潜り、親指を立てて合図する!


≪チェッカーの反応を確認。≫
≪イレイサー、照射します。≫

衛星軌道上に位置する彼女の"目"は、地上の合図に合わせて光を放つ。
時間にして僅か3秒ほど立ち昇った光芒は、『スプリガン』を撫で付けて蒸発させた。
肉の焼けた異臭と焼きついた黒い影がなければ、怪物がそこに存在していただなんて誰が信じようか。
冗談のような光景に、暫し無音の面々。
最初に静寂を破ったのはI-RISだった。

≪対象の消滅を確認。≫
≪以後の調査は第二隊が引き継ぎます。≫
≪お疲れ様でした。≫

その言葉に決着が付いたことをやっと認識し、大きく息を吐くギルバート。
横切る第二隊の面々を一瞥し、すくと立ち上がった。

「……お疲れ。」

背中を叩き先を行くメイザ。
第一隊の仕事はこれにて終了。正式に撤退命令が下ったようである。
少年は駆け足で、彼女のその後ろを付いていくのだった。

ご案内:「朽ちた小劇場<レインボウクエスト>」からギルバートさんが去りました。
ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)1」に『死立屋』さんが現れました。
『死立屋』 > 連絡を受けた第二隊が突入すれば、客席に座り、手を叩く男が一人。

「ブラボー!!!ブラボーーーー!!!!!!!!!!!!!!!
 ヒヒッ!!!!!!!!!!ヒヒヒヒッ!!!!!」

客席に座った『死立屋』は手を叩く、
腐った死体、その手を両手に持って、
大きく上に挙げて、手を叩く、叩く。

べちゃべちゃ、べちゃべちゃ、べちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃ。

べちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃ―――と。

『死立屋』 >  
 
その手を、両手を叩く、手を叩く。
 
 

『死立屋』 >  
「アヒヒヒッ!!!ブラボーーーーーヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!!!!!!!!!
 アアアアアアアアアアアアヒヒヒヒブラボーーーーーヒヒヒヒヒヒアアアア
 アアアアアアアアブラボーーーーーーアアアアアアアアアヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!!!!!!!!!」

飛び散った肉片が、顔を汚す。
それには構う事無く、ただ、手を叩いた。

「あゝ、私の『死立』た『衣装』の数々がボロボロだ。
 なんと、なんとなんとなんという悲劇な事か。
 『スカウトマン』が見立ててきた『演者』は皆ハムばかり、
 それに着られた私の『死立』た衣装は、『観客』の罵声と共に引き裂かれてしまったッ!!!!!」

大きく手を広げると、近くにあった死体を抱きしめ、頬ずりをする。

「しかし、それもまた素晴らしい『舞台』だと思わないかね?
 思うだろ?思うよなぁ???思わないわけがないッ!!!ヒヒッ!!!!!!
 ハム役者はそうして一流の喜劇を演じ、喜劇の一部になって行く、
 あゝ、なんと素晴らしい―――ッ!!!!!」

『死立屋』 >  
男は死体を手で人形のように操り、手を大きく開かせる。
ぐりん、と傾いた『人形』の首が、天を仰ぐ。

「あゝ素晴らしいッ!!!!この世の全ては『舞台』であるが故にッ―――あゝ!!!!!
 私は、それが引き裂かれる為の『衣装』だとしても、全力で作ろうじゃないか――――ッ!!!!」

そこまで言って、口から笑い声が漏れる。

「ヒヒッ!!!」

そのまま、腹を抱えて笑い出す。

「アアアアアアアアアアアッ!!!!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒーーーーーーー!!!
 ヒイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアヒヒヒッ!!!!!!!」

「―――なんてヒヒヒヒッ!!!道化の、道化のような役割だあゝ゛ッ!!!ヒヒヒヒッ!!!!
 いつからここはサーカスになったんだ、ああ、面白い、面白いなァ!!!!!!
 面白い、実に面白いなァ!!!!!!!最高だ!!!!いい人生に乾杯!!!!
 ダンスの一つ二つでも踊りたくなる気分だ、ヒヒヒッ!!!!」

『死立屋』 >  
死体の手を取って、優雅に一礼、踊り始める。
くるくる、くるくるくるくる、くるくる。
くるくる、狂る狂る狂る狂る、狂る狂る。

ただまわる、狂る狂るまわる。ただ廻る。

『死立屋』 >  
死体をぱっと手放すと、
死体はどしゃりと地面に崩れ落ちた。

「あゝ、第一幕の公演は、『大失敗』に終わってしまった。
 客が悪かったのか、『役者』が悪かったのか、はたまた運命の悪戯か―――ヒヒッ!!」

胸に手を当て、手を掲げ、大女優のように、男は語る。


「ヒヒヒッ―――では、新たに来たお客様、
 第二幕、どうぞお楽しみ下さい、ヒヒッ!!!
 ―――その期待は、『裏切って』差し上げましょう、ヒヒッ!!!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
 ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ
 ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ
 ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ
 ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ
 ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!!!」

『死立屋』 >  





 
小さく、誰かの悲鳴が響いて、

―――そして、誰も居なくなった。






 

ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)1」から『死立屋』さんが去りました。