2015/09/06 のログ
ご案内:「暗い路地裏」に王百足さんが現れました。
■王百足 > ぐしゃ
ぐちゃり
ぐしゃぐしゃぐしゃ
べちゃ
ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ
だんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだん
だんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだん
だんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだんだん
ぐちゃ
■王百足 > 「__ッあァ……がァッ__」
惨状。
元の色が一切伺えない、真っ赤な布切れ。
折れて欠けて切り刻まれた、ヤニだらけの歯だったもの。
そこらじゅうに散らばった趣味の悪いシルバーアクセサリーの成れの果て。
色とりどりの赤で構成された__肉片、肉片、肉片、肉片、肉片、肉片肉片肉片肉片肉片肉片肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉
人体をミキサーに入れて更にすりつぶりた、としか言えないような凄惨な死体が、狭い路地裏全体に撒き散らされている。
「ァぐ……ェ……げほッ、うォええェ」
そのような惨状を作り出した青年も、凄絶な様子だった。
白い肌は裂けて血を垂れ流し、返り血と混ざりあい白を赤く塗り潰し、
ドブのような濃緑の瞳は焦点が定まっておらず、過度の興奮のせいか瞳孔が大きく開いている。
内臓を痛めていたのか、げほ、と吐血した。
■王百足 > 不幸な偶然が積み重なった。
たまたま帯刀が落第街に「仕入れ」に来ていて、たまたまチンピラに絡まれて、
チンピラを軽く脅そうとして見た目のインパクトが大きな王百足を取り出して、チンピラが逆上して攻撃してきて、
チンピラは一般的な炎使いの異能者で、王百足を焼こうとして、
タタラの炎によって「炎」に深い恐怖と怨念を抱く王百足の、狂気を呼び覚ましてしまって。
そこから先は一方的、興奮し咄嗟に帯刀の意識を乗っ取った王百足は、チンピラの首と胴を一瞬で切り捨てた。
チンピラを殺しても尚、王百足の狂気は止まらなかった。
四肢を、胴体を、頭を、内臓を、斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って
何度も何度も叩き斬って、全身が稼働限界に悲鳴を上げても、王百足は止まらなかった。
出血量が洒落にならない量になって、手足の感覚が無くなっても__狂気は収まらない。
■王百足 > 出血からか、硬く握りしめていた両手が緩み、構えていた大太刀を落とし__
からん、という乾いた音で、目が冴えた。
「……痛ッ」
痛い、全身がとにかく痛い。
狂気で痛みを無視していたが、少しだけ正気に戻ったことで痛覚が激しく主張している。
皮膚と筋肉の激痛に歯を食い縛りながら、傷口を自身の能力で鋼へと変え簡単に止血。
動きがぎこちなくなるが、出血死よりはましだ。
ナオレナオレナオレナオレナオレナオレナオレナオレナオレナオレナオレナオレナオレナオレナオレナオレナオレナオレ
「___________________________」
蹲り、下を向きながらぶつぶつと呟き続ける。
治療魔術の基礎、造血の魔術をノタリコンで呟いてみた。
帯刀の記憶を読み取り、魔術を使うのは初めてだったが__頭が冴えてくる感覚からして、成功したようだ。
■王百足 > 「……はァッ、とりあえず、どッか安全な場所に、ィッ……!」
歩き出そうとして__がくん、と転ける。
頭こそ打たなかったが、足に力が入らないし、立ち上がろうにも腕も動かない。
「……無理もねェな……こんだけ無茶苦茶すりャあ、動くわけねェ……」
目を閉じ、うつ伏せになる。
頬に肉片が当たる、細切れのそれは異様に冷たくて、温い暑さに満ちた路地裏ではその冷たさが心地よかった。
こうやって地に伏せて、大地の感覚を肌で触れるのは好きだ、ずっと昔を思い出す。
ご案内:「暗い路地裏」にクローデットさんが現れました。
■クローデット > 今日は、公安委員としてではなく、魔術師として落第街を彷徨っていた。
錬金術を応用した魔法生命体の試作品が完成したので、実験台に「なってくれる」「協力者」を探しに来たのだが…路地裏でも闇が深いそこに、華奢な少年が倒れている。
落第街だ、普段は見なかったことにしていただろうが…クローデットは、豪奢なスカートをしなやかに捌きながら近づいていく。
解析魔術が、あまり見ないタイプの術式をその少年から読み取ったためだ。
「………随分と傷ついていらっしゃるようですが…どうかなさいまして?」
女性らしく美しい声が、ほのかな甘やかさを湛えて少年に呼びかけるだろう。
その少年の「中身」に…気付いてか、気付かずか。
■王百足 > 伏せた地面から伝わる、僅かな振動に目を開ける。
振動の向きに目を向けると、遠目に豪奢なゴシックロリィタのシルエットが見えた。
振動は段々大きくなり、やがて乾いた靴音になり__女性の姿がはっきりと映る。
目だけを相手に向けて、冷えた無感動な声で答えた。
「……熱くなッて、自滅しちまッただけだよ」
立ち上がる気配もなく、異形の鋼が僅かに覗く姿のまま、女性へと問う。
「誰だ、お前……こンな惨状を見ても平気なツラしてるあたり、ロクなヤツじゃ無さそうだなァ」
ドブのような濃緑の瞳が、女性の美しい青い目を射抜く。
■クローデット > 「ロクなヤツじゃ無さそうだ」という言葉には、
「ここは落第街でしてよ?」
と…この惨状には不似合いなほどに優美で上品な笑みを浮かべてみせる。
少年の視線に動じた様子もまるで無い。
そう、ここは落第街…常世財団に存在を「否認」された街。
ここでの惨事は、それが表の世界に害を及ぼすことがない限り…無かったことにされる場所だ。
「…申し遅れましたわね。あたくし、クローデット・ルナンと申しますわ。
一介の魔術師です…以後、お見知りおきを」
そう言って、やはりこの場にはそぐわない、恭しいお辞儀をしてみせた。
「………それにしても…自滅、ですか。
あたくし、治癒魔術も嗜んでおりますけれど…「それ」の上から、効果は発揮出来ますかしら?」
少年の腕…正確には、そこに巻かれた包帯を指差す。
その「包帯」の本質に、この女は察しがついたようだった。
■王百足 > 「……そうかよ」
女性のたおやかな笑顔に、確信する。
落第街の汚れにそぐわぬ、豪奢な女性__クローデット・ルナン。
彼女は自分達のような「バケモノ」、人間として重要な何かが欠けている。
「俺は王百足、まァそこに転がってるソレだな」
そういって、ドブのような濃緑が近くに転がっていた大太刀に向けられる。
分厚く鋭い、叩き斬ることに特化した刀。
血に塗れ、毒々しい美しさを増した刀身に目を向けて、自己紹介。
「ああ、これか?」
「一応この上からでも通るだろ、これが閉じ込めるのは精神的なモンだけだ」
腕に巻かれた包帯のようなものに目を向けると、淡々と返した。
檻はあくまでも檻、閉じ込めようとも隙間はできるし__肉体に作用するものは、その隙間を通れる。
■クローデット > 「王百足様、ですか。
………虫を使った蠱毒はあまり評価していなかったのですけれど…改める必要がありそうですわね」
今少年の身体を操っている精神の正体を知っても、驚く様子は無い。
そして、治癒魔術が有効と聞けば、花のように瑞々しい笑みを浮かべてみせる。
「そう聞いて安心致しましたわ。
同じ魔術師としてのよしみです…お力添えさせて頂きます。」
そして、表情に清澄さを宿し、集中して術式の構成に入った。
「我が友に癒しを与えん…『ゲリゾン(治癒)』!」
クローデットは魔術の効果を増幅する魔具を身につけているので、魔術が効き辛い…といったことがなければ、意識を保てるレベルの負傷は問題無く全快させられる。
檻が妨げになっても、身体を問題無く動かせる程度には治癒するだろう。
■王百足 > 「ま、俺の土台になった蟲は厳選に厳選を重ねたヤツだかンな
……クソ親父は刀工としても呪術の使い手としてもバケモンだッたしなァ」
壺に閉じ込められた回数を忘れるほどに、王百足を打った男は蠱毒を繰り返していた。
天才的な刀工であり、天災的な呪術師でもあった彼が、何故自分を生み出したのかはもうわからない。
いまではすべて土の下__知りたいという気持ちは無い。
そして、クローデットが何か唱えると__全身の痛みが引いてきた。
鋼へ変えていた部分を元に戻すと、傷口は綺麗さっぱり無くなっていた。
ゆっくりと立ち上がる、内臓の傷もふさがったようだ。
「おお、あンがとな」
クローデットに顔を向け、無表情のままに感謝する。
■クローデット > 「あら…「お父様」に、随分手間と「愛情」を注いで頂きましたのね」
—少し、羨ましく思いますわ。
羽根扇子で口元を隠しての呟きは、相手に届いただろうか。
「どういたしまして」
無表情のままとはいえ、感謝されればにっこりと優美な笑みを浮かべる。
そして、
「ところで…「そちらの術師様」と記憶を共有されていないのでしたら、言伝を1つお願いしたいのですけれど…構いませんか?」
ついでのように、そんな要望を申し出る。
■王百足 > 「……あれは”愛情”じャねえよ……あいつは俺に期待はしてても、愛情なんぞ抱いてなかッた
……いや、クソ親父は、あれを愛情だと思ッてたんだろォな」
彼は歪んでいた、精神も肉体も歪んでいて、愛情すら例外ではなかった。
……だからこそ、ああいうカタチで生み出した子供でなければ愛せなかった。
何百年の月日が流れ、心に一種の”落ち着き”が出てきて、なんとなくそう思うようになった。
クローデットの呟きは聞こえていたが、言葉の奥深くに自分のような刀が関わる気はない。
だから聞かなかったことにする、その言葉の意味、彼女の問題に関わる人間はそのうち現れるはずだ。
「ン……? あるじさんへの伝言か? そンぐらいならいいぜ」
傷を癒してもらった恩もあることだし、とりあえず内容を聞くつもりだ。
■クローデット > 「「愛情」の表し方は、人それぞれですもの」
羽根扇子で口元を隠したまま、告げる。
その目は笑うように細められてはいるが…その声に滲む感情は複雑で、読み取るのは難しそうだった。
「ありがとうございます」
了承してもらえれば、羽根扇子を閉じて、品のある笑みを浮かべる。
「…「術師様」の扱う術式が興味深いので、いずれ研究区でお話を伺いたいと思いましたの。
もし了承頂けるなら、どんな形でも良いので、連絡を頂けますか?」
連絡先はこちらに…と、ポシェットからメモ用紙を取り出すと、そこに文字が自動で浮かび上がる。
学生街の高級住宅街の住所と、学生用の、普通のメールアドレスだ。
■王百足 > 「……だよなァ」
愛情の表しかたは人それぞれ、だから愛情が伝わらないこともある。
彼の愛情は歪んでいて、刀には伝わらなかった。
……煮え切らない気持ちはあるが、残されたものにはそう考えることしかできない。
いつか、クローデットもそういうことを考えるようになるのだろう、と刀は思う。
「ン……了解、あるじさんに言っとくわ」
内容を聞いて頷く、それぐらいなら帯刀も聞いてくれるだろう。
メモ用紙を受け取ると、クルリと背を向ける。
「ンじャ、俺ァ帰るわ、さようならッと」
ひぃらひぃらと手を振り、血まみれの路地裏を去る。
とりあえず服屋に寄って、服を買ったら銭湯を探して、風呂で血を落として帰る。
そう脳内でプランを立てて、路地裏から姿を消した。
ご案内:「暗い路地裏」から王百足さんが去りました。
■クローデット > 「ええ…それが「ヒト」というものですから」
クローデットは、「愛情」について自らが何を思い、何を欲しているのかを、分かっていなかった。その自覚も無かった。
『認識してはいけない』。これまでの人生で積み上げてきた『何か』が、認識を拒絶していた。
「ええ…よろしくお願い致しますわね」
メモ用紙を渡し、花のような微笑を浮かべる。
—つくづく、この場には不釣り合いだった。
「ええ…「お気をつけて」お帰り下さいね?」
その笑みのまま、消える王百足の背中を見送る。
…そして、その姿見えなくなると、その笑みを変質させ。
「………さて…それでは、「これ」で実験と参りましょうか」
ポシェットから取り出したのは…蓋できっちり封をされたガラス瓶。
その中には、不定形の物体が蠢いている。
———王百足の起こした事件は、名実共に「なかったこと」になった。
ご案内:「暗い路地裏」からクローデットさんが去りました。