2016/07/07 のログ
ご案内:「いちばん最後の未来」に   さんが現れました。
    > 。。。

  揺れては漂い

    揺れては漂い

虹色の液体で満たされた、手の平ぐらいの丸い水槽。
その中で黒い粒子が、昇ったり、降りたり。
これは、記憶ではない。
すでに辿った、未来のすがた。

      。。。

    > ―――

■薄汚れた白衣の男 > 「はぁっ……はぁっ……」

 無明の街並み。頭より上の方が砕けた鉄筋コンクリートの壁に身を隠し、激しく呼吸すること数回。
 巨大な拳銃を構えながら半分だけ顔を出し、来た道を覗く。ひとまず追っ手は巻いたようだ。
 後は差し押さえられる前にラボに到達し、この『窮極』を無事過去に送りさえすればいい。
 それで向こう側の『大無名者』を始末出来ればよし。
 もう一つの『門』を使って無事向こう側に送り届けられれば上々。
 そしてその力で神意を打ち破れたのであれば―――最高だ。
 
 それで、すべてが変わる。
 それで、未来を変えられる。
 神意の執行者によって齎された我々の滅びを、見事回避することができるのだ。

 我々を滅ぼしたモノの種に頼らざるを得ないことだけは屈辱であったが、
 それは同時に、常世の者共に対する痛烈な皮肉となる。
 彼らは、自らの過ちによって身を亡ぼす。それがあるべき世界の姿。
 自分は世界を正しい形に戻すだけ。此の復讐は必然であり、正義であるのだから。

    > ―――

 開発魔術、人工異能、科学技術―――ありとあらゆる手段を以って追っ手の目を欺く。
 当然だが、敵の数が多過ぎる。緊張のせいで心臓が張り裂けそうだ。
 次第に小刻みになっていく呼吸を必死で諫め、吹き出る汗を白衣の袖で拭う。
 額から右目にかけて、漆黒の汚泥が一条の線を引いた。

    > ―――

 いくつもの廃墟を越えて、ようやく地下へ繋がる場所に辿り着いた。
 数ある廃墟のうちの一つの、アスファルトの床に手をかざす。
 ここで遺伝子認証が行われて、地下への道が開くはず。


―――であったのだが。


■薄汚れた白衣の男 > 「……何故だ! 何故開かんッ!」

 狂ったように、拳を地面に叩き付けていた。
 こんな筈はない。自分は記憶の通りの場所に来て、そこで必要となる行動をとり、それで全ては済む話だった……そうだ!
 何かの間違いだ!本当はきっとこの後すべきことがあって、それを自分は理解することが出来て、
 全ては上手くいく!全ては上手くいくのだ!


 もう一度―――と、手を翳した時。
 無限大にも感じられるほどの銃声が鳴り響き、自分の体を貫いていく。
 最新型の無形因子を移植したこの肉体に生半可な兵器は通用しないハズだ。
 自身を貫いた弾丸は、細胞のもっと奥深くを破壊している。対策を取られたか―――



 『窮極』が詰まった球状の水槽が、地面に転がった。



    > ―――

■委員A > 「撃ち方やめぇ!」

 委員の一人が号令をかけると、薬きょうの落ちる音だけを残して銃声がぴたりと鳴り止む。
 細切れにされた標的は細胞の一片も残らず死滅していることだろう。

 詳しい話は何も聞かされていないが、こいつがとんでもない事をしでかそうとしていることだけは理解している。
 何せ、はじめっから射殺を許可……いいや、必殺を命じられているほどだ。
 ともあれこれで、目標の一つは達成したというワケだ。
 後は、あの虹色に輝くヘンテコなガラス玉を回収するだけで……

■委員B > 「……隊長」

 こっちに向かって喋る通信役の面持ちは、恐怖に引き攣っている。
 こちらの任務はこれで達成されたハズだが。何をそんなに怯えているのか。
 これでまた、いつも通りの日常に戻れるってこって……

■委員A > 「何だよ、ションベンでも漏らしたか?」

■委員B > 「……隊長、それが……」

    > ―――

■委員B > 「……第05小隊、混成02隊……そのほか多数の小隊が、
      標的の殺害を確認しております」

■委員A > 「情報が速いな。他の隊の偵察員でも来てたのか?」
■委員B > 「いいえ」



■委員B > 「―――標的の死体が多過ぎるのです」

    > ―――









―――

    > ―――

  揺れては漂い

    揺れては漂い


 その虹色の輝きに見惚れていた。

  その黒き悪意に見初められていた。


■白衣の男 > 「―――思ったよりは、早かったが」

 虹色の液体に満ち、黒い粒子が漂っている、球状の水槽。
 それは研究室の真ん中にある機械の台座にて、天高々に掲げられるようにして鎮座している。
 胎動するように蠢く黒い粒子は、それこそ紛れもない『窮極』であることを示している。
 鼓動音が、室内に響き渡っているようだ。

■白衣の男 > 「―――随分と時間をかけたじゃないか、害虫共」

 投げ込まれた筒から煙幕が展開されると同時に、武双した委員らがぞろぞろとなだれ込んでくる。
 大がかりな設備を用意するにあたって、室内もかなりの広さを誇っていたが、その半周を埋め尽くすほどの人数。

■白衣の男 > 「ダミーの記録ごしに見ていたよ……諸君も自分を殺すだけの用意はしているようで。
 結構なことじゃあないか。この私をここまで追い詰めただけでも、上出来なものだ」

 この場にいる委員は注意深くこちらの様子を伺っているが、こちらの話に耳を貸しているかどうかまでは知らない。
 誰も彼もが無表情……というワケではない。
 中には静かに憎悪を燃やしている者や、恐怖に抗っている者、
面倒臭そうに銃を構える者もいれば、魔術で焼き殺すことを楽しみにしている者もいる。

■白衣の男 > 「友や家族の命を奪うモノが憎いか? 世界を壊すモノが怖いか?
 日常を脅かすモノを消し去りたいか? 恒久なる笑顔と共に生きていたいか?」

■白衣の男 > 「私も同じ気持ちだよ。
 友や家族の命を奪ったモノが憎い……。 世界を壊したモノが怖かった。
 日常を脅かすモノなどいなくなってしまえばいいと思った! ただ、穏やかに笑い合って生きていたかった……

 ……先に奪ったのは、諸君らの方だろう? だったら、これでお互い様だ。
 許しを乞うつもりはないよ。しかし諸君らの努力も全て……全ての行動! 意思! 知恵!
 今となってはもはや何の意味も持たん! 諸君らはやり過ぎて! そして遅過ぎた!
 これより”全ては無為と化す”であろうッッッ!」

 命令を待たずに響く銃声。
 一体誰が撃ったのか、そんなことを気にする必要などない。
 タイム・マシンは既に作動しており、過去への跳躍はもう誰にも止められない。

 未来は変化する。故に、自分が撃たれて、これから死んでいくことには、何の意味もない。

 ―――嗚呼、害虫共の奏でる嘆きと怨嗟の、なんと心地よいことか。

最期の一呼吸を 終えて  さいごに

             うかぶ       すがた


     みんなが        わらって

じゆうに

            いきられる


                     せかいを



      それだけ








   のぞむ―――

    > 。。。

  揺れては漂い

    揺れては漂い

虹色の液体で満たされていた、手の平ぐらいの丸い水槽。
割れた中から黒い粒子がこぼれ落ち、風に吹かれ、飛んでいく。
これは、記憶ではない。
すでに終わった、過去のすがた。



  吹いては流れ

    吹いては流れ


振り出しに戻って、門が二つの分かれ道―――

      。。。

    > なにも覚えていない
ご案内:「いちばん最後の未来」から   さんが去りました。