2016/09/23 のログ
ご案内:「落第街の路地裏」にショートカットの少女さんが現れました。
ショートカットの少女 > 路地裏の一角に、ショートカットの少女が佇んでいる。

「…ごめん、今は追えない」

ぼそぼそと、口の中に含むような口調で、真新しい血で汚れた壁に向かって話しかけている少女の様子は、あまり普通には見えないだろう。
…少なくとも、いわゆる「魂」「霊体」を見る術や素養に長けていない者にとっては。

ショートカットの少女 > しかし、それらの能力を持つ者には…その少女が、壁とその少女の間に浮かび上がる、透き通った「影」に話しかけているのが分かるだろう。
それは、造形の悪くない少女の姿をしていたが…その姿は、無惨なものだった。
元々、それほど良い衣服は身に着けていなかったのだろうが…彼女の身につけたそれらは無惨に引き裂かれ、ぼろぼろになっており…その身体の繊細な部分を隠すという機能を、失ってしまっている。
おまけに、その「影」の首筋には、小さな穴が二つ空いていた。
ショートカットの少女の言葉に、その「影」はもの言いたげにしたが…

「…気持ちは分かるよ、アタシも悔しいし。
…でもさ、今この辺「空気が良くない」んだ。アタシは、あんたを「見送る」ことを優先してあげたい。

…あんたに、「この空気」に呑まれたまま、ここに残って欲しくないんだ。
そうなってから「行こう」と思っても、簡単じゃない。引きはがすのむちゃくちゃ痛いと思うし…最悪、あんたがあんたじゃなくなる。

…アタシは、あんたのなけなしの尊厳を守ってやりたいんだ。分かってよ」

口の中でぼそぼそと呟くような口調ではあるが…その少女が、その「影」に対してかける言葉に、偽りの感情は無さそうだった。

ショートカットの少女 > 「影」は、なおもの言いたげに口をぱくぱくと開閉したが…やがて、こくんと頷いた。

「………ホントにごめん、助けてあげられなくて」

その様子を見て、ショートカットの少女も俯く。
…が、それも少しの間だ。周囲の気配を感じて、その眠そうな瞳の奥に剣呑な光を宿す。
そして、周囲を見回しながら

「邪魔すんじゃねーよ、「雑魚共」。
大人しく順番待ちしてりゃ痛くしないから、どっか行ってろ」

と、少女らしい声を、少しだけ張って毒づいた。
少し前に、怪異のなりそこないのようなものが大量発生する騒動があったらしく…委員会が討伐にあたっているものの、残党があちこちで蠢いているのだ。
…そして、残党の一部には力あるもの、形あるものを取り込んで力を伸ばそうという性質の悪いものがいるのだ。

「少女」が、この「影」が追ってほしいと願っている存在を追うことを優先出来ないのも、この「影」がそれらの性質の悪いものに取り込まれる事態を避けたいがためだ。

ショートカットの少女 > 無論、彼らは痛かろうが痛くなかろうが「見送られ」たくはないわけで。
半分くらいは逃げたが、残り半分はいよいよ「少女」と…彼女の向こうにいる「影」に飛びつこうとしてきた。

「チッ」

舌打ちした少女は、自分が身につけている魔術防御術式を自分と「影」を守るように障壁として展開し…その向こう側に、白い小さな石をポケットから取り出して放った。
その小さな石が地面に落ちると、強い光を発する。

性質の悪いもの達で、その石の近くにいたものは「消えた」。
残りも、めいめいの聞こえぬ悲鳴をあげながら遠ざかっていった。

「…だからどっか行ってろっつったんだ。

………ごめん、邪魔が入った」

背の向こうに毒づいてから、少女は再び「影」の方に向き直った。

ショートカットの少女 > 「………あんたが自然の流れに還った後…幸せになれるように願ってるよ。
アタシには、「見送って」そうすることしか出来ないから」

展開していた障壁を引っ込めて、「影」に向かってそう言った少女は、静かに目を閉じた。
先ほどから眠そうな顔つきをしてはいたが…魔術の素養があるものならば、少女が魔術を行使するべく、意識を集中させているのが分かるだろう。

「…汝、この世にて寄る辺を失いしもの…」

詠唱をする、少女の声が先ほどまでと変わる。
先ほどまでは、あえてあの喋り方をしていたものらしい。詠唱を始めた少女の声は、粛然としながらも少女らしい高さで透き通っていた。

ショートカットの少女 > 「大いなる世界の流れに還り、抱かれて愛に揺られよ…」

そこまで詠唱をして、少女は再度目を開いて、「影」の方をまっすぐに見つめた。

「『浄化(ピュリフィカシオン)』」

そう、静謐な声で少女が唱えると…「影」は、白い柔らかな光に包まれ…
そして、その姿を消した。

ショートカットの少女 > 「………」

その場に残ったのは、ショートカットの少女ただ一人。
眠そうな目つきの奥に怜悧な光を宿して…「影」の名残だと思われる血の跡を見つめていた。

(………出来る限り、追跡しておきましょう)

そんなことを考えて、「少女」は…いや、「少女」に身をやつしたその人物は、その路地裏から歩き去っていった。

ご案内:「落第街の路地裏」からショートカットの少女さんが去りました。