2017/05/21 のログ
ご案内:「落第街路地裏の一角」に銀髪の少女さんが現れました。
銀髪の少女 > 暗闇が支配する時間。血溜まりの中に立つ、華奢な少女。
少女の周辺に広がる赤の中には、もはや原型の分からぬ塊が無数に転がっている。
そして、赤の中に立ちながら、少女はまるで汚れる様子がない。

「………。」

自分の周りの地面と同じ色をした瞳を闇に輝かせ、表情のない少女は茫然と立ち尽くしているように見える。その手には、何も握られていない。

ご案内:「落第街路地裏の一角」にヴィルヘルムさんが現れました。
ヴィルヘルム > 彼は,すぐさまその騒ぎを聞きつけて駆け付けた。……という様子ではなかった。
周囲に意識を向けることも無く,静かに裏通りを彷徨う。
目的があるようにも見えるし,しかしただ夜露をしのぐ屋根を探しているだけのようにも見える。

「………………?」

彼が貴女とその周囲の異変に気付くのに,時間はかからないだろう。
風の通らぬ裏通りの空気は,血の不快な匂いに満ちているのだから。

「…………酷いね。」

貴方の方を向いた青年の顔は,闇の中でなおフードに隠れて見えはしない。
わずかに見える口元が,どこか悲しげに息を漏らした後,そうとだけ貴女に告げた。

銀髪の少女 > 「………。」

少女は、青年の気配に頓着したようには見えなかった。
ただ、悲しげに息を漏らして声をかけてくる青年…少女と青年の背丈は、さほど変わらないように見える…の方を、不自然なほどにゆったりと…無表情のまま、輝く赤い瞳で見やる。

「………お前は………」

………少女の口から、老女のように涸れきった、しわがれた声が零れた。
少女の赤い瞳の中で感情が動いたように見えるが、その正体はまだ伺えそうにない。

ヴィルヘルム > 青年はこれだけの惨状を前にして動じることもない。
貴女の正体になど思い当たるはずもなく,ただ臆することもなく一歩踏み出す。

「…ただの通りすがりさ。」

一歩,また一歩と近づく。

「…喉,大丈夫かい?」

立ち止まって,フードをわずかに持ち上げ,紅色の瞳を貴方へ向けた。

銀髪の少女 > 「………お前に、心配される筋合いなんてない…」

うわごとのように少女の口から零れる、老婆のような声。
少女の赤い瞳の中で蠢く感情が、明確な、敵意の感情を取り始める。

「…私から、クローデットを奪おうとした、お前に…」

少女は逃げようとしない。寧ろ、敵意を宿した瞳で、青年の方に歩み寄っていく。
その手に、禍々しい魔力の奔流を纏わせながら。

ヴィルヘルム > 「……はい?」

思わず,どこか間抜けともとれる声が漏れてしまった。
まさかここでクローデットの名前が出るなどとは思ってもいなかったこともあるし,
クローデットを奪おうとした,などと言われても明確な心当たりは,少なくともこの青年には無かったのだ。
僅かな手がかりといえば,クローデットが語った「大切な人」という単語くらいのもの。


とはいえ,少なくとも,この瞬間が危険であることはすぐに理解できる。

「君が,彼女が言ってた“大切な人”かな?
 …出来れば,僕の話も,聞いてほしいんだけれども。」

言いつつ,青年は一歩後ずさる。貴女の次の動きに即応できるよう,集中しながら。

銀髪の少女 > 少女の歩みは、どこか人形めいた不自然さだった。
まるで、歩くことそのものに慣れていないかのように。

「………なぜ、「異邦人(ヨソモノ)」で「異能者(バケモノ)」の分際でクローデットを奪おうとした男の話を…聞かなければ、いけないの?」

涸れた声が、異様に熱っぽい響きを帯びて青年に向けられる。
不自然なペースと硬さで青年に歩み寄りながらも、「少女」の纏う魔力の禍々しさは増すばかりだ。
もう少しすれば、「少女」の手に直に触れずとも、その魔力の禍々しさ…「呪詛」の影響が、青年にも及んでしまうだろう。

ヴィルヘルム > 逃げようとすれば逃げられたのかもしれない。
だが,クローデットの名を出されて,背中を向けて逃げることなどできはしなかった。
そして,貴女の向ける言葉にも,青年は表情を変えなかった。
…青年は「吸血鬼(バケモノ)」と呼ばれ慣れていたのだから。

「……やっぱり吸血鬼(バケモノ)は殺されるしかないのかな。」

その言葉には,恐怖も怒りも憎しみも無かった。ただ寂しげに,悲しげに響いただけだった。
貴女の纏う魔力の性質を正確に読み取ることなどできはしないが,
仮にそれを正確に読み取っていたとしても,彼は逃げようとはしなかっただろう。

銀髪の少女 > 「………?」

逃げるのをやめた青年に、不思議そうに…しかし、カクカクとした不自然な所作で首を傾げる「少女」。
しかし、彼女は足を止めず…そのまま、青年の正面に立ち、無造作にその腕を掴もうと手を伸ばす。
「少女」が不思議そうに首を傾げた…つまりは彼女なりに思考の整理がつかなかったせいか、その手の魔力は術式としての形を為してはいなかった。

《またわたし、ひとりになるの》
《おいていかないで》
《どうしてわたしだけ》
《ひとりにしないで》

「少女」の手に掴まれたなら、様々な年代の女性達の嘆きの重なりを、その手から逃れたならばその気配のみを、青年は感じ取ることになるだろう。
その嘆きが、「呪詛」が青年に直接害を為すことはないが…それらの「声」は、情あるものの心を自らの側に、感情に引き寄せるような力を持っているだろう。
元々孤独に苛まれる青年に、その声はどう響くか。

………もし青年がその声をよく「聞いてしまった」ならば、この「少女」が名を呼ぶ、青年のよく知る女性に似た声が、その中に混ざっていることまで聞き取れるかも知れない。

ヴィルヘルム > 青年は,少女の腕から逃れようとも,振り払おうともしなかった。
魔力への親和性そのものは決して低くないこの青年にとって,少女の魔力は異質そのものであった。
……そして,青年は全ての声を聞いてしまった。

「………君は…?」

孤独な青年は,ただ,自分を必要としてくれる居場所が欲しかった。
心の中に響く悲痛な声を聞き,青年は瞳を閉じる。
耳を塞ぎたくなる一方で,その言葉さえも拒絶されることの悲しみを,青年は知っていた。

「ごめん,僕は君のことが,まだよく分からないけど……ひとりになるのは,つらいよね。」

青年は腕を掴んだ貴女の手のひらを,決して振りほどこうとしなかった。
貴女がその手を放すまで,決して。

「……………大丈夫かい?」

呪詛と「声」をその身に受けた青年は,僅かに生気を失った顔色をしていた。
だが,それを隠すように笑みを作って,貴女に問いかける。

銀髪の少女 > 元々孤独な青年に、「彼女達」の嘆きは負の影響をほとんど与えなかった。
それどころか…ある種の「共感」を示すように、笑みを作る青年。
「少女」の瞳が、不思議そうに大きく何度か瞬かれた。

「「………。」」

少女の瞳に、アメジストのような濃紫が渦を巻き、消える。

「………お前…「バケモノ」のくせに、寂しいの………」

「少女」の涸れた声から、妄執めいた敵意が、束の間途絶えた。