2017/08/08 のログ
■ヴィルヘルム > 「…ホントに準備してもらっちゃったんだ。
ありがとう,何から何まで。」
貴女が抱えて来た衣服。ちゃんとした寝間着で寝るなんて,何週間ぶりだろう。
立ち上がってそれを受け取れば,貴女に導かれるままに,ついていくだろう。
■クローデット > 「誘ったのは、わたしの方ですから」
礼の言葉に対して柔らかく笑んでそう返すと、クローデットは、青年を自宅の奥に案内する。そこにある扉の前で…
「ここで、こちらにお履き替え下さいね」
と、スリッパを差し出した。
青年が履き替えたのを確認すると、クローデットも扉を開けて、その中のスリッパに履き替える。
そこは、いわゆる脱衣室だった。洗面台や、洗濯機も置いてある。
それから、しっかりした棚も。
二人が入ってきた扉の向かいには、磨りガラスの扉がもう一つ。
その先は、当然浴室だろう。
■ヴィルヘルム > 「…呪いを解いてもらって,お礼を言うのは僕の方なのに…。」
貴女の笑顔の前では,そんな抗議も意味を為さなかった。
貴女に言われるままに,青年はスリッパに履き替える。
そして貴女が開けた扉の先には,かすかな石鹸の香り。
現代的な家の構造に慣れていない青年は,すぐにはその部屋の役割を理解できなかった。
「……え,あ…ここって,お風呂…?」
少しだけ間の抜けた問いかけ。
さっき貴女がそう言っていたのに,聞いていなかったのだろうか。
……きっと,青年は見た目以上に,緊張しているんだろう。
■クローデット > 「…ヴィルヘルムが悪くて、かけられた呪いではないでしょう?」
くすりと笑んで、クローデットは棚の上に抱えていたバスタオルと寝間着を乗せると、浴室への扉を開ける。中は、日本でよく見るタイプのシステムバスだ。
「今夜はこのように使って頂きたい旨、説明を致しますので、こちらに。
…ヴィルヘルムは、バスタブにお湯を張るのはお好きですか?」
クローデットはそのまま浴室の中に入っていき…そして、青年を呼んだ。
青年の緊張の色を、見て悟っていないのか、とりあえず脇においているのか。
■ヴィルヘルム > むぅ,と青年は唸ってしまった。確かにその通りだからこそ,言い返せない。
浴室は…以前借りていた部屋のお風呂を,だいぶ大きくしたような雰囲気だった。
「…正直あんまり得意じゃなかったんだけれど,今日は,お湯に浸かりたいかも。」
簡易的な水のシャワーだけで過ごしていた日々を思い出すと,
温かいお湯に,久々に身体を沈めてみたいと思えた。
「………。」
貴女に続くように,浴室へ入っていく。
青年に,緊張しているという自覚はまだ,あまりない。
今この瞬間,青年は素直に幸福感を味わっていた。
■クローデット > 「お湯に浸かりたいかも」と零す青年に、にっこりと満面の笑みを向ける。
バスタブには、まだ湯は張られていない。
「それでは、お好みの温度と、お湯を張る深さなどを設定して、お湯をお張り下さいね。
あなた自身が、よくご存知でしょうから。すぐに入れるようになりますわ」
「使い方は大丈夫ですか?」と尋ねながらも、システムバスのパネルを指差す。
それから、シャワーのある洗い場に設置された鏡と、その手前に並べられたシャンプー、ボディソープの類を指す。
量販店で普通に見かけるような種類のものと、あまり見ないタイプの、ちょっと凝ったボトルデザインのもの。二つの組み合わせがあるようだ。
…あと、ボトルに種類の記載されていない、小さな瓶が一つ、ある。
「先ほどハウスキーパーに確認をとりましたので、どちらを使って頂いても構いません。
…とりあえず、名前の記載があるものを、その名前の通りに使って頂ければ良いかと」
特に説明はしないが、無論、凝った方のものがクローデットのものだ。全体的に、優しく甘い香りがするようになっている。
ジュリエットの使っているものの方が、オーソドックスな石けんの香りに近い。
「あと…お湯を張られるのでしたら、洗面台の左側の棚にバスボムがありますので、お好みでお使い下さい。
…ああ、上がる際にはお湯は一度抜いて下さい」
一通り、案内をして…
「何か、質問はございますか?」
と、改めて青年に向き直った。
■ヴィルヘルム > 一気に説明されたが,ここはこの島ですでに経験済みの領域である。
理解するのに時間はかからないし,仮にわからなくても,大抵のものは使ってみればわかるだろう。
どう見ても女性用らしいシャンプーやボディソープがあるのは,ちょっと落ち着かないが。
「……多分,大丈夫だと思う。
けど,一つだけ! ……バスボムって?」
流石にそこまでは経験していなかったようで,知らない単語について聞き返す。
周囲に好奇心を向けることが出来るくらいには,緊張もほぐれて来ただろうか。
■クローデット > 「ああ…こちらです」
バスボムに興味を示す青年の様子に、くすりと笑みを零して、脱衣室に戻る。
洗面台の左側の棚を開けると、白い球体がいくつか入った小瓶が並んでいる。
それぞれの小瓶にはラベルが貼られており、「ラベンダー」「ローズ」「ペパーミント」「カモミール」「オレンジ」などなどが流麗な文字で記されている。
「お湯を張ったバスタブに入れると発泡する…入浴剤のようなものです。
肌のなめらかな感触や、お好きな香りをお楽しみ下さい」
クローデットは、そのままスリッパを靴に履き替えて、脱衣室の外へ出る。
「…それでは、わたしは寝室の準備をしてまいりますので…ごゆっくりどうぞ」
優しい笑顔を顔に乗せたまま、クローデットは脱衣室の扉を閉じてしまった。
■ヴィルヘルム > 残された青年は,周囲を見回して…小さく息を吐いた。
パネルを操作してお湯を張り,その間に服を脱ぎ…綺麗に畳んで棚に置く。
華奢で色白な青年の身体は男性的とは言えなかったが,女性らしい膨らみにも欠けている。
青年は,クローデットに説明してもらったバスボムを1つ手に取った。
オレンジの香り。
スリッパを綺麗に並べたら,浴室に入って扉を閉め,軽くシャワーを浴びる。
湯ぶねに身体を沈めながらバスボムを落とせば,その瞬間に香りが広がった。
ヴィルヘルムはその香りや,湯の感触が気に入ったようだった。
「……………温かい……。」
小さく呟いて,青年はしばらく湯ぶねに浸かっているだろう。
やがて,体や髪を洗おうとして……凝ったデザインのシャンプーを僅かに手に取り,その香りを感じた。
………優しく甘い香り,クローデットが纏っている香りに近い,香り。
「…………………。」
ヴィルヘルムは顔や耳を真っ赤にして,目を閉じた。
落ち着くにはしばらくの時間を要したが,結局青年は,シンプルな石鹸の香りを纏って湯から上がることになるだろう。
脱衣所で身体を拭く青年の頬や耳が紅いのは,身体が温まったからだけではなかった。
スリーパーに着替えて……はたと,青年は動きを止めた。
勝手に出て行っていいものか,分からなかったからだ。
■クローデット > その頃、クローデットはベッドを整え、「安眠のために」寝室にラベンダーの香を焚いた。
それから、先ほどまで飲んでいたアイスティーのグラスを片付け、ハウスキーパーと今後の段取りについて軽く相談をして………
それが終わっても、青年は、まだ出てこない。
「………長いですわね?」
芯にはずっと「男」がいたとはいえ、「女」としての生活が長い青年だから、それ自体は不思議ではないが…
「…慣れない場で何か困っているかもしれませんので、様子を見て参りますわね」
ハウスキーパーにそう断って、クローデットは脱衣室の前の扉に向かう。
ノックをして…
「失礼致します。何か、困ったことはございませんでしたか?」
そう、声をかける。
■ヴィルヘルム > 青年は確かに困っていた。
けれどきっと,貴女が思っているのとはだいぶ違う方向性で。
「あ,いや……ごめん,勝手に出ても大丈夫なのかな,って。」
控えめだと言えばその通りなのだろう。けれど度が過ぎるというものかもしれない。
ともかく青年は,そこから出る許可がもらえるまで,待っていたのだ。
ノックされれば扉は青年の方から開かれるだろうし,
石鹸の香りを纏う青年は,この時間的余裕によって頬や耳の色をもとに戻すことに成功していた。
■クローデット > 「………お気になさらずとも、よろしかったですのに」
青年の、極端なほどの控えめさからくる戸惑いを聞いて、くすりと笑みを零す。
「それでは、次はわたしの番ですが…
ヴィルヘルムはその間どうなさいます?リビングで待っていて下さっても、もう寝室に赴かれるのでも構いませんけれど」
「寝室であれば、入る前にご案内致しますわね」と、優しげな笑みで青年の表情を見た。
■ヴィルヘルム > 「えっと…その……」
貴女に問われて,青年はさらに困惑の色を深めた。
「……こういう時,どうするのが正解なのか分からなくって。」
きっと正解など無いのだろうけれど。
青年は少し考えてから,
「折角だし,案内してもらっちゃおう…かな。」
リビングで座っているのも落ち着かない気がした。
寝室はもっと落ち着かないかもしれないが,貴女と一緒に入るよりも,先に入っていた方が心の準備ができる。
■クローデット > 青年の迷いに…クローデットは、ふっと吐息を零して、優しい顔で笑った。
「…わたしも、「正解」など分かりませんわ。経験のないことですし」
クローデットの話した事実は、青年からすれば意外に感じられるかも知れない。
「…二人の間のことならば、お互いが納得出来れば、それで正解なのではないかと思いますわ。
………ええ、それでは寝室にご案内致しますわね」
優しく笑みかけて、青年を寝室に導いていく。
階段を上り、かつて彼が「少女」だった頃に何度か入れたウォーキングクローゼットの前を通り過ぎて、更にその奥へ。
「…さあ、どうぞ」
扉に手をかけ、開ける。
寝室の内装は、クラシックに統一されている。
大きな鏡のある鏡台と…二人で寝ても、間違いなく余裕のある、広い大きさのベッド。ベッドの横、扉側にはサイドボードがある。
それらを、間接照明がぼんやりと照らし…部屋には、ラベンダーの香りが漂っていた。
■ヴィルヘルム > 貴女が優しく笑ってくれれば,青年は安堵の息を吐く……けれど,貴女の言葉は,意外だった。
青年にとって貴女は,出会ったその時から“女性”としての魅力に満ちていて…
…何でも知っているような気がしていた。それこそ,男女のことも。
「……そっか……,そうだね。
ごめん,こういうの僕も初めてで,どうしても緊張しちゃって……。」
…だから青年も素直に,貴女にそれを伝えた。
お互いが納得できれば,それが正解。貴女のそんな言葉に,青年は小さく頷いた。
貴女の後をついて歩き,そして導かれるままに,寝室の扉が開かれる。
まず最初に感じたのは,ラベンダーの優しい香りだった。
「……すごく,綺麗なお部屋。」
青年の呟きは,貴女に届くかどうか。
一歩踏み込めば香りは一層強く感じらえるようになり,ベッド,鏡台,
その部屋にある様々なものが,次々に目に飛び込んでくる。
■クローデット > 「………お互い、そういった点では、あまり健全に育ってきたとは言えませんものね」
そう言って、少しだけ苦みを含んだ笑みを零す。
「男」としての本質を持ちながら、「女」としてのあり方を強制されてきた時間の長いヴィルヘルム。
「家族」以外の…特に異性の人間との関係は、支配か被支配でしかあり得ないと、思わされてきたクローデット。
クローデットは、性にまつわる知識自体はないではないが…その前提となる意思が、歪められ、遠ざけられてきたのだ。
…いや、今は正しいなどという自信も、毛頭ないのだが。
「…お褒めに預かり光栄です」
よく見ると、鏡台には見覚えのあるヘアアイロンもある。
「…それでは、わたしはお風呂を頂いて参りますわね」
クローデットは、青年が落ち着いたところで、改めて浴室に向かうだろう。
■ヴィルヘルム > 「……これまでは,確かにそうだったけど…。」
貴女が去ってから,青年は小さく呟いた。
一人残された青年はすぐに,寝室に案内してもらったことが失敗だったと悟る。
クローデットがいつも眠っているベッドがここにあって,
いつも使っている鏡台があって,いつも見ている景色があって,
優しい香りに包まれていて…。
「………………。」
困惑気味だった青年は,やがてベッドに歩み寄って,柔らかさを確かめ始めた。
その行為に意味があるかと言われれば微妙だが…それが柔らかかったから,青年は上半身をベッドの上に預けた。
柔らかく優しい感触。甘い香り。
貴女に包まれているような錯覚に陥って,青年は静かに目を閉じた。
何だかいけないことをしているような気がして,貴女が戻ってくるような音が聞こえれば,起き上がって,ベッドに座って待とうと,そう身構えながら。
■クローデット > 「〜♪」
慣れない場所で落ち着かない青年を他所に、クローデットは楽しげに浴室に向かった。
パネルで湯を張る設定をすると(クローデットは、ぬるめの半身浴が好みだ)、手慣れた所作で、装飾的なその衣服を脱ぎ、下着を外して…そして、「ラベンダー」のバスボムをとって浴室へ。
単純な好みで言えば、「ローズ」を筆頭に花の香りが好きで、自分用のシャンプーやボディソープはそれで揃えてあるのだが…甘い香りは、彼の心臓に障るかもしれないから。
…無論、だからってシャンプーなどまでわざわざ変えないのがクローデットだが。
「………」
湯の張られたバスタブにバスボムを落とすと…柔らかい、やや暗めの銀髪を丁寧に洗い、シャンプーを流して、それから、丁寧にコンディショナーを髪に馴染ませる。
髪と絡ませる手元に、花の香りがあるのは幸せなことだ。
それから、丁寧に泡立てて洗顔をし…同様に、身体もボディソープで洗う。
…デリケートな部位だけは、別な石けんを使うのだが。
「………♪」
そうして、湯船に浸かり…なめらかな肌の上を、芳香のある湯が滑るさまを楽しみながら、小さく鼻歌を歌ったりして。
青年の煩悶を完全に置いてきぼりにして、いつも通りに入浴を楽しんでいるクローデットがいた。
■クローデット > 「〜♪」
そうして、いつも通りに入浴を楽しんだクローデットは、使った湯を抜いて、シャワーで身体の表面を軽く流してからあがる。
睡眠時用の下着を付けて、薄手のネグリジェに袖を通し、その上からガウンを羽織り…ボタンをきっちり留めた。
洗面台の前で、乾かした髪に洗い流さないトリートメントを馴染ませて…寝室へ戻る。
…といっても、今日は中に人がいる。
ノックをしてから…
「…戻りました」
そう声をかけてから、扉を開ける。
■ヴィルヘルム > ノックの音に気付いて,青年はさっと起き上がった。
何だか急に恥ずかしくなって,僅かに体温が上がるのが分かる。
「…お帰りなさい。」
扉があいたときには,青年はベッドの縁に座っているだろう。
少しだけ頬が赤いような気がしないでもないが。
いや,貴女が現れて,青年の耳や頬は,数段赤みを増したことだろう。
ラベンダーの香りの中に,ベッドと同じ,貴女の髪の香りが混じる。
「…何だか,不思議な感じ。」
貴女を待つのは廃屋でも経験したが,今は貴女の部屋だ。
あまりにも飛躍した状況に,現実味が無いのかも知れない。
■クローデット > 「ヴィルヘルムは他の方のものをむやみに触るような方ではありませんから…一人で、退屈だったのではありませんか?」
そんな風に笑いかけながら…クローデットもベッドの縁に、正確にはサイドボードの傍に向かう。
そして…ガウンを脱いで、サイドボードの上に軽く畳んでおいてから、靴を脱いでベッドの上に座った。
「………わたしが、受け入れたことがですか?ご自身が、ここに来られることを望まれたことがですか?」
ベッドの上を経由して、青年の方に少しだけ近づく。
■ヴィルヘルム > ベッドに突っ伏していたのはきっと,触った内に入らない。
そう自分に言い聞かせる。
「…色んなことで頭がいっぱいで,むしろ,一瞬だったかな。」
まだ靴を履いたままの青年は,苦笑しながらそれを脱いだ。
もしかしたら,少し眠ってしまっていたのだろうか,あまり時間の感覚は無い。
「…どちらでもなくて,その……。
クローデットのベッドの上で,クローデットと喋ってるなんて…。
ついさっきまで,思いも寄らなかったから…。」
視線を貴女の方へ向けて…青年は息を呑んだ。
ガウンを脱いだ貴女が,薄手のネグリジェ姿でそこに居る…ずっと憧れていた貴女が。
「…………っ…」
赤みが増す,なんて次元ではなかった。
身体の芯から,熱がこみ上げてくるのを感じる。
■クローデット > 「………そうですか」
実際、ベッド際にいてまだ靴も履いたままだったのだから余裕はないのだろう。
柔らかく苦笑いをして、ベッドの真ん中辺りに位置取る。
しかし…青年が自分の姿を見て、息を呑む。それを見て…
「………こういった場合…何と、声をかけたら良いのでしょうね」
そうぽつりと呟くと…クローデットは、少しだけ引く。
謝るのも…「受け入れる」と無責任に請け負うのも、違う気がした。
少しでも、身体の部位を、ネグリジェ姿を見せないように…下半身を、ベッドの上掛けの下に潜り込ませる。
■ヴィルヘルム > 貴女を困らせてしまった,そんな思いがあったか,
「…ごめん,僕がいけないんだ。
クローデットの事が好きで…どうしても,目が,行っちゃうから。
………ごめん。」
青年のほうが謝ってしまった。恥ずかしさを隠すように,青年は枕に顔を沈める。
腰辺りまで上掛けを被って…深呼吸をしてから,青年は顔を上げて,貴女の方を見る。
「……その,普段のクローデットも,すごく綺麗だけれど。
今も,ずっと見ていたいくらい,綺麗……。」
青年は“綺麗”という言葉を使った。
そこに貴女の女性らしさ,美しさ,艶かしさ,全てを閉じ込めて。
■クローデット > 「………いいえ」
青年に謝られて、クローデットも申し訳なさそうに首を横に振る。
「…あなたの気持ちを…少なくともそういった情動の存在を知っていて誘ったのは、わたしです。
………そんなに、苦しそうになさるなんて、思わなかったものですから…」
クローデットの情動の激しさ、強さ、深さを、クローデットは理解しきれていなかったのだ。
謝罪の言葉を出そうとしたとき。青年は、深呼吸をして、自分なりに、言葉を導いた。
化粧品で陶器めいた肌を作り上げていないクローデットの素肌は、きめ細やかながらも有機的な柔らかさを思わせた。
ヘアアイロンで光沢を出していない髪は、触った時に感じられるだろう柔らかさを見た目に映し出している。
「………出歩くために整えてはおりませんけれど…元々、「素材」から気をつけるようにしておりますので」
ふっと、今までの弱気さを引っ込めて、勝ち気に笑った。
■ヴィルヘルム > 「…ううん,苦しいわけじゃないよ。ただ,その……」
青年は自分の中で必死に言葉を探した。視線を向ければ,貴女の勝気な笑み。
貴女のその表情を,美しい身体を,温かさを,青年はもっと感じていたかった。
「…こんな気持ちになったのも,初めてだから。
どうしていいのか分からないし,クローデットに,嫌な思いだけは,させたくなくて……。」
青年は,燃え上がる情動を,どうすることも出来ず燻らせていた。
幸福なのだから,苦しい,という表現は正しくないと思ったが,確かにある意味で苦しかったのかも知れない。
「……クローデットは,努力家だからなぁ,……流石だね。」
……青年は徐に,貴女の手に触れようと右手を伸ばした。
■クローデット > 「………もう、「被害者と加害者」ではないのでしょう?
不快に思うなら、正直に伝えますし…それで謝罪して引いて下さるならば…取り返しのつかないことでなければ、後には引きずりませんわ。
…お互いに経験がないのですから、手探りなのはどうしようもありませんものね?」
くすりと…自信家めいた笑みを浮かべて…伸びてくる青年の右手を、自ら取った。
「…お褒めに預かり、光栄ですわ」
しかし…その後の手の行き場に悩んだクローデットの笑みからは、次第に自信家の色が失せ…最終的には、少し困ったような笑顔になっていた。
「………寝ましょうか?」
向き合った姿勢のまま、青年の手を取ったまま、上掛けの下に肩まで身体を潜り込ませようとする。
■ヴィルヘルム > 貴女の言葉は,いつも青年を安堵させた。
その自信家めいた笑みに惹かれるのは,青年がその“自信”を持っていないからかもしれない。
けれど貴女は,そんな青年の不安を,一つ一つ,取り除いてくれる。
きっと,貴女の手のひらよりも,青年の手のひらは温かい。
それでも,まるで全身を包み込んでもらえたかのような,温かさを感じていた。
「…経験無いのに,そんな自信満々で言うのはズルいよ。」
貴女が自信家であってくれれば,それに甘えることが出来た。
……貴女が,その自信家の色を失せさせた時には…。
「……そうしよう。」
…自分が,勇気を出すことにした。
青年はクローデットと同じように身体を上掛けの下に潜り込ませ…
…そして,すっと,貴女に身体を寄せた。手のひらだけでなく,その肩や脚が,触れ合うくらいの距離まで。
■クローデット > 感情の落差から考えれば、自分より青年の手の方が温度が高いのは当然のこと。
そのくらいのことは、クローデットは承知だった。
「経験はございませんが、知識は少々ございますし…
………経験がないことそれ自体を、恥と捉えるべきではないと思っておりますので」
そう言って、目を伏せて微笑む。
経験がない者同士、手探りで…頼りない足取りで、自分達なりの答えを出すしかない。そのことを認めてしまったから、今更自信のない振る舞いは必要ないのだ。
ほぼ時を同じくして、ベッドに潜り込む。
その過程で、青年は肩や足が触れ合うくらいの距離まで身を寄せてきた。
「………もう、苦しかったり…辛かったりは、致しませんか?」
目を閉じたまま微笑み…クローデットは、優しげな声で青年に問うた。
■ヴィルヘルム > 貴女が知識と経験を兼ね備えていたら,
きっと青年は,ただそれに甘えて,寄り添うことしかできなかっただろう。
まだ貴女の方がずっと上に立っている気がするけれど,
それでも,どこか一つくらいは対等に立っているような気がして…
「…それじゃ,僕もそう思うことにしようかな。」
…青年も,少しだけ,自信ありげな言葉を紡ぐことが出来た。
貴女が言ったように,正解など無いのだ。それがどれほど,気を楽にすることか。
すぐそばに寄れば,貴女の髪の甘い香りが優しく青年を包み込む。
「………うん,今は,大丈夫…かな。」
言いつつも,青年はもう少しだけ,身体を寄せる。
貴女の香りを,貴女の体温を感じられるくらいに近付きたかった。
■クローデット > 「ええ…それが良いでしょう」
ふふふ、と楽しげに笑う。
青年は、下手な無理強いはしないだろうし………自分も、それは許さないから。
「ふふふ…積極的ですのね?」
青年が、クローデットの懐にすり寄るように、更に身体を寄せてくるのを感じて、楽しげに笑い…取った手を、自分の頬に触れさせるように引き寄せた。
目は、閉じたまま。
青年の手には、クローデットの頬のしっとりした柔らかさと、ほどほどの体温。
…それから、吐息が感じられることだろう。
■ヴィルヘルム > 貴女が楽しげに笑ってくれれば,青年は,勇気を振り絞ることができた。
それでも,貴女の行動一つであっさりとひっくり返されてしまう。
貴女の頬に触れた手のひらから,貴女の体温,柔らかさだけでなく,静かな吐息までも伝わってくる。
「その,嫌だったら…そう言って…。」
小さくそう呟き,貴女の頬を優しく撫でて,青年は……顔を貴女のすぐ近くに寄せた。
すぐそこに,吐息を感じられるほどの距離に貴女が居る。破裂しそうなほどに,鼓動が高鳴る。
青年はその距離が限りなくゼロになるくらいに,顔を寄せて…
…瞳を閉じたままの貴女の唇に,自分の唇を,優しく重ねようとする。
■クローデット > 小さく零された、要請。
何かが、顔に…唇に迫ってくる気配があって、クローデットは少しだけ目を開けた。
「………。」
クローデットは、素直に青年の口づけを受け入れる。
いや…ほんの少しだけだが、自分の顔を、青年の方に寄せて応えた。
熱い唇が、自分の唇に重なる。
唇を通じて、自分の顔に、頭に、青年の身体が抱える熱が、少し移るように感じた。
■ヴィルヘルム > 青年は自分の中の情動を,決して貴女を傷付けないように傾けた,
自分がそうして貰ったのと同じく,貴女を包み込むように…
…やがて,優しく重ねられた唇は,名残惜しそうに離れかけて。
「……ん……っ……。」
それでも離れたくないと抵抗するかの如く,食むように貴女の唇を求めた。
■クローデット > 離れかけて…再度、目を閉じようと思った、そのとき。
青年が、その動きに抗った。
「………っ」
目を見開いて、硬直して、息を呑む。
ただ優しく触れ合うのでない、ついばむような口づけ。
………ただ、そんなに不快ではなくて。
唇や顔、その周辺だけではなく、身体の芯が、ほんのり温かくなるような感覚があって…何となく、幸せな眠りに引っ張られるような心地になって。
緊張に強張らせた身体から余計な力を抜いたクローデットは、再度目を閉じて…ほんの一瞬だけ、青年の唇をついばみ返した。
■ヴィルヘルム > 優しく温かい,唇の感触。ずっと,そのままで居たかった,離れたくなかった。
けれど,それはきっと独り善がりなんだろうと,思っていた。
貴女は唇を受け入れてくれるけれど,求めてくることは無かったから。
「………っ……!」
けれど青年は,貴女の唇が自分の唇を優しく食むのを,確かに感じた。
唇が触れあってからずっと瞳を閉じていたから,貴女の表情は分からなかったが…
…ほんの一瞬だけ,貴女が,それを求めてくれたような気がした。
優しい感触が離れ,甘い香りの空気が,火照った唇を冷やす。
青年は思わず瞳を開き,貴女を,すぐ近くの貴女の顔を見た。
もし,貴女が瞳を開いていたのなら,青年は,さらに貪欲に求め続けたかもしれない。
「………………おやすみなさい,クローデット。」
囁くようにそう告げて,青年もまた,瞳を閉じる。
甘い香りに包まれて,心地良い温かさの中,貴女の吐息を感じられるほど近くで…
…青年は,燃えるような情動と,包み込まれるような幸福感のなか,ゆっくりと,ゆっくりと眠りに落ちていった。
■クローデット > 「求める」という感覚は、未だによく分からない。
けれど、受け取った青年の熱が、身体の別の場所で共鳴するような感覚があって、積極的に「応える」ことこそが、お互いにとって幸せな…なんというか、そんな気分だったのだ。
…青年は、クローデットがついばみ返したことに、随分驚いたようだったけれど。
(………本当に、曖昧で…形にするのが、難しい………)
青年は、この感覚の…もっと激しいようなものに、惑わされ、翻弄されながら、自分と向き合ってきたのか。
…何というか…本当に、強いと思う。
「………ええ…お休みなさい」
ほんの少しだけ目を開いて、青年の言葉に返してから…クローデットも、目を閉じ直す。
ほんわかと身体に滲む温かさに任せて、クローデットは安らぎと幸福感の中、意識を手放した。
ご案内:「クローデットの私宅」からクローデットさんが去りました。
ご案内:「クローデットの私宅」からヴィルヘルムさんが去りました。