2017/10/22 のログ
鈴ヶ森 綾 > 「そうね、それは正解」

躱された一発目の糸弾は遠くでビルの壁面に当って爆ぜた
二発目のそれは炎を浴びて燃え上がり、弾ける前に火の塊となって地面に落ちた
炎が有効である事は、相手にとっては生き残る望みを繋ぐ事実で喜ばしい事だろう

薄暗い路地裏を炎が照らし、周囲が若干明るくなる
しかし相手はそこで見ることになるだろう
左右の壁を伝い蠢く大量の蜘蛛の群れを

「でも、私の巣はそれしきで獲物を逃しはしない」

なんの合図もなく、蜘蛛たちが一斉に糸を放つ
本体のそれとは強度において比べるべくもない脆弱なものだが、動きを妨げるだけの力はある
それに合わせるように、女も地を蹴って一気に距離を詰める
相手の動きに対応せんと、右手は未だ構えだけで

和元月香 > 「.....あ、燃えた」

強すぎるわけでは無い炎は
糸を簡単に燃やし尽くした。
勿論月香は勝機ができた、と希望を抱く。

...だが、燃え盛る炎を見下ろしていた顔を上げれば
壁1面の夥しい蜘蛛が視界に入りたちまち表情が歪む。

「うわぁ.....」

茫然とする間も無く、糸を放つ蜘蛛の群れ。
大量の糸が月香に襲いかかる。

「、炎よ!!我が盾となれ!!...だっけ?!」

いまいち自信の無い先程の魔術の応用を発動する。
月香の上半身ほどしかない炎の盾を掌の前に出現させるも、
しかしいくつか防ぎきれず爆ぜた糸が腹を穿つ。

「.....、」

振動を感じて脇腹を見下ろす。
焦げた服からは煙が立ち、壁と腹を縫い止めている。
破けた箇所から痛々しく赤く晴れた白い肌が見えたが、
月香は淡々と「炎よ」と左手で魔術を発動させて糸を焼き払う。

向かってきた相手に、魔術を発動させたままの左手を躊躇なく向ける。
炎が螺旋を描き、容赦無く相手の顔の左側から向かってくるだろう。

鈴ヶ森 綾 > 小蜘蛛の糸は炎を浴びせれば容易に燃え上がるが、炎上したまま周囲に降り注ぐ
さらにそこへ対処しきれなかった糸の網が襲い、相手を追い詰めてゆく

そこへ追撃しようとアスファルトを蹴って飛んだ瞬間、顔を目掛けて炎が吹き付けられた
その頭部が炎に飲まれるかと思われた瞬間
女の体は不自然な体勢で右方向へ跳ね、そのまま右手からビルの壁に『降り立った』

壁に飛ばした糸によって身体を強引にそちらへと引き寄せ
そのまま蜘蛛のように手足を使って壁に張り付いたまま、女は相手を見下ろして嗤った

壁を蹴って宙に舞った女は相手の逃げ場を奪うように身体の末端目掛けて糸を次々に放ち
最後に魔術を行使する左肩目掛けて糸を放ち、その動きを封じようとする

和元月香 > 「うわわわわっ、と...」

降り注ぐ小蜘蛛達の炎を、
なんとかして避けるも制服のあちこちを焦がしてゆく。
月香はち、と小さく舌打ちをして。

(.....やっぱりこの【条件】での戦闘はちょい厳しいな...)

弱音を吐くわけでは無く、心の中で今の状況を淡々と分析する。
更には、壁に張り付いた女を見て思わず乾いた笑みを浮かべる。

「おねーさん、もしかして蜘蛛?」

確信にも似た問いかけ。
それと同時に放たれた糸も盾で巧みに防いでいくが
更に強い威力の爆撃が月香の体を襲う。

(...あーこれ、マジでやばいな)

かなり長く粘ったが、
左肩が穿たれて炎の魔術は空に解けるように霧散する。
他よりも強い威力だったらしく、肩は完全にイカれてしまったようで。

「...つっよいねー。ただの学生が敵う訳ないや」

へらりと笑って女を見上げる。
体の所々から煙を上げながらも、笑顔のままで。

ご案内:「歓楽街/路地裏」に和元月香さんが現れました。
鈴ヶ森 綾 > 「う、ふふ。否定はしないわ」

必死に抵抗を続ける相手、その動きが次第に鈍る様を愉快そうに見下ろしながら
女は笑ってそう答える

間隙をついて肩を射止めた糸によって最後の砦であった炎も止まる
それを確認すれば、トン、と小さな靴音を立てて相手の前に着地する

最後の仕上げにと、既に半ば機能不全に陥っている相手の手足に糸を吹き付けてゆく
痛みはない。あくまで絡め取り、動きを縛るだけの糸

「安心しなさい、今日は貴方で二人目なの。だからまぁ、死ぬところまではいかないと思うわ。保証はできないけれど…」

身体を寄せ、先程しようとしたように右手を相手の顔へと伸ばし
指の腹を頬から首筋へと、ゆっくりと這わせていく

和元月香 > 「あー...。やっぱり?」

必死には見えるだろうが、
浮かべる笑顔はいつも通りのままだ。
これぐらいは慣れている。

肩が重い。
腕も足もどこかしこも動きが鈍い。
糸によって絡め取られる体をしかし淡々と眺めつつ。

「えーそれって死ぬってこと?」

あまりにも場に似合わぬ軽い口調。
相手には死の恐怖を紛らわすためだと思われたことだろう。
つう、と首筋に走る感覚には眉を顰めたが
月香はその表情のまま心の中でひとつの単語を呟いた。


(____【クロカ】)


すると肩にかけていたスクバから、
目にも留まらぬ速さで黒く硬いナニカが飛び出し
相手に痛烈な体当たりを食らわせるだろうか。

鈴ヶ森 綾 > 女が指で触れた箇所にむず痒さに似た軽い痺れのようなものが走る
精気を吸う際に引き起こされる人体の反応だ

「そうねぇ…貴方の味次第というところだけど…っ!」

密着するほどに身体を近づけようとした瞬間、不意を打って何かの体当たりを食らって言葉を途切れさせる
咄嗟に腕を盾にしたが、身体は吹き飛ばされて固い路面を転がった
然程間を置かずに立ち上がったものの、些かは驚いたらしく、先程まで浮かべていた上機嫌な笑みは消えている

「ふぅん…少し、甘く見すぎたかしら?」

土埃に塗れた服を軽く払い
未だ拘束から解放されたわけではない相手に対し、再び無造作に近づいていく

和元月香 > 「.....ん、んー?」

首筋に走った痺れに嫌な汗が出る。
もしかしてこれは、あれではないのか?
ちょっとやらしい展開なのではないのか?

正直、この煙たい場所では御免被る。

いささかズレたそれを強く願ったからだとは定かではないが、
スクバから飛び出した黒い塊である魔導書の体当たりは予想以上に強く。

「.....ナイス」

宙に浮かぶそれに、思わず笑いかけると。
その黒一色の魔術書は、ページを開く。

『なによこいつ』
『許せない』

ページに刻まれていく文字は通常は白なのだが、
今日は毒々しい赤だった。
しかもいつもは喧しいそれは、たった2言のみを刻んだ。
相当お怒りモードのようだ。

月香はそれに特に何も反応はせず。

「はい、出ておいで」

詠唱でもなんでもない、軽い呼びかけ。
自動的にページは淡々と捲られた。
しかしページから、不吉なそれは染み出すように現れた。

見るだけで人を不安と不快に駆り立て。
触れば過去のトラウマ、或いは苦痛、或いは忌むべきなにかがフラッシュバックする。

黒いスライム状の何かがぶわりと広がり、
近づいてくる相手の不意をついて包みこもうとするだろうか。

鈴ヶ森 綾 > …どうも良くない
本体が傷ついているせいだろうか。省エネ思考とでも呼んだものか、そういう考えが染み付いている
相手の力を見誤って手を抜くのは悪い癖だ

「あぁ、まったく…煩わしいこと」

抵抗する相手にではなく、自分に向けてそう呟く

相手が仕掛けてくる事が分かっていて、その出処も見えているならそれはもう不意打ちとは呼べまい
飛び退ってスライム状の物体を避け、着地と同時にその背が急に起こったかと思えば
爪を備えた巨大な脚が四本、セーラー服を突き破って姿を現す

狭い路地裏でもお構いなしと言わんばかりに、横向きに脚の一本が振るわれる
爪の先がビルの壁を抉り、その破片を撒き散らしながら相手の身体に迫る
さらにもう一本、こちらは縦に振りかぶられ、真上からの一撃を相手の上に落とす

無論、これらは相手を殺すために放っているわけではない
あくまで動きを封じるため
無論、そこに多少の痛みは伴う事になるのだが

和元月香 > (.....やっぱり避けられたか.....)

このスライムは少々使いにくいため、
素早く動かすのが難しい。
やはり不意はつけずか、と溜息をついたが。

「ちょ、ちょちょなにそれー!?」

不意をつかれたのはこちらであった。
服を突き破って現れた巨大な脚は、いよいよ蜘蛛のそれだろう。

目を剥いて叫ぶ月香に、容赦無く脚は振り落とされる。
防護魔術も間に合わない。出来るのはせいぜい、受け身を取ることだけ。

「っ、つ...」

モロに喰らってしまい、派手に地面に転がった。
痛そうな顔はしていない。苦々しげ、と言えるだろう。

鈴ヶ森 綾 > 地面に転がった相手の身体に三本の脚がわらわらと群がり、その身体を地面に押さえつける
残った一本はと言えば、その鋭い爪先を喉元に突きつけている
その意図は改めて言葉にする必要もないであろう
動けば貫く、という

先ほどと同じように、今は地面に転がる相手の元へ、大胆に近づいき、その傍らにしゃがみ込む

しかし…これは戦っている最中感じたことだが、どうも腑に落ちない点がある
その疑問が手を止めさせた

「貴方…普通の人間ではないの?」

場慣れてしているようではあるが、訓練されたものというわけでもなさそうな
この島の異常性を差し引いても、目の前の少女の特異性が女にそう質問させた

和元月香 > 宙に浮かんでいた魔術書が激情にかられ動こうとするも、
月香は視線でそれを制し、近づいてくる相手をじっと見上げる。

爪は喉に当たり、動けばたちまち貫くだろう。
...どの道、たどるのは死かもしれないが。
至極冷静といおうか、ただいつも通りに。

死が迫るような空気でも、月香は苦笑を浮かべて。

「.....一応、普通じゃないんじゃないかな?
でもほんと、大したことないですよ」

体は鍛えてはいるが、【今】は歴戦の戦士には劣るだろう。
何故ならば、こんな事態になるなど予想もしていなかったから。

ご案内:「歓楽街/路地裏」に和元月香さんが現れました。
鈴ヶ森 綾 > 「主人を守ろうとしてるのかしら。本にしておくのが勿体無い健気さね」

宙に浮いた魔術書に剣呑な気配を感じるものの、それを愉快そうに一瞥してそのまま捨て置く

さて、こちらの向けた問に相手は普通でないと答えたが…果たして
感情が乏しいのか、そう見えるよう振る舞っているだけか…あるいは、狂っているのか

「…そう。少し興味が湧いたわ。今度時間のある時にでも、ゆっくり聞かせて欲しいわ」

つまり、今はそれ以上聞く気はないという事だろう

倒れた相手の腰のあたりを跨ぐようにして腰を降ろし、その身体を見下ろす
そこからさらに互いの顔が近づき
伸ばされた手が少女の頬を一撫でしたと思った直後、唇を重ねようとする

相変わらず爪は首筋に突きつけられたままではあるが
まだ抵抗する意思が残っているなら、ぎりぎり唇を外すことぐらいの事はできるだろう

和元月香 > (出来ればあおらないで欲しいなー...)

そう心の中で呟く。
黒い本は怒りに体を震わせて、今にも感情を爆発させそうだ。
本の癖に、自尊心とプライドは一丁前にあるらしい。

「出来ればこういう会い方はサケタイデスネー」

内心出来れば会いたくないなぁ、という感情込で。
柔らかい太腿を直に感じ、これはいよいよやばいと眉を顰める月香。
なんとかしてそれは避けようと、頭をのげぞらせる。
無謀かつ無理やりな抵抗だ。

鈴ヶ森 綾 > 「そうね。今度はもっと平和的に…あら?」

そんな相手の思惑など気にした様子もなく、自分の都合だけで話を続ける女

そして唇が重なろうとした瞬間、相手にそっぽを向かれる形になりその口付けは頬に落とされる結果となる
しかしその行為はかえって女の嗜虐心を刺激したのか、唇が深い笑みの形を作った

「…キスはお嫌い?それとも、好きな人のために取っておきたい、とか?もしそうなら、とても素敵なのだけど」

どちらにせよ、今度は抵抗を許すつもりは無い
頬に添えた手が強引に顔をこちらへと向けさせようと力を込める

その時、複数の人間が近づいてくる気配を周囲に配した小蜘蛛を通して感じ取った
先程の騒動を誰かが通報したか、あるいは警戒中の風紀が聞き咎めたか
何にせよこの場に人が来る。

「…ここまでね」

早々に行為を中断させ、名残惜しそうに立ち上がる。
周囲の蜘蛛たちが女の元へ一斉に集い、その身体に溶け込むように消えてゆく

「さようなら。今度会ったら、どこかでお茶でも飲みながら話しましょ」

最後小さく「煩わしい」と漏らし、気配とは反対の方向の路地裏の暗闇へと姿を消した

和元月香 > 相手から懸命に唇を遠ざけながら、
「好きな人」という単語にはぴくりと反応して。

「...そんな乙女じゃないよ」

次に顔を完全に固定され。
迫ってくる唇をただ眺めていたが...。

「.....誰か来る?」

ふと、人のざわめきが聞こえてきた。
風紀委員か誰かだろうか。
とりあえず、安堵の息を吐く。

「...さよならー」

____相手が去っても、
月香は暫く地面に転がっていた。

イカれた肩は、治癒魔術を行使しても
なかなか治らないほど深く。
他にも脇腹、右太もも、左胸の下。
そこを中心とした場所が裂け、赤く腫れ上がったままだ。

「.....はぁぁぁぁっ、と」

重いような軽いような、よく分からない溜息を吐く。
そのまま暫しぼんやりとしていたが、
風紀委員の声がすぐそこにきたところで動く右手で印を結ぶ。

最後の魔術。
空間魔術だ。

魔力錬成に随分時間がかかるそれを用いれば、
大分怪我はしなくてよかったのかと後悔するも時すでに遅し。
大体、戦闘以外に集中する暇も無かった。
異界の文字で編まれた金色の光がたちまち溢れだし、
月香と宙に浮く本を優しく優しく包み込む。


後に残るは、あちこちが焼け焦げた地面、
煤けたり、或いはなにかで抉られたような壁などといった
戦いの後の惨状だけだっただろう。

ご案内:「歓楽街/路地裏」から鈴ヶ森 綾さんが去りました。
ご案内:「歓楽街/路地裏」から和元月香さんが去りました。