2017/11/22 のログ
ご案内:「歓楽街/路地裏」に鈴ヶ森 綾さんが現れました。
ご案内:「歓楽街/路地裏」から鈴ヶ森 綾さんが去りました。
ご案内:「歓楽街/路地裏」に鈴ヶ森 綾さんが現れました。
■鈴ヶ森 綾 > 歓楽街の大通りで一人の男が壁にもたれて身体を休めている。
だいぶ酒が入っているらしく、頬が紅潮しているのが端から見てもわかる。
手にしていたペットボトルの水を飲み干し、空になったボトルをその場に置いて歩き出そうとした男は、
ふとある事に気づいて足を止める。
甘い香り、時期外れの桃の果実のような、そんな匂いが路地から漂ってくるのだ。
その匂いを嗅いでいると、頭のなかに靄がかかったように思考が朧気になっていく。
正常な状態なら、あるいはそこに尋常でないものを感じ取ったかもしれない。。
しかし酒と匂いに酔った男は、その香りに誘われるままに薄暗い路地裏へと足を向けてしまう。
路地を進むほどに匂いは強くなり、頭の中にかかった靄も濃度を増していくようだった。
どれだけ歩いたのか、時間も距離も感覚が麻痺しておぼつかない。
灯りも少なく、人の通りもないそんな道を進んだ先に待っていたのは袋小路と、
その突き当りに放置された瓦礫の上に腰掛ける一人の女の姿だった。
■鈴ヶ森 綾 > 艶やかな和装に狐の面という出で立ち。
今が祭りの最中とはいえ、この場においては明らかに異質な存在。
「こんばんは。ようこそ、私の巣へ。歓迎するわ。」
周囲に充満していた甘い香りがすぅっと引いてゆくのを男は感じた。
それと共に、朦朧とする意識も覚醒していく。
男はこの島の住人であり、怪事妖物に関しては外の人間よりも慣れ親んでいると言えた。
そういう環境に長年置かれて培われた直感が、彼に即座に行動を起こさせる。
女の言葉が終わるより早く180度向きを変えると、今しがた曲がってきた角を目指して全速力で走り出したのだ。
「あら、悪くない判断よ。
…でも、少しばかり遅かったみたいね?」
女が音も無く指を折り曲げたのと、男が踏み出した足に糸が絡みつき、
その身体を高々と宙に舞い上げたのはほぼ同時であった。
■鈴ヶ森 綾 > 「ひっ、ひぃぃ!」
悲鳴と共に地上5メートル程の所に吊るされた男は身体を揺らしたり、絡みつく糸を剥がそうとしたりして脱出を図るが、
糸は足に強く食い込み、千切れるような気配は微塵も感じさせなかった。
「だ、誰か!助けてくれえええぇぇっ!」
それ以外の手立てを失った男は、あらん限りの声を張り上げ助けを求めるが…。
「……悲鳴を聞くのは嫌いでないけど、喧しいのは好きではないわ。」
それまで空中でもがく男の姿を眺めていた女が口を開いたかと思えば、
翳した手から白い糸が伸び、空中の男を巻き上げていく。
手足が縛り上げられ、口も完全に塞がれる。
その内からは抵抗の意思を示すようにくぐもった音だけが漏れ続けるが、
先程の叫びを聞きつけた者がいなければ、男の命運が尽きようとしているのは瞭然だった。
ご案内:「歓楽街/路地裏」に笹貫虎徹さんが現れました。
■笹貫虎徹 > 『だ、誰か!助けてくれえええぇぇっ!』
そんな男の悲鳴を少年が聞き留めたのは…言ってしまえばただの偶然で。
常世祭の賑わいはあちこちに及び、ここ歓楽街も例外ではない。何か暇潰しにでもなればと彼は散策していた。
そして、道をショートカットしようと路地裏へと入り込み…そのまま、反対側の通りに抜けようとした矢先の悲鳴。
別に助ける義理も義務もない。だが声の出所は意外と近かった…故に。
「……ん~~…ま、何かありそーだし」
恐怖心というものが無いに等しい《恐怖知らず》の少年は、フラフラと自分からその場所へとやって来る。
そして、眼前の光景を目の当たりにすれば、そのリアクションは――…。
何やら白い糸じみたもので、全身雁字搦めに巻かれた人らしき物。そして一人の女。
和装のそれと、狐面で隠れた顔を一瞥してから「ん~…」と、軽く唸って暢気に髪の毛を掻いて。
「……もしかしなくてもお取り込み中?何なら出直しますけども…。」
と、飄々とした態度は一片も崩さずにそんな言葉を狐面の女へと投げ掛けるのだ。
■鈴ヶ森 綾 > 女は瓦礫の上から降りると、なおも暴れ続ける男の元までゆるりとした足取りで近づいていく。
それに合わせるように、男を吊るす糸がするすると下がり、その手元にまで寄せられる。
男の命もここまで、見る者がいれば誰もがそう断じたであろうその時、
一人の闖入者の存在が女の足を止めさせた。
「あら。まさか本当に来るなんてね。」
その場に現れた人影を見て男はさらに激しくもがき、声にならない声で助けを求める。
その動きは女に不快感を抱かせたか、
男の首に絡みついた糸が強く締り、瞬間的に酸欠状態に陥らせる。
男の身体はぐったりと力を失い、吊るされたまま動かなくなった。
「出直す?これを助けに来たわけではないのかしら?」
これ、と言って糸に巻かれた男の身体を一押しする。
面の下でどのような顔をしているのかは分からないが、その声は若干喜色を孕んでいるのがうかがえる。
■笹貫虎徹 > その少年は、まさに《闖入者》という言葉が相応しいであろうか?その警戒心の無さに加え、こうして対峙していても緊張感や危機感がまるで無い。
「…んや、何か悲鳴ぽいのが偶然聞こえたから、偶々足を運んでみただけなんだがねぇ…。」
女の言葉に、これまた暢気に肩を竦める。どうやら先ほどの声の主は、今糸で雁字搦めにされている人物のようだ。
…まぁ、激しくもがいて助けを求めた挙句、あっさりと糸で窒息させられたようでガクン、と力が抜けて動かなくなった。
「……え?…いや、全然?俺には関係ない人だしなぁ」
彼女の問いかけに、本気で不思議そうに、その覇気の無い瞳をそちらに向けたまま首を傾げてみせる。
まるで、人助けや正義感という普通の人間なら当たり前に持ち合わせる概念が抜け落ちてしまっているかのようで。
「……と、いうか…あーーその糸…土蜘蛛か…んーまぁ、そういう類の化生の人?」
哀れ、糸で雁字搦めにされた挙句に気絶している人物はあっさりと見切りをつけ、少年が注目したのはその糸の方だった。ただの糸ではあるまい。
(…アレに捕まったら逃げられない…って、感じかねぇ?)
そんな事をボンヤリ思いながら、少年は見た目は凡庸な癖にその態度は平然としたままだ。
■鈴ヶ森 綾 > 「とぼけているのかしら…だとしたら大した役者っぷりよ、あなた。」
まぁ、どちらでも良い事。
男を助けに来たのでもたんなる通りがかりでも、巣にかかった獲物をわざわざ逃がす気などないのだから。
それになにより、このような酔漢よりはあちらの方が食欲を唆られる。
それが少々活力に欠けるようであっても、だ。
白目を剥いて気絶した男をそのままに、少年の方に向けて一歩踏み出す。
「さぁ、どうかしらね?糸を出す生き物は蜘蛛だけではないもの。」
一歩、さらに一歩と踏み出す足の先からは、ぽろぽろと黒い物体が地面に零れ落ちる。
それは黄と黒と赤の毒々しい体色をした蜘蛛、それらが夜の闇に紛れて辺りに散っていく。
そうして不意に女が右手を持ち上げたかと思えば、突如として糸の奔流が少年に襲いかかる。
その出どころは突き出された手ではなく、頭上。
先程男を吊り上げたそれと同じ、ビルの谷間に張り渡された複数の糸の一つから放たれていた。
■笹貫虎徹 > 「……んーー、特に惚けてるつもりもないし、そんな面倒な演技とかしないって。」
そもそも、誰かを欺くとかそういうのは向いてない。割と思考と行動が直結する単純さだ。
勿論、それなりに考えは巡らせるが…とはいえ、この問答に大して意味はあるまい。
一歩、彼女が踏み出してもそれを眺めたまま少年は微動だにしない。勿論、恐れ戦いている訳でも緊張している訳でもない。そういう感覚とはほぼ無縁だから。
「ふーーん、俺は馬鹿だから真っ先に浮かぶのは蜘蛛とかなんだけどなぁ」
暢気に会話の応酬を続けながら、チラリと覇気の無い瞳が彼女の足を一瞥する。
直ぐに闇に紛れてしまったそれらは、黄色と黒、赤の毒々しいコントラストの…蜘蛛だ。
…と、突然狐面の女が右手を持ち上げる。そちらに視線を戻し――…。
「うっわ、右手はフェイクで本命は真上から…これはしんどい」
呟けば、やっとこさ少年が動く…ただ、その動きは至極単純で明快だ。右足を軽く持ち上げ…そして地面に振り下ろす。
――ドゴンッ!!
次の瞬間、ロクに舗装もされていない地面が震脚の衝撃で抉れ…土塊を頭上へと巻き上げていく。それは即席の盾として糸の奔流の軌道上に割り込んで迎撃していく。
少年の言葉は、台詞だけなら如何にも焦っている様だが、その動きはまるで"慣れている"かのようで澱みも躊躇も無い。