2015/06/27 のログ
■岡部 吹雪 > 威嚇行為か? 意味があるとすればそれだ。
やがてドアの前に立っていた男が、二人を呼ぶ。
ガスメーターはレッドライン。少なくとも、踏んでいこうなどとは現実的ではない。
「とんだ週末になりそうだな。」
遅れてきた鉄錆だらけのレッカー車が、秋尾の愛車を積み込んでいく。
二人は諸手を挙げ無抵抗。
見ず知らずの土地。状況も知れず。こんな乾いた大地の上だが、心持はタイトロープのど真ん中。
■秋尾 鬨堂 > 「…今すぐ洗車したいんだけど、そんな願いも叶いそうにないネ」
軽口を叩くくらいしかやることはない。
なにせ全くのお手上げ状態。
どこだろうここという以前に、絶対に法治国家ではないことだけが確実。
ピカピカのクルマが砂埃まみれで、ついでに錆まみれの改造レッカー車(たぶん3トントラックがベースだ。悪い意味で適当に組まれたトラス構造の荷台に、漁船用と思しきチェーンウィンチが乱雑に溶接されているだけ。)に引っ張られていくさまは悪夢としか言い様がないし、夢なら覚めて欲しかった。
――二人はおなじみチェーンで大雑把に拘束されたまま、レッカーの荷台に載せられている。
一日は走っていない距離で、遠く砂埃の向こうに見えてきた岩山。
「どうやら、我々はあそこに向かっているようだけど。」
今に至るまで、海どころか水場の1つも見当たらない。
青垣山でないのは覚悟していたが、ここはもしかして常世島でもないのでは。
嫌な予感と、もう一段階嫌な想像がよぎる。
■岡部 吹雪 > 「交通標識すらねーもんな。」
「あっでも朽ちた銅像が横たわってたぜ。」
「文化は辛うじてあるんじゃねーか?」
岡部の視線が示す先は、聖火台を握り締めた女性の像。
既に崩壊を始めており、乾燥に蝕まれ亀裂が酷い。
その"どこかで見たことのある女神像"を尻目に、彼らは流されていく。
ドンガドンガドンガドンガ!!!
ドンガドンガドンガドンガ!!!
ドンガドンガドンガドンガ!!!
ドンガドンガドンガドンガ!!!
遥か後方より、地鳴りのような爆音が轟いた!
キャタピラ付きの肉厚な装甲。如何にも頑強そうなその車体!
上部にはクモの足めいて広がるウーハーと、中心部でガムシャラにドラムを叩き続けるモヒカンの男!
「おい。おいおいおい。」
「おいおいおいおいおい!!!!!」
ドラムタンクが率いるバイク隊は、ウォーターイリュージョンよろしくフレイムスロワーを空へと撒いた!
「なんか来てんぞ! おい!」
「もっと飛ばせねェーの!?」
ガンガンと乗車席めがけて蹴り足で抗議している。
■秋尾 鬨堂 > 「ヨーウィッイオオー!来やがったな、マスターコンガどもめ!」
他より少しだけ威厳と知能を備えたバイク隊のカシラが、バッタのように跳ねる仲間を従え突撃する。
虫のように火炎放射器に迎撃され地に落ちるバイクと。
空中で激突、もつれあい火の玉になるバイクと。
飛び上がり、下を行く車両に火炎瓶を投下するバイクと。
その阿鼻叫喚を彩る、一切手を休めないドラム。
ドンガドンガドンガドンガ!!!
ドンガドンガドンガドンガ!!!
ドンガドンガドンガドンガ!!!
ドンガドンガドンガドンガ!!!
「あんなものが文化だと言うのか…」
はるか後方の地獄を、転がっていた双眼鏡で見る。
連中が、獲物を巣に運び込むために稼いだ時間、
そして払った犠牲。
算数の出来る人類であれば絶対に選択しなかったと思える。
だが、おかげで周囲を固める武装バイクは激減したことを思えば、嬉しいやら恐ろしいやら。
つまり、今から運び込まれる場所はそういう連中の巣窟なのだ。
岩山の入り口には鋼鉄の門。
口を開いたそれは、山猫の髑髏を模した形状。
完全に実用性よりデザインをとっている。
煌々と灯るのは、やはり火炎放射のライトアップ。
「ハハハハーッ!よく戻った、ベンジャミン・ジャン!!クルマが一台に奴隷が二人かぁ~~?」
一番高い岩窟より見下ろす王。
『ロック・スター・ロブ』が下品な視線を送る。
数台の武装バイクが、敵味方も分からず門の内側に飛び込んできては陣地に埋め込まれたパイクに突き刺さる。
■岡部 吹雪 > ゴオオオオオオオオオウウウッンッ!!!
閉門の合図にしてはやかましすぎる。
それもそのはず。オイルと火花は燃え上がる。勉強のできない子供でも知っている。
あれだけ大量の二輪がこぞってクラッシュすれば、その惨状たるや
文字通り火を見るよりも明らかだった。
耳を塞ぐ自由もない岡部が、あまりの爆音に身をよじる。
「オ、オオ……なんなんだよ、ここはよォ……。」
「君達は『ロック・スター・キングダム』の栄誉ある戦闘奴隷に選ばれたのだッッ!」
「わかるかッッ!! わかるネッ!!!?」
鍛え上げた筋肉は首をも侵蝕し、頭部は胴体に埋没している。
この男こそがベンジャミン・ジャン! 偉大な王国の防人であった!!!
「うるせーわかるか! ここは何処だ!?」
「一体"何"と"何"で戦ってンだ!!」
吼える岡部。
ロック・スター・ロブの隣で舌なめずりする身長3mのオカマ。
その艶やかな肢体をしきりにくねらせている。
■秋尾 鬨堂 > 「元気がいいなァ、マーブル・ガイ!」
ロック!ロキノザロブ!
ロック!ロキノザロブ!
ごく数名の側近を除き、帰還した兵隊たち、
門の防人、そして戦闘奴隷たちが王の発言に感銘のコールを打ち鳴らす。
『新入り』に対する歓迎の儀式。
王みずからが、上下関係をわからせる原始的な祭事。
「教えてやろう、愚か者ども!!」
ロック!ロキノザロブ!
ロック!ロキノザロブ!
「もう随分昔のことだ!若造、貴様が知るよしも無かろうな…だが知っておけ、あふれでた化け物やら魔物やら、ついでに魔法使いやら超能力者やら!後先考えないクズ共が好き勝手!!その果て、ついに最終戦争が起きた!」
ロック!ロキノザロブ!
ロック!ロキノザロブ!
間奏。かき鳴らされるギターが、少しの間だけメロディアスな叙情を含む。
「その後、この見渡すばかりの荒野こそきさまの知る世界の全てだ!!そうだろう!!」
ロック!ロキノザロブ!
ロック!ロキノザロブ!
「慈悲深いワシは、この砦の中を旧文明時代のまま保存し…貴様らが文化的で人間的な生活を営めるよう、闘争を行っている」
ロック!ロキノザロブ!
ロック!ロキノザロブ!
「マスターコンガ!麻薬大帝!ブルホース族!モルト教団!ワシの理想郷を狙う不届き者共は掃いて捨てるほどいる!!」
「全て殺せ」
スベテコロセ!
スベテコロセ!
ヒートアップする聴衆。タテノリのギター。火炎放射器。
身を乗り出したロックスターロブの肥満体は今にも落っこちそうだ。
『岡ヤン、ここってまさか』耳打ちする秋尾はいつになく深刻な顔。
確かに、自分の知る歴史を途中までなぞった話。
ありえた可能性。
ありえる未来。
■岡部 吹雪 > 「ではまず、君達のうちどちらが強いカァーッ!」
「自らの手で明日を掴めッ!」
ベンジャミン・ジャンの呼び声に、奴隷と思わしきタフマンが二人の拘束具を解く。
差し出されたのは前時代的な石斧とククリナイフ。
"好きな方を選べ"。そう言わんばかりだ。
そこへ突如として大地震! 地殻変動か第六六六次世界大戦か!
いや違う! 門を粉砕し突破し機械仕掛けの塊が、全速力で突っ込んでくる―――!!
ドラムタンクよりも大きなシルエット。大きなウーハー。大きなサウンド。
そしてギター!
ベース!
ギター!
ドラム!
「「「デスフォルテッシモだァ~~~~~ッッッ!!!」」」」
岡部はたじろくタフマンを石斧で殴り付け、隠し持っていた拳銃を乱れ撃つ!
時代遅れのゲームセンターよろしく粗雑に男たちが倒れていく!
それはオカマも! ロブも! 分け立てなく!
「スペアとマガジンだ。とりあえずガソリン探すぞ!」
小ぶりでタクティカルな拳銃を秋尾に投げ渡し、お宝探しとばかりに走り出した!
■秋尾 鬨堂 > 「やつら、デスフォルテッ………アッアァアアアアアアアアアーーーー?!!?」
撃ちぬかれ高き岩窟より次々落下する王と側近を見て、戦士が叫ぶ!
あまりの事態に一瞬呆けるベンジャミン・ジャン。力こそが荒野の掟。
安寧に、システムに浸りきり野生を忘れた不覚か。
「殺せ!殺してから考える!全員ダァーッ!!」
その叫びを皮切りに、砦の内部で始まる乱戦!!
バイクが乱れ飛び、ギターは鳴り響く。
この世界に生き延びた最後の正統派パンクスファッションが、そのスパイクが飾りでないことを戦闘奴隷たちの身体に穴として刻む。
血と鉄と炎の匂いしかしないその只中を、ハードル飛びのように駆ける教員二名。
くるくる拳銃を回してみる。全く似合わない。
「もうちょっと華麗にいきたいけど贅沢もいってられないナ、こりゃ!」
そうだ。迫り来るバイク軍団と、デス・フォルテッシモ・フォートレスが空けた大穴から侵入するデス楽団たちに構ってはいられない。
「ガソリンを!」入り口脇に停車された悪魔のLにしばしの別れ。
さっきから、奥のガレージらしきところから次々戦闘バイクが飛び出してくる。
少なくとも補給設備はあるはずだ。
ついでに振りかぶられる鉄パイプをかわし、通路に滑りこむ!
■岡部 吹雪 > 「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
屈強なメンズに頑強な鉄馬!
「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「ウオオオオオ……アアアアッッッ!!!!???」
うち一人が発進前! 投擲されたククリナイフが頭部に突き刺さる!
「アリの巣穴じゃねーんだぞ!」
「ふざけやがって!」
転がるレンチを拾い上げ、雪崩れ込む男たちへ殴打殴打蹴撃殴打!
暴力で鍛えた男達は、鍛錬を重ねた本物の暴力に屈していく!
倉庫は一瞬にして地獄絵図! いや違う! 内も外も地獄絵図!!
「おい、見つかったか!?」
レンチと鉄パイプの鍔迫り合い!
視線は向けず、乾いた発砲音の先へ問いかける!
■秋尾 鬨堂 > 「ポリタンクだ!安全管理って言葉を知らないらしい!」
ずざーと滑りこんできた中身入りのポリタンクは、岡部の対面の敵の足首をくじく角度。
オレンジ色のジャケットを埃と砂まみれにしつつ、
台車―この時代にも、ハンドリフトは生きていた―にポリタンクを載せて、
尖った先端でチンピラたちの足元をすくい秋尾が駆ける!
湧いても湧いても尽きない男だらけの巣穴にしびれを切らした敵が、
ついに火炎放射器の銃口をガレージに向ける。
まともに知能があればまずそんなことはしない。
その奥にはガソリンの貯蔵庫があることは明白過ぎる。
だが、加熱しすぎた空気は、正常な判断力など容易に捨て去る。
「…!掴まれ、岡ヤン!」全速力で地面を蹴り、加速するハンドリフター。
間に合え。間に合わなければ、焼死である。
■岡部 吹雪 > ドオオオオオンッ!!!
岩山の地形がいとも容易く書き換えられた!
二人の教師といえば……黒煙から現れた! 二人は、無事だ!
煤けた顔を擦りながら、チェーンカッターで悪魔の封印を毟り取る!
激化する戦闘は、ついに門前から舞台を移し大広間へ!
デスフォルテッシモの魂を震わすようなビートが! 戦士達の闘争心を掻き立てる!
おおあれは! 見よあれは!
岩場の上から飛び降りたデカい影! イカス男、ベンジャミン・ジャン!
怒涛の張り手にギター男の頭部が千切れる!
怯むドラムを踏み潰し、ドラム男にも痛烈な張り手!
真っ二つになった胴体を放り捨て、残るメンバーにも飛び掛っていく!
ああしかし集まる集まるデス楽団!! 瞬く間にベンジャミン・ジャンvs300人楽団!!!!
「本物の地獄かよ!」
空になったポリタンクを投げ捨てて、助手席へと飛び込んだ!
■秋尾 鬨堂 > 運転席には既に秋尾。キーは入れっぱなし、点火は即座。
「ボクこういうの見たことあるヨ」
この短時間で、少しでも戦力を増やそうとしたのであろう。
見るも無残にスーパーチャージャーにニトロ噴射装置がボンネットをぶち抜き増設され、よくわからないチェーン装飾にスパイク、投槍が括りつけられた《悪魔のL》。
だが、そのエンジンの叫びは死んでいない!
不機嫌極まるエグゾーストが吠え、車体はついに外側から破られた山猫門へ向けて一直線に加速する。
「ダンテっていう男が、観光に来た光景サ!!」
フロントガラスに殺到しては、そのまま屋根を転げ消えてゆく男、男、男。
見る間に遠ざかる景色。遥か後方、ベンジャミン・ジャンはどうなったのか。
勇ましく戦うさまは、新たなる英雄譚の幕開けか。
それとも、地獄の餓鬼が繰り広げるあさましき共食いか。
■岡部 吹雪 > それを知る術は二人には残っていない。
視界は瞬く間に白闇。
それが明けたと思えば今度は暗闇。
月明かりがうすらと下りて、瓦礫や異文化の構造物が点在している。
遠く見えるのは青垣山―――茂る緑がどこか懐かしい。
「帰って……来た、のか?」
■秋尾 鬨堂 > 「ああ…荒野は荒野でも、まだ文明的だヨ」
異星人の遺物であっても。
誰が作ったかわからないハイウェイであっても。
ここは常世島、未開拓区域。
もろりと後付されたパーツが車体から剥がれ落ち、そこらのゴミと一体になる。
「…時空の繋がりが、不安定になっていた…」
言ってしまえば、そういうことのはずだ。
だが。
「あの地獄に。この世界も、一歩間違えば―」
なりかねない。なりかねなかった。
全ては積み重ね、ボタンの致命的な掛け違い。
地獄を知ってこそ、楽園を理解できる。
そのような何者かの思惑を感じるのは果たして感傷による憶測か。
《悪魔のL》は、ただその只中を駆け抜けたのみ。
狂気に満ちた荒野を超え、公道上の狂気へと。
ご案内:「◆速度Free(過激描写注意)2」から岡部 吹雪さんが去りました。
ご案内:「◆速度Free(過激描写注意)2」から秋尾 鬨堂さんが去りました。