2015/08/11 のログ
ご案内:「スラム街」にジブリールさんが現れました。
ジブリール > 【満ちた月を孕む川流れ。汚れた水を流す傍に伏す体。】

「あら、あら」

【恍惚として眼を輝かせる。既に物言わず果てたそれを矮躯たる女がのしかかっていた。片手にはナイフ。顔にべったりと付いた血液。巨漢の喉笛はちぎられており、赤黒い血液をぴゅーぴゅー、と噴出していた。
女は小さなナイフを振るう。血液を拭い取り、干からびた魚のようにぐったりと伏している男を見下ろした。肩を掴んでゆすぶってみる。反応もうめき声もあらず。】

「フフフッ」

【大腿を擦りつけ身じろいだ。立ち上がろうとしても立ち上がれぬ小馬めいていた。女は狼狽して腰が抜けていたわけではないのだが。
たった今斬り付け、手をかけたそれに触れる。さっきまで汚い罵声を放っていた口はもう開きっぱなし。マヌケで醜い顔をさらしたデスマスクは驚愕に満ちていた。

――そしてそのマスクの中に秘蔵された碧眼の、なんたる美しいことか。】

ジブリール > 【眼には眼を歯には歯を。貧困層にはそれらしい服装を、と従者に頼んでこの格好で出入りしたは良いものの、それでも杖と包帯を巻いていると"社会見学"なんてうまくいかないのは必然だった。
 女はこの地域の裏を見て回るのが趣味だった。そうして度々こういう男に絡まれる。眼が見えないから犯すだの。バレるわきゃねェからヤって棄てるだの。
 女は銀糸のように滑らかな髪をかきあげ、眼を覆っていた包帯を外す。何の灯りもなさないこの場所では、外したところで何か影響があるわけでもなかった。
 男は死後の直後故に物言わずともけいれんしてふるえる体。馬乗りになった女の体が跳ねた。】

「ひどいですわ。道案内を頼んだだけですのに」

【冷静に見ればこれは殺人事件であり、会議室ではなく現場で起きている壮絶な光景。血を噴出す光景が眼に入る。煩わしい。】

「……嗚呼」

【女は薄い布一枚に隔たれた汚い男の胸板に触れる。男性らしい筋肉質な体躯。隙を付けなければ殺されていたか、彼の零した通りになっていたか。全く以って度し難い。
 やがて男の血の勢いが失われてきた。】

ジブリール > 【夜涼みには至らぬ温い風が頬を撫でた。熱を帯びた男の体はきっときっと冷えそびる。
 冷えたところで冷房代わりになるなんて思えないけれど。

「好い加減、どうにかしたほうが良いでしょうか」

【けいれんが収まり、体の末端がぴくりと動くのを見届けてからた物体を眺めた。一人とは否、一体である。
 見た目だけは麗しい。そんな風に零される見た目の女は、銀の髪を揺らして、手を付けずとも撫でる。】

【背中に触れる風すらじっとりと熱い。熱いのだ。暑いのは敵だ。
 女は手をそぅっと瞼に触れて、碧眼の眼を観察する。大きく見開かれた、外部の手によるオモチャのような手付きは、矮躯の意の向くままに。
 伸びて縮んで、閉じて開いて。】

ジブリール > 【先ほど喉につきたてたナイフでするりと瞼を落とす。その奥にある神経を刈り取る。
 表面を決して傷つけないよう慎重に、ゆっくりとはがす。宝探しにも似ていた。何かを発掘することを喜びとするように。最もそれとこれを同列に扱われては怒り狂うものとていよう。】

「あ――ぁ」

【薄闇の中でもなお輝いて見えるその瞳を天高く上げる。買ってもらったオモチャに眼を輝かせる子供のように純粋な眼を――色の鈍い瞳を輝かせんばかりにして、女は熱の篭った吐息を吐いた。】

ジブリール > 【胸元へと手を寄せ、ぬめる液体が纏わり付いたそれを大事に大事に抱える。女は躍動する鼓動を押さえつけるよう指先を絡めた。
 明るい世界に焦がれる女は、同時に明るい世界を眺める者達をうらやましく思っていた。こんなに綺麗な瞳で、こんなに素敵な世界をみることができるのに。
 見えずと嘆くことは無くとも、これだけしっかりとした世界を見れるのなら、どれだけ素晴らしいことなのだろう。女は半端に見えるからこそ、より情動が強くなる。常々恋焦がれる、明るい世界。
 暗闇の世界で、このような者達と戯れることしかできない現状に満足していないわけではない。だからこそこの者達のような瞳を、世界を美しく彩る世界を欲すのだと。】

「……うふふ」

【特殊な透明袋へと採取した眼球を入れ、しっかりと風をする。その上から女は、眼球へと舌を這わせた。キスのように柔らかく、上唇で食むように。男のそれと重ねることを拒絶しても、偏執的なまでに愛するこれには情愛をとめられぬ。
 異常であると蔑まされることは理解していた。野外で始める輩よりも卑屈で、低俗的な。それでも女は愛する。】

ジブリール > 【巨きな腹の上からゆるりと体を持ち上げる。くたりとふらつきながら立ち上がった矮躯は、どこかへと連絡をつけた後、どこへともなくさ迷い歩く。月の無い夜天の深藍を見上げながら、うとりと瞬き。】

「もしもし――死体の処理をお願いしますわ。 えぇ、今すぐ。場所は――」

【 ―――そうして眼を閉じて、夜風の熱に喘いで水を求めた。】

ご案内:「スラム街」からジブリールさんが去りました。