2015/09/16 のログ
ご案内:「歓楽街の奥」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > (外界は、休日の午後。もはやバラックと呼んで差し支えのない、安アパートの一室。
褪せた赤い布のソファに深く身を預ける下着姿の少女、その白い脚を背凭れにしたヨキが、板張りの床に腰を下ろしている。
もちろん、生身の人間に身体を預ける訳には行かない鉄塊の、空疎なポーズではあったけれど)
「――そろそろ頃合か。帰るよ」
(膝を突いて立ち上がると、今にも踏み抜いてしまうのではないかと思われるような苦しさで、床がぎい、と鳴った。
裸足のヨキが歩くこともままならないのを知っているらしい娘は、ごく自然な仕草でその薄い肩を貸した。
下着も着けず、前を寛げた衣服を羽織ったきりのヨキが、まるで勝手知ったる緩慢さで帰り支度を始める。
自らを固く縛らんとする着衣のひとつひとつを、締め付け、縛り上げ、閉じてゆく。
今度はいつ来るの、という、そばかす顔の少女の鼻声。
粗く切り揃えられたショートカットに、痩せぎすの身体。真っ当な暮らしと稼ぎでないことが一目で知れる様相)
「今度?さあ……いつかな」
(笑って目を伏せる。先生はいつもそう、という笑い声を背に、散らかった床を跨いで玄関へ向かう。
靴を履くその前に、少女へひとたび向き直る。
先日の異邦人街で、本土からやってきた留学生――茨森譲莉へそうしたように、ごく滑らかな自然さで、少女の手を優しく握る)
「それではね。――さようなら」
(相手の答えを待たずして、絡め合った指先で少女を引き寄せ、唇を重ねる――)
■ヨキ > (――ぶつん、と張り詰めたものの裂ける音)
(少女が、え、と身を見開き、よろめいてヨキから唇を離す。
その瞬間、ヨキに繋がれた少女の両腕の『内側』が、太い植物の根が張ったようにぼこりと膨らむ。
音もなく、一条、また一条。
指先から肩口へ向けて逆流するように、波打ってうねる瘤が少女の腕を駆け上がる――)
(少女が声もなく、せんせえ、どうして、と唇を動かしたのが判った。
小柄な少女の身体が、後方へぐんと仰け反る)
(いよいよ乾いた破裂音が、ぱん、と響く)
(少女の左の眼窩から――金色の茨が、天井目掛けて突き抜けた)
■ヨキ > (少女の身体という身体を内側から掻き乱した茨が、右の眼窩から、喉奥から、頬から、眉間から首筋から、胸から腹から背中から、次々と柔らかな肉を突き破る)
(その顔を返り血と肉片に濡らしたヨキが、伏せていた顔をひどく優雅に持ち上げる。
握っていた四本指の両手をぱ、と開くと、茨は見る間に元の肉の裏側を通ってヨキの手へ戻る。
立ち返る茨に再び内部を蹂躙された肉体が、がくがくと痙攣した。
即座に絶命し、異能の茨によってのみ支えられていた少女の死体が、力なく崩れ落ちんとする。
ヨキが長衣の裾を波紋のようにふわりと広げて――咄嗟に膝を折り、少女の身体をその腕に掬い取る。
おかげで肉の重みが板張りの床を打ち鳴らすこともなく、アパートは至って静寂に包まれたままだ)