2015/11/17 のログ
■蓋盛 椎月 > ヨキが振り返ると、蓋盛は、ソファに腰掛けて眠たそうな表情で
煙草に火を点けて吸っていた。
悲しんでいる様子も、憤っている様子もなかった。
(どれが正しいのだろうか?)
(この機会にまたツーリング行くか……)
(紅蜻蛉も最近できてなかったしリハビリしよう)
(『奥野晴明銀貨の彼女』は――)
(おこん先生の尻尾モフりたい……)
(次の健康だよりのネタどうしよっかな)
(こういうとき、どういう表情をするべきなのだろうか?)
(ニルヤカナヤの新メニュー、あれ気になるんだよなー)
ふ、と、顔を上げる。
座ったまま右脚を高く持ち上げ――振り下ろす。
ローファーの底がコンクリートに打ち付けられ、タァンと鳴った。
その勢いで立ち上がる。
「……耄碌すんなよ。
どう考えてもあんたが被害者だ。
世界の終わりを招いたみたいな顔をしやがって……!」
煙草を持った指を突き付ける。静かに歪んだ表情。上ずった声。
「責任があるとすれば、このあたしだ」
そう毅然と言い切る。
■ヨキ > (粘り気のある光を湛えた目が、蓋盛を見る。
立ち上がり、こちらへ向く彼女の顔を今度こそ真っ直ぐに見返した。
片膝をベッドの上へ乗せて、上体ごと相手へ向ける)
「……ふ、は。耄碌か。言われてしまった」
(眉を下げて笑う)
「誘うような顔をしている方が、生徒を無為に甘やかす方が悪い、と、よく言われてきた。
それでもヨキの中には、機械的と言われようが――けじめは、あったつもりだった」
(言葉を切る)
「彼とヨキとはもう一度、元通りにやってゆく。
ヨキは彼を、律してやらなければならん。
それで……蓋盛、君も。
……奥野君は自分を、『男でも女でもない、どっちつかずの生き物』だと言っていた。
性がどっちつかずであることなど、一向に構わない。
だが『人間として』どっちつかずであることまで、ヨキは認める訳にはいかん。
……君も彼のことを、よく導いてやってくれ。
彼が好いているのは、君だ」
■蓋盛 椎月 > 「は、まあ……ヨキ先生に関しちゃ、因果応報と言えなくもないとこありますが……
それはそれ、これはこれ。事実を誤認しちゃあ、なりませんよ」
ヨキに合わせるようにして、蓋盛も相好を崩す。
大きく息を吐く。やれやれ、のポーズ。
「《軍勢》の異能だの、半陰陽だの……
そういったおまけ要素を取っ払って、シンプルに考えりゃ、
思春期にありがちな暴走にすぎませんよ。大したこたぁない」
得意げな表情で、諭すように言う。
すぱ、と煙をふかす。
その暴走をモロに被ったヨキ先生にはお気の毒様としか言えませんが、と苦笑いし。
「どうにもならない自分や世界に苛立って駄々をこねる子供……
ヨキ先生だって、さんざん相手してきたでしょ?
過つ前に気づけなかったのはあたしらの落ち度ですが、悔やんでも仕方ない」
ねえ、なんでもないことでしょう? と、ひらひらと手を振って軽薄に言ってのける。
本当に、大したこととは認識していないように見える口ぶり。
「へへ、厄介事のケツ持ちは普段から慣れてますんで。
ヨキ先生は泥舟に乗ったつもりで休んでてくださいよ」
煙草を灰皿に押し付けて始末すると、ポン、と拳で自身の胸を叩き、鷹揚に笑う。
完璧と評価してもいい笑顔だった。あまりに完璧すぎた。
そうしてソファから立ち上がり、ヨキに背を向け去ろうとした。
■ヨキ > 「因果応報、か。……全くだ。
どれだけ反省して学習してもやり方にアウトプットされないのではな」
(蓋盛の笑顔に、こちらの表情も漸く和らいだ)
「ああ。……駄々の捏ね方は様々だったが。
彼もそのひとりだ」
(笑う。大きな口が、緩やかな弧を描く)
「泥舟ね。……ふふ。
ヨキの重みで沈んでしまいそうだが」
(立ち上がり、蓋盛を見送るためにその背について歩く)
「判っていた。落ち込んだところで、どうにもなりはしないと。
……それでも、こればかりは。
毒や薬というものに――どうにも弱くてならん。
それで……醜態を晒した。どちらかと言えば、そちらの方がよほど失敗だった」
(ぽつりと言って、首を振った)
「鍛錬が足りんな」
■蓋盛 椎月 > 「弱々しいヨキ先生は、見たくない――ってのは、あたしのワガママですけど、
銀貨くんもそう思っていたんでしょうね。
つっても、仕方ありませんよ。完璧な大人なんていやしない。
あたしもあなたもまだまだ青二才だ……日々是鍛錬です。
……あたしが言うには少し殊勝にすぎる気もしますが」
肩を竦める。
「……早いうちにあたしが知れてよかった。
手遅れになる前に。
……『子供』はうらやましい。
『大人』に律してもらえるから」
薄い笑みで、そう口にする。
ではまた、と手を振り、よどみない歩調で、ヨキのアトリエを去っていく……
■ヨキ > 「君にもそう言われてしまってはな。
ますますヨキは――強く在らねばならないようだ。
……いいや、君に言われればこそ、ヨキの耳にもよく届く」
(笑って、蓋盛の顔を見下ろす)
「有難う、蓋盛。
君が来てくれて、よかった」
(素直に礼を告げて、玄関先で立ち止まる)
「…………、君を律せるような『大人』には、ヨキもまだまだ遠いな」
(手を挙げて応える。
ぱたりと手を下ろし、蓋盛の背を見送った)
■蓋盛 椎月 > …………ヨキのアトリエを後にして、しばらくの後。
アトリエからはすっかり見えなくなった舗装路で、
蓋盛は何もない場所でぺたりと膝をついて、
そのままずっと、動けなくなった。
何の表情も浮かんではいなかった。
ご案内:「ヨキのアトリエ」から蓋盛 椎月さんが去りました。
■ヨキ > (アトリエの扉が、静かに閉じられる。
ヒールをこつりと鳴らして、ベッドまで戻る。
腰を下ろし、ブーツを脱いで眼鏡を外すと、這うように横たわった)
「…………」
(うつ伏せの寝相で枕に頭を乗せ、ベッドサイドの何もない壁をしばらく見ていた)
「……………………、」
(枕に顔を埋める。そのまま黙して動かなくなる。
その辛うじて生きていることが判る息遣いが寝息に変わるには、しばらく時間が掛かる)
ご案内:「ヨキのアトリエ」からヨキさんが去りました。