2016/04/13 のログ
ご案内:「未開拓地区の森の奥」にクローデットさんが現れました。
クローデット > 鬱蒼とした森の奥に、血の臭いと、わずかな異臭が混ざる。
この世界「ではない」ところの生き物の死臭だ。

「…ふふ…ふふふふふふ…」

羽根扇子の下に口元を隠しながら、クローデットは楽しげに笑った。

彼女の目の前に広がるのは、獣や魔物の亡骸が一定範囲内に広がる惨憺たる光景である。
1つだけ真っ黒に焼かれた死体があるが、他は野蛮に切り裂かれ、噛み砕かれ、血を流しているものばかりである。

クローデット > 「敵意の籠(カージュ・ドゥ・オスティル)」。
精神干渉魔術の中で、最も原始的且つ強力な、主に社会的な理由で「禁術」とされている術式の1つだ。

実のところ、具体的な意思を強力に上書きする魔術は一見強力だが、上書きされる対象に強く抵抗されやすく、あまり効率が良いとは言えないのである。
そこで、手っ取り早く「惨劇」を作り出すために「編み出されてしまった」のが、この術式だ。

クローデット > 人に限らず、多くの生き物は多かれ少なかれ生存のために敵を排除する「敵意」と、同族を助け、種を存続・繁栄させていくための「利他精神」を併せ持っている。社会的な生き物であれば、それらは両方とも強く持っている。
「敵意の籠」は、魔術的空間を設置し、その中に入った者の精神、感情のバランスを崩し、著しく「敵意」の方に感情を強く誘導するという術式なのだ。

この場の「惨劇」も、最初にクローデットが風の刃で切り刻んだ獣の死体を地面に置いて、その周囲に魔術的空間を設けることでもたらされたものだ。
後は、獣の死体が発する強い血の臭いに引き寄せられる「けだもの」達が、魔術的空間に入り、凶獣と成り果てて殺し合うのを悠々見物し…最後に残った「一匹」を、クローデットがきっちり処分するだけで「惨劇」の出来上がりである。

クローデット > 人間は利他精神を数々の社会的システムや「道徳」で補強しているので多少は抵抗する。
そもそも、現象に現れる術式よりは、現象に現れない術式の方が、肉体の限界がない分「普通の人間には」抵抗されやすいのだ。
それでも、具体的な殺戮の「意思」の上書きよりは、抽象的な感情のバランスの変更の方が遥かに抵抗されにくい。
そして、

元々「道徳」意識や「利他精神」の希薄な人間。
他者に対する敵意・猜疑心の強い人間。
攻撃的な傾向の強い人間。

これらの傾向のある人間に対して、この術式は下手な獣・魔物よりもよほど強い効果を発揮するのだ。
他者に悪意を持っていたり、猜疑心を持っていたりする人間の集団を丸ごと収容出来てしまうような魔術的空間を設置出来れば、そこには簡単に「地獄」が顕現する。
この術式が、「禁術」とされている所以である。

クローデット > (「断罪」効率で言えば、属性魔術の方が遥かに良いのですが)

この世界においては魔力容量に優れた魔術師と言って差し支えないクローデットですら、得意とする火属性の魔術と比べれば、些細な規模の破壊しかもたらせない術式である。
そんな術式を学んだのは…この術式を「発掘」し、不届きな「ヨソモノ」、「バケモノ」どもに「裁き」を下した、曾祖母に敬意を表するためだ。

(見ていて下さいね、ひいおばあ様。
ひいおばあ様の願いに、少しでも、近づいてみせますから)

死体の山をそのままにして、クローデットは、何かに縋るような瞳をしてその場を立ち去った。

ご案内:「未開拓地区の森の奥」からクローデットさんが去りました。