2016/11/01 のログ
ご案内:「ディアーヌ・ルナンの軌跡」にルナン家の人々さんが現れました。
ルナン家の人々 > ディアーヌ・ルナンはルナン家のその代の兄弟の一人として生まれたが、さほど、賢い娘ではなかった。
いや、知力の面でいえば、「出来損ない」ですらあった。

当時、魔術がまだ公に認められていない頃。魔術師達のうち少なくないものは、自分の専攻する魔術に近い学術分野や、専門分野に潜り込んでいた。
ルナン家も、子供の将来設計としてはそのように指導しており、白魔術に長けていたディアーヌは医療分野を目指すことになったのだが…これが、大変だった。
医者など、望むべくもない。泣きながら勉強をしてやっと看護師資格を得るような、そんな娘だった。

それでもディアーヌがルナン家の後継に選ばれたのは…彼女の白魔術の才と、魔力容量が、それらの欠点を補って余りあるほどのものだったからだ。

ルナン家の人々 > そうして、社会の中で関わる伝手こそ得たものの…魔術を認めない世界で生きるのは、ディアーヌにとっては辛いことだった。
知力の面でいえば「出来損ない」のディアーヌにとって、魔術を認めない世界で渡り合っていくこと、魔術を認めない人々と、適切に距離を取りながら共に生きていくということは、非常な苦痛を伴ったのだ。
…白魔術の資質が示す通り、心を開く者に対しては、本当に親切にする、優しい娘だったのだが。
恐らく、家の縛りがなくとも、ディアーヌは結婚相手に魔術師を選んだだろう。

そうして結婚し、子供が2人生まれ、すくすくと育ち…
そんな中、《大変容》は起こった。

ルナン家の人々 > 《大変容》によって、それまでの世界観は崩れ去った。
現れる多種多様な異形に、他の世界から来たと称する人間達。
更には、元々この社会に住んでいた者達の中にさえ、超常の能力に目覚める者が現れた。
魔術の存在が否認される道理など、なかった。

当然、社会は混乱する。
混乱の中、どうすれば自分の勢力を拡大出来るか…いや、表向きはそんな大それた野望ではない。
どうやって「自分達」を守るかが、既得権益層の関心事となった。

そんな中…とある右翼政党が、魔術師達に目を付けたのである。
長年社会に潜みながら自分達の技を守り、伝えてきた伝統を持つ、魔術師達に。

ルナン家の人々 > 引っ込み思案なディアーヌ・ルナンにとって、武力政治闘争の最前線に駆り出されることは、大いなる苦痛を伴った。白魔術に攻撃手段がないわけではないが、白魔術の資質に恵まれる者は、そもそも「ヒト」を傷つけることに向いていない。
それでも、自分達が頑張れば、後世の魔術師達が楽になるならと、ディアーヌは家族と…夫と、成長した2人の子供達とともに、そこに飛び込んだのである。

結局、ディアーヌの期待は完膚なきまでに裏切られた。
ディアーヌ達に武力闘争を持ちかけた右翼政党は力を失い、世界はディアーヌ達の敵…異邦人や、異能者を受け入れる道を探り始める。
魔術師もその存在は認知されたが…それは、あくまで「今までになかった存在の一環」としてでしかなかった。

ディアーヌの娘、ベルナデットが、武力闘争の中で、無惨な殺され方をしたというのに。

ディアーヌは世界の方向転換を拒み…そして、【レコンキスタ】という国際的な潮流の中に、身を投じる決意をするのである。

ルナン家の人々 > 最初のうちは、ディアーヌの活動は「一般社会に害をなす異能者・異邦人への私的制裁」に限られていた。
それでも、世間の理解は得られなかった。…今以上に混乱していた情勢で、「世間」からすれば、「よく分からない奴ら同士が小競り合いをしている」以上に思われることはなかったのだろう。

そうしているうちに、ディアーヌはどんどん精神に破綻を来していく。
夫であるフランソワが、唯一の支えだった。

ルナン家の人々 > 孤独感に苛まれるあまり、ディアーヌは精神干渉魔術を使っての誘惑を夫に対して試みたことがあった。
もう、若くもない。世間の理解が得られない活動に身を投じている自分に、夫も愛想を尽かしているに決まっていると。

ぬくもりが得られるなら、多少乱暴でも、構いはしないのだと。

結果、ディアーヌの魔術は抵抗され、彼女は夫であるフランソワにきっちり説教をもらうことになった。
『この程度で絆が切れたりするものか、見損なうな』と。

そうして、フランソワは存命中、ディアーヌの理性を、優しさを支え続けた。ディアーヌの活動に、歯止めをかけ続けたのだ。
…孫であるアルベールの少年時代に、病死するまで。

ルナン家の人々 > ディアーヌは、かつて愛した者達に執着し過ぎた。
若くして死んだ娘、ベルナデットの無念を、その無念を分かち合った最愛の夫、フランソワの影を追い求め過ぎた。

彼らに対する愛情は、自分を認めない者への憎しみへ。
彼らの痛みを慈しむ優しさは、憎しみを支え続ける怨念へ、鮮やかに反転した。

ルナン家の人々 > ディアーヌの活動は、ますます手のつけられないものとなっていった。

ディアーヌ自身は、相変わらず賢くなかった。
使える術式は、昔の名残の白魔術と、それを反転させた特性を持つ精神干渉くらいで、さほど多くはなかった。複雑な術式も、歳もあって理解がますます難しくなっていった。

それでも、破壊的な活動をするのに困ることなどなかった。
ディアーヌの深過ぎる情念が術式に影響を与え、歪みをもたらし、通常の魔術対策ではまるで歯が立たなかったのだ。

歪みを来して、なお発動する、強力な魔術。
かつて、条件次第では死者すら蘇らせた「奇跡」が、人々に仇なす「災厄」に転じたのである。

ルナン家の人々 > 活動に協力的でこそあったが、息子、フランシスはディアーヌの心情から距離を置いていた。
フランシスにも妻と子があって、いつまでも過去に心情が縛られていてはいけないと思っていたし…何より、母が妹のことばかり気にして、自分のことを考えていないように見えるのが、悔しかったのだ。

自分がルナンの家を継ぎ、血筋を繋ぎ、こうして母の身を守る助けをしているというのに。

フランシスの妻、ソフィーはもっと冷淡だった。
ヒトならざる者達と交信し、彼らの力を借り受け、時には彼らを呼び出す召喚術師であった彼女は、彼らと意思疎通を図るための知性に長けていた。
彼女は、ディアーヌの才は認めつつも、彼女の知性のなさを内心嘲っていたのである。
『凄い人だけど…もう少し頭働かないかな、って思うわ』と。

そんな中、成長した彼らの息子アルベールが、【レコンキスタ】内部の錬金術師、ブリジットと結婚し、娘を授かった。
…しかし、アルベールはその頃から、徐々に実家と距離を取るようになっていく。

ルナン家の人々 > 『いい加減、逃げるのやめてよ!』

娘であるクローデットが寝静まった後、ブリジットは泣きながらアルベールに通話をかけるのだ。

『あの人が怖いのよ…あなたならよく分かるでしょう。お義母さんもお義父さんも分かってくれない…!』
『どうやって逆らえっていうの?私にはお義父さんやお義母さんと闘う力なんてないのに!』

クローデットの白魔術の素質を…もっといえば、ディアーヌとの類似点を見出したフランシスは、ディアーヌの感情のせめてものなぐさめにと、クローデットを利用するようになっていた。
錬金術師であり、闘う術に乏しいブリジットには、その意向に逆らう手段はなかった。
…誰よりも、ディアーヌの情念の深さに、怯えていながら。

ルナン家の人々 > 《みんな、昔は良い子だったのにね》
《アルベールも、今はああだけど…昔は、優しかったのよ》
《ブリジットも、もっと会いに来てくれたら嬉しいんだけどね…》

《ねえ、クローデット》
《わたしには、もうあなたしかいないみたい》

ルナン家の人々 > 「呪い」は、必ずしも術式を必要としない。
長い時間をかけて、鎖で繋がれた魂は、魔術などなしに、既に呪われているに等しい。
あとは、「彼女」がその「呪い」を辿るだけだ。

ルナン家の人々 > 「彼女」の情念から逃れるには、距離を取るしかないと、思っていた。
まさか、跡継ぎのはずの娘まで「生贄」にされるとは、思ってもいなかった。
気がつけば、娘は「彼女」の意思にがんじがらめにされ、自分の本心すら、まともに育てることが出来ていなかった。

(…一番罪深いのは、僕かな)

全てを聞き、知り、俯瞰しながら、愛しい者達を置き去りに、我が身可愛さに逃げ出した己の過去を、「彼」は呪った。

(…ジュリエットがどこまで頑張れるかは分からないけれど…直接の介入が出来ない今、祈るくらいしかないか)

故郷からも、娘のいる場所からも遠い空の下で。
「彼」は、娘の未来を受け止めてくれる世界の懐深さを、祈るしかなかった。

ご案内:「ディアーヌ・ルナンの軌跡」からルナン家の人々さんが去りました。