2017/07/02 のログ
ご案内:「廃屋の一室」にクローデット?さんが現れました。
ご案内:「廃屋の一室」にヴィルヘルムさんが現れました。
■クローデット? > 【6/22 Free1の続きです】
「怪物」としての姿を持つ青年が、最近根城としていた廃屋。
生々しい爪痕が無数に走るその一室に、クローデットと、その青年が運ばれてくる。
「………。」
座り込んだ姿勢のままだったクローデットが、深い息を吐く。
その喉からは、若く瑞々しい潤いが、完全に失せてしまったような響きが、月明かりのない暗い部屋の、床を這うように響く。
ゆっくり開かれた彼女の瞳は、血のような紅い色をしていた。
■ヴィルヘルム > ボロボロのローブを身に纏った青年は,貴女の正面,地面から僅かに浮いて転移してきた。
バランスを崩すも,数歩よろめいてすぐに持ち直す。
「…………。」
何が起きたのかを理解するのだけで数秒を要した。
そして同時に,頭の中に響いた言葉が,クローデットの呟きが,確かに耳に残っていた。
■クローデット? > 「…お前が、クローデットに可愛がられる「バケモノ」になれない夜で…私にとっては幸いだけれど、お前にとっては不幸かしら?」
いつものクローデットの姿ながら、その声はクローデットのものとは似ても似つかない。
紙のように白い顔、無表情の中で赤い瞳を敵意に輝かせながら、「彼女」は立ち上がって青年の方を見た。
■ヴィルヘルム > 月の出ない夜。それが幸か不幸か,まだわからない。
だが,少なくとも即座に攻撃されていれば,回避のしようがなかった。
そういう意味では幸運であったし,何より,声の正体を掴んだことが,ヴィルヘルムの思考を落ち着かせていた。
「貴女は,ルナン様の……ひいおばあさん?」
瞳の中の敵意に,一歩後ずさる。しかし臆することはなく,問いかけた。
■クローデット? > 真っすぐな視線に、「彼女」の瞳が不快そうに細められる。
「…知れば、取り入ることが出来るとでも思っているの?」
涸れた声ながらも、口調に宿る粘り気を帯びた不快感は払えるものではなく、それはクローデットの「冷たい怒り」とはまた違った感触を青年に与えただろう。
「…クローデットは…絶対に、離さない…」
涸れた声が、軋る。
■ヴィルヘルム > 取り入る。その言葉は青年の思考にある言葉とは随分と異なっていた。
そしてそれは,絶対的な拒絶を表しているようなもので…
「…そんなつもりは無いけど。」
続ける言葉を,青年はすぐに発せなかった。
ただ,続けられた言葉を聞けば,青年も反駁する。
「クローデットは離さない,って,そんな風に言うから,彼女が困るんじゃないかな?
ルナン様は,貴女のことを“たいせつなひと”だって呼んでるくらい,大切に思っているのに…。」
言いつつも,ヴィルヘルムはこの状況からどう脱するべきかを考え始めていた。
先日の経験から言えば,正面からぶつかれば敗れる,つまり,殺される可能性が高い。
■クローデット? > 「…クローデットが、困る、ですって…?」
涸れた声が、震える。
それは当然、怒りからだった。
「…お前に、何が分かるの…!」
「彼女」の周囲で、歪んだ魔力が渦を巻き始める。
《お母さん、私、同棲してみようと思うの》
その魔力にヴィルヘルムが触れたならば、青年は、クローデットによく似た声が、そんな風に語るのを感じ取る事だろう。
耳ではなく、その更に奥で。
■ヴィルヘルム > 「何も分からないよ。けれど,クローデットは…困ってた。
いや,違うかな…悲しんでたのかも……。」
思い出されるのは,この場所でクローデットが傷を癒してくれたあの日。
……クローデットはきっと,ひいおばあさんの期待に応えたかったのだ。つよくなったのだ。
「クローデットの,ひいおばあさん…
…僕を殺して,貴女は,それからどうするつもり?」
■クローデット? > 「…クローデットが、困って、悲しんで…それが、私のせいだと、言うの…?」
青年と同じ色の瞳が、ぎらぎらと輝く。
「…我ら人たる者にもたらされし原初の火よ…」
「彼女」の周囲の魔力が、一気に濃くなる。
「呪詛」の灼けつくような感覚に留まらない、熱を帯びたような魔力。
《…でも、あなた、大丈夫なの…?》
《まあ、「この界隈」だと珍しいみたいだけど、社会全体ではそんなに珍しくもないみたいだし》
《本当にどうしようもなかったら、ちゃんと逃げるし。苦しかったらお母さん達を頼るから》
《だから、安心してね》
いつぞやの「母娘」の会話。それの、別場面のようだった。
■ヴィルヘルム > 「いや,貴女のせい…っていうのも何だか違うんだ。
クローデットはただ,貴女のために頑張ってるだけで……。」
ふと,自分自身の過去とクローデットの過去が,僅かに重なった。
両親の欲するままに,シュピリシルド家の魔女として,両親のために,生きてきた自分。
ひいおばあさんのために努力をし,力を増したクローデット。
そして頭の中に流れ込む言葉は,止まらない。
母と娘,それは平穏の中に居る者の会話とは聞こえなかったが,確かに信頼し合った母娘だろうと思えた。
「……………ッ…。」
だが,気を取られている場合ではない。五感すべてが危機を告げている。
青年はとにかく,貴女との距離をとった。
■クローデット? > 「…我らに文明をもたらし、力を与えた偉大なる熱よ…」
もはや、対話のつもりはないということだろうか。青年の言葉に返答はなく、詠唱は続けて紡がれる。
熱の気配はいよいよ強まり、クローデットが纏う魔具による防御があると分からなければ、クローデットの身体も危険に曝されるのではないかと心配になってしまうかもしれないほどだ。
そして…そんな折でも、母娘の会話は消えない。
しかし…それはまた、別の場面のようだった。
《お母さん、聞いたわ。異能者とか、異邦人の実力での排除に協力するんですってね》
《…表で認められる、チャンスだと思うの。…フランシスもフランソワも、協力してくれるし》
《………何言ってるの、お母さん。お母さんには「魔」を祓う事は出来ても、「人」と戦う事なんて、出来ないでしょ。私の元素魔術の方が、よっぽど役に立つじゃない》
《………でも、あなた…彼との生活は………》
クローデットに酷似しながらも気丈な娘の声と、頼りない母親の声。
《良いのよ。彼は一人でも生きていけるけど…お母さん、無茶してすぐに死んじゃいそうで、心配なんだもの》
《ありがとう………ベルナデット》
母親の声が、涙ににじんだ。
■ヴィルヘルム > 「………………ッ!」
クローデットの身を心配している余裕は,ヴィルヘルムには無かった。
ひいおばあさんにとって大切な存在だろう,クローデットを傷付けるような真似はしないだろうという思いもあったか。
ヴィルヘルムはともかく,この熱からいかに身を守るか,それのみを考えていた。
だが,その思考は頭の中に流れ込む言葉に遮断される。
人と戦う…?一体,何の話をしているのだろう。
「ベルナデット…?」
その名に聞き覚えは無かった。だが,母があまりにも愛おしげに呼んだものだから、思わず口に出して繰り返してしまう。
■クローデット? > 「…その力を以て、我が敵に大いなる災厄を与えよ…
………!」
詠唱が終わり、術式が完成すると思われたその時…青年が「娘」の名を繰り返したのを耳にした「彼女」が、激しく動揺した。
「…お前が…なぜ、その名前を…」
術式として形を為し、青年に分かりやすい災厄をもたらすことはなかった。
ただでさえ高度な術式を、「借り物」で…情緒の安定を激しく失った状態で完成させるのは無理があったのだ。
しかし、それは、脅威が丸ごと去る事を無視しない。
「…異能者(バケモノ)が、あの子の…ベルナデットの名前を…
…気安く、口に、するな…!」
熱の…「火」の属性を持った魔力が、部屋の中を無差別に荒れ狂う。
壁に当たったそれは、焼けるような、何かが蒸発するような音を立てて部屋に損傷を増やしていく。
《どうして…どうして私を庇ったの…》
《ベルナデット…ベルナデット…!》
荒れ狂う魔力の奔流は、流れ込む母親の慟哭と、重なるようだった。
■ヴィルヘルム > 思わず口にしたその名が,貴女を動揺させたのは意外だった。
流れ込んでくる言葉は,術者の意図とは関係なく拡散しているのか。
…それが齎した結果は,不完全な術式の発動。つまるところ魔力の暴走に等しかった。
「……ッ!!!」
己の身体を“酷使”すれば,その荒れ狂う魔力を回避するのは不可能ではなかった。
この部屋全体を吹き飛ばされれば,そうもいかなかっただろう。
「バケモノ………。」
貴女がヴィルヘルムに向けた言葉と,そして頭の中に流れ込んでくる悲痛な叫び。
どうして貴女が動揺したのか,その理由の一端を理解してしまった。
あぁ,この人は……。
■クローデット? > 術式が完成していたらこの部屋に比喩抜きで「噴火口」が開いたわけで、意図せざるものとは言え、術式が完成しなかったのは青年の生存率を飛躍的に高めた事だろう。
「…許さない…絶対に…!」
もっとも、「彼女」は術式制御の失敗など気にしていないかのようだった。
異能者(バケモノ)、異邦人(ヨソモノ)、その他自分を認めないもの達への呪詛を乗せるように、魔力の暴走に任せているようである。
青年の事が、視野に入っているのかいないのか。
■ヴィルヘルム > ……この人は,娘を死なせてしまったんだ。いや,殺された,という表現の方が,正しいのかもしれない。
それが全てではないかもしれないが,理由の一端が見えた気がした。
「……これは復讐?
貴女の,たいせつなひとを奪った人たちを殺して…僕を殺して……。」
この規模の熱量と速さなら,的確に狙われても,回避できる。
それが無差別に暴走しているのだから,ヴィルヘルムにとっては幸運そのものだった。
「…それで,貴女は幸せなの?
貴女のことを見守ってる“ベルナデットさん”は幸せなの!?」
青年は,心に思ったことを,そのまま叫んでいた。
■クローデット? > 声を聞いて、「彼女」は改めて青年の存在を思い出したようだった。
彼の方を見て…
「………わたしの、幸せは………
………ベルナデットの、幸せは………!」
紅い瞳の中に宿る怒りの光が、揺れる。
魔力の奔流は、まだ暴れ続けている。
《ほら、私「この界隈」だとなんていうか…ちょっと、「変人」みたいなところあるでしょう?どっちかといえば、お父さん似だと思うんだけど》
《彼はね、「自由に世界を羽ばたける君が素敵だ」って言ってくれたのよ》
《お父さん以外でそんな事言ってくれた人、初めてだったし…》
《私の水の魔術もね、「綺麗だ」って。だから、嬉しくて》
娘の朗らかで幸せそうな声だけを、青年と「彼女」は共有していた。
■ヴィルヘルム > 頭の中に聞こえる声が,余りにも幸せそうに響くから。
ヴィルヘルムは思わず足を止めてしまった。
顔も見たことが無い母と娘の姿が,頭の中に浮かぶようだった。
「……ベルナデットさんは,貴女を守って…亡くなったのでしょう?
だったら,貴女はベルナデットさんの分まで,幸せに…生きなくちゃ!!」
綺麗事だ。死んでしまった人の分まで幸せに生きるなんて。
そう分かっていたけれど,頭の中に流れ込んでくる声が,復讐を望んでいるようには聞こえなかった。
「貴女の幸せ……ベルナデットさんの幸せ。
それから,クローデットさんの,幸せも………ッ!!!」
熱をもった魔力は不幸にも,彼の右肩を貫いた。ローブが瞬時に焼失し,頬と右肩が焼かれる。
■クローデット? > 「………ベルナデット………クローデット………。
………わたしの、しあわせ、は………」
血の色の瞳から怒りの光が失せる。
魔力の奔流から熱が失せ、流れが緩やかになり…そして、平穏が戻る。
クローデットの身体は、その場にへたりと崩れた。
「………ひとりに、しないで………」
「彼女」が無意識で訴え続けた「願い」が、クローデットの口を借りて、やっと言葉になった。
■ヴィルヘルム > 魔力から熱が失せたとはいえ既に焼け焦げた傷が治るわけではない。
ヴィルヘルムは右肩を押さえて片膝をつき,そして貴女に視線を向けた。
貴女の口から語られた願いは,あまりにも単純で,あまりにも切実で,
「………………。」
その願いは,ヴィルヘルム自身,理解できないものではなかった。
それどころか,ヴィルヘルムの願いとも大部分が重なるものだっただろう。
「……大丈夫、貴女は、クローデットさんの家族で……たいせつなひと、だから。」
家族。その言葉を口にしたとき,青年は息をのんだ。
この人には家族が居る。クローデットが居る……けれど、自分には誰も居ない。
…肩でも頬でもなく,胸が締め付けられるように痛んだ。