2017/07/03 のログ
■クローデット? > 「…でも…クローデットは…そばに、いてくれない…」
座り込み、顔を伏せるクローデットは、涸れた声のまま、そう言って泣いた。
「…ソフィーは、何か怖いし…フランソワも、同調してるのか、自分ではあんまり近くに来てくれないし…
アルベールも…昔は良い子だったのに、今じゃ家にも寄り付かない…
…せめて、ブリジットもまた顔を出してくれれば良いんだけど…」
吐き出されるのは、家族に関する泣き言。
「…わたしには…クローデットしか、いないのに…」
ベルナデットを失った、相応の「対価」を求め始めたときから、「彼女」の人生は狂い始めていたのだ。
ベルナデットの影を求め過ぎて、もう一人の実子たるフランソワとの距離はどんどん広がっていった。
ベルナデットを失った「対価」を「異邦人・異能者の排斥」に求めたことで、社会的な立場をますます失い、孫とすら疎遠になり。
曾孫たるクローデットには、その「真意」を「誤解」されたまま、旅立たれてしまった。
「孤独」を暴力であがなおうとした罰を。
…いや、自分の本当の望みに、哀しみに丁寧に向き合う事を疎かにした罰を、「彼女」は受け続けていたのだ。司法の場に引きずり出される、それ以前の場所で。
■ヴィルヘルム > ヴィルヘルムは【レコンキスタ】という組織の存在どころか,この世界が如何にして異能者や異邦人を受け入れるに至ったのか,その歴史さえ学んではいない。
だから貴女の状況の全てを理解したわけではなかったが,だからこそ,偏見をもたずに話を聞き,考え,語ることができたのかもしれない。
「クローデットさんに,そのまま伝えてみたらいいのに…。」
いつの間にかファーストネームを普通に呼んでいるが,本人もそれに気づいては居ないようだった。
右肩を押さえたままに,ヴィルヘルムは立ち上がって貴女に近づいた。
「クローデットさんは,貴女のために努力をして……
…それで,貴女に認めてもらいたくて,今も,悩んでるはずなんだ。」
クローデットの姿をした相手にそれを言うのも不思議な話なのだが,
ヴィルヘルムは右肩の痛みをこらえ,胸の苦しさをこらえながら続ける。
「ひいおばあさんとして,クローデットさんに,言ってあげてよ。
あなたのことが大好きだ…って。頑張っていて偉いね…って。」
ヴィルヘルムの目には涙が浮かんでいる。
…それは,本当のことを言えば自分自身の望みだった。
■クローデット? > 「………。」
青年と同じ色の、潤んだ瞳が、声をかけてきた青年の瞳を見返す。
「………こんなに、強く…賢くなくても、良かった………。
………駄目ね…きっと…全部、私の、せいなのに………」
視線を落とす。
「………こんなに、強く…賢くなくても…傍に、いてくれれば、良かった、なんて………」
「自分」が目を背けていたから、クローデットが勘違いしてしまった。
全て、「自分」のためだと。
あまりにも、重い「十字架」を、負わせてしまった。
■ヴィルヘルム > 「…………。」
ヴィルヘルムは貴女をまっすぐに見て,その言葉を聞いた。
もう,貴女を憎もうという気はすこしも起きなかった。
「…貴女の所為じゃないよ,誰の所為でもない。
忘れないで,貴女が幸せじゃなかったら…ベルナデットさんも,クローデットさんも,みんな悲しむから。」
だから……
「……笑って,クローデットさんを,迎えてあげて。」
……このまま,後悔だけを残してほしくない。
■クローデット? > 「………。」
紙のような白い顔に、ほんのり血の気が戻り。
クローデットの顔で、「彼女」は柔らかく笑んだ。
「………私は、もう、いいの」
曾祖母。つまり、三代前。
封建主義的な社会からこの世界にやってきた青年には想像力が追いつかないかも知れないが、「彼女」は、この世界の「人間」という種族としては相当な高齢で…クローデットほど力ある「魔女」を「支配」出来ることが、もはや奇跡なのだ。
その奇跡を可能たらしめている精神の力、その根源が、今、解かれつつある。
「彼女」がクローデットの身体を通じて出す声は相変わらず老齢を思わせるものだったが…それでも、クローデットとの繋がりを感じられない事がない程度には、潤いを取り戻しているようだった。
優しく微笑んだまま、「彼女」は青年の焼けた頬に手を伸ばす。
■ヴィルヘルム > 貴女があまりに自然に微笑むから,青年は驚き,そして戸惑った。
けれど,その口から発せられた言葉の意味には…
「もう、いい……って。」
…青年も,気付いたようだった。
かといって,青年にはできることも無く,かけるべき言葉も思いつかない。
だが少なくとも,
伸ばされた手を拒絶することはなく,その頬に触れようとも逃げはしないだろう。
■クローデット? > 「人間」は、弱い。
どうしようもなく他者の手を借りなければならない形で生まれてきて…そして、またどうしようもなく他者の手を借りなければならない形で消えていく。
今改めたら、自分を遠ざけた者達は、1人でも戻ってくるだろうか。看取ってくれるだろうか。
保証などないけれど…でも、哀しみに、孤独に任せて他人にすがりつくだけでは、もう、不幸しか生まない、生めないのだと…今、この時になって悟ってしまった。
せめて、手放そう。未来を、完全に奪ってしまう前に。
心だけでも寄り添おうとしてくれる、若者たちを。
「我が友に癒しを与えん…『治癒(ゲリゾン)』」
優しく青年の焼けた頬に添えた手から、優しい光が…弱く零れる。
恐らく、「彼女」が使う、最後の魔術。
「彼女」とクローデットの「繋がり」が弱まりつつある今、術式はあまり効果的には働かなかった。右肩の痛みまでは、消えてくれないだろう。
「ありがとう」
そう動いた口に伴って、「あの母親」の声が、聞こえた気がしたのと同時…クローデットの身体は、力を失って崩れ落ちる。
最後まで、その顔には優しい笑みが刻まれていた。
ご案内:「廃屋の一室」からクローデット?さんが去りました。
■ヴィルヘルム > 貴女の手から零れる暖かな光。頬の痛みが溶けるように消えていく…だが,光は徐々に弱まり,そして消えていく。
それが何を意味しているのか。分からないほどに鈍感にはなれなかった。
「…駄目,待って,まだ,名前も聞いてない……!!!」
我が友。詠唱の中でとは言え,そう呼んでくれた貴女の手を握り,声をかける。
けれど,結局,その名を聞くことはできなかった。
その代わりに,貴女は感謝の言葉を言い残して……
「……っ!」
……頬に当てられた手を握っていたのは幸いだった。
ヴィルヘルムは,力を失った貴女の腕を引き寄せ,その身体を抱きとめた。
涙が零れそうになるのを必死にこらえながら。
ご案内:「廃屋の一室」にクローデットさんが現れました。
■クローデット > 「………」
身体に力が入っている感じがしないのに、どこかに倒れ臥しているわけではないようなのを不思議に思いながら、クローデットはゆっくりと目を開けて…
「………っ」
起こっている事態が掴めずに、息を呑んだ。
その音が圧倒的に若いのに、青年は気付く事が出来るだろうか。
■ヴィルヘルム > その音で,貴女が目を覚ましたことに気付く。
貴女の身体を支えていたヴィルヘルムは,そこで静かに,身体を離した。
「………すみません。」
口を開いて最初の言葉が身体に触れたことへの謝罪だったのは,この上なく,ヴィルヘルムらしい部分だっただろう。
■クローデット > 「………いえ、その………」
身体を離されて、何とか自分でバランスをとる。
クローデットの反応は、青年の予想を裏切るものだっただろう。
拒絶するでもなく、不用意に接触したことを非難するでもなく。
ただ、その青い瞳が、混乱と、焦燥…それから、わずかな恐怖に揺れていて、青年の顔すら、まっすぐ見る事が出来ていない状態だった。
顔色は、あまり良くないようである。
■ヴィルヘルム > 「………?」
確かに,ヴィルヘルムの予想は裏切られた。
瞳は一所に定まらずに視線を泳がせており,顔色も悪い。
「クローデットさん………大丈夫,ですか…?」
先ほどまでと同様に,無意識のうちにその名を呼んで,心配そうに見つめる。
■クローデット > 「………えぇ、と…その………」
ファーストネームで呼ばれる事を咎めるまでもなく、口ごもる。
そんな中でも、視線は不安に揺らぎ続けている。
「………、………」
青年はどうやって無事に今ここにいるのか。こうして自分と話しているのか。
彼は、一体何を、どこまで知るに至ったのだろうか。
………胸の中に突然空いた、この穴は一体何なんだろうか。
聞きたい気持ちはあるが…自分から、そういった危険な情報を零してもいいものなのだろうかと、口を、もの言いたげにわずかに動かすに留めた。
■ヴィルヘルム > 「……そうだ!
クローデットさん,今すぐに,ひいおばあさんのところへ帰ってあげて!!」
貴方の不安をよそに,ヴィルヘルムは一気にまくし立てた。
今もきっと,たった一人で居るはずだ。
そして,残された時間はそう長いとも,思えない。
「強くなるのもいいし,頑張るのもいいけれど……今は,それよりももっと大事なことがあるはずだから!」
ヴィルヘルムの瞳には,哀しみの色が浮かんで見えるだろう。
実際,この青年は多くを知ったようだ。貴女の知らないようなことも。
■クローデット > 「………。」
青年にまくしたてられても、クローデットは動こうとしなかった。
…寧ろ、青年の顔を真っすぐに見つめるその顔は、ますます血の気が引いているように見える。
「………どうして…あなたが…悲しそうに…しているのですか…?」
クローデットの声は、何とか絞り出したような荒さと細さ。
その瞳の、混乱の色はますます濃くなっているようだった。
■ヴィルヘルム > 「…分からないよ。分からないけれど…。
…ひいおばあさん,……ひとりにしないで、って…。
……傍に、いてくれれば、良かった…って…。」
貴女は確かに混乱していただろうが,ヴィルヘルムもまた,当然のように,全てをきちんと順序立てて説明できるほどに飲み込めてはいなかった。
「ごめん,意味わからないよね。
でも,僕も,どうしていいか分からなくて……。」
…深く呼吸をして,心を落ち着かせる。
何とか,ここで起きたことを,貴女に説明しようとするが…。
■クローデット > 「………。」
(………ああ、そうか)
クローデットの方は、ヴィルヘルムの言葉に、偏った方向での「納得」を得ていた。
今まで、頭に直に語りかけていた存在が離れたことと、ヴィルヘルムの言葉をすり合わせるならば…
自分は、きっと「手放された」のだ。「良くも悪くも」。
「………きっと、残り時間…ひいおばあ様は、わたしが直に伺う事を…素直に喜んでは下さらないでしょう」
優しく、目を伏せがちに、そうぽつりと言った。
■ヴィルヘルム > 言葉が足りないことは自覚している。
名前も知らないクローデットのひいおばあさんと直接離して感じたことを,
十分に伝えられているという自信は,ヴィルヘルムには無かった。
「……どうして,そう思うんだい?」
自分自身思考をまとめながらも,ヴィルヘルムは貴女に問いかけた。
■クローデット > 「………わたしの中から…爪痕も残さずに、いなくなってしまわれましたので………」
それは、直に「手を離された」クローデットだからこそ分かる事。
すっと、視線を落とすが…
「………。」
やがて、「どういうわけか」目を開けていられなくなったのか、強く目をつむったクローデットの、呼気が、震え出した。
■ヴィルヘルム > 「…………。」
クローデットの言葉を聞いて,ヴィルヘルムは複雑な心境であった。
あの人は,自分の望みを捨てて,クローデットを“幸せ”にしようとしたのかもしれない。
ただ,あの人の心境を推察するに与えられた時間は短かった。
「……クローデット,さん?」
傷があるわけではない。だが,貴女はまるで,苦しんでいるかのようだった。
一瞬ためらい,意を決して…貴女の肩に手を置く。
「……クローデットさん,落ち着いて…。」
■クローデット > 「………っ」
肩に手を置かれるという刺激が、何らかの契機となってしまったようだった。
強く閉じられたクローデットの両目から、涙が伝う。
「………ごめんなさい…ごめんなさい………」
もはや、何に対して…誰に対して謝っているのか定かではないけれど。
クローデットは、自らの掌で、自らの目を、顔を覆って座り込んだ。
■ヴィルヘルム > ヴィルヘルムは貴女の涙が溢れ出す瞬間を間近で見ることになった。
その瞬間の動揺は小さくなかっただろう。
「クローデット…!?」
思わずその名を呼んで,座り込んだ貴女の横に膝を付く。
その言葉はヴィルヘルムへと向けられたものでも,ひいおばあさんへ向けられたものでもないように感じられた。
■クローデット > その謝罪の言葉は、曾祖母へのものでもあったのだろうけれど。
その背後には、もっと大きな…もっと、人として根本的な、「何か」への罪の意識があった。
…いくらクローデットの頭脳をもってしても、現状の混乱と動揺の中で、それを紐解くのは不可能だったのだが。
「…ごめんなさい…ごめんなさい…」
名を呼ばれても反応する事もなく、クローデットは泣き続けている。
■ヴィルヘルム > クローデット自身がたどり着き得ない答えに,傍らに在るヴィルヘルムがたどり着くのは不可能だった。
だからこそ,ヴィルヘルムは貴女を優しく撫でる。まるで子供をあやすように,優しく。
「………。」
貴女が泣き止むまで,ヴィルヘルムはずっとそうしているだろう。
■クローデット > 「………っ」
青年に触れられれば、びくっと反応を示すも、それで涙がすぐに止まってくれたりはしない。
「………。」
結局、青年の厚意に甘えるように、クローデットはしばらくの間泣き続けていた。
ご案内:「廃屋の一室」からヴィルヘルムさんが去りました。
ご案内:「廃屋の一室」からクローデットさんが去りました。