2017/07/09 のログ
ご案内:「廃屋の一室」にヴィルヘルムさんが現れました。
ご案内:「廃屋の一室」にクローデットさんが現れました。
ヴィルヘルム > 貴女が泣いている間,ヴィルヘルムは一言も言葉を発さなかった。
それは言葉が見当たらないのではなくて,言葉をかけるべきではないと思ったからだった。
涙を流し続けるその姿は,普段の貴女よりもむしろ,以前この場所で垣間見た,無垢な少女としての貴女を連想させたかもしれない。
やがて,貴女が徐々に平静を取り戻せば…

「……もう,大丈夫かな?」

もうちょっと泣いてもいいよ。とヴィルヘルムは,優しく笑む。

クローデット > 「………。」

嗚咽が落ち着いてきたクローデットは、目を閉じて、深い深呼吸を1つ。

「………いいえ…もう、大丈夫です」

視線を落とし気味に目を開けたクローデットは、ヴィルヘルムの目を見ない。

「………大変、失礼致しました。
シュピリシルド様に、頼る資格などありませんのに………」

そう言って…静かに、青年から距離をとろうとする。

ヴィルヘルム > 貴女が自分の目を見ないその理由が,すぐには分からなかった。
けれど,貴方の言葉から青年は,貴方の感情の一端を理解する。
距離を取られれば一瞬戸惑い……そして,笑った。

「あはは,確かにその通り。僕も君を憎んでた。」

さらりとそう言ってのけてから,青年は貴女を横目に,部屋の隅へ移動する。
……床や壁には切り刻まれたような跡。しかし,隅の一画だけは,辛うじて傷付けられずに残っている。
記憶の蓋が外れているのなら,そこで何があったのか,貴女も思い出すことができるだろう。

「……でも,いいよ。
 覚えてないかもしれないけど,君は僕のことを助けてくれた。
 僕がこうしてここに居るのは,君のお陰さ。」

貴女には伝わらないかもしれないが,ヴィルヘルムはその言葉に2つの意味を込めていた。
一つは文字通り,風の刃を止め,傷を治し,その命を救われたこと。

………もう一つは,絶望の中「生きる意味」を手にしたこと。

クローデット > 青年が言った、「助けてくれた」の件を、クローデットは、まだ思い出せていなかった。
…今までとは別の方向で、何重もの意味で蓋がなされているのだ。

「………」

それでも、「憎んでいた」ことをあっさり認め、それでもなお、その反面の「恩恵」すら認めてみせる青年。
………完敗だ、と思った。距離をとる青年を無言で認め…それから、再度目を閉じて、深い呼吸を1つ。
先ほどと違うのは、目を再度開いた後、青年を真っすぐ見つめていること。
その瞳の中にある、決意の…覚悟の光。

「………「あたくし達」があなたの破滅を望み、「憎ませた」のだとしても…ですか?」

「あたくし達」という言葉に、単なる一人称複数形以上の意味があることに、青年は気付くだろうか。

ヴィルヘルム > 思い出してもらえないのは残念だったが,あの時のことを,青年は覚えている。
貴女の言葉を聞いて,青年は僅かに俯いた。

「…僕が“破滅”したのは,この瞳をもって生まれてきた時さ。
 誰が僕を破滅させたかったのかは知らないけれど,残念…破滅のしようが無いよ。」

それは,あなた達を弁護する言葉だったのかもしれない。
けれどそれだけでは,貴女の言葉に,誠実に答えているとは言えない気がした。

「……でも,そうだな。憎ませるなら,ちゃんと憎ませてくれないと。
 僕を助けてくれたり,傷を治してくれたり……憎めっていうほうが,難しいだろ?」

貴女が“怪物”と化した青年に寄り添って涙を流したことは,敢えて口には出さなかった。
貴女のプライドを傷つけるような気がしたのかもしれない。

クローデット > 「………傷を………」

少なくともクローデットは、青年の言葉に心当たりをもたなかった。
自らの掌をじっと見つめるが…今思い出すべきではない気がして、ゆるく首を横に振る。

「………弄ぶ、つもりでいました。
本質的には”マリア”でないのにそうあろうとするあなたに、時に真実を突きつけるように、時に欺瞞を助長するようにして揺さぶりをかけて…」

「…とても、暴力的であったと思っています。あなたに、そんな仕打ちを受ける謂れなどなかったのに」

言いづらそうに、視線を落とすが…それでも最終的には、意を決するように青年の方を見た。

ヴィルヘルム > 貴女の言葉に,青年は小さく頷いた。

「…僕と君は,少しだけ似ていると思うよ。誰かのために,自分を変えるってところがね。
 君は強いから,ひいおばあさんのために勉強をして,努力をして…強い君に変わった。
 でも僕は弱いから,仮面を被って,変わったと言い聞かせるしかなかった。」

「…誰も“僕”を見てくれない。でも,“マリア”のことは見てくれる。だから僕は“マリア”になった。
 君も同じだった…“マリア”に居場所をくれて,あの時は確かに楽しかった。
 弄ばれていたって構わなかったんだ…“僕”には,生まれた時から居場所が無いから。」

それは青年にとって恥ずべき気質であり,貴女に見せたいと思うような部分ではなかっただろう。
けれどそれをさえ包み隠さず話すのは,それこそ,貴女への信頼の証でもあり…
…涙を流しながら心の内を語った貴女の姿を,見ているからでもあった。

クローデット > 「………自分を、変えた………。
………よく、分かりませんわね」

視線を落とすクローデット。
まだ、自分の「本当の形」とでも言うべきものを彼女は掴んでいないのだ。青年とは違って。
青年ほどの明確な「ずれ」があるわけでもないし、それを掴むのは容易ではないだろう。

「………そんな心持ちでいるから、「えらそうで性格の悪い魔女」に、良いように翻弄されるのですよ?」

「弄ばれていたって構わなかった」と語る青年に、伏し目がちのまま、口元だけで笑った。
でもその声は笑声まで柔らかく、かつての傲岸さが伺えない。

ヴィルヘルム > 「さっきも同じようなこと言ったけど,翻弄するなら,最後まで翻弄してほしかったよ。
 …えらそうで性格の悪い魔女さん?」

貴女の笑い声に重ねるように,楽しげに笑う青年。
それから,静かに息を吐いて…

「…でも,一部訂正。
 えらそうなのは間違いないけれど,性格が悪いんじゃなくて…頑張り屋で,ちょっと意地っ張りなだけかな?」

…怒られるのを覚悟で,冗談混じりの言葉を向けてみる。

クローデット > 「………「本当にそれで良かったと思っているのならば」、よほど風変わりな嗜好の持ち主ですこと」

呆れたような笑声を溜息のように零す。

「…当然です、根拠のない威信は身を滅ぼすだけですから」

冗談混じりの言葉には、勝ち気さを気持ち取り戻しながらも、たおやかさを保って返す。
…なお、「意地っ張り」は黙殺された模様だ。

ヴィルヘルム > 「そう信じ続けられれば,自分を騙し続けられれば…
 …それでもいいかって,思ってたんだけれど,ね。」

自分自身を,騙し続けることはできなかった。
マリアであり続けることをやめたのは,この青年自身なのだから。

「根拠があるからこそ,自分自身を信じられる…ってことかな。
 ……ま,とりあえずは,そういう事にしておこうか。」

自分自身を信じて譲らない。それは意地っ張りが形を変えただけの言葉だった。
そんな形で黙殺された言葉を掘り返した青年は,くすくすと楽しげに笑う。

「……君と,こんな風に話せる日が来るとは,思ってもみなかったよ。」

……ずっと,望んではいたのだが,それはまだ口には出せなかった。

クローデット > 「ええ…まさか、あの場で「あの決断」が出来るなんて、思ってもみませんでしたわ」

騙し続けてでも「マリア」で居続けたいかというクローデットの囁きを拒んだ、あの出来事。
あの頃から、「クローデット」の欺瞞は破綻を始めていたのだと、今になって思う。

「…努力は、裏切りませんから」

淡々と、そう言いきるクローデット。そこに、必要以上の意地はなかった。
似たような言葉を、青年は他の者からも聞いたかも知れない。
寧ろ、根拠になり得なかったのは…。

「………。
………今すぐに「呪い」が解けないとしても…シュピリシルド様は、こうして話せる時がまた来ることを、望まれますか?」

青年の「望み」を揺さぶる問いが、クローデットから、随分躊躇いがちに発された。

ヴィルヘルム > 「君は本当に,強い人だね。意地っ張りとかじゃなくて,本当に…。」
貴女のその自信は羨ましいとも感じる者だったが,それを裏付ける血のにじむような努力を思えば,羨ましいなんて感じるのは筋違いだと青年も思い直す。

「………?」

そして,問いを向けられた青年は,問いそのものよりも,まず,その言葉に違和感を覚えた。
「…変な事を聞くね。まるで,…もう二度と会えないみたいだ。」
肩をすくめた苦笑の中に,僅かな不安の色。
青年は一瞬だけ俯いてから,視線を上げて,貴女をまっすぐに見る。

「君は覚えていないかもしれないけれど,狼になることも,僕にとってはもう“呪い”じゃない。
 だから,君が言う“呪い”が解けるのはいつだってかまわないし…
 …解けなくたって構わないよ。」

「…君と,こうやって一緒に,笑いながら話ができるなら,それでいい。」

青年は恥ずかしそうにしながらもそう言い切って…それから,視線を泳がせた。