2017/07/10 のログ
クローデット > 「………どうでしょうか」

「強い」と素直に讃えられれば、クローデットの方が、ばつが悪そうに視線を落とす。

確かに、努力は裏切らなかった。
けれど…努力の「理由」だった異能者への、異邦人への敵意は、悪意は。
根本のところで、クローデット自身のものではなかったのだ。

クローデットは、ディアーヌとは別の人間だった。

「………。」

青年の、あまりに素朴な「告白」に、クローデットは言葉を失って…それから、静かに…ゆったりと、大きな瞬きを一つするとともに、魂を吐き出すかのような、長い長い息を吐いた。

「………シュピリシルド様が、ひいおばあ様から何を、どれだけお聞きになったのかは存じませんが…

「あたくし達」は、異能者の、異邦人の…そして、この学園都市の理念の、敵でした。
わたしがひいおばあ様をお慕いしていることが、委員会や財団に知られたら…一緒に話す機会は、もう得られないでしょう」

そこまで言ってから…クローデットは、場違いに優しく笑った。

「…逆に言えば…シュピリシルド様がそれを告発なされば…シュピリシルド様は、それを切欠に、表への居場所を得ることも可能だろうということです。
そうなれば、”呪い”を解くための対応も、遅かれ早かれ受けられるでしょうし。

…そうでなくとも、順調に研究が進めば…わたしは、今度の3月には祖国に帰りますから」

青年にとっては、自分を「売った」方が得なはずなのだと、クローデットの言葉が示唆していた。

ヴィルヘルム > 貴女のことを売れと,そう示唆する言葉に青年は……溜息を吐いた。
それから,あからさまに不機嫌そうな顔を,この青年にとっては珍しい顔を作って,

「…僕の話,聞いてなかったでしょう?」

そうとだけ言う。そしてすぐに,表情は柔らかな笑みに戻った。

「今言ったことを,もう忘れちゃったかな。
 僕はこの“呪い”を憎んでいないし,君や,あのひいおばあさんが誰の敵だろうと関係ない。
 表に居場所が見つかって,呪いが解けても…………。」

クローデットと二度と会えないのなら,意味が無い。
けれど,クローデットはやがて祖国へと帰るという。

「……僕は…………。」

ヴィルヘルムは言葉を詰まらせた。帰るべき場所も無く,行くべき場所も無い。

「……僕は,えらそうで努力家で意地っ張りな魔女さんを,応援するよ。」

クローデット > 「…事態がどれほどのものか分かって仰っているのか、大まかにでも確かめたいと思いましたので。
不快にさせてしまったのならば、申し訳ありませんでした」

青年が珍しく不機嫌な顔を作ってみせれば、たおやかに笑みながらもそう返す。
…しかし、青年にとっての問題は、「彼女達」が誰の「敵」だったのか、という部分ではなかったようで…

「………わたしのことを気にして下さるより…ご自分の人生を生きて下さる方が、嬉しく思うのですが…」

クローデットは、青年の様子に、困ったように笑った。

ヴィルヘルム > 「そんなに本気にされちゃうと,逆に焦るなぁ……。」

頭を掻いて苦笑しつつ,しかし続けられた言葉には,頭を悩ますことになった。
どう言えば,言いたいことがそのまま素直に伝わるのだろう。
しばらく沈黙してから,青年は口を開く。

「……僕の人生ね。それじゃ,いくつか我儘を言ってもいいかな?」

貴方を真っ直ぐに見て……

「……僕一人じゃ,寂しいんだ。
だから……クローデットもクローデットの人生を生きて……できたら,たまにで良いから,一緒に話したり,笑ったりして欲しい。」

クローデット > 「………そう、ですか………」

「寂しい」。その訴えに、クローデットはどこか痛みを覚える瞳で、視線を落とした。
それでも、口元だけは優しく笑んで。

「………「わたしの」人生、と言われても…何をどう改めたら良いのか、まるで、見当がつかないのですが…」

ゆったりと大きな瞬きを一つして、瞳に映る痛みを覆い隠すと…

「………気持ちの、整理がつくまで………わたしと、ひいおばあ様のお話を…聞いて、下さいますか?
…時が許せば…新月でない、夜でも」

青年の視線に視線で応えて、そう、尋ねた。

ヴィルヘルム > 貴女の瞳に,僅かな陰りを見た気がした。

「………………。」

不安げに視線を泳がせてから,頭を掻いて,あからさまに苦笑してみせる。

「それじゃ,それを探すところからスタートかな?」

他人に言及しているこの青年もまた,この先どのように生きていくか,見当もついていない。
だがそれはまだ先の話だ。今は……

「……もちろん。
狼になった方が,クローデットの声がよく聞こえるからね。」

こうして,自分の居場所があることを、喜ぼう。
決して得られないと思っていた安らぎが目の前にあることを,喜ぼう。

クローデット > 「………魔術の探究は…好き、なのですけれど」

視線を落として、どこか気後れしがちに零すのはそんなこと。
元々は「大切な人」のために頑張ったことでもあるけれど、新しいことを覚えることを楽しむ心は、確かに育んでもらった…それ自体は「中立」のもの。

「………ありがとう、ございます」

優しく…それでいてどこかはにかみがちに笑んだクローデットは、青年の方に歩み寄る。

ヴィルヘルム > 貴女が小さく「これからのこと」を呟けば,青年は優しく笑んだ。
それはこの青年にとっても,貴女に相応しい道だと思えたから。

「……どういたしまして?」

これは変だ。話をして欲しいと望んでいるのは自分の方なのだから。
ありがとう。そう言い直そうとして,貴女と目があった。

クローデット > 青年に近づいたクローデットは、青年の右肩に…「彼女」が治癒しきれなかった青年の火傷に、手をかざす。

「…我が友に癒しを与えん…『治癒(ゲリゾン)』」

かざしたクローデットの手に宿る光は、どこか不規則な点滅をする。
…魔力の流れがスムーズでないのだと、青年には分かるだろうか。
右肩の治癒は何とかなるかもしれないが、かつてのような強力な効果には到底及びそうにない。

「………。」

その異状に、術式の行使を終えたクローデットが、信じ難いものを見るような目で自分の掌を見た、そのとき。

『お嬢様…!』

部屋の入り口で、第三者の声がした。
クローデットが祖国から連れて来た、ハウスキーパーだ。

ヴィルヘルム > ヴィルヘルムに,魔力の流れをすべて見てとれるほどの才能は無い。
だがそれでも,クローデットの身に何か異常が起きているであろうことは,直ぐに見てとれた。

「………………?」

貴女ほどの衝撃をもってではないが,青年もまた,貴女の手のひらを見た。
だが,すぐに,向けられる声が青年の思案を妨げる。

「……クローデット?」

そこで初めて,青年は貴女の表情を見た。
だが,関係者が現れた以上,引き留めるわけにもいかないだろう。

クローデット > 『…お二人とも…よくぞご無事で…』

動揺しきった声で部屋の中に駆け入ったハウスキーパーは、まずクローデットを強く抱きしめた。

「…ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」

ハウスキーパーの腕の中で、優しい声で応えるクローデット。

『…良いのです、お二方に大事がなかったのですから』

「………?」

自分だけでなく、ヴィルヘルムまで心配するハウスキーパーの様子を訝るも…

「………「彼」まで心配して下さるなら、そこまで話はこじれなくて済みそうですわね。
…家に戻って、お互いに隠していたこと、全部話しましょう?」

と、柔らかく笑んで不問にするクローデット。
ハウスキーパーが頷けば、一旦二人の女性は抱擁を解き、クローデットは青年に再度歩み寄り…

「…長い、長い話をするには、夏の夜は短過ぎます。
近いうちに…また、お伺い致しますので」

そう、耳元で囁いてから瑞々しく笑んで。

クローデットは、ハウスキーパーと共に、転移魔術で廃屋を後にしたのだった。

ご案内:「廃屋の一室」からクローデットさんが去りました。
ご案内:「廃屋の一室」にヴィルヘルムさんが現れました。
ご案内:「廃屋の一室」にヴィルヘルムさんが現れました。
ヴィルヘルム > その声には聞き覚えがあった。
転送の瞬間に叫んでいた女の人だ……けれどまさか,ここを見つけるとは。

「…………。」

クローデットにはこんなにも心配をしてくれる相手がいる。
曾祖母の話もそうだが,家族の無いヴィルヘルムは,すこしだけ羨ましいとも,寂しいとも思っていた。

「……僕は,ここにいるよ。」

そんな感情を全て笑顔の下に隠して,青年は貴女に微笑み返した。

ご案内:「廃屋の一室」からヴィルヘルムさんが去りました。