2017/07/25 のログ
ご案内:「クローデットの私宅」にクローデットさんが現れました。
クローデット > 「………ふぅ」

夕刻。
”門”の発生予測装置の試験運用時の画像チェックを一通り終えて、椅子の背もたれに寄りかかることでモニターから視線を外し、溜息を吐くクローデット。
装置の予測制度は今のところ想定の範囲に思える。8月から、本調査に移れるだろう。

モニターを落として、ふらふらと寝室に移動する。
食事はだいぶ普段通り取れるようになってきているが、深い睡眠は、まだなかなか取れていなかった。

クローデット > 「………。」

一人には大分広いベッドの上に仰向けになり、天井を見上げる。

『…僕は,ただ,君のことが好きなんだ。』
『………いつか,君にも……僕のことを,好きになってほしい。』
『……お願い…僕を…嫌いに,ならないで。
 好きなんだ……君のことが,本当に…!!』

切々と語られた、青年の想い。
寄りかかった時に、服越しでも伝わった、彼の高い体温。
情動の熱に浮かされたような声が、脳裏に蘇る。

………軽く触れ合った、唇の感触も。

クローデット > 気持ちを受け入れるわけにはいかなかった。
「加害者」として、依存させたままにはしておけないし…そもそも、「観賞用」の異性ということでいうならば、彼は別に自分の好みではないから。
拒絶するわけにもいかなかった。
表に繋げる前に彼を拒絶したら、きっと今までの繰り返しになってしまうから。
だから…消極的に受け入れる、という選択をしたのだけれど…

(………現代の女にあるまじき、卑劣さですこと)

クローデットは、自らを嘲笑った。

クローデット > 「女性性」の、ある種のデフォルメ。それは、クローデットにとって「武装」の一種だった。
見た目を整えておけば、少なくとも、そちらでケチがついて社会で悪印象がつくことはないし…心に隙のある「男の出来損ない」の精神に干渉することだって、容易になった。

けれど、「武装」を「武装」として運用する必要がなくなったとき。
クローデットは、何をしていいか分からず、立ちすくむことしか出来なかった。

クローデット > 「観賞用」の異性の好みくらいは、ある。
青年が語った「好き」という感情が、その範疇に収まらないことも、流石に分かった。
………しかし、その先は、クローデットにとっては未知の領域で…だからこそ、「任せ」てしまった。

(………本当に、卑怯な女)

嘆息して、目元を手で覆う。

クローデット > 拒絶するわけには、いかないと思った。
受け止めた結果不快な思いをしたならば、自らの「卑劣さ」の罰として、甘んじて受けて隠しきろうと思っていた。
………不快さは、なかった。
けれども、彼の情動に、熱に共鳴するような心の動きも、自らの中に感じ取ることが出来なかった。
服越しに、彼の身体にこもる熱を、わずかばかり受け取ったような感触があった。ただ、それだけだ。

クローデット > 悪意でもって彼を捉えていたあの頃、魔術に因らない形で、情動の種を植え付けた。
あの後、散々弄んで、悪意すらぶつけて…。
彼の情動が、悪意や憎悪、直接的な暴力と結びついていないのは、奇跡だと思う。

(………だからこそ…「加害者」でない方と、対等な関係を築いて…幸せになって頂きたいのですが………)

「恋は盲目」とは、よく言ったものだ。
クローデットは、目元を手で覆ったまま、もう一度溜息を吐いた。

クローデット > 「ストックホルム症候群」なんて言葉も持ち出して、離れるよう仕向けたつもりだったけれど…見事に、跳ね返されてしまった。
彼の気持ちを受け入れて、未来を見ることなど考えられもしないのに、拒絶する決断も出来ないでいる。

(…本当に、空虚なのは…何もないのは………「わたし」)

罪悪感と、虚しさを、長い…長い溜息に乗せて、吐き出して。
クローデットは、夕飯までの仮眠のつもりで、目を閉じた。

ご案内:「クローデットの私宅」からクローデットさんが去りました。