2017/08/29 のログ
クローデット > 「…あたくしの、嘗ての悪意を知った上でそう仰って頂けるのは恐縮ですけれど…
………嬉しくも思います」

自分への信頼を素直に言葉にしてしまう青年。それを受けて、クローデットは…ややらしくない、視線を落とした、はにかみ気味の微笑を見せた。

「…故郷ではもちろんですけれど…こちらにいらしてからも、性にまつわる営みについて、特に何かで触れることはなかったのでしょうか?」

「発散すること」について要領を得ない言葉を漏らす青年に、穏やかに笑んでそう尋ねる。
「男女の営み」と聞いても良かったのだが、それがあまり「洗練された」言い方でないことは、「参考文献」を読んだ青年には既知のところのはずだ。
………とりあえず、教育の必要性があるのは間違いない。後は程度問題だ。

「それでは…お言葉に甘えさせて頂きますわね」

青年の答えを聞いて、柔らかく笑むと…自分の分のペットボトルを持ったまま立ち上がり、サイドボードの傍に移動する。
サイドボードの上にペットボトルを置き…ガウンのボタンを外して脱ぐと、それもサイドボードの上に軽く畳んでおく。
靴を脱いで…ベッドの上を通って、再度青年の元へ。

薄手のネグリジェとはいえ、寝室でしかガウンを脱がないとはいえ。
流石に、下着が透けるような失態を、クローデットは犯さない。

ヴィルヘルム > 「故郷では勿論,避けなくちゃいけなかったし…この島でも,無意識に避けちゃってたからね。
 落第街に住んでると,そういう話は色々と聞くんだけれども……。」

実は,落第街に居ることが,状況をより複雑にさせていた。
そこでは愛を育むような性交渉よりもむしろ,金銭が絡むものや,暴力的なものが大半を占めるだろう。
逆に言えばそれを学ぶことが無かったのは,青年にとって幸運だったとも言えるかもしれない。

貴女の所作の一つ一つを,青年は静かに見つめていた。
ただガウンを脱ぐだけなのに,貴女は優雅で,とにかく綺麗だった。

「……ごめん,なんていうか,僕が何も知らないばっかりに…。」

薄い生地のネグリジェは,貴女の身体のラインをより鮮明に見せるだろう。
それは今の青年の情動を刺激するに十分だった。
ペットボトルの水を全部飲み干しても,そう簡単に鎮められるものではない。
空になったペットボトルをサイドテーブルに置けば,靴を脱いでそれを並べ…ベッドの縁に腰かけて,貴女の方に向き直る。

「……………。」

すぐ近くに居る貴女があまりに綺麗だったから,それを口に出そうかどうか迷って,僅かに口元が動いた。

クローデット > 「…落第街の「そういう話」で初めて触れて…その上で、それをそのまま飲み込むことをなさらなかった…。
………やはり、ヴィルヘルムはお強くていらっしゃいますわ」

「心の芯が」と言って、にっこりと、花のような笑みを青年に向ける。

「…知らないことは、これから学べば良いのです。…わたしで良ければ、お手伝いも致しますし」

こちらの方を向く青年の傍らで、正座を崩したような、女性らしいしなのある座り方をして、優しい微笑を向けた。…腰や脚のラインが、薄手の生地に浮かび上がっている。

「………何か?」

口が迷う動きをしている青年に、少し斜の視線を向けて…穏やかな笑みを、口元に作った。

ヴィルヘルム > 「…そう,なのかな?」

クローデットは時に,思いも寄らぬ言葉で自分を認めてくれる。
今もそうだった,何も知らないことを恥じていたはずが,
いつの間にか,これまで自分がそれらを避けて来たことが,正しいことだったと思えてくる。
それは,何とも言えず,心地良いものでもあった。

「……クローデット以外には,こんなこと話せないし,話そうとも思わないよ。」

わたしで良ければ,などと言う貴女に,青年は苦笑をうかべる。
それから青年は,恥ずかしそうにしながらも…

「…いや,その……とっても綺麗だな,って,思って…。」

貴女の身体を見た感想を素直に述べる。

クローデット > 「暴力による支配を、正しいものと決めつけてしまったら…
分かり合う努力が、全く出来なくなってしまいますでしょう?
そうなる可能性を………かつてのあたくしからすら、避けてみせたのですから」

「その点は、自信を持たれても良いかと」と言って、少しだけ悪戯っぽさを覗かせて、笑った。

「………性にまつわることは、基本的に内緒話ですものね。
いずれは、そういったこともある程度話せる人間関係を…わたし以外にも、築いて頂きたいと願いますけれど」

唇の前に、「ないしょ」のジェスチャーのように人差し指を立てながら、そう言って、伏し目がちに微笑んだ。
…しかし、青年の方が恥ずかしそうにすれば、クローデットはそれを正面から受け止めるように、顔を上げて。

「…ありがとうございます」

まっすぐにそう言って、花の綻ぶような笑みを向けた。
青年がその情動を、大まかな言葉に包み続けるならば…クローデットは恥じらうことなく、堂々と受け止めてしまうのだろう。

ヴィルヘルム > 青年は大切な人を守るためなら,暴力を振るうをことも厭わない。
だが,少なくとも貴女を支配しようなどと思ったことは無かったし,
貴女を手に入れるために暴力を使おうと思ったことも無い。
……その気質に肯定的な自信をもつには,まだ時間がかかりそうだが。

「表に出られたら…そういう相手が,できるのかな…。」

表に出ることを選択した青年は,そこに期待と不安の両方を抱えていた。
しかし一方で,貴女さえ居てくれればそれでいいとも,思ってしまう。

「…どういたしまして,っていうのも,何だか変だね。」

貴女があまりに堂々と受け止めてくれるものだから,青年は言葉を紡ぎやすかった。
青年はベッドの上に足を乗せて身体を貴女の方へ向け,貴女の綺麗な手のひらに,自分の手を重ねようとする。

発散とまでは行かなくとも,貴女の柔らかさを,その体温を感じたいという想いに動かされて。

クローデット > 「…真剣に向き合って下さる方は、多くないかもしれませんけれど…
だからこそ、そういう方とのお付き合いは、大事になさって下さいね」

伏し目がちに、優しく…穏やかに笑む。
自分が、どんな道を選ぶかは…正直、まだ決めかねている。
でも…だからこそ、目の前の青年には、正しく人を頼ることを、少しずつでも覚えていって欲しいと願っていた。

「…情動が分かりやすい言葉であれば、受容されたことへの感謝の言葉を返しても良いように思いますけれど…ヴィルヘルムの表現であれば、どちらでも良さそうですわね」

ふふふ、と楽しげに笑んで、自分の掌に重ねようと伸ばされた青年の手を、取る。
勉学、手仕事と手を使う作業に始終曝されているはずのクローデットの手は、信じられないほどつるりと、美しかった。
指は細く長めながら、女性らしい大きさと柔らかさを損なっていない、手全体の形。

「………もう一方の手を重ねましょうか?それとも…どこかに触れてみますか?」

花びらのように柔らかくも楽しげに笑む唇から発された、挑発ともとれる言葉。

ヴィルヘルム > 「…ありがとう…そうだね,大事に,しなくちゃ…!」

真剣に向き合ってくれる人。それは紛れもなく貴女だった。
もちろん表に出た後のことも含めてだが,まず大事にするべき相手は,目の前に居る。
貴女の思惑とは少しだけずれているかもしれないが,青年は確かに,他者に頼ることを,覚えつつあった。

「何だか難しいけれど…とにかく,なんだろう……ホントに綺麗だから,うん。」

やはりどういたしまして,と言うのは違う気がする。
ヴィルヘルムは綺麗な貴女を見ているだけで,何も貴女にしてあげているわけではないのだから。
代わりに何と言えばいいのかは分からなかったが,そんなことを考える余裕はなかっただろう。

「…ちょ,触れてみる…って………。」

貴女に手を取られただけでも鼓動が早まるのに,貴女の言葉はまるで挑発するかのよう。
そしてそれは悪意の籠った“罠”ではないと,そう信じられる。

「………いい,のかな…。」

青年は,恐る恐ると言った様子だったが,もう片方の手を伸ばした。
最初に貴女の髪をふわりと撫で,そのまま流れるように,肩を撫でる。
愛撫というにはささやかだが,指先の動きは優しく,青年らしい情動を抱えながらも,貴女を大切にしたい青年の想いが伝わるだろう。

クローデット > 「………ええ、分かって下されば、良いのですけれど………」

見知らぬ人と出会うことを、どちらかといえば恐れる性質を持つ青年の、やたら前向きな頷き。
何か、凄く想定外の受け取り方をされている気がするけれど、むやみに否定するのも違った気がして。
クローデットの笑みと声に、ちょっと困惑が混じった。

「ふふ…努力して磨くのは、まず誰よりも自分自身のためだったのですけれど…
こうして、信頼出来る方に讃えて頂くのも、気分が良いですわね?」

言葉を探しあぐねている青年に、華やかな微笑を向けてしまうクローデット。
その輝きは、自尊感情の低い青年を気圧してしまうかも知れないけれど…しかし、クローデットの口は確かに「信頼出来る方」という言葉を紡いだ。

クローデットが手を取ることで受容の姿勢を示すと、青年の手はまた熱を帯びる。
クローデットは、その初々しさに、自らを棚に上げて甘やかな微笑を唇から零した。

「…触れられるのに抵抗がある場所は、そのようにお伝え致しますので」

恐る恐る、クローデットの髪に…肩に伸ばされる、もう一方の手。
情動に浮かされて熱を持ちながらも、躊躇いがちに…優しく、クローデットを撫でる指先。

クローデットは、自らを撫でる青年の手にも…自分の空いた手を、そっと、添えるようにした。
情動に浮かされる青年の身体ほどの熱さはないけれど…確かな生命を感じられる、人肌の温度。
青い瞳が、優しく、青年の赤い瞳を見つめる。

ヴィルヘルム > 「……僕なんかを信頼してくれて,ありがとう…。」

青年は確かに,貴女の輝きに圧倒されていたし,陶酔していたかもしれない。
けれどその言葉は確かに届いていて…僕なんか,という言い方ではあったが,それを素直に喜んだ。

「………………。」

ネグリジェの薄い生地は,貴女の体温も,肌の柔らかさも,全てをそのまま伝えてくれる。
かつて廃屋で,貴女を抱きしめた時とはまた違い,獣の姿で分厚い皮膚越しに感じたのともまた違う。
ずっと想像の中でしか触れられなかった貴女は,想像していたよりもずっと,温かかった。

「クローデット…。」

貴女の瞳を見つめ返して小さくその名を呼ぶ。
肩を撫でた指先はそのまま貴女の腕を通り,背中へと回される。
胸や腰などの女性的な曲線を帯びた,デリケートな部分は,意図的に避けているようだ。

クローデット > 「………そのように、卑下なさらないで下さい。
ヴィルヘルムは、わたしよりもよほど…心の芯は、強くていらっしゃるんですから」

そう、優しいけれども穏やかで…理性を感じさせる声で、青年に告げる。
出身世界こそ違えど、だいたい同じ人間だからこそ、こうして身体で通じ合うこともあるのだと、上下はないのだと…そのうち、伝わるだろうか。伝えられるだろうか。

ネグリジェの下は…本当に、大事な部分を覆う下着類だけのようだった。
柔らかい肩、滑らかな背中の肌の感触が、ネグリジェ越しに青年の指先に伝わる。
…就寝時に胸の形を保つように設計された下着と地肌の境目に、青年は触れただろうか。

「………何でしょう、ヴィルヘルム」

熱の籠った瞳で自分の名を呼ぶ青年に、優しく…その上で甘さもある声で応えて。
クローデットは、軽く青年の方にその身を倒し…先ほどまで、自分を撫ぜる青年の手に添わせていた方の手を、青年の背中に回そうとした。

ヴィルヘルム > 「…分からないけど,クローデットがそう言ってくれるなら…。」

まだ青年は,貴女と自分を同等とは見れていないようだった。
けれど,確かに自信をつけているし,貴女の言葉は届いている。
少しずつ,少しずつ,青年は故郷で植え付けられたものを,乗り越えていくだろう。

「……ずるいよ,クローデットは…落ち着いてるのに……そんな風にされたら…。」

ずっと我慢していたのに,もう耐えられそうにない。
青年は,決して乱暴にではなく,貴女を受け止めるように腕を引き寄せ…もう片方の腕も,優しく抱きしめるように貴女の背中へと回した。
身体と身体が触れ合えば,青年の熱い体温と破裂しそうなほどの鼓動が,貴女にも伝わるだろう。

スリーパーを着ているから,肌と肌が触れ合う感触までは,味わえないだろうけれど。

クローデット > 優しく、青年の方に引かれる腕。
青年が両腕をクローデットの背に回したことで空いた手を…クローデットも、青年の背中に回す。
クローデットの柔らかい胸が、青年の薄い胸板に、軽くだが当てられる形になった。
青年の身体が帯びる熱は、以前抱きしめられた時よりも近く感じられて…クローデットの体温も、気持ち上がったようだった。
青年ほどではないにしろ…クローデットの鼓動も、少しだけ主張を強める。

「………ええ、ヴィルヘルムの気持ちの激しさを…本当の意味で、理解出来ているとは言えないと思います…なかなか、言葉にして下さいませんし」

青年の腕の中で、くすくすと笑いを零し…

「………ですが…この熱さに触れて、この熱がわたしの身体に移るように感じられるのが…
わたしにとっても、なかなか心地が良いんです」

そう、言葉を紡いだ。
ほう、と柔らかく、少しだけ熱を帯びたクローデットの吐息が、スリーパーの布地に覆われた青年の胸元に落とされる。

ヴィルヘルム > 貴女の体温が,鼓動が,感触が,全身から伝わってくる。
甘い香りに包まれて,青年の情動は満たされるどころか,激しく燃え上がろうとしていた。
これまで決して触れずにいた,貴女の柔らかい胸の感触を,スリーパーの布越しに感じる。
貴女の言葉が,まるでこの情動の全てを受け止めてくれるような言葉が響く。
……貴女の吐息を感じた時,青年は,貴女を強く抱き寄せた。

「…何て言ったらいいか,分からないんだ……ただ,クローデットの事が大好きで,クローデットの事を考えるだけで,幸せで,切なくて……。」

強く抱きしめた貴女の身体は,それでも柔らかくて…
貴女の髪の甘い香りがまるで全てを包み込んでいるかのように広がって…
貴女の柔らかい胸の感触が,どうしようもないくらい,感情を昂らせる。

「…駄目だよ……幸せで,幸せで,ずっとこうしていたいのに……!
 僕は…あぁ……っ…。」

青年は目に涙を浮かべていた。
…感情を抑えきれず下腹部を膨らませてしまっていることを,必至に隠そうとしていたのだ。
その身体を不自然によじって,貴女に触れないよう,気付かれないようにと。
知識の欠落している青年は,それを酷く下劣で醜悪なことなのだと,そう思っているようだった。

クローデット > 「………っ」

強く抱きしめられれば、その腕の中でクローデットは苦しげな息を吐き出す。
一方で、クローデットの身体もまた体温を高め、鼓動を早めていた。
………しかし、クローデットは青年の腕の中で、少しばかり身を強張らせている。
青年が一生懸命クローデットから「それ」を遠ざけようとしても…身体を寄せ合った状態では、クローデットの身体が「それ」に触れないことは不可能だったのだ。

クローデットは、「それ」を殊更慈しんでみせるようなことはしなかった。
けれど、「それ」に劣等感を覚える青年から、距離をとろうともしなかった。
…「それ」を下劣なものだと決めつける青年の思考、少なくともそれを助長した自分の過去の行いに、心当たりがあった。

「………本当に、あたくしは酷いことをしてしまいましたわね。
あなたの感情と…それに伴う身体の働きを、あなたに屈辱を味わわせる、手段にした…」

クローデットの控えめな語り口は優しかったが、甘さはなかった。
…クローデットは、青年の背から右手を離すと…涙ぐむ青年の目元に、ネグリジェの袖を運ぶ。その涙を、拭おうとするように。

「………その働きそのものに、善悪はないでしょう。
表で露にするものではありませんけれど…密室で…身体を寄せ合う二人の間のことならば…あとは、「扱い方」と、互いの意思の問題だけです」

クローデットは、青年の顔を、優しく見やった。

「…他者を極力傷つけない「扱い方」や作法には…多少、知識がございます。
ヴィルヘルムにとって、どのように向き合うのが最適かは分かりませんけれど…それを考えるお手伝いならば、少しは、出来ると思います」

それから、クローデットは青年の…短くなった髪を、優しく撫でた。

「ですから…そんな顔を、なさらないで下さい」

ヴィルヘルム > 故郷では無論,男としての生き方は禁忌であったから,それが下劣で醜悪なことなのだと学ばされた。
過去の貴女の行為や言葉は,それを助長したに過ぎなかったが…

「…そんなことないよ,僕が………」

…涙が浮かんでいる自覚は無かった。
だから,貴女が袖でそれを拭ってくれて初めて,自分が涙を浮かべていたと気付く。
貴女に気付かれれば,見られてしまえば,この幸せな時間が失われるとでも思ったのだろうか。
それとも抑えきれない情動が涙となって溢れたのだろうか。
何れにせよ,青年は貴方の言葉を聞く以外に,何もできなかった。
貴女の言葉を最後まで聞き…髪を撫でる手のひらの感触で,やっと,落ち着きを取り戻す。

「…扱い…方……?」

青年にとってそれは,あまりにも意外な言葉だったのだろう。
ひたすらに封印し,蓋をしてきた感情とその反応に,向き合うのは初めてだった。
それこそクローデットには,ずっと隠し通さなければとさえ思っていたのに…

「………嫌われるかと,思った。」

脱力した青年は,まるで貴女に甘えるように,貴女の胸にその頭を寄せた。
また涙が流れそうになるのをこらえつつ。

クローデット > 助長に過ぎないとは言えるかも知れないが、それでも助長「は」したのは間違いない。
クローデットは、自らの胸に過去の一片が突き刺さるのを押し隠して、優しく微笑んだ。
…今は、自己嫌悪で胸が一杯だろう彼を、救い上げるのが先だ。
クローデットが彼の髪を撫でてやっている間に、青年は落ち着きを取り戻しつつあって…

「ええ…その反応も、生き物としては意味があって起こるものですから。
「ヒト」として社会に生きるためには、扱う場所と…対象をきちんとコントロールする必要がございますけれど」

甘えるように、胸に頭を寄せる青年の頭を…抱きかかえるようにして、優しく撫でてやる。

「そうですわね…誰でも問題ない、とは言えませんけれど。
「信頼する方」で、「身体の熱を共有するのが心地良い方」のものですから…可能な限りは、向き合って、受け止めたいと思っておりますわ」

そうして、青年の髪を撫でながら…

「………ところで、わたし、先ほど自分用に出した水に口を付けていないんです。
少しぬるくなってしまっているかもしれませんけれど、冷やせますし…お気持ちを落ち着かせるのに、いかがですか?」

「そのままですと、色々と不便そうですから」と、優しく…かつ、いつも通りの調子で、尋ねた。

ヴィルヘルム > 抱きかかえられた貴方の腕から,柔らかい胸から,貴女の温もりが伝わってくる。
少しだけ早くなった貴女の鼓動が聞こえてくる。
青年にとって,貴女に嫌われてしまうことは,何よりも恐ろしいことだった。

「……うん………。」

貴女の言葉に,青年は静かに応える。けれど,顔を上げようとはしなかった。
きゅっ,と,青年の右手が貴女のネグリジェを掴む。

「クローデット………水……まない……と…………。」

…抱きかかえられて,撫でられて安心したのだろう。
先ほどまで泣き顔だった青年は,安らかな,幸せそうな表情で,目を閉じていた。

「………………。」

何か伝えたいのか口がもごもご動くが,聞き取ることはできない。
でもきっと,言いたいのは“ありがとう”か“ごめんね”のどちらかだろう。
そしてそれは,青年の安心しきった,幸福そうな表情を見る限り,前者であるかもしれない。

クローデット > 徐々に感情を落ち着けていく青年の声が、落ち着きを通り越してぼんやりとしていく。
そして…ネグリジェの裾を掴んでいまいち聞き取れない言葉を呟いたのを最後に、青年は完全に沈黙してしまった。

「………ヴィルヘルム………?」

青年の上半身を自分の身体から離して顔を見ると…先ほどまでの泣き顔はどこへやら、彼は幸せそうな寝息を立てていた。
安心と呆れに、良くも悪くも力の抜けた笑みがクローデットの口元に浮かぶ。

(最後に言おうとしたのは「クローデットも水飲まないと」あたりかしら?
元々ヴィルヘルムを落ち着かせるために提供したもののおまけであって、わたしには必要ありませんでしたのに)

自分のネグリジェを掴む青年の右手を慎重に離すと、優しく青年をベッドに横たわらせる。
水のペットボトルを、青年の頭の横に置いて…

「………お休みなさい、ヴィルヘルム」

青年の耳元で、優しくそう囁くと…クローデットも、その傍らで横になり、眠りについたのだった。

ご案内:「クローデットの私宅・寝室」からヴィルヘルムさんが去りました。
ご案内:「クローデットの私宅・寝室」からクローデットさんが去りました。