2017/09/24 のログ
■鈴ヶ森 綾 > 床で蠢いていた黒い塊も、その一片すら残らずに女の身体に融けるように消える
その場で何が起きたのか、それを知ることが出来るのはその場に佇む女だけとなった
「あぁ、それにしても…」
低く呟き、服越しに自らの下腹部へ触れる
たった今食事を終えたばかりだと言うのに、そこにあるべきものを感じない
満腹感、充足感、そういったものを
人一人丸ごと喰らって足りないというのは、普段の自分からすれば如何にも貪欲に過ぎる
身体の不調は未だに色濃く、栄養を欲するのは自然な事
この島に渡ってからは未だ寄る辺を持たない身であれば尚の事だ
だからこうして、少々乱暴な手段を使ってまで食事を済ませたというのに
「なんだというのかしら…あぁ、まったく煩わしい事」
苛立ちの気配が身体から色濃く放たれる
先程まで事に及んでいたビルの一室を出ると、ふらふらと通路を歩く
天井の明かりはついていない、緊急時の避難経路を示す僅かな緑の光だけが屋内を照らしている
■鈴ヶ森 綾 > 恐らく、満たされないのは肉体ではなく精神
それを鎮める方法は分かっているが、今すぐどうこうできるものではない
靴音を響かせ廊下を歩きながら、左手で嵌め込まれた分厚いガラスに触れる
傍目には静かに撫でただけのように見えたが、音を立てて窓ガラスにヒビが走る
「…ごめんなさいね、そんなつもりではなかったのよ」
喰らった男には決して聞かせる事の無かった詫びの言葉を窓ガラスへと向ける
それを聞くものがあれば、果たしてどんな顔をしたことか
そうこうする内、さして広くもないビルのエントランスから外へと抜け出る
裏通りは灯りも少なく、今日は月の光も分厚い雲に遮られ、ビルの中以上に暗く感じる
緩く持ち上げられた手が天へ向けられ、そこから一条の白い糸が放たれる
糸はたった今出てきた5階建てのビルの屋上の縁に触れ、次の瞬間に女の身体は糸に引き上げられて空中へ舞い上がった
数瞬後、ビルの屋上へ降り立った女は眼下に広がる薄闇に細い糸を撒いていく
その糸に人を絡め取る程の力はないが、触れるものがあればすぐにそれを察知する事はできるが、果たして…
■鈴ヶ森 綾 > 「……ふん」
不満そうに呟いて小さく手を振ると、そこに繋がれていた細い糸が全て断ち切られる
千切れた糸は風に吹かれどこかへ四散していく
30分も経たない内に跡形もなく消えてしまうだろう
見切りをつけた以上、ここに長居しても仕方がない
とんっと軽く跳躍して隣のビルの屋上へと飛び移り、そこから軽やかな動きで次々とビルからビルへと飛び移っていく
新たな獲物を探しに行ったのか、あるいは塒へと帰ってゆくのか、それは本人だけが知る所で
ご案内:「歓楽街と落第街、境にあるビル」から鈴ヶ森 綾さんが去りました。