2017/11/03 のログ
ご案内:「落第街の奥」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 不敵な裁定者とて無敵ではない。
丸い月の清かな光が差し込む廃墟の一室に、肩で息をするヨキが壁に靠れて座り込んでいた。

傾いだ上体から、血の臭いがする。
人の血液のようでいて、どことなく花の蜜に似て微かに甘い。
衣服の中では、ナイフに破られた脇腹が魔力によって再生しつつあった。

ヨキの自己再生は、ひどく非効率的だ。
過ぎた活性が腐敗を起こし、蕩けて、再び肉が生まれる。
完治するまで、それら一連の急激な代謝を繰り返すのだ。

「……………………、」

追っ手は撒いた。負傷が落ち着いたらすぐ、確実に仕留めなければならない。
手負いの獣めいた殺気と、神性まがいの魔力を撒き散らしながら、暗闇の中ひたすら息を潜めていた。

ヨキ > 不死の獣人だった頃に比べて、ヨキは格段に弱くなった。
膂力も、精確さも、速さも鈍った。人並みで、粗雑で、手間が掛かる。
常世島の害を滅するためのシステムは、その完全さをすっかり失っていた。

「……いな、」

くやしいな、と、小さく呟き、俯いて頭を乱暴に掻き毟った。

ヨキ > 実力が落ちた代わり、心は未だに堅牢だった。
死なないこと、五体満足で街へ帰ること、に関しては、以前より思いが強く増したと言っていい。

窓のないビルを、晩秋の夜風が吹き抜ける。
コンクリートと汚臭に包まれた街には不似合いな、甘い花の香りが空気に交じった。