2018/03/16 のログ
鈴ヶ森 綾 > 「ふふっ、何か悔いが残ったのなら、来年挽回すればいいんじゃないかしら?
 私ももう少し経験を積んでおくわ。」

来年、何の保証もない事だが、きっと来年も二人でこうしている気がした。
だからそう口にして、複雑そうに顔を白黒させる彼女の前髪に指で触れ、軽く左右に流して笑いかける。

「良かった。今度はもう少し手の混んだ物を作ってみようかしらね…。
 この時期だと…苺かしら。そうしたら、またこうして二人でお茶会ができるわ。」

相手に渡した包みから一つ、自分で焼いたクッキーを取り出して齧る。
サクッといい音を立ててクッキーが二つに割れ、砕けた粉が座卓にパラパラと散らばって落ちる。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「そうですね、来年、来年のバレンタインまでにちゃんと作れるように修行ですね。
 イチゴ、ケーキとかいろいろ作れそうですね。あ、私は作れないんですけど‥‥」

なら、一緒に作る練習しましょ?と笑顔で言う。
彼女がいつまでもここにいると信じて疑わないような顔だ。

「……あの、綾さん。
 前、公園で綾さんが言ったこと、覚えてます?
 ど、どこまで本気かはわからないんですけど、それで、その、残り…どうしましょう?」

彼女がクッキーを二つに割るのを見ながら、意を決したようにして話す。
が、次第に声が小さくなり、尻すぼみになっていく様は、なんともみっともない>

鈴ヶ森 綾 > 「そうね…最初はパウンドケーキ辺りが手頃かしら。
 二人でなら、食べるだけじゃなく作るのももっと楽しくなりそうね。」

この島にやってきたのは自分の本意ではなかった。だから去る時も、あるいはそうであるかもしれない。
だがその可能性を、今は忘れよう。彼女その笑顔は、自分にそう思わせるだけの魅力がある。

「公園で…あぁ、あの事。
 どうしようかしら…今日はとっても素敵な贈り物を貰えて、十分に満たされてはいるけど…。」

はぐらかすように曖昧な返事を返すと残ったクッキーを口に運び、それを咥えたまま小さく上下させる。
視線は彼女の顔にじっと注がれ、その反応を窺っていた。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「私、綾さんにどう思われてるのか気になるときがあって。
 嫌われてるってことは無いと思うんですけど、
 ちゃんと綾さんにとって居場所の一つになれてるのかなって」

はぐらかす様な言葉が返ってくると、少し俯いてしまう。
目を合わせられないというのが正しいだろうか。

「もし私にできることがあるなら、もし綾さんが私に望むことがあるなら、
 時々でも、それに応えるのも、良いのかなって。
 それで、あの時の綾さんの言葉がちょっと引っかかると言うか、そう言うことなのかなって」

ここ最近自身の中で渦巻いていた感情を吐露する。
いまいち言いたいことがまとまっていないが、
それが今、彼女に対して抱いている気持ちなのだ。>

鈴ヶ森 綾 > 「あぁ、ごめんなさい。悪戯が過ぎたわね。…そう、そんな風に思っていたの。」

返ってきた反応に少々面食らったようで、慌てて謝罪の言葉を口にする。
それから立ち上がって彼女の隣に座り直すと、その肩を抱いて自分の方に身体を寄りかからせるようにしようとして。

「貴方と一緒にいるとね、私はとても安らいだ気持ちになるわ。
 それは最初は貴方の能力のおかげだったけれど、最近は違うわ。
 こうして二人でお茶を飲んだり話をするだけで、何処かに置いてきてしまったものを取り戻したような気持ちになれるの…。」

言葉を選んでいるのか、暫しの沈黙と共に視線を彷徨わせる。
それから意を決したように改めて相手の方へ顔を向けた。

「…だから、ね。私は、貴方の事をとても大切に思っていて、貴方の事が好きで、
 貴方も、私のことをそんな風に思ってくれていたら嬉しいと…。
 そして…出来ることなら、もっと近づきたいと。」

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「……私、綾さんのこと全然わからなくて。
 知らないことが多くて、それなのに居場所になるなんて大それたこと言って、
 人としての綾さんではなくて、存在としての綾さんが、
 私をどう思っているのかが気になって……」

存在としての彼女。人間ではない存在というのは珍しくない。
自分もまたそうだ。しかし彼女はそれをひた隠しにしている。
そうする理由があるのだろう。
いつか教えてくれる日が来るだろうとわかっていても、やはり不安にはなるもので。

肩を抱かれ、そのまま身体を抱き寄せられるとそうされるがままに体重を預ける。
普段なら自分がそうやって落ち着かせる側だったが、今はすっかり逆だ。

「……えっと、私も好きです。
 綾さんともっと近づきたいです。もっと貴女を知りたい」

好き、という言葉が、はたしてどんな意味を持つのかは定かではない。
意を決したような彼女の言葉に少々混乱しつつも、
それに応えるように見つめる。逃げるように視線を逸らしたりは、しない>

鈴ヶ森 綾 > 「…そうよね。私、肝心な事は何にも貴方に話さなかったものね。
 でも、だからなのよ。
 貴方は私の事を何にも知らないのに、それでも私を助けようとしてくれた。
 だからきっと惹かれたの。」

遠い遠い昔にも、そんな事があったのかもしれない。
彼女の肩を抱いた手に少し力が篭もる。
少し首を曲げ頭をくっつけ合うようにして寄り添う。

「…そう…嬉しいわ。じゃあ、この前預けておいたものを、今貰っても良いかしら?」

見つめ合うこと数秒、緊張した面持ちを少し崩して目を細める。
それからゆっくりとした動作で顔を近づけ、互いの唇を触れ合わせようとする。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「半分は、私自身のためでしたけどね。
 それに、本当のことを知って、私が綾さんを突き放してしまうかもしれません。
 そんなことはしないつもりですけど、可能性として」

自身も、彼女も、そんな結末は望んでいない。
でも、何も知らないというのは、そういう不安を生む。
だからせめて、存在としての彼女がどう思っているのかだけでも知りたかった。

「ふふ、あの時上げるつもりだったのに、半月近く待たされちゃいましたね」

お互いの緊張した表情が、どちらからということなくほぐれていく。
そして差し出すように目を閉じれば、あとは彼女に奪われるだけの状態となって>

鈴ヶ森 綾 > 「そうなるかもと思うと、怖いわ…。今度は私の番だって、分かってはいるのだけど…。
 あぁ…ごめんなさい。もう少し、もう少しだけ心の準備をさせて…。」

彼女を疑っているわけではないが、容易に受け入れられるはずもない。
不安を相手にばかり押し付けてしまっていた事を詫びながら、強く手を握りしめた。

「…んっ……ちゅっ…。」

互いの顔の距離が限りなく近づき、唇が重なり合う。数秒間触れ合い、一度離れてからもう一度。
さらにもう一度。繰り返す度に触れ合う時間が伸び、三度目はさらに舌を相手の口内差し入れる動きが加わる。
唾液に塗れた舌が絡み、熱と柔らかさを互いに伝え合う。
肩に回していた手は何時の間にか居場所を移して相手の頬に添えられ、彼女の髪や耳に時折指が触れた。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「大丈夫、大丈夫です……きっと、私だって綾さんを突き放してしまうのが怖い。
 でも、大丈夫……ね?」

本当のことを話したら嫌われるかもしれない。
誰だってそんな感情を抱いたことがあるだろう。
彼女だって例外ではないはずだし、
彼女が抱えている秘密はきっと並みの人間が抱えるそれとは大きく違う。
言い聞かせるように大丈夫というが、その言葉は自身にも言い聞かせているものだ。

「ん…」

唇に触れる柔らかい感触。
一度離れるが、それだけではお互いに満足できず、再び唇が触れる。
そして彼女の舌が入ってくれば、それを受け入れ、啄むようにする。
お互いの舌が絡んで唾液を交換していくと、次第に息が苦しくなってきて、一度顔を離す。

「ふう……ねぇ綾さん、今日だけ特別に、触ってもいいですよ?」

彼女の指が頬や耳に触れるのを感じて、何を思ったのか、一瞬だけ魔術を使う。
そうして出てきた狐の耳や尻尾を差し出して見せる。
普段であれば絶対に触らせない場所、ある意味で彼女を信用しているからこそできること>

鈴ヶ森 綾 > 「んふっ…あら、普段はあんなに嫌がるのに…じゃあ、遠慮なく。」

身体を少し横にずらし、彼女の背後に回り込むような位置を取る。
それから彼女の首筋に顔を寄せると、口から漏れた息がそこを擽る。
間を置かずに今度は唇が直接そこに触れ、何度も繰り返しキスをする。

空いた右手は出現した狐耳に触れさせ、毛並みを撫でたり先端を軽く弾いたりと、
無遠慮にそこを弄り回していく。

「………私は、蜘蛛なの。この国の支配者がサムライだった時代から生き続けている、蜘蛛の妖怪。
 人を惑わして、弄んで殺すような、そういう生き物。
 この島に来てからだけでも7人、死んでいない者を含めたらその倍は食べたわ。」

そうして戯れていたはずが、不意に動きを止め、相手の背後で表情を見せぬまま語りだす。

「ほら、これを見て。」

そう言って彼女の眼前に持ってきたのは自身の変容した左手。
表面は光沢のある外皮に覆われ、黄と黒の毒々しい色合い、指の先には鋭い爪が備わり、
5本の指や関節は辛うじて人の手の形を留めているが、それがかえって異形っぷり強調させている。

「姿も、名前も、経歴も、何もかも作り物。何もかもが嘘の塊。それが私なの。」

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「で、でも、優しくしてくださいよ?
 今まで誰にだって触らせてないんですから……
 って、言ってるそばから……んっ」

彼女が背後に回ると、首筋に彼女の息がかかる。
ゾクゾクとした感覚が背筋を駆け上がるが、首筋にキスされるとビクビクと震え、
声を殺すように手で口をふさぐ。さらに狐の耳を弄ばれると、
まるで諦めたかのように身体を背後の彼女に預け、なされるがままになる。

「…………」

彼女の手が動きを止める。そしてゆっくりと語りだす彼女の話を、黙って聞き続けた。
そうして目の前に人の手ではない、異形のそれが姿を現す。
それが彼女の物であることは、振り向くまでもない事実だった。

「綾さん、きっと私が『私のことも食べるつもりだったのか?』って言うと思ってたりしますか?
 まぁ、そう言うことも思わなかったわけではないんですけど、
 大丈夫ですよ。あなたが例え、人の形をしていなくても、
 人を殺める存在だったとしても、私はあなたを抱きしめてあげます」

そう言って、彼女の左手に手を伸ばす。
そのまま少し強引に抱き寄せれば、その外皮に触れる。

「全部嘘だなんて、そんな嘘つかないでくださいよ。
 さっき私に言った言葉が嘘だなんて、言わせませんよ?」>

鈴ヶ森 綾 > 言い終えて、彼女が何か言うのをじっと待った。
動悸がする、喉が渇く。心がざわつき、告白の返事を待つ小娘の心境をそのまま味わっているようだ。
この様で500年生きた等と、笑い話もいいところだ。

「あぁ、そうね。嘘ではないわ……。…でも、これが一番大事な事。」

手と手が触れる。伝わってくる柔らかな感触に、言葉を継ぐのを忘れそうになる。
まだ最後の核心を伝えていない。ここまでで良いではないかと誘惑する心の声を振り切り、再度口を開く。

「私は、貴方が好きで、勿論貴方を食べる気もない。
 でもそれは貴方が特別だからで…他の人間に同じようには振る舞えない。
 それでも、傍にいてくれるの…?」

自分は決して、人を喰う事はやめられない。
彼女が傍にいてくれたとしても、それはきっと変わらない事なのだ。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「そうでないと、綾さんが存在できないなら、仕方がないです。
 人がほかの生き物を食べるのと同じく。ほかの種族を食らって生きるのは、
 生き物として当たり前のことです」

大変容が起こってから、食物連鎖の頂点に人間が君臨する時代は終わった。
私は人間じゃないし、彼女もまた人間ではない。
何を憂う必要があるのだろう。
果たしてこんな考え方を薄情だとか、酷薄だというのだろうか。

「私、軍隊に居た頃は聖母なんて言われてたんです。
 争いを避けて、心を穏やかにする異能を持って。
 いつの間にか聖母の機関銃と言われるようになりました。
 銃を運び、人を殺し、上の指示に従う。
 少数派である獣人の地位を保つために人の心を操って、人を殺す存在です。
 そんな私を、綾さんは受け入れてくれますか?」

彼女と違って、私はそんな状況から脱することが出来た。
しかし過去は事実として変わらない。
そしてそう言う状況から脱したにも関わらず、自身の性質は変わらなかった。
この島に来て、人を殺すことを経験してしまった。
しかもそれは上からの指示ではない。自分の意思だ。
彼女だけが、自身の性質を抱えて悩む必要が、どこにあるのだろうと>

鈴ヶ森 綾 > 「わた…いえ、良いわ。……ありがとう。」

他の生物を食らって生きるのは当たり前の事、それは間違いない。
だが果たして、その過程に悦びを見出す者は、当たり前の存在と言えるのだろうか。
それを問おうとして、止めた。
それが彼女への信頼に基づいたものなのか、全てを詳らかにする事を恐れた故なのかは、自分でも分からなかった。

ただ今は万感の思いを、呟きに変えて相手に伝える事を優先させた。

「えぇ…えぇ、勿論…。そんな事で、私がラウラを拒絶するわけがないわ。」

彼女が元軍人であるというのは今までにも何度か彼女自身の口から聞いていた。
故に、今あえてそれを口にした彼女の意図する所は容易に伝わった。

額を彼女の肩口に押し付けるようにもたれさせ、暫しそのままの体勢で時を過ごす。
左手もまた元の人間のそれへと変化し、張り詰めた空気が弛緩していく。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「ありがとう。私、綾さんのこと、好きですよ。
 なんとなく、綾さんがどんな存在なのか、わかってたんです。
 だから本心が気になった。本心を聞けて、うれしかった。
 だから、綾さんがどんな存在かは、あまり問題じゃなかったりして」

以前、彼女が妖怪だと聞かされ、
部屋では狭いと言って本来の姿をはぐらかされ、
この島にいてもその本性をひた隠しにしていると聞き、
何となく、彼女がどんな存在なのかは分かっていたのだ。
むしろ、軍隊に居た頃に相手にしたのは、そんな存在ばかりだった。
人間かどうかは問題じゃない。その心のあり方。
幸か不幸か、軍隊に居たおかげで彼女のような存在には慣れっこだった。

「今、言いかけたこと、無理に言わなくていいですよ。
 わかってます。大丈夫。ね?」

彼女を安心させるために、彼女の髪を触り、頭を撫でる。
今、彼女がどんな表情をしているのかは分からないが。
尻尾を彼女の腰に回し、いつの間にか人間のものに戻った左手を空いた手で握りしめる>

鈴ヶ森 綾 > 「そうだったのね…。
 そういう事なら、もっと早くに伝えておけば良かったかしらね…。」

そうと知っていれば、彼女との関係について思い悩んだ事の半分程度は必要の無い事だった。
だが、それが決して無駄な事だったとは思わないのであった。

「…んっ…ふ……」

目を閉じ、頭や髪に触れる手の感触に合わせるように心地よさそうに小さくを吐息を漏らす。
その後も暫くの間そうして過ごし、その日の夜は更けていった。

ご案内:「女子寮の一室」から鈴ヶ森 綾さんが去りました。
ご案内:「女子寮の一室」からラウラ・ニューリッキ・ユーティライネンさんが去りました。