2015/06/26 のログ
ご案内:「◆速度Free(違法描写注意)3」に秋尾 鬨堂さんが現れました。
■秋尾 鬨堂 > ――――時はまさにミッドナイト。
未開拓荒野、AM1:15。
エンジン音。そして、カーラジオから流れる深夜放送。
それ以外、人の作り出したオトは存在しない世界。
今日は、どこのモノとも知れない―おそらくは、この世界以外から転移してきた―崩壊したハイウェイ上。
《悪魔のL》は、人里の明かりから逃げるように。
■秋尾 鬨堂 > 《幽霊ライダー》に《朧車》。
こんな廃道路でも、走っているヤツはいる。
起伏に富み、時には寸断されている死にかけの道。
だがそのコンクリートは、アスファルトはまだ死んでいない。
タイヤ跡に炎を引いて、《朧車》が追いすがる。
《悪魔のL》は、追撃を右に左に躱す。
ハイウェイ上を、2台のマシンが常識外の速度で飛ぶように疾走る。
そう、公道上300km/hという狂気。
どちらが速いか、ただそれだけを求める真夜中のバトルは―ここでも!
ご案内:「◆速度Free(違法描写注意)3」にヘルベチカさんが現れました。
■ヘルベチカ > 人里の明りへと背を向ければ。
辿り着くのは、己のヘッドライトだけが照らし出す世界。
誰も足元を照らさない。己すらも。
照らし見えるのは只々。一歩、先。
次の瞬間にタイヤが噛み込む地面だけ。
《悪魔のL》。物静かな男。
その心の内を叫ぶように、唸る駆動音。
嗚呼。荒野に一人、悪魔はエンジン音で慟哭する。
その声に震えるように、《朧車》が僅か、タイヤを揺らした。
明日をも知れぬ道行の中。
一歩先だけを常に見定める世界。
そう。
今までは。
一歩先の道行きだけを、照らす筈だった。
けれど今。背から、悪魔の姿を暴き立てんと、照らすものがある。
強烈なヘッドライト。叩きつける。
悪魔からは見えぬ、《朧車》の背後付いた貌が、歯を剥いた。
後ろから迫る異様への、威圧だったかもしれない。
或いは。
駆け競う悪魔と妖怪の中へ混じろうとする、姿。
一台のBM。それは、3.0CSと、ここでは呼ばれるもの。
古いものだと、人は言うだろう。
時代遅れだという声が、聞こえてくる。
なるほど、確かに。その言葉は正しい。けれど。
今も、そこには夢があった。
捨てきれぬたった一つの。待ち焦がれる夢があった。
そうだ。
BM(bookmobile:移動図書館)3.0C(小さな子向け)S(書籍用)は、
その長方形の巨体をもって、2台へと追いすがる。
そして丁度、コーナーで開いた2台の間。
ストレートへの建て直しで、その空隙へ滑り込んだ。
■秋尾 鬨堂 > 『違う』エンジン音が来る!
妖怪が発する唸り声のようなそれとは異なる。
人の造り上げた、人の夢の結晶。
だが、《悪魔》のL型エンジンとはまた違う咆哮。
「ここで来るか…四角いの!」
とてもバトル向けとは言えない外観。
どこまでも愚直に四角い、こんなイリーガルな場所での高速度戦闘のためではなく。
誰かに、本を届けるために産まれたそのマシン!
だが、確かに存在している。
今、この場所に。
であるならば――おかしいことなど、何もない。
《朧車》がBMの鋭角すぎる突っ込みに耐え切れず、ラインを譲る。
ヤツは、そこで踏めなかった。
後方へ向いた巨顔が、歯を食いしばるがもう追いつけない。
たった1つのコーナーで、それは明確になってしまった。
立ち上がり、急加速していく2台に、降りる一台。
《朧車》失速――!
■ヘルベチカ > バックミラーの中。小さくなり消えてゆく《朧車》。
シルエットだけは似通ったBMは、ここは俺の居場所だというかのように、《悪魔のL》の横へつけた。
重いエンジン音。単黄色に染められた車体。
その側面へと、漆黒のペンキで書かれた文字。
決して上手とはいえない。恰も幼子が描いたよう。もしかすれば、本当に。
けれどその文字は、でかでかと、誇るように。
『いどうとしょかん:《白光》(ひかり)号』
智慧の光を子供へ齎す故か。
それとも、かつての日本、TOKYO区部最後の移動図書館車に倣ったか。
この場に似合わぬ希望の名は、2600書力の駆動力を持って地面を後方へ弾き飛ばす。
その運転席の中。少年の瞳は何も捉えていない。
ただ、走ることだけを。
速度を求めれば、空気を味方につけるしか無い。
けれど、その空気を刳り弾き飛ばすような四角の車体。
直線では、《悪魔のL》に優りきれず。
少しずつ、少しずつ両者の間に生じ始める距離。
けれど。だからこそ狙っている。この先、訪れる下り坂と、最後に待ち受ける、極端なカーブを。
BMの狩り場へ向けて。疾走する。
認めよう《悪魔のL》。今《ストレート》はお前が、強い。
■秋尾 鬨堂 > オールクリア。荒れた路面、とはいえ、他に走るクルマのないその状況。
目いっぱいに踏み込んでいける。
その状況、その速度において、《白光》に負ける道理はない。
「図書委員会――取り締まりというわけじゃあ、なさそうだネ」
シフトノブをゴク、と4速に入れる。
回転数を上げるエンジン、600馬力の駆動輪が路面を確実に掴みぐんぐんとノビていく加速!
この直線はどこまで続く?
湾岸地帯がメインのセッティング、たしかに直線は強い。
だが、走るたびに表情を変えるこの荒野をテリトリーとするBM。
このままで終わるはずはない。
「さあ…踏んでくる、か」
唐突な蛇行。
オーバー200km/hでの高速スラローム!
悪魔が踊る。
蛇行は巧妙に、しかし少しずつ地獄へと続くような下り坂へと変わっていく――!
■ヘルベチカ > ―――――「図書委員会」
学園都市に存在する図書館において図書館の運営、図書管理などを主に行う委員会。
魔導書や禁書の管理も行うため、やや危険を伴うこともある。
それが世界の定めたルール。
だからこそ、図書委員は”図書館”の中において、風紀委員にも公安委員にも縛られることはない。
"ここ"でだけは、俺達が強い。
今、少年は一つの図書館を"運営(FREE)"する。
高速スラローム。華麗に踊る《悪魔》。妖しい魅力。
それとは対照的な、《白光》のダンス。
力強く。悪魔を調伏するかの如く荒々しく。
ねじ伏せる力の源は。
そう。図書だ。
窓から見える、真四角の車体の中。
備え付けの書棚が、縦横無尽にスライドした。
重心が、自在に移り変わる。
必要なだけの重量が、必要なタイヤへと乗り、駆動力を地面に伝える。
残されるタイヤ跡。描かれる文字のような痕跡。
それは《白光》の残したサイン。見る者は誰も居ない。
下り坂、加速する中。その車は、少年は。
踏み込んだ。
《白光》は《悪魔》に僅か遅れて。
下り坂の最後、待ち受けるヘアピンカーブへ向けて。
じきに訪れるのは、MAX300の世界。
ブレーキは、踏まれない。
■秋尾 鬨堂 > バックミラーに映る。
異常なまでの機動性。
4WD?いや、それだけではこの動きの説明はつかない。
トラクションで曲がる。
地面に設置する力、その配分がハンドルだけでは間に合わない動きを実現する。
「それが―キミのオリジナル、というわけか、《白光》!!」
公道では通常ありえないチューニング。
移動式のウェイトを、慣性で制御し足りないトルクを無理やり重量で増加させる!
書棚をそのまま載せて走るため強化された車体で初めて実現できる、その発想。
モアパワー・モアトルクのため重量を削っていくチューンド・カーの発想とは対極。
「OK…L、あそこが、ヤツのフィールドだ」
下り坂の先へ。
もう、見えている。
直角度に限りなく近い、数多の傷が残る壁。
『荒野の断崖墓場』、そう呼ばれるに相応しいそのカーブ。
先に入る形になる。
外にふくらめばソクアウト。
待ち受けるのは地獄の壁!
リトラクタブルヘッドライトが、《悪魔のL》の瞼が。
今、瞳を開く。
■ヘルベチカ > 《悪魔》は叫び、《白光》は答えない。
走りだけが、《悪魔》へ伝える唯一の言葉であると、そう言うかのよう。
積載物を、確かに目的地まで届けるために。
その重量に耐え、地面を喰らい走るためだけに作り上げられた、フルチューンのモンスターマシン。
スラロームを抜けて。待っていたのは、望んでいた場所。
断崖墓場に眠る屍は、何時からか朧車や火車として、この場所を駆けるようになっていた。
一歩間違えれば。
先程迄競っていた妖怪と同じものに、なる。
《悪魔》が。《白光》が。《怪異》になるなど、笑い草だ。
だから。
叫び声。腹の底からの。お、から始まる連続音。
カーブの外側から。僅かステアを切った。
ステアで曲がらない。決め手に成るのは、ブレーキだ。
車が巻き込み始めた。しかし、速すぎる。
踏み込み過ぎ者の最後に待つもの。
死。
《白光》が。希望が。今、その黄色い車体が死へと向かって――――
BMの側面が勢い良く開いた。跳ね上げ式の扉。
子どもたちの前へと書棚を開帳するために用いられるもの。
同時、車体の内部から、けたたましい音で響き渡る警報ブザーの音。
顕になる書籍群。固定されて飛び出すことはない。
代わり。扉の抵抗が空気を、噛んだ。
ばばばばばばばば、と弾き飛ばされた空気があげる、悲鳴のような騒音。
代わり、殺される速度。車体がコーナーの最内側へその先端を触れさせるかのように、円を描く。
《悪魔》と《白光》が寄り添うように。
墓場へと、背を向ける―――!
顕になった書棚。《悪魔》へ表紙を向けた一冊の本。
"GURI"がにやりと、"GURA"がけらけら、笑った。
瞳を開いた《悪魔のL》から、そう、見えた。
■秋尾 鬨堂 > 計算しつくされた限界の速度で進入し、
扉によるエアブレーキで急減速、浮き上がり気味の車体を地に落とし、確実に曲がれるラインを「作り出す」。
見事なり《白光》、恐らくはこの道を、誰よりも速く一刻も速くゆくための徹底した走りこみの成果。
子どもたちに本を届けるための、練りに練られた車体改造の成果。
チューンド・カーの方向性は1つではない。
ただひたすらの最高速チューンも、コーナリングマシンも、そしていびつな進化の果てに荒野最速を手に入れたこの移動図書館も。
それぞれに思想があり、哲学がある。
では、悪魔は?
「あれもまた、魔物、か―でも」
奇策によりインコーナーをゆくBM。
完全に抜き去られ、コーナーへと―死の岸壁へと―ふくらんでいく悪魔を、見送り笑う書棚。
滑るテール。まだ、曲がりきれない。
ドリフトはいつまでも続くかのようで一瞬。
だが、まだ接地しない。
遠ざかる《白光》。迫る岸壁。
まだ。暗黒の沼の向こうに、
壁の向こう側からあやかしたちの手が伸びて。
もう、壁との距離よりも遠くなったその表紙を―
光が、照らす!
「ここからだヨ」
《悪魔のL》、そのL30A改ツインターボエンジンが、過剰吸気の果てに息を吹き返す!
ほぼスピンと同義の横滑り、曲がれないのであれば曲がらない。
そして爆発的な加速力を、迫る死との間でいつ訪れるかもわからない接地の瞬間に全て路面へと伝えスプリントする悪魔的なアクセルワーク。
だが、コーナーラインは三車線分を専有する《白光》に全て潰されている。
この状況で突っ込んでも、結局、立ち上がりでは間に合わない。
普通のクルマ、なら―
《白光》が開いた羽根の下。
低い車高のNS-L、そして、車いすでも乗り入れやすいよう搭載された機能、
車高調整サスにより内側に傾いた《白光》、ステップ部分がスロープとなるため下側の欠けたドア―
全てが合わさり、開いたギリギリの隙間。
その隙間を、《悪魔のL》が。
直線まっすぐ、目掛けて疾走る!!
ここが、湾岸線。
直線を作り出し、直線を制する超高速チューンド!!
《悪魔のL》―――――――――!!
■ヘルベチカ > BMの狩場の中。追い詰められた獲物が辿るのは、ただ二つの道。
一つは諦観。諦め、そして墓場から伸びる手と手を繋ぎ、平面の向こう側へと消え去る道。
そしてもう一つは蛮勇。無謀にも《白光》へ向けて食い付くように、駆ける道。
どちらを選べど、待ち受けるものはたった一つ。決まっている。
敗北だ。
そして《悪魔のL》が選んだのは、後者。
だから、BMは、笑ったように見えた。
開いた羽は、羽ばたくためだけの物ではない。
それは、獲物を屠るための刃ともなる。
己へと向けて、地面を疾駆する《悪魔のL》を。
今《白光》の翼が切り裂かんと、振り下ろされ―――!
明日をも知れぬ道行の中。
一歩先だけを常に見定める世界。
そう、ここが。
《悪魔のL》にとっての、湾岸線。
喰らいつかんとした扉は、《悪魔のL》の端を掠めて。
夜蒼の塗料を僅か削りとった。それだけだった。
ばつん、と音を立てて閉まる、BMの扉。
BMのコーナリングにミスはなかった。
だから、立ち上がりも十分に早く。
只人であれば、この立ち上がりには叶うまい。
食われるか、遅れるか。いずれにせよこのコーナーで、
BMを見送る羽目になる。
けれど。そう。
《悪魔のL》は、人ではない。
立ち上がりで負けた以上。
この後に続く直線で、BMが悪魔に勝つ術はなかった。
今、《悪魔のL》に《白光》は敗れて。
先ほどの《朧車》同様に、《悪魔のL》のバックミラーの中、取り残される。
此処に勝敗は決して。
そして少年は、ハンドルを握ったまま目を覚ました。
■秋尾 鬨堂 > その悪魔は。
狂おしく、身を捩るように―
走ると、いう。
「また…この世界で会えるサ。《白光》」
か細い勝機をオーバー300km/hで駆け抜けた悪魔が、明けの明星へと消えてゆく。
今日だけの夜。
今日しかない夜はもうすぐ終わる。
その絶技、エアブレーキ走法を目撃したものはあやかしの他には悪魔のみ。
この島の伝説は、夜を超えまた書き加えられる―――
ご案内:「◆速度Free(違法描写注意)3」から秋尾 鬨堂さんが去りました。
ご案内:「◆速度Free(違法描写注意)3」からヘルベチカさんが去りました。