2015/11/18 のログ
ご案内:「落第街の奥」にヨキさんが現れました。
ヨキ > (インターネット上のアングラ系サイトで公開されていた、婦女子をターゲットにしたスナッフ・フィルム。
 張本人の最後のひとりである二級学生の少年が、今朝死んだ。
 自身が撮影した映像を、完璧にトレースした暴力で撲殺されたのだ。

 実行者はもちろん――常世島の正義の味方、平和の体現者たる、善良なる教師ヨキである)

「……………………、」

(ヨキは静まり返ったアパートの一室で、CDがぎっしりと並ぶ棚を眺めていた。
 かつての持ち主だった少年は、もうこの世に居ない。
 少年はヨキの腹に収まって数刻が経過し、既に空虚なカロリーとなって消化されていた。
 聴く者もない腹の音が、きゅるる、と可愛らしく漏れる)

「……あ。このタイトル、まだ聴いておらんな……」

(ヨキが目を留めたそれは、数年前に流行した洋楽ロック・バンドのアルバムの一枚である。
 へえ、と感心したような声を漏らし、派手なジャケットの背を眺める。

 まさか強盗犯でもあるまいし、泥棒のような真似はしない。
 自分で始末した相手の所持品には、ヨキは決して手を付けなかった)

「覚えておこう」

(タイトルを反芻して踵を返し、玄関先でブーツを履く。
 異能で作られたガントレットに覆われた手が、指紋のひとつさえ残さず扉を閉める。

 建物を後にし、昼間の閑散とした路地に出る。
 指先を覆っていた金属が、まるで水の蒸発するように肌のうちへ吸い込まれて消える。
 晩秋の風に吹かれて、シトラス系のパルファンが清潔感のある香りを仄かに漂わせた)