2016/06/27 のログ
ご案内:「荒地」にパドマさんが現れました。
■パドマ > 迸る大威力の奔流を受けるたびに思い知らされる。
所詮己が機械であることを。
■パドマ > それが放った攻撃によって空気が攪拌される。たった一撃というのに、大地にひび割れが八方へと走り抜けていく。さながら戦車砲のように弾頭もとい岩柱が放たれるや、パドマの頭部目掛けて突進していった。
それを受け止めることなど不可能だ。パドマという固体に与えられた馬力をもってしても、受け止めるどころか受け流すことさえ不可能であろう。かすっただけで人ならば粉々にされている。
――ざり。
体の各所から青いプラズマ炎が噴出するや、黒衣に踊るような機動をさせた。かわしきれない。岩柱が女性姿の機械の右目があった地点を抉り取る。擬似的な生体組織で包まれた眼球が弾け、内側のレンズが砕ける。微細なコードと止め具が空中に踊りながらはみ出した。
「かはっ」
右目があった顔の右側が、岩柱によって完膚なきままにミンチにされていた。肌色の生体組織が剥げて銀色のフレームが覗いている。
飛び散った赤い血液らしきものが地面を汚す。赤い色は瞬く間に白に変貌していった。
がくんと頭が傾いだ次の瞬間には女の手に長大な対物ライフルが握られている。頭部が見据えるは遥か上方。銃口は敵に向けられていた。
敵は、人の形状をした機械人形であった。剥き出しのフレームと人ならざる頭部構造からは、人に成りすまそうというコンセプトさえ感じさせない。異能を行使するためだけに作られた戦闘機械であった。
発砲。まともな防備であれば即座に貫通せしめるであろう大威力はしかし機械人形が地面から引き寄せた岩の破片が織り成す盾に阻まれた。
がつんと足を踏ん張る女。ブーツで地面を踏みしめ、失われたはずの右目の空洞に赤い光を宿らせつつ、反動で仰け反っていた上体を起こす。
■パドマ > 刹那殺到するは石礫。岩の破片と侮るなかれ。音を優に超える速力で放たれるそれが宿す運動エネルギーは金属であろうとたやすくねじ伏せるだけの破壊性を秘めている。一度拡散し、再度凝縮する角度を取る殺意の篭った一撃であった。
「ॐ」
発音するは聖音であった。別の空間から武器を取り寄せるためのトリガー・コード。魔術でも無ければ異能でもない。科学力の粋を集めた末に建造された機械人形のプログラムが発する言葉に過ぎなかった。
収束銃身を持った重厚な機関銃が呼び出される。光と共に出現したそれを握ると、毎分数千発という間隔で弾丸を吐き出していく。およそ人には扱えぬ反動が生じるも、腕力によって押さえつけられていた。
もはや銃声と言うのも生易しい大音響が響き渡る。バン、という音が連なっている為か、ドラゴンの嘶きとでも称するべき絶叫が放たれた。
時折混じる曳光弾によってあたかもレーザー光線の照射のような連なりに見えたであろう。
岩という岩が弾列によって叩き落されていく。悉くを弾いたところで敵が動いた。
「―――!」
距離が零に等しくなっていた。下段から上方に炸裂する抜き手を辛うじて仰け反ることでかわす。
■パドマ > 敵に向かって収束銃身を突き出す。敵――アンドロイドは、それを身に纏わせた岩によって別の方角へと弾いていた。
収束銃身が弾丸を吐き出すも、内側に入られては意味が無い。
距離を取らんとバックステップを取るパドマの右腕へとアンドロイドの腕が伸びた。
腕をむんずと掴んだかと思えば、一気に捻る。動きは極めて単純であるが、車さえ拳の一撃で貫通するような怪力のアンドロイドが行えば、文字通り腕など小枝のように折られてしまうだろう。
幸いだったのがパドマが機械であり、人間の骨などとは比べ物にならない強度を有していたことであろう。フレームが歪み人工皮膚が裂けて内部構造を晒す。関節部から腕の先端までがあらぬ方角に捻じ曲がっていた。
パドマが左手をかざした。
「ॐ」
発音にすればオン。あるいはオーン。始まりを意味する言葉。
握られたのは二つの突起物を持った銃のようなものであった。収束する青い光にアンドロイドがはじめて恐怖のような感情を垣間見せた。
発砲。
強大な電磁力によって弾頭が加速されるや、銃身から空気を切り裂きつつ射出される。
アンドロイドの右腕が根元から吹き飛ぶ。ぶちりと音を上げてモーターを構成する配線が血管のように噴出し、パドマと同様の赤い人工血液を撒き散らす。赤かったそれは次第に白に変色していった。
距離を取ったアンドロイドへパドマの銃が速射された。青い輝きが続けざまに放たれ、しかし、あたらない。射線を読み岩を配置することで巧にかわされている。
パドマの銃の放熱板が開いた。
「しまっ………」
目前に、岩が迫っていた。
回避機動。強引に右に跳躍しようとして、回避先目掛け巨大な岩が迫っていることに気が付いた。もはや遅かった。右足目掛け巨大な岩がのしかかると、カーリングストーンよろしく荒地の表面を滑っていく。
■パドマ > 「………手加減してくれてもよかったのではないですか」
不満そうに女が言うとアンドロイドが首を振った。言葉は無かったが「手加減して良いことなどあるまい」と言わんばかりだった。
そう、これは所詮模擬訓練なのだ。異能者。あるいは魔術師との戦いに備えるための。あるいは組織に敵対するものとの。
パドマは己の足を見た。服は摩擦で千切れ、人工皮膚がフレームから剥離してべろりと垂れ下がっていた。癒着面からは半透明の肌色の人工組織から電子回路がぶら下がっている様が垣間見えている。
おまけに、フレームが潰れてしまっていた。内側の回路やパイプなどの構造物が亀裂から覗いていた。
アンドロイドが去っていく。戦いが終われば後は知らんと手を振りつつ。
パドマは立ち上がろうとした。半壊した足をつっかえ棒にして、よろめきつつ片足立ちした。
足の付け根からどっと赤い血液が流れ出していく。それは同様に白く変色していった。
「所詮私の強度はこの程度ですか……」
パドマは言うと頬にかかった白い人工血液を舐め取った。
動物病院で傷ついた動物に慈悲の笑みを浮かべているパドマなどいないかのように。
ご案内:「荒地」にメルル博士さんが現れました。
■メルル博士 > メルル博士を載せた可動式ラボは、新たな実験を行うため荒野へと歩み進んでいた。
不自然に木々が取り除かれた荒野にやってくると、可動式ラボが止まる。
そしてハッチが開き、メルル博士と数人の助手(アンドロイド&バイオロイド)が降りてくる。
そして博士は、パドマを目にする。
「あれは……アンドロイドですね」
博士達はパドマに歩み寄る。
「この荒野は次の実験に使われます。
あなたの試験は終わりました。いつまでこんな所にいるつもりですか?」
無感情に、半壊しているパドマにそんな事を問う。
■パドマ > 目の損傷時にセンサー群の一部に不調を来たしたらしい。
可動式ラボ――という名前の移動装置に乗ってやってきた一団を感知できなかったからだ。
白衣の人物が現れるとパドマは表情の無いフレームの剥き出しの顔を向けて相対する。
「さあ。ここがあなたの所有地であるならばともかく、
ここはあなたの所有地ではないでしょう? 私がいつまで居ようが勝手だと思いますけど」
無感情に言う。どこか棘のある物言いであった。
さて、この人物は悪だろうか。善だろうか。裁きに値するだろうか。
右足の根元から透明の液体が伝うと傷口に入り込んでいく。
「いつまでと言いましたね。
あなたにそれを質問する権限がありませんが?」
威嚇するように無事な左腕に小口径の銃が握られた。
■メルル博士 > 「ここは私の所有地ではありません。
ですが、この島の上層部にここを実験場所として使うよう申請し、既に許可は得ています。
つまり、あなたに対して『いつまで』と質問する権限がこちらにはあります。
あなたの試験は、既に終わったのですよ」
威嚇されて尚も無感情に説明する。
「それでもあなたは、ここに居続けますか?
実験が始まれば、あなたの無事は保障しかねますけどね。
これから行われる実験は、少々危険なのですよ」
銃が握られるのを確認すると、助手達は現在銃よりも遥かに発達しているレーザー銃を取り出して、一斉にパドマに向ける。
「あなたは所詮、機械です。
その機械が、人間に牙を向けますか?」
■パドマ > 「………」
白衣の無感情な言葉も女には届いていないように思われた。
悪か? 正義か? 粛清に値するか? 通常の思考と同時に別の思考が走り続けている。それは人が水を求めるが如く根源的なものである。
反撃。しかし、一斉射撃を潜り抜けられるだけの機動性も無ければ、攻撃に耐える防御性も「今は」持ち合わせてはいないのだ。よくて一体の頭を吹き飛ばす程度か。
敵対するならば、悪だ。
しかし悪はどうかはまだ判断がつかないが、敵意を向けられたならば攻撃するべきだろう。
機械特有の破綻していながらロジックとして間違ってはいない結論に達する。
女は握った小口径火器を相手の脳天に照準した。
「所詮機械に刺される人間と言うものも乙なものでしょうね」
「ॐ KA-L-KI」
女の総身を白い金属甲冑が包み込む。一対の翼が横に伸びた。
「喰らえ」
発砲。小口径弾が対象の額目掛け放たれる。
■メルル博士 > メルル博士には正義も悪もない。
ただ純粋に、異能の前進を求める狂気のマッドサイエンティスト。
食物連鎖のごとく、そこに善悪の概念など始めから存在していなかった。
ただし、善悪の基準が他の人の主観であるならば、いくらでも変わるだろう。
今はまだ、パドマが銃を手にしたのを見て、助手達が銃を構えた状態。
実際のところそこに敵意はなく、ただ警戒していただけである。
「機械が人間を刺すのに悦びを感じるのですか。
あなたには、それなりの『役割』を課せられている機械のようですね」
メルル博士に向けられた弾丸。
だが、その弾丸が博士の脳天を貫く事はなかった。
なぜなら、助手の一体が博士の身代りとなり、その脳天に弾丸がぶち込まれたからだ。
撃たれた助手の傷口から火花と電気が散る事で、助手の正体がアンドロイドだという事が分かるだろう。
「覚えておくといいですよ。
機械はこのように、基本的に人間に尽くすものです」
そのまま撃たれたアンドロイド助手は横たわった。
「あなたのプログラムを書き換える必要があるようですね。
それが新たな実験にも繋がるでしょう」
残りの助手は、パドマの傷ついた脚目掛けて一斉にレーザー銃を放つ。
■パドマ > 「私の役割を邪魔するならばお前は敵だ」
無事な側の瞳が赤く光った。
所詮はプログラムされた善悪の彼岸に過ぎない。仮に本人の意思があるとしても――模造されたものに過ぎないのだ。以下に高度な知性とて。
何のためらいも無く発砲できる。相手が悪であると信じる限りは。
放たれた弾丸はしかし敵を殺すことは出来なかった。なぜならば助手――アンドロイドが庇ったからだ。脳天を撃ち抜かれ倒れこむそれを見て、パドマは実行したのは左手に握った小口径拳銃を手放すということであった。
「ॐ」
新たに握るは先ほどの戦いで呼び出した電磁投射砲であった。それを照準し、
「ちっ」
損傷した脚部に殺到するレーザー光線を受けた。身を守る甲冑が辛うじて直撃を回避させたが、威力が内側へと浸透し、フレームが焼けて炎上する。
溶解した脚部を補うべく翼のスラスタが微かな光を抱いた。
「私は、役割(ロール)を実行する。プログラムを書き換える……できるならば、やってみなさい」
電磁投射砲、低威力速射モード。凍える声にてまずは助手の群れを吹き飛ばさんと、右から左へと弾列でなぎ払った。
反動でパドマの体が大きく仰け反った。片足が無いのだ、やむをえない。蹈鞴を踏んだがすぐにスラスタで踏みとどまった。
■メルル博士 > 「あなたが良き実験体となるなら、私はあなたを敵だとは思いませんけどね」
それはメルル博士にとっては都合の良い言葉以外の何者でもない。
「防衛機能ですか。そこまで強い信念を持って自身の役割を果たす、そうプログラムされているわけですね」
電磁投射砲は、助手の群れを薙ぎ払い、そして消し炭にしてしまう。
だがその光景を見ても、メルル博士は恐れたりはしなかった。
「素晴らしい兵器ですね。もはや称賛の声しか出ません。
ますます、あなたを解体して調べたくなってくるじゃありませんか」
無表情ながら、メルル博士はどこか愉快そうであった。
その時、可動式ラボの大きなハッチが開き、そこから巨大なメカサソリが現れる。
全長30メートルはあるだろう。鋼鉄で覆われたメカサソリは猛スピードでパドマに接近する。
「ご紹介します。これがこの天才メルル博士が開発して異能機獣です。
その名通り、異能が扱える上、元の生物としての行動も可能とした究極の兵器ですよ」
巨大メカサソリは、その大きなハサミを持ってしてパドマを捕まえようとする。
ただし、切断するわけではない、ただハサミで器用に掴むだけの行動である。
■パドマ > 電磁投射砲、急速冷却開始。次の発射まで……。
驚異的な威力を誇る電磁投射砲とて、冷却面に欠点を抱えている。継続射撃は不可能だ。空間に収納して次の武器をダウンロードする。
パルスライフル。瞬間的な高エネルギーで対象を焼き切る兵器。
パドマはパルスライフルを選択して後悔した。対象は全長30mはあろうかという巨大な敵だったのだ。パルスライフルでは豆鉄砲もいいところだ。
「解体されるのはあなたのほうと言っておきましょうか」
異能機獣。要するに巨大な鋼鉄製のサソリであった。
例えいくら巨大とて脚部は脆弱になるのが常だ。自重を支える脚部にかかる負荷は尋常ではないはず。パルスライフルを構えストックを肩口へ、銃身を手で包み反動を押さえ込みつつのフルオート射撃。
「小癪な。
究極の兵器? 笑わせないでください」
言葉とは裏腹に巨体を阻止できるはずもなく、ハサミが伸ばされる。辛うじてかわしたがパルスライフルを奪われる。
スラスタ全開。パドマが動作不良を起こしている右手を構え、サソリの顔面らしき部位目掛けて突撃する。自らの腕がひしゃげてもかまわんとばかりに、拳を叩きつけん。
■メルル博士 > 「解体を拒むとは、非協力的な実験体にも困ったものです」
やれやれと首を振る。
巨大鉄サソリは、パドマを捉えられなかったものの、パルスライフルを奪うのには成功する。
「はい。天才であるこのメルル博士が造ったのですから、究極の兵器足り得ます。
あなたもメルル博士にその身を委ねるならば、さらなる究極の兵器として生まれ変わらせる事もできます。
何せ、メルル博士は天才ですから」
サソリの顔面に接近するパドマ。
だがそれを黙って見ているサソリではなかった。
なんと、口から粘着いたジェル状の液体を吐きだしたのだ。
粘着力も高く、ジェル状の液体はパドマを捉えようとしていた。
「ただのでかいサソリだと思っては痛い目を見ますよ。
これは兵器ですから、いくらでも改造が可能なんですよ」
■パドマ > 武装を奪われること自体は苦痛でもなんでもない。またいくらでもダウンロードすることができるからだ。いくらでも実体化して使い潰せばいい。
相手の――自称博士と認識している相手の――言葉にも蔑むような微笑しか浮かんでこなかった。
「なるほど天才ですか。
天才にしては随分と古典的な手を使いますね」
挑発的な言動を取る。
が、叩き付けた拳が交通事故の車のフレームのようになっただけで、装甲をへこますこともできていなかった。根本的に馬力が違うのと、装甲が分厚すぎるだけらしい。
顔面目掛けたたきつけたのでセンサーを破壊することは出来ただろうが、反撃のジェル状物質を食らってしまっていた。驚異的な粘着力を誇るそれにスラスタを塞がれ身動きが取れない。暴れても取れそうに無かった。
「改造ですか……確かに強く硬く早い。
が、それだけのようですね」
パドマの身を守る装甲が剥がれる。
カルキ――終末に訪れるという騎士の名を冠するそれがあっさりと粉々に砕け散る。粘着質なジェルも同様に剥がれ落ちた。くるり一回転しつつサソリの頭頂に登ると、肩、腰、の一部が飛び出し機械部品を晒した。無事な瞳が怪しく輝いた。
「誘導開始」
衛星兵器クリタ・ユガ起動。常世の暗澹たる空を貫いて青い一筋の光線が斜め上空から降り注ぐ。対象は、サソリだった。
誘導用レーザー後の本命射出まで、残り……。
■メルル博士 > 「古典的と判断できるという事は、あなたの内部データにもこの手がインプットされており、予測出来たという事ですね」
挑発的な言動は、むしろメルル博士に分析材料を与えてしまう結果となった。
そもそもメルル博士に、怒りという感情すら欠落しているのだ。
パドマの装甲が剥がれれば、当然彼女自身は粘着質のジェルから解放される。
やはり生け捕りは相当難しいらしい。
そのままパドマは巨大サソリの頭頂に登る。
そんな時、空から青い光線がサソリを捉えていた。
同時に、メルル博士が所持していた端末から警報が鳴る。
「衛星に異常あり……ですか。つまりは、衛星兵器……ですね」
あの青い光は、誘導レーザーと見てまず間違いない。
「さすがに衛星兵器はいくらサソリが硬い装甲で覆われているとは言えまずいでしょうか」
鋼鉄のサソリは、パドマを頭に乗せたまま地面に潜ろうとしていた。
そのまま、地中深くまで避難するだろう。
地面そのものを装甲として扱うのだ。
「メルル博士も、避難しますか」
メルル博士は、一旦可動式ラボに退避する。
そして、可動式ラボから複数のアンテナが出現し、それ等はバリアを形成する。
これで、衛星兵器の対策は完了した。
■パドマ > 衛星兵器クリタ・ユガ最大の欠点は誘導とチャージに時間がかかりすぎることにある。まだ試作段階の兵器を無理に実戦投入しているのだ、当然のことである。
粘着質なジェルから逃れることはできたが、損傷した片足と片腕のままでサソリを倒すという苦行に晒されることになる。甲冑たるカルキ再起動に要する時間があれば、博士とやらにこちらを捕縛する時間を与えることは想像するに難しくなく。
衛星からの砲撃を察知されたか、サソリが大地を掘って逃れんとする。
「くっ………せめて、片手さえ無事ならばよかったのですが……」
歯を食いしばる。ひしゃげて今にも滑落しかけた腕と、溶けた脚部では戦えない。
パドマはサソリの頭から転げ落ちることで地面埋没を防ぐと、地面を這い蹲りつつも誘導を続けていた。
このままでは自分も被爆しかねない。大破しても「次のパドマ」に交代すればいいのだが、このパドマはここにしかいないのだ。
可動式ラボにバリアが形成された。クリタ・ユガ着弾に耐え切れるかは不明だが、このままではパドマが耐えられないのは当然だった。
這っていく。ひたすらに。そして、そのときがやってきた。
誘導レーザーを元に着弾点を決定。とある別の大陸から照射された高威力ビームが別の衛星の屈折装置を経由して、サソリが潜った地点目掛け降り注ぐ。
「黄金期の導きあれ」
次の瞬間、天から青い輝く柱が着弾した。
荒地の表面を吹き飛ばしつつ同心円状に被害を拡大していく。大地さえ掘り起こされ、岩と言う岩が砂に変化する。高温の余り大気中の塵が崩壊していった。大気が爆発し、四方八方に地面だったものすなわち溶岩を高速で撒き散らした。
青い光が止む。
着弾の余波で両足を失い体の半分の人工皮膚を失ったパドマが倒れている。相手方の被害は不明なままで。
■メルル博士 > 「誘導したのがあの子とは言え、このまま衛星兵器に潰されてしまうのはもったいないですね」
誘導するという事は何らかの対抗策があるのか、あるいは自滅覚悟か。
機械なのだから、後者も考え得る。
だが、危険な状況なのはメルル博士も同じ事。
地面に潜ったとは言え、サソリがレーザーに耐えられる保証はどこにもない。
やがて、天より光の柱が降り注ぐ。
着弾地点は、地中のサソリ。レーザーは、大地を爆発させ、地面を一瞬にして溶岩と化した。
そしてサソリは……地中で溶けてなくなり、完全に粉砕される。地中に潜るなど無駄な努力で、全く耐える事ができなかった。
被害はサソリだけではない。それだけの高威力を放つレーザーが、近くにある可動式ラボに全く影響がなかったなんて事はありえなかった。
バリアは破壊され、そしてラボの硬い装甲をも吹き飛ばして半壊させてしまう。
さすがに直接狙われたサソリよりかは被害を抑える事ができたものの、見るに悲惨な光景であった。
「……っ!!」
ラボ内の安全な場所に避難していたメルル博士は致命傷こそ防げたものの、額からは血を流していた。
緩慢な仕草で、メルル博士は再びラボから降りて血が出ている額を抑えながら破壊されたパドマに歩み寄る。
「なるほど……。メルル博士のような存在を滅ぼすのがあなたの役目という事ですか。
誰がそんな風にプログラムしたかは分かりませんが……あなたがこのまま機能停止してしまうのはあまりにもったいない事です」
まだなんとか起動しているラボ内のアンドロイドとバイオロイドがパドマに駆け付ける。
「ラボは半壊してしまいましたが、メルル博士は天才ですからあの状態のラボでも修理程度なら多分できるでしょう。
プログラムを弄るかどうかはひとまず今は置いておいて、脚も含めて元の状態には修理しておきましょうか」
その修理とは、パドマを全快の状態に戻すというだけで、プログラムを弄るとはまた無縁のものである。
修理出来るかどうかは例え天才であったとしても、もちろんやってみないと分からないわけだが。
プログラムの事は、パドマが復活してその意志を取り戻した時に考えればいい。
それは自身の命を再び危険に晒す事である。
だがそんな事はメルル博士にとって関係のない事。
それで純粋に科学の発展に繋がるなら、別にそれでいい。
その狂気こそ、マッドサイエンティストである。
助手達は、パドマを半壊しらラボに運ぼうとしていた。
「それに、この戦いでは良いデータも取れました。これは異能機獣を一体の損失に釣り合う成果と言えるでしょう」
■パドマ > 着弾の衝撃から逃れるために力場を展開したが――耐え切れるわけも無くオーバーロード。過剰な力が掛かり装置が破壊されていた。
唯一残っていた脚部は損壊。腕は使い物にならず、人工皮膚の大部分も炎上し使い物にならない始末。基本的に自分に向けて射撃できないようになっているが、地下を着弾点を地下深くと設定することで例外的な処理としたのだ。
サソリもろとも地面は融解。マグマの海と化していた。マグマの海に変えてしまう熱量を喰らってパドマはほとんど瀕死の状態であった。少なくとも戦える状態には無い。
サソリとラボ。前者は大破に追い込み、後者は半壊させた。ある意味で目的は達成できたと言えるが――。
「脚部……全壊。腕部……破損。視覚センサー……不調。通信システム……」
それでもなお、相手から逃れようと這い蹲る。必死に。足も無く腕もほとんどないダルマ状態に近いというのに。幸いなことに顔だけはほとんど無事であった。片目を除き。
「逃亡………あなたの修理など……うけつけ……うけつけ……」
機能が落ちる。這い蹲った姿勢で固まった。
修理できたかどうかは二人のみぞ知るが、修復したら間違いなくメルルのことを殺しにかかるであろう。サソリとラボの犠牲を必要経費か何かのように言ってのけるメルルの声を最後に、パドマの管制人格はオフラインになった。
あとは助手達が大破したパドマを運び込んでいくだけだった。
■メルル博士 > 修理には成功するだろう。
修復し終えたパドマがもしメルル博士に襲い掛かったとすれば、緊急脱出装置でとりあえず命辛々逃げのびようとはする。
そうなれば、取り残されたラボはさらに全壊する自体はまのがれないが……。
また可動式ラボを造らなければならない……。
ご案内:「荒地」からパドマさんが去りました。
ご案内:「荒地」からメルル博士さんが去りました。