2016/07/06 のログ
ご案内:「荒野の奥」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 荒野に忽然と姿を現す魔物を襲って回り、どれほど経ったとも知れない。
およそ地球上の生物とは似ても似つかない肉を、頭から齧り、喉を裂き、腹を破った。

すべては人里へ脅威を寄せ付けないための大義があった。
だが単に《門》を潜って迷い込んだに過ぎない生物たちを次から次へと食い散らかし、
口の端から肉片や血を滴らせる顔はどう見ても悪しき魔物だった。

街から離れて星々が色濃く浮かぶ空の下、湖面に映った顔をじっと見下ろす姿がある。

(おとなしく食べ切ることも侭ならんのか)

その生き物の肉は、甘い蜜のような香気が漂い美味だった。
なのに舌に載せた途端、激しい拒絶感を催して吐き零したのだ。

(………………、)

やおら身を屈め、頭を水中にどぷん、と突っ込んだ。

ヨキ > 頭を漱いで、勢いよく引き上げる。
滴る水が湖面に墜ちると同時、呪われた傷に血を噴き零していた頬の肉がべろりと剥がれた。

(おっと)

肉の下から、漆黒の頭骨が露わになる。

見れば湖の上に剥がれ落ちた肉がプカプカと浮いていて、
流れ出した血液がまるで廃油のように水を汚していた。

(いかん。いくら何でも、このヨキが島の自然を汚すなどとは、……)

人間のように前肢を伸ば――そうとして、重い身体がずしりと地に伏した。

(…………。
 ……いかんな。ろくすっぽ動けもせんとは)

暴食のさなかに、ろくでもない肉が交じっていたか、
あるいは空腹で動き回るのに犬の身体が重すぎるのか。

小さく息を切らした背が、緩やかに上下していた。

ヨキ > しんとした湖面を眺めていると、水中から得体の知れない魚のシルエットがぬっと現れて、
浮かんでいた自分の肉片をばしゃりと掻っ攫って潜ってゆくのが見えた。

(……よもやヨキの肉を食って、変に手足が生えたりせんだろうな)

人を食ったことは数えきれないが、自分が他の生き物に食われたことはない。
まさか呪いの傷が、生態系を狂わすことまではなかろう――たぶん。

平和な家のリビングで遊び疲れてぐったりする飼い犬のように、
黒い巨躯の猟犬がほとりに長く伸びていた。