2016/07/17 のログ
ご案内:「マリアの私宅」にクローデットさんが現れました。
ご案内:「マリアの私宅」にマリアさんが現れました。
クローデット > 「失礼致します」

淑やかな女性の声…この部屋の住人のものではないそれが、空間に入ってくる。
「個人的な話があるので、またそちらの部屋を尋ねたい」と、頼んだのだ。

「つまらないものではございますけれど…お茶や焼き菓子も持って参りましたの。
「ゆっくり」、お話し致しましょう?」

相手に、「ゆっくり」していられない事情があるのを…もうすぐ「仕事」の開始時間だというのを知りながらも、それをおくびにも出さず、艶と品を兼ね備えた微笑を浮かべた。

マリア > 扉を開いた【少女】は困惑した表情を浮かべていた。
相手の意図こそ分からなかったが,まるで狙ったかのようなタイミング。

「歓迎いたしますわ…と,言いたいところなんですけれど。
 私,そろそろ仕事に出る時間でして…。」

申し訳なさそうにしながらも,門前払いは失礼だと思ったか,
クローデットを部屋の中へと招き入れる。

あまり長い時間はお話しできませんけど,それでもよろしければ。と頭を下げた。

クローデット > 「あら、そうでしたの…お忙しいところ、ありがとうございます。
お茶とお菓子を楽しむ時間はなさそうですけれど、せめて受け取って…あら」

ポシェットから、茶葉を少量入れた袋と、クッキーの入った袋を取り出すと…その拍子に、ガラス玉のようなものが二つ、ポシェットから零れ落ちる。
それは、床に落ちてコト、という音を立てたかと思うと、何もなかったかのように消えた。

…それは、物理攻撃や異能による攻撃、干渉を内側に封じ込めるための結界発動魔具。
このアパートの一室の内側がまるまる、物理的、異能的には外界から魔術で遮断された格好になったのを、この「少女」は感づくだろうか。

「…あたくしとしたことが、失礼致しました。
攻撃性のものではないので、すぐに問題になることはないかと存じますけれど」

少し、失敗を恥じるような、はにかんだ微笑を見せる。
………無論、芝居だ。
それから、気を取り直した「かのように」表情を少し締めて、いつも通りの微笑を顔に湛える。

「………では、シュピリシルド様のお時間もあまりないとのことですし、早速本題に移らせて頂きましょう。

…シュピリシルド様は、あたくし達が初めてお会いした時のこと、覚えていらっしゃいますか?」

取り出した茶葉やクッキーの袋をテーブルの上に置きながら、そう、尋ねた。
その声音は、どこまでも品良く柔らかく…どこか甘さを秘めている。

マリア > この少女は高度な戦闘訓練を受けたわけではない。
だが,“魔女”として活動する上である程度の場数を踏み,感覚を研ぎ澄ましてきた。

「………………。」

クローデットの言葉と,そして無作為を装っての行動。
【彼女】の目はそれを見逃すことはできず,その表情を僅かに曇らせた。
本能的に,危険を感じているのだろう。
椅子を引いてクローデットに座るよう促しつつ、自分はテーブルを挟んで,出口の側へと腰を下ろす。

「……えぇ,覚えていますわ。
 あの時は今とは逆に,お仕事が終わった時間でしたけれど。」

それが何か?と,首をかしげる。
並べられた紅茶やクッキーに視線が向かないのは,貴女を警戒してのことだろう。

クローデット > 「ありがとうございます」

「少女」の「気配り」に、いつも通りの笑みを湛えてそう答え、勧められるまま椅子に座る。
まるで、何事もないかのように。

「そう…あなたはお仕事を終えて「勤務先」から出ていらしたところでした」

そこまで告げてから、改めてマリアを真正面から見据え…それから、左の二の腕につけた、公安委員会の腕章を指で示した。

「その時のあたくしも、これをつけていたのですけれど…覚えて、いらっしゃるかしら?」

「その意味が分かるか」と言わんばかりの行動だが、クローデット本人は涼しい笑みを浮かべていた。

マリア > クローデットの言葉とその笑みに,マリアは全てを理解したようだった。
その表情には一瞬だけ驚愕の色が浮かび,次に浮かんだのは落胆。

「………覚えていますわ。
 けれど貴女方,いつも素通りしてしまいますから。」

地下に隠された小規模かつ重要度の高くない密売店。
あの場所で,そんな小さな犯罪を取り締まる優先度は高くないのかも知れない。
だからこそマリアの職場は平和だったのであり,
マリアは“用心棒”という肩書と,可愛がられる看板娘の顔をもって平穏に生活していた。

自分を必要としてくれる場所が,確かにそこにあった。

「……お仕事に遅れてしまいますわ。
 クローデット様,わざわざこんな場所まで来て下さったのは嬉しいのですけれど,お話はまた後日にいたしましょう?」

クローデット > 「ええ…「あの時あたくしの前にあなたが現れなければ」、きっとまた素通りしていたでしょうね。
ああいった店舗の手入れは、主に風紀委員会の仕事ですもの」

そう頷くクローデットの口元の笑みが、やや不穏さすら感じさせて深くなる。

「………しかし、取れる「点」を見逃すほどには、委員会は甘くありませんの。

「マリア・フォン・シュピリシルドの名を捨てたくなければ」、もう少し、お話を続けませんこと?」

「手持ち無沙汰でしたら、クッキーをどうぞ」などと、この場にそぐわない言葉を付け加え…不穏な将来を示唆しながら、クローデットはまだ椅子から立ち上がる様子を見せない。

マリア > 「せっかくですし,いただきますわ。」そう言って受け取ったマリアは笑みを浮かべていた。

けれど内心には日常が破壊されることへの不安と,クローデットが訪ねてきた理由への落胆と,
そして,全てを引き起こした自分とクローデット双方への憎悪が入り混じる。

「………お話を続けて,どうなりますの?」

クローデットの言葉から,その目的が足止めだろうということは想像できた。
ならば,一刻も早く店へ行かなくてはならない。
だが,【少女】はクローデットに背を向けて駆け出す蛮勇を持ち合わせてはいなかった。

貴女を真っ直ぐに見つめたまま。

クローデット > 「あたくしのハウスキーパーに焼いて頂いたものです。あたくしも好んで頂いておりますわ」

クッキーを受け取るマリアを、花のほころぶような微笑で見守るクローデット。
しかし、実際にやっていることは、「脛に傷ある学生の足止め」である。

「この島の治安を司る委員会は、違反学生の「再教育」も職務のうちですの。
ここであたくしを「お話」を続けていれば、委員会と表立って対立することもなく…したがって、あなたの「再教育」が軽度で済みますわ。
学生生活と「再教育」の同時進行も、十分に可能でしょう。

…今「勤務先」に向かえば、それがどうなるか。
シュピリシルド様は、それが全く分からないようなお方でもないでしょう?」

瞳に渦巻く情緒から、相手に察しがついているだろうことを察して。
(正直、最初の無警戒さからすれば、予想外の理解度である)
そう言って、にこやかに微笑んだ。

マリア > いたいけな少女マリアとしての顔は形を潜め,恐れられた魔女が顔を出す。
自分を必要としてくれる場所,居心地のいい場所。
それを守るためならどんなことだってする。
それはどこまでも純粋な【少女】の思いが作りだした怪物なのかもしれない。

「……ルナン様には,私の気持ちがお分かりになって?
 貴女にとってはそれが仕事なんでしょうけれど,
 私にとっては仕事なんて簡単なものではありませんわ。」

マリアは静かに立ち上がった。
表情には様々な感情が入り混じったが,最後に表出したのは,悲しみ。

「……それに貴女,お友達として,訪ねて来てくれたわけではないのですね。
 これがお友達の忠告なら聞けたのかもしれないですけど…残念ですわ。」

クローデット > マリアがいたいけな「少女」としての表情を引っ込めれば…いよいよ、クローデットの表情の不穏さも増して。
…それでも、「職務」からの逸脱を見せないように、顔の下半分を羽根扇子で隠すあたり一線を引く努力はしている様子である。

「そうですね、分かりかねますわ。
善悪関係なく自らを売り、自らを偽り続ける愚か者のことなど」

「自らを偽り続ける」という言葉はさらっと言ったが…目の前の「少女」に思うところはあるだろうか。

「…そうですわね、「お友達」としての忠告ではありませんけれど…
あなたが暴れることで双方に被害が出たりすれば、あなたの「雇い主」達の「再教育」も重くなりましょうね。
…いえ、「委員会」も「手加減」が出来なくなるかも…

………「委員会」や「マリア・フォン・シュピリシルド」だけではなく…あなたの「雇い主」の皆様にとっても、より不幸な事態となるのではないかしら?」

暴力が行使される事態は深刻にならないに越したことはない、というのは一般論としてはその通りだが。
気遣わしげに伏し目がちにしているが、羽根扇子の下の口元には、どこか禍々しさを感じさせる深い笑みが刻まれている。

マリア > 「分かっていただけなくて残念ですわ。
 仕方ありませんわね,お互い,生まれも育ちも,違うのですから。」

【少女】が求めた友達でないのなら,“魔女”にとって眼前の相手はもはや敵なのだ。
クローデットの忠告には,やはり聞く耳を持たない。
言葉の含みには気付いているのだろうが,確信があるわけではない上に,
今はそれ以上に,店の事が気がかりだ。

「いいえ……私は暴れたりしませんわ。
 ただ,私を必要としてくれた人たちを守りたいだけですの。」

「委員会の皆さまにも,関係の無い通行人にも,一切の危害を加えないとお約束しますわ。
 だから,私を行かせて下さらない?
 私,魔術は苦手ですの。こじ開けて扉を壊したら,弁償しなくてはなりませんし。」

クローデット > 「ええ、生まれも育ちも同じ人間など、存在しようがございませんわね。
…ですが、この島にはこの島の「秩序」がございますの」
(いずれ崩壊するだろうことが想像に難くない、二面性の深過ぎる「秩序」ですが)

心の中の思惑は表に出さず、厳然とした調子で言い放ち…羽根扇子を閉じる。
そこにあったのは、冷厳な「淑女」の表情。

「あの程度の店ならば、よほど激しく抵抗しなければ「再教育」で「やり直し」は十分可能でしょう。「再教育」の際の態度によっては、「表」の居場所すら与えられうるかもしれません。

もう一度申し上げますわ、「マリア・フォン・シュピリシルドの名を捨てたくなければ」残りなさい。
…「マリア・フォン・シュピリシルド」という名の、「女子学生」でありたいならば」

言葉の調子を、少しだけ強めて立ち上がった。
それから、「少女」の方にゆっくり歩を進めていく。

マリア > 正論だった。
希望的観測に過ぎないかもしれないが,クローデットの言う通り,
自分が戻らなければあの店の皆は,抵抗する力など持っていないだろう。

「…………………。」

一歩,後ずさる。
正論を受け入れてしまえば,自分はもうあの場所へは戻れない。
裏切り者の用心棒になど,誰も見向きもしないだろう。

【少女】は貴女の瞳を真っ直ぐに見た。
そしてその言葉を,静かに聞いた。

「………………。」

最初に見た時から,全てを見透かされているような,不安が掻き立てられた。
背中が,入口の扉に触れ,逃げ場が失われる。

「………。」

【少女】は応えることもできなかった。
ただ,真っ直ぐに貴方の瞳を見つめる……その瞳には憎悪よりも,不安が色濃く映るだろう。

クローデット > 実際のところ、「用心棒」をこちらで釘付けにする関係上あまり強力な戦闘系メンバーは現場に向かっていない。
「少女」が正論を受け入れる余地を残していたことには、内心安堵していた。

「受け入れて頂けてよかったですわ…「皆のためにも」」

品のある笑みを浮かべて、マリアの顔の横の髪に手を伸ばす。
袖口から、ふわりと甘ったるい花の香りがこぼれた。
催淫作用のある精油を含んだ香水である。…もっとも、その気がなければ効果はないが。

「………いかがです?」

「少女」の耳元に顔を寄せ、そう囁く。

マリア > 受け入れるなどとは一言も言っていない。
だが,貴女の言葉と表情は【少女】に反論を許さなかった。

「……………。」

手を伸ばされれば,思わず目を閉じる。
マリアの髪はよく手入れされており,貴女の指にふわりと絡むだろう。

目を閉じたままのマリア。
息遣いさえ聞こえそうな耳元からの貴女の声と,そして甘い香水の香り。
僅かに耳が紅く染まったことに,貴女は気づくだろうか。

「………良い香りだと思いますわ。
 くらくらするくらいに,香りの強いお花ですのね。」

目を閉じたままに,答える。

クローデット > よく手入れされた、柔らかい髪。
どう見ても「少女」にしか見えない人物ではあるが…
ただでさえ色の白い肌だ、わずかとはいえ、耳の紅潮はクローデットにはよく見て取れた。
つまり、この「少女」の逃げ場はますます奪われていく。

「ええ…「夜の帳によく合う香りだ」と、思われませんか?」

相変わらず、耳元で、囁くように尋ねる。
その口には、品位を保ちながらも深く艶のある笑み。

マリア > 恐る恐る,ゆっくりと瞳を開いた。
紅色に変わった耳先が,自分でも熱を持っていると分かる。

扉に背をぴったりと付けたまま,視線は泳いで…

「……そうですわね。
 貴女なら,もう少し……その,落ち着いた香りの香水を,付けているかと思いましたわ。」

…濃くなってゆくその香りに包まれながら,
【少女】はどこか怯えたような,不安げな瞳で,貴女を見た。
貴女の瞳を,髪を,そして妖しげに笑んだ,唇を。

クローデット > 「女なら、「状況に合わせて」装いを変えるものですわ。
…目に見えるものも、見えないものも」

耳元から少しだけ顔を離して、「少女」の泳ぐ視線の動きを軽く目で追いながら、笑みかける。
…結果として、マリアが不安げな瞳でクローデットの方を向き直すとき、まっすぐ目が合う形になるだろう。

「…シュピリシルド様、確か、18歳でしたわね。
「自分で責任が取れるならば」扱えるお年でしょうし…「分けて差し上げましょうか」?」

そう言って、くすりと笑みかける。
まだ、断言はしてやらない。ぼろは、本人から出させなければ。

マリア > 真っ直ぐに目があえば,マリアはごくりと生唾を飲んだ。
振り払って下がろうにも,扉は固く閉じられている。

クローデットは友達としてここに来たのではないだろう。
けれど,それだけなら,こんなむせかえるほど甘ったるい香水をつけてくるだろうか。
“この状況はクローデットにとってどんな状況なのか”マリアにはもう分からなくなっていた。

「そんな,私は……そんなはしたないこと………!」

言葉では否定する。
だが,一度感じてしまったものは,見ないように意識すればするほど鮮明に見えてくる。
甘い香水の香りは暴力的なほどに濃く,クローデットの笑みとその言葉は…理性を失いそうなほど淫靡に映った。

「………………ッ……。」

……そして理性だけでは,欲求を抑え込むことはできなかったのだ。

いつしか【少女】は無様にも股間を膨らませていた。
右腕で必死に隠そうとするが,無様な己の嘘を際立たせるのみ。

真実を語る勇気もない哀れな【少女】は,泣きそうになりながらも,
それを隠そうとする無駄な努力を繰り返すことしかできなかった。

クローデット > 「あら、はしたないだなんて失礼な。全ては程度の問題ですのよ?
実際、あたくしが手首を近づけなければ…あなた、香りに気付きもしなかったでしょう?
…それに、」

「少女」の…いや、それを装う目の前の人物の理性の、確かな敗北を見て、艶のある笑みを深める。
…それでも、「通常状態であれば」、品位を失っているようには到底見えない笑顔のはずだった。
そして、クローデットは目の前の人物の耳元に、再び顔を寄せ…

「その気がなければ、何の効果もない程度の芳香成分に…あなた、随分「反応」致しましたわね?」

その声は優しげだが、その言葉の内容は、まさに死刑宣告。
その優しげな声に甘さを混ぜながら…更に続ける。

「…ご安心下さい、「あなたの覚悟が決まるまで」、あなたの「嘘」は、あたくしが守って差し上げますわ。

………あなたが自分を偽るのをやめる際には、一緒にお説教を受けましょうね?」

くすりと、吐息だけの笑みを相手の耳元に残して。

「…いずれ、「再教育」の日程は風紀委員会の方から通達がございますので。
きちんと、真面目にお受けになって下さいね?」

この状況では、どのみち「少女」は現場に間に合うまい。

そう確信したクローデットは、艶を引っ込めて優しく笑みかけると。
結界術式の効果が切れるのを見計らって、マリアの私宅を後にしたのだった。

ご案内:「マリアの私宅」からクローデットさんが去りました。
マリア > 耳元で囁かれる言葉も,もうマリアの耳を染めることはなく,身体を火照らせることもない。
ただ,言葉の一つ一つが傷口を抉るナイフのように鋭かった。
ここから逃げ出したい。全てを投げ捨てて逃げ,誰も居ない場所へ行ってしまいたい。

この感情は屈辱と言うべきなのか,それとも,己を恥ずる自責の念なのか。

「………………。」

マリアはもう答えることも出来なかった。
その優しげで甘い言葉に,また少しだけ“反応”してしまう自分が情けなかった。

「……知っていたのでしょう?
 私を試すような真似をして……それでいて,貴女が…嘘を守る?
 貴女は一体…………。」

どういうつもりなのか。それを問いかける前に,少女は吐息を最後に,離れていってしまった。
すぐ近くで感じた吐息も,体温も,そして香水の甘い香りも……

「………あっ…………。」

……その一瞬,感じた不思議な感覚は,喪失感だったのだろうか。
いずれにせよ,マリアはクローデットを呼び止めることができなかった。
ただその後姿を見て,整理の追いつかない頭を中をもう一度整理し直し……

……マリアは,現場に向かうもともせず,一人,冷たい真水のシャワーを浴びた。

ご案内:「マリアの私宅」からマリアさんが去りました。