2016/10/25 のログ
■マリア > 「……………?」
マリアには,貴女の言葉が意味するところが理解できなかった。
彼の父や兄たちは“自尊心”を血統や己の教養,財力等様々な拠り所をもって構築することができた。
そして当たり前だが,己の性別を偽る必要など無かった。
だが,マリアにはそのすべてが欠けており,そして“男性”では居られなかったにも関わらず,“女性”にもなり切れない。
貴女がマリアに与えた“女性性”をして自尊心たらしめるには,少なくとも,それを認めてくれる他者が必要なのだろう。
「…そう仰られるとお恥ずかしい限りです。
ですが,こうしてみると,何というか…………。」
ボディメイクの準備をする貴女ではなく,鑑越しに自分の姿を眺める。
それは,自分が想像した“美しい女性”の姿。…それはあまりにも,奇妙な感覚だった。
「…………………。」
やがて,マリアは目を逸らして,それを見るのをやめた。
貴女を想像して作り上げたその身体を見ているのは,やはり,妙な気分だったから。
■クローデット > 自尊心の構築は、状況が整っていない場合困難ではある。
…しかし、「彼」の表情からは、自身に「それ」が欠けているという認識すら欠如していることが伺えた。
「…いずれ、お気付きになられることもあろうかと存じますわ」
(…それまで、あなたが崩壊していなければ、ですけれど)
だから、マリアの表情に浮かび上がる疑問符には、そのような示唆だけをしておいた。
「ふふふ、不思議な感覚ですか?」
言葉を濁し、鏡から目を逸らすマリアに対して、こちらは無邪気に見える笑みを向けながら、ボディメイクに入る。
「土台があった方が楽」というクローデットの言葉は、少なくとも「クローデットの側からの」真実ではあっただろう。
専用のパッドを使い始めた時点で一段落になっていたとはいえ、そこから更に「ボリューム自体を増やす」という手間が省かれたのだ。
しかし、それはあくまでボディメイクを「する」側の話。
そして、今のマリアの身体には、ボディメイクをする際に寄せ集められるべき脂肪が、うっすらとはいえ乗っているのだ。
胸に乗る脂肪を、周辺についた肉をかき集めながら横、下から持ち上げ、寄せる感覚は、今までにはないものだろう。
薬を使ったとはいえ脂肪の総量は少ないので、動かなければそこまで時間のかかる作業ではないはずだが。
■マリア > 自尊心を欠落させざるを得ない生き方を強要されていたマリアにとっては,歪んだ成長を遂げるのは仕方のないことだっただろう。
しかし,己が歪んでいることは認識できても,どのように歪んでいるかまでは知り及ぶところではない。
自己と貴女とを比較して,漠然とした差をつかむことが精いっぱいだった。
「…憧れていたような気もしますし…でも,自分が自分で無いような……。
当たり前のことなのですけれども…。」
マリアは貴女に合わせて苦笑したが,その後に待っていることなど知る由もなかった。
……無論,女性のボディメイクなど,見ることも経験することもあるはずがないのだから,当然なのだが…
「……ひゃ…、あぅっ……。」
…その肌に触れられることだけならまだしも,貴女の掌はマリアの肌を撫でるようにしながら,“胸”へと胴回りの脂肪を寄せ集めていく。
警告も注意もなかったものだから,思わず声が漏れてしまい…それを必死で飲み込んで,耳を紅く染めた。
動かないように努力をしている様が,貴女には手に取るように分かるだろう。その掌の動き一つ一つに,マリアは翻弄されてしまう。
健気にも声を出さないよう,動かないよう努力しているが,耳だけは真っ赤に染まっていた。
■クローデット > 「ずっと迷っていらっしゃるのですから、すぐに結論が出るのでもないでしょうね。
…でも、きちんとボディメイクした身体のラインの美しさは、出来上がりましたら是非ご堪能下さいね」
「自分が自分でないような」と零すマリアに、そんな言葉を返して楽しげに笑むクローデット。
…しかし、警告を忘れてしまったからだろうか。マリアが、身こそ動かさないものの露骨にくすぐったがるものだから、一旦手を止めて。
「申しわけありません…心の準備をして頂くためのお声かけを忘れてしまっておりました。
…ですが、そのままじっとしていらして下さいね?」
と、優しい声をかけてから再度作業に入る。淡々と作業をする裏で、マリアの反応をこっそり楽しんでいるのは言うまでもない。
肉を胸に寄せて上げたところで、その下にその「持ち上げ」を支える下半分のパッドを差し込み、更に全体のボリュームアップのために胸全体を覆うようなパッドを被せる。
それを両方の胸に施すと、ブラの中身の形が、今まで以上の自然さに仕上がっているのはマリアにも分かるだろう。
クローデットは、出来上がりを確認するとコルセットの準備に入る。
■マリア > 「えぇ,そうさせてもらいますわ。ありがとうございます…ルナン様。」
完成が待ち遠しい,という気持ちが無いわけではない。
女性的な美意識を教育によって備えさせられたマリアにとって,一つの完成形が生み出されようとしている。
……だが一方で,こうも思うのだ。
こうして貴女が微笑んで,自分に声をかけてくれるこの時間こそ,自分が最も求めているものなのではないか,と。
「……心の準備をしても……その…………っ…。」
貴女が少しでも意地悪をするような素振りを見せたのなら,反論もできた。
けれど貴女は僅かもそんな素振を見せず,淡々と作業を進める。
パッドに覆われた胸の形は,本当に自然で…以前の作り物以上に,女性的な柔らかさを感じさせる。
「……………。」
まだ耳を紅色に染めたまま,マリアは,自分の胸を鏡越しに,じっと見つめていた。
■クローデット > 「ふふふ」
マリアの礼には、楽しげな笑みを返すに留めた。
…流石に、マリアの内心の葛藤は、表出無しに具体的に理解出来るものではないが。
そうして、淡々とボディメイクの作業を終え…コルセットを用意したクローデットが、マリアにそれを差し出す。
「胸の下で、押さえておいて下さいね」
そして、マリアがコルセットを押さえれば、それを締め始める。
全体的に脂肪はついているがそこまで多くはなかったし、胸にも寄せた。
締めても、圧迫感はそこまで増してはいないだろう。
…もっとも、寄せて上げられた胸の形を固定し、ウエストにくびれを作るコルセットを締めた自分の姿に、マリアが何を思うかは別の話だ。
■マリア > マリアはその葛藤を決して面には出さなかった。
それをしてしまえば,この“幻”は失われてしまう。漠然とだが,そう感じていた。
「はい,ルナン様…。」
言われたとおりに,コルセットを押さえるマリア。
女性の身体でそれをするのは初めてだったが,男の身体の時と何も変わらなかった。
変わったのは,その後のことだけだ。
「……男の身体のままでも,そうは違わないと思っていたのですが…。」
華奢なだけの男の身体と,丸みを帯びた女性の身体,その差は歴然。
鏡の向こうに居るのは“理想の女性”の姿であり,それが自分自身だと認識するにはまだ時間がかかりそうだった。
それはマリアが男性としての自己をもっているという証拠でもあったが,マリアはまだそれに気づかない。
……いや,気付かない振りをしているだけなのかもしれない。
■クローデット > マリアの直感は正しかった。
なぜならそれは、クローデットがまさに「破綻」を突きつける、最高の瞬間だったから。
…しかし、表に出ないならば、クローデットはその機をただ待ち続けるだけである。
「意外と、骨格の違いが出ますのよ?」
女性に寄せた身体でボディメイクを受けて、慣れないその感覚に戸惑いを伺わせるマリア。
「彼女」に対して、華のある笑みを向けるクローデット。
「………ついでですから、お肌も綺麗に…いえ、お化粧全体を華やかに直してみませんこと?」
そう言って、化粧品を用意し始めるクローデット。
「お顔もそうですけれど、今日お召しになられるドレスはデコルテや腕が出ますから…肌の赤みを整えたりなどすれば、より美しく「整う」かと存じますが」
そう言って、にっこりと楽しげにマリアに微笑みかける。
色素の欠如したマリアの肌は、色ムラはそこまで目立たないものの、血色を普通の人以上に表に見せてしまう。
それを制御しようという試みらしいが…
それを施した暁には、マリアの容姿はより「作り物めいて」整うことになるだろう。
顔の化粧にまで手が入れば、どうなることだろうか。
■マリア > 貴女に機を与えなかったのは,マリアにとって幸か不幸か。
少なくともマリアは,どれほど弄ばれようと,この“幻”の破綻を望んではいなかった。
こうして居る以外に貴女を繋ぎ止める方法は無いだろうと,そう思っていた。
「えぇ,ルナン様の仰る通りです……。」
マリアの戸惑いは,己を己として認識できないという一点においてのみではなかった。
鏡の中に映し出された“理想の女性”は,自分にとって“そうなりたい”到達点であるのだろうか。
確かにその通りだ,今,一つの夢が叶おうとしている。
だが一方で,それとはまったく異なった感情が介在していることを,認めざるを得なかった。
「………………。」
男性として,自分にとっての“理想の女性”を投射しているのではないか。
鏡に映る自分は,先輩であり理想の姿であるクローデットに近づこうと努力をしている。
けれどそれを見ている自分は,果たして何を思っているのか。
化粧を勧められれば,笑みをかえすくらいのことはできた。
けれどそれによって,鏡の向こうの自分はより“理想の女性”へと近づいていき,
「………………。」
それを見る自分は,より一層,困惑することになるのだ。
ご案内:「クローデットの私宅」にクローデットさんが現れました。
■クローデット > マリアがクローデットに依存しているのは、クローデットにとって半分くらいは計算外のことだった。
…自分がこうも弄ばれたら、そんな人間を慕う気になどなれないと、思っていたから。
「綻び」から全力で目を背けながら、クローデットに気に入られようと涙ぐましい努力…そう、自分を騙し続ける努力だ…を続けるマリアの様子は、クローデットから見てすら異様な部分があった。…少なくとも、ないと言えば嘘になった。
「ふふふ…」
それでも、化粧を薦めて笑みを返されれば、了承と受け取り、作業に入る。
まずはドレスを着せる。ベージュピンクの、リボンを思わせるふんわりした半袖が印象的な、デコルテの開いたものだ。
それから、その胸元などにタオルを挟んでカバーをし…薄く伸ばしたファンデーションをデコルテに、腕に、そして手に塗りこんでいく。
マリアの薄紅色の肌が、色素の欠如に相応しい白さを獲得していき…それが、クローデットの丁寧な作業により指にまで行き渡った。
…結果として、マリアの薄紅色の顔は、デコルテなどから浮いてしまっている。
少なくとも、「今のところは」。
「…申しわけありませんけれど…お顔のお化粧は一度落とさせて頂いて、肌の色を整えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
ポイントメイクだけならばまだしも、薄紅色を綺麗に「整える」ためには、恐らく下地からやり直す必要がある。
なので、マリアの表情を、たおやかな微笑を口元に刻んだまま伺い、そして尋ねた。
■マリア > それはまさしく,薄氷の上を渡るようなものだった。
マリアの貴女への感情は複雑で,一言で言い表すことは難しい。
依存しているのも貴女に依存しているのか,それとも他者への依存の代表として貴女が居るのか…
…いずれにせよ,マリアは貴女に“捨てられる”ことを極度に恐れているのだった。
貴女はマリアの身体にファンデーションを塗り,肌の色さえも美しく整えていく。
くすぐったい,という肉体的な感覚はもちろんあったが,
それ以上に,鏡の向こうで完成度を増していく“理想の女性”の姿から目を離すことができなかった。
「……あ,はい!もちろんです。
何だか,何から何までやっていただいてしまっていますが…。」
マリアは今,確かに幸せだったのだろう。
これだけの時間をかけて,自分だけのために“着付け”てくれる貴女がいる。
貴女の手がその身体に触れて,自分だけのために化粧をしてくれている。
……マリアが心身ともに“少女”であればこの上なく幸せだったのだが,
男性としての心を,綻びを,その葛藤を,隠し通さざるを得ないのだけは,苦痛であった。
■クローデット > 他者への依存の代表としてクローデットがいるのか、それともクローデット本人に依存しているのか…この閉じた、歪んだ世界の中では些細なことだろう。
…少なくとも、「今のところは」。
「ええ…承りました。
…しばし、目を閉じていて下さいますか?」
マリアが頷けば、まずはメイク落としをコットンに含ませて、丁寧に、優しい手つきで元の化粧を拭き取っていく。
化粧の下にどんな素顔があるとして…クローデットは、それを見てもほとんど動じる風を見せずに、作業を続けるだろう。
化粧を落としきると、まずは、緑色の化粧下地を使って、マリアの顔にある紅色を相殺していく。
その上にクリームタイプの、肌に密着するようなファンデーションを被せ…《大変容》後とはいえ、アルビノに合わせられるファンデーションがよくもあったものである…さらに、仕上げ用のパウダーをはたいていく。
そうして出来上がるのは…クローデットのように作り物めいて整った…クローデットよりも、白い肌。
目を閉じていて、鏡を見ずに済むのは幸いかもしれない。
…しかし、マリアの顔のすぐ傍には、丹念にマリアの肌を、顔を作り込もうとするクローデットの顔の気配と、穏やかに張りつめた息づかいがあった。
■マリア > 貴女に言われるままに,マリアは静かに瞳を閉じる。
自然なその化粧の下の素顔は,貴方が想像するものと大差は無いだろう。
「……………。」
マリアは必要以上に,目を強く瞑っていた。
もしかすると,目元に化粧をのせる貴女に指摘されるくらい,つよく瞑っているかもしれない。
…息づかいさえ感じられるくらいに,すぐ近くに貴女が居る。
マリアには目を閉じて,早まっていく鼓動を抑えようと無駄な努力をしながら,じっとしていることしかできなかった。
■クローデット > クローデットがマリアの素顔に頓着しなかったのは、想像の範囲内だったのもあるだろう。
淡々と、作業を続ける。
「…もう少し、目元から力を抜いて頂けますか?
ファンデーションは、目の周りで偏ってしまいますので」
くすりと笑みを含んだ優しい囁きが、マリアの顔の近くから聞こえてくる。
…もっとも、マリアが上手く力を抜けない場合は、適当に瞼周りの皮膚を伸ばしながらベースメイクを伸ばしていくのだろうが。
…さて、白い顔が出来上がるということは、マリアのプラチナの眉がいつも以上に見えなくなるということでもある。
クローデットは明るいグレーのマスカラを使って眉のラインを引き直し…それから、アイメイクに取りかかり始める。
アイメイクは、場合によって目を開けたり閉じたり、瞳を上下させたりと割と忙しい。
正面、すぐ近くにあるクローデットの目と視線が合うことはないだろうが…目を開けた時には、クローデットの顔が傍にあるのを、感じることが出来るだろう。
そうして…目元には、紫がかったピンクが彩られ、いかなる手段を使ってか、まつ毛なども色素に合わせた色で強調されている。
■マリア > 「ご,ごめんなさい……私ったら……。」
その受け答えは,自然と少女じみた言葉が零れた。
努めて力を抜こうとすれば,目の周りも特に苦労することなくメイクを続けられるだろう。
マリアは,目を開けて,と言われるのが怖いような,待ち遠しいような,不思議な心境だった。
だが,少なくとも,貴女の顔を直視できるような心境ではなかった。
貴女ともし目が合ってしまったら,きっと………。
そんな時に目を開けるよう言われて,恐る恐る,瞳を開く。
今は,貴女がアイメイクを優先してくれたことが救いだった。
貴女の瞳や顔,そして鏡に映る自分自身の顔も,まだ直視せずに済んでいるのだから。
■クローデット > 「こうして丁寧にお化粧をなさるのは………初めてでいらっしゃいますか?」
力が抜けた目元でメイクを続けながら尋ねるクローデット。
「久しぶりか」と聞こうかとも思ったが、マリアの境遇からして、元の世界で彩りを添えたことはないはずなので、少し言い淀んでから質問を切り替える。
そうして、アイメイクが終わると、今度はチークだ。
ベースメイクで丁寧に消した紅色を補うような自然な桃色を、頬の上にさっと乗せる。
「ふふふ…素敵ですわ、シュピリシルド様」
楽しげに笑むが、まだ鏡を見るようには言わない。
作業は、まだ終わっていないのだ。
クローデットは、リップスティックのような形状をした…しかし、白い化粧道具を手に取った。
【続きはまた後日】
ご案内:「クローデットの私宅」からクローデットさんが去りました。
ご案内:「クローデットの私宅」からマリアさんが去りました。