2017/04/02 のログ
ご案内:「クローデットの私宅」にクローデットさんが現れました。
ご案内:「クローデットの私宅」にmariaさんが現れました。
ご案内:「クローデットの私宅」からmariaさんが去りました。
ご案内:「クローデットの私宅」にマリアさんが現れました。
■クローデット > 「ようこそ、お越し下さいました。
…ご心配をおかけして、申し訳ありません」
「約束の日までには調子を戻す」と見舞いを突っぱね続けた訪問者を、かつてのような柔かさと艶を兼ね備えた微笑で出迎える。
「「いつも通り」、お化粧をなさっておりますのね?」
家の中に「マリア」を招き入れると、ふっと微笑を零しながら「彼女」の頬を、指で軽く撫ぜようとする。
■マリア > そんな貴女の様子を見て,マリアは本当に安心したようだった。
この姿のまま男に戻れないという不都合もあったが,
それ以上に,体調不良だという以上の理由が知れなかったことが,クローデットの身体への心配を増大させていた。
「…ルナン様とのお約束を,また裏切るようなことはしたくありませんでしたから。」
心配していた。それを敢えて言葉に出さなかったのは,クローデットが普段通りに振舞っていたからだった。
柔らかく笑んでそうとだけ答え,頬に触れた感触に,ピクリと体を震わせる。
■クローデット > 「マリア」が身体を震わせれば、少しおかしげに笑みを零す。
「お化粧を省いても、疑われない程度のお顔はお作りしたつもりでしたけれど」
そう言ってから…
「…今日のお話は、「ヴィルヘルム様」とさせて頂きたいと思っておりましたし…
「かけ直す」過程で不都合もございますから、一度落としましょうか。
ここではクレンジング料は拭き取る形のローションと、洗い流す形のクリームしか用意しておりませんけれど…シュピリシルド様は、どちらの方がよろしいでしょうか?」
と、優しい微笑で化粧を落とすように促す。
■マリア > 実際に,マリアは“少女”としての自分を楽しんでいた。
それが偽りのものであったとしても,生まれて以来ずっと続けてきた生活なのだから。
「えぇ,そのお陰で,化粧もあまり厚く塗ってはいませんので…。」
それこそ化粧落としシートくらいでも十分だろう。ローションを選び,促されるままに化粧を落とす。
「…どうでしょう?」
久しぶりに貴女とこうして話す機会を得たこと。
それから,貴女が普段通りに接してくれることが嬉しかった。
マリアの表情が心なしか明るいのは,気の所為ではないだろう。
■クローデット > 「そうでしたのね…それでしたら、ローションの方が手軽でしょうか。
お肌には、少し摩擦がかかってしまいますけれど」
そして、「マリア」に化粧を落とさせる。
それでもなお、以前に「裏切り」をやんわり指摘した時にはなかった表情の明るさがあることに、クローデットは引っかかる感覚を覚えた。
…流石に、表に簡単に出しはしないが。
「ええ…結構ですわ。それでは、『解除(ルヴェ)』」
マリアが化粧を落としたのを確認して、マリアにかけた術式の一切を解く。
「少女」としての顔、声…そして、それらを作り上げている術式を悟られないようにする隠蔽術式までが、一言で消え失せた。
「…それでは、改めて居間にご案内致しますわね」
そうして、クローデットは「ヴィルヘルム」を、改めて居間の方に誘導した。
顔には、いつもの微笑を貼り付けて。
■マリア > 「…………っ!」
奇妙な感覚だった。
本人も知らぬうちに“感覚”を鋭敏化させていたがゆえに,魔力による作用とそれを解除された瞬間を肌で感じ取ったのだろう。
「……あっ……。」
あるべき姿に戻った“ヴィルヘルム”は貴女の言葉に,一瞬反応できなかった。
けれどすぐに気を取り直して,貴女について居間へと進む。
■クローデット > 自分で行使した術式を無効化するのに、手間はかからない。
ただ、「少女」の形をした「青年」の驚く様を、少しだけ楽しげに見やりつつも、居間の1人がけソファに彼を案内する。
それから、簡単にお茶を淹れて運んで来て…
「…それでは、「嘘を暴く」にあたっての今後の段取りについてなのですけれど…」
と、話を切り出した。
■マリア > 「…………。」
一瞬前まで“マリア”だった青年は,ソファに腰を下ろして……言葉に詰まった。
小さく首を振って,マリアだった自分を頭から追い出す。
「…僕は,ルナン様の言う通りにします。
きっとそうするのが,一番良い方法だと思いますから。」
一人称には少しだけ迷いがあったが,その言葉に迷いは無い。
それだけ,貴女のことを信頼しているのだろう。
■クローデット > 「………そうですか」
「マリア」の…いや、「ヴィルヘルム」の信任の言葉を聞いて、クローデットは伏し目がちに微笑んだ。
そして、ティーカップを手に取り…
「…あたくしとしては、
『クローデット・ルナンはマリア・フォン・シュピリシルドもといヴィルヘルム・フォン・シュピリシルドの肉体が男性のものであることは知っていたが、当該人物が女性として生活することを望んでいると思っており、それをむやみに暴くことは人権侵害にあたると判断したため黙っていた。
マリア・フォン・シュピリシルドもといヴィルヘルム・フォン・シュピリシルドも当初はそのつもりでいたが、学園都市での生活の中で違和感を覚えるようになり、そして身体通りの性別で生きていくことを決めてクローデット・ルナンに自主的に相談に来た』
というところでまとめるのが、お互いにとって一番良い形だと思っておりますの。
…シュピリシルド様は、いかがです?」
そう説明して、静かな微笑を湛えたままティーカップに口を付けてから…「青年」の方に、柔らかくも怜悧な視線を向けた。
■マリア > 人権侵害,などという概念を知らない“ヴィルヘルム”は,その言葉の意味を推察するほか無い。
だが,それでもなお,大枠は非情に単純であり,理解に苦しむようなことにはならずに済んだ。
そしてその内容はほぼ事実の通りであったが…
「……僕を庇って下さるのですか?」
…勝手に男性の恰好で出歩いていたことは伏せられているし,クローデットの判断に重きが置かれている。
クローデットの真意が分からない青年からはそれが,自分を庇うような内容に聞こえたのだろう。
「僕は……もし,僕がこの島から追放されることになっても,ルナン様にだけはご迷惑をおかけしたくありません。
それだけです……こんなことを僕が言うのは,おかしいと,自分でも思うのですが…。」
■クローデット > 「…この程度ならば、さほど事実にも反してはおりませんもの」
「ヴィルヘルム」が知らない「人権侵害」という概念こそが、クローデットが彼を籠絡する原因だった。
クローデットは、彼の性別を暴き立てる際に彼に屈辱を与えたし、彼の本質に気付きながら「女」としての側面を強調して弄んだわけで、それが彼の口から暴露されれば、面倒なことになるのはクローデットの方なのだ。
そういったことを「彼」に説明せず、「彼」の非を庇うことで「共犯」関係に持ち込む手口こそが、司法の一部を担う者としてあってはならないことなのだが…そういった諸々を、当然ながらクローデットは説明しない。
「「異邦人」に対して、この学園都市は「駆け込み寺」のような機能を備えておりますから…シュピリシルド様のような方が、この件で追放されるようなことはないでしょう。
何らかの罪を犯す意図があって性別を偽っていたならば、話は変わるかもしれませんが」
自分の都合のいい方向に誘導しながら…善意によって為しているかのように、クローデットは微笑んでみせた。
■マリア > 貴女の言葉に隠された真意を,“ヴィルヘルム”が見抜くのは困難を極めるだろう。
それは貴女がそれを周到に覆い隠しているからでもあり,同時に,ヴィルヘルムが貴女に幻想を抱いているからでもある。
いずれにせよ,その提案は貴女にとっては都合が良く,ヴィルヘルムにとっては幸福だった。
「………………。」
ヴィルヘルムは,何かを答えようとして…言葉に詰まった。
貴女の見せかけの善意が,それを見せかけと知らぬヴィルヘルムには,何よりも嬉しかった。
この島にただ一人飛ばされたあの日から…いや,この瞳と髪をもって生まれたその瞬間から,ずっと心細かったのだ。
自分を守ってくれる相手など,どこにも居なかった。
「僕はずっと,貴女に頼りっきりで…本当に…
…ありがとう,ございます…。」
ヴィルヘルムの頬を涙が一筋,流れる。
■クローデット > 【時間につき続きは後日】
ご案内:「クローデットの私宅」からクローデットさんが去りました。
ご案内:「クローデットの私宅」からマリアさんが去りました。
ご案内:「クローデットの私宅」にクローデットさんが現れました。
ご案内:「クローデットの私宅」にヴィルヘルムさんが現れました。
■クローデット > ヴィルヘルムの頬を伝う雫。それを見て、クローデットは…
「………。」
しばし、目を見開いて固まった。
確かに、自分は悪意を丁寧に隠してはいたが…涙するほどの善意など、感じ取る要素があっただろうか。
「自分は異能者(バケモノ)で異邦人(ヨソモノ)の「女神」になどなれない」という、涌き上がる感情を、表に出さないように抑えようとし…しばし、目を伏せた。
それでも、目を開いていつもの微笑を貼り付ければ、
「いいえ、お気になさらず。
シュピリシルド様が性別を偽っていたことに悪意がないことを示すためには、シュピリシルド様の境遇などを、事情聴取の際に明かす必要は生じるかもしれませんわね。
他にも…「二人きり」の際に、密室で起こったことは、ある程度内密にして頂く必要がございますが」
と、いつものペースを努めて保ち、事情聴取の際に気をつけるべきことなどを話す。
青年の涙に触れ、掘り下げる余地は、クローデットの側には存在しなかった。
■ヴィルヘルム > 貴女とこの青年の間に決定的な差が存在するとしたら,それは“育ち”の違いということになるだろう。
ヴィルヘルムは,過去に他者から“善意”を向けられたことなどなかった。
青年にとっても,その涙は無意識に流れたものなのだろう。少しだけ慌てた顔をして,それを拭い去る。
「僕の境遇を……ですか。」
貴女の言葉に,ヴィルヘルムはやや表情を暗くする。
けれどその必要性を貴女が語ったのだから,拒む理由は存在しなかった。
…そういえば,クローデットにも詳しくは話していなかった,と,思い返して,
「…必要なこと以外は喋りません。ルナン様にご迷惑をおかけするわけにはいかないですから。
ただ…その………」
ヴィルへルムは貴女の言葉に,返事の言葉を詰まらせた。
だが,その理由は,恐らく,貴女の想像したものとは違っていただろう
「………自分のことを話すのは,苦手なんです。特に,本当のことを,話すのは。
ルナン様にも,全部をお話したわけでは,ないですし……。」
どこか申し訳なさそうに,目を伏せてから…貴女の瞳をまっすぐに見る。
「できることなら……最初に,ルナン様に聞いていただけたら…と。」
■クローデット > 「ええ…その方が、「それが自分の自然なあり方だと思っていた」という説明に、説得力が生じるでしょうから。
…根拠づけが不要な流れになれば、それはそれで幸運ですが…話す覚悟だけは、しておいて頂きたいのです」
「お辛い思い出を、辿ることになってしまうかもしれませんけれど」と、表情を暗くする青年を、気遣うような身振りを見せる。
「…「必要かどうか」を定めるのは委員会側ですから、想定問答などを作れないか、そのお手伝いを出来ないかと考えておりましたが…
………本当のこと、ですか?」
人形めいたしぐさで首を傾げ、青年の方を見つめるクローデット。
青年にまっすぐ見つめられての、要請。
まつ毛を強調するかのように、大きくゆっくり瞬いてから…
「…分かりました。あたくしで良ければ、お伺いしましょう」
そう言って、青年の視線に応えて、口元に柔らかい微笑を貼り付けた。
■ヴィルヘルム > 小さく息を吸って,それから長く,長く吐いた。
この島に来てから自分の過去の話をするのは初めてだったし,
故郷でも決して,誰にも知られてはならないことだった。
「ありがとうございます…初めてなので,あまり上手く話せるか分からないですが…。
たしか,以前,この瞳の色のことは,お話したと思います。
けれど僕のことは,まだ殆ど話していなかったので……。」
「僕は,ヴィルヘルム・フォン・シュピリシルド。
この世界ではただの人ですが,故郷では,シュピリシルド王朝の第二皇子です。
けれど,紅色の瞳は吸血鬼の瞳だと…王家の跡継ぎに吸血鬼が生まれたのは凶兆だと……生まれてすぐに,僕は殺されるはずでした。」
ゆっくりと,言葉を探すようにしながら…
「…けれど,メイドと乳母が,僕の命を救ってくれました。
僕は,跡継ぎとしてではなく,女として…“シュピリシルド家の魔女”として,育てられました。」
「兄や父を守り……邪魔な相手を消すのが,僕の仕事。
男で居ると殺されるけれど,女の姿で居れば,みんな,僕のことを認めてくれたんです。」
悲しい瞳は,それでも,必要とされたことへの喜びを映す。
「……そしてあの日,寝室にいた僕は光に飲み込まれて,この世界に。
けれどずっと女として育てられた僕に,男に戻る勇気は無くて…
…学校に溶け込むこともできず,あの街で,用心棒をやっていたんです。
そこをルナン様に,見つけていただいて……あとは,ルナン様が知っている通り。」
ルナンの名前が出ると,その表情が明るく変わる。
「……初めてだったんです。僕のことを,認めてくれた人は。
僕がやることを,応援してくれた人は。」
そこまで言ってから,すこし慌てたようすで頭を掻き,
「………すみません,お恥ずかしい話をお聞かせしてしまいました。」
■クローデット > 「………。」
クローデットは、静かに、ヴィルヘルムの身の上話を聞いた。
しかし、自分のことを話す時に青年が顔を明るくした様子に、さりげなく目を伏せる。
しかし、全てに合点のいく話ではあった。
目の前の青年が「こう生きるしかなかった」理由、表の世界に怯える理由。
自分が握っているクローデットの弱みに、まるで気付く様子のない理由。
そして、クローデットは、目を開けて不自然に感情の見えない瞳を見せながらも、優しく笑んでみせた。
「いえ…よく、話して下さいました」
クローデットの視線はヴィルヘルムの顔に向いてはいるが、彼の瞳をまっすぐ捉えてはいない。
「シュピリシルド様の、元居た世界での所業を裁くことは出来ませんから…
最初に性別を偽った経緯と、明かすことにした結果の過程に問題がなければ、問題は大きくならずに済むかと存じますわ。
………それが済めば、晴れて、男性として表に出られますわね」
「おめでとうございます」と笑みかける際に、やっとヴィルヘルムの瞳を見る。
…しかし、その瞳は、感情の伺えない色をしていた。
■ヴィルヘルム > クローデットがその話を最後まで聞き,笑みを見せてくれた。
ヴィルへルムは安堵の表情を浮かべると同時に……貴女の瞳に映る,不穏な影を感じ取る。
「表に……ですか。」
…それもあってか,ヴィルヘルムはやや浮かない表情だった。
生まれてからずっと,外の世界に憧れていたし,そこで普通に暮らす人々に憧れていた。
けれど,長い年月がこの青年を歪めてしまったのか,今は……
「…………いえ,僕は…表に出たいとは,思いません。」
……貴女の言葉を,否定した。
そして,意を決したように,言葉を続ける。
「今の僕にできることは,きっと,外の世界では……。
だったら……僕は…,表の世界に出るよりも……ルナン様のお役に立ちたい,です。」
■クローデット > 「………?」
浮かない表情をする青年の様子に、不思議そうに首を傾げるが…
続く言葉に、目を大きく見開いた。
「………一体、何のおつもりです?」
そして、続けられた言葉に………苦しそうに目を伏せた。
《クローデット》
《選んで》
《わたしをえらんで》
それは、脳裏に響く「大切な人」の声が重かったというのが主な理由だが…そんなことを知らないヴィルヘルムには、どう映るだろうか。
「………申し訳、ありません」
少し、伏し目がちに開けられた瞳は、柔らかな感情の色が少しだけ戻った青い色。
「…あたくし、今年度は委員会の仕事から一線を引くことになっているんです。
体調の件もあるのですが…卒業研究を、優先しようと思っておりまして」
そして…口元に柔らかな笑みを浮かべながら。
「ですから…表で勉強をして、向上なさるおつもりのないシュピリシルド様に…お役に立って頂けることは、そうないと思いますわ」
「残念ですが」と付け加えるクローデットの表情は、信じ難いほどに、いつものたおやかさを保っていた。
■ヴィルヘルム > 自分でも,突拍子も無いことを言っていると思う。
そして,馬鹿馬鹿しいことを言っているとも,思う。
けれどヴィルヘルムは,言わずにはいられなかったのだろう。
「……すみません,出過ぎたことを申しました。」
だから,その申し出を断られてもその表情に影が差すことは無かった。
受け入れられていたら,きっと,逆に慌てていたことだろう。
ただ一方で,貴女の表情や所作に所々表出する違和感には,気付きはじめていた。
…だがそれも,貴女が“体調”という言葉を出すだけで,納得するに十分であった。
「まだ万全でありませんでしたのに…すみません,僕の所為で無理をさせてしまって。
……それに,ルナン様の仰る通り,今の僕には,何もお役に立てることは……無さそうです。」
そこで初めて,ヴィルヘルムは表情を曇らせた。
それは貴女への感情ではなく,無力な自分自身への憤り。
貴女へ何も恩返しのできない,不甲斐ない自分への怒り。
「…でも,心配しないでください,ルナン様にご迷惑は,決してお掛けしません。
ルナン様の努力に負けないよう,僕も……頑張りますから。」
見え透いた強がり。
けれどだからこそ,ヴィルヘルムが貴女に心配をかけまいとする浅はかな感情が伝わるだろう。
■クローデット > 「………いえ…あたくしの方こそ、突き放すようにしてしまって申し訳ありません」
そう、伏し目がちに優しく微笑む。
悪意故に突き放すのではないのだ、という印象が強いかも知れないが…実際のところ、異邦人(ヨソモノ)にして異能者(バケモノ)であるヴィルヘルムを遠ざけられる安堵が出た方が大きかった。
「…最近は、人が多い場所に長時間いなければ平気なことが多いのですけれど…
こちらこそ、心配させてしまって申し訳ありません。春休みが明ける頃には、授業にも出られると思うのですが」
体調に不安を抱えながらも、研究に向けて前に進むことをやめまいとするクローデット。
ヴィルヘルムが「マリア」だった頃、出会ったばかりの頃の覇気はなりをひそめたように見えるが、それでも、クローデットは「魔女」であろうとし続けているのだろう。
「………それでは、「ヴィルヘルム・フォン・シュピリシルド」になる意志は変わらない、と思ってよろしいですか?」
青年の強がりの「意味」を問う言葉を、さりげない調子で投げかける。
表情は決して敵対的ではないが、青い瞳は柔らかくも怜悧だった。
■ヴィルヘルム > 「……いえ,当然のことです…僕では,何の役にも立てませんから。」
この場合,貴女の優しい笑みがヴィルヘルムにとっては苦しかった。
真意を読み取れぬヴィルヘルムにとっては,己の無能さが故に,役に立つことができないと,そう捉えるほか無かった。
それ故に,ヴィルヘルムの笑みは悲しげで,卑屈でさえあった。
「どうか,無理はなさらないで下さい。
僕が,マリアとしてルナン様に初めて出会った時から…ルナン様は,本当に,強い女性で…素晴らしい魔女でした。
だけど……その……」
言葉に詰まる。目を泳がせて,考えた。
ルナンの表情や所作のところどころに見られる,違和感。そして,体調の変化。
その原因がヴィルヘルムにはまったく想像もつかないものだったが……小さく息を吐いてから,貴女をまっすぐに見て,
「一つだけ……僕は,ルナン様が話を聞いてくれたから…支えてくれたから,この島でも,生きていけると,思えました。
だから,ルナン様も……一人きりで,悩まないでほしい。」
そこまで言ってから、引っかかりがとれたかのように,笑う。
「僕がルナン様に言いたいのは,それだけかな。
えぇ,意志は変わりません……その後,どんな風に生きることになっても。」
■クローデット > 「…お勉強を重ねれば、出来ることも増えますわ」
優しい笑み、たおやかな態度を保つクローデットの顔色は、最初に比べると若干悪くなりつつあるように見える。
…そして、続けられた、気遣いの言葉。
「………っ」
《クローデット…》
目の前の青年には聞こえない「声」の重みに、クローデットが苦しげに目を伏せる。
「………お気遣い、ありがとうございます………」
苦しげにそう言って…深い呼吸を、何度か繰り返してから目を開ける。
何とか、いつもの笑みを作った。
「…あたくしは、一人ではありません。
今は離れておりますし、連絡も簡単には取れませんけれど…「大切な人」が、いてくれますから」
そうまで言いきると、顔色は悪いながらもにっこりと笑って。
「…それでは、ハウスキーパーが戻ってくるまでの間に、想定問答でも作ってみましょうか」
「いつも通り」を演出しようと必要以上に努めながら、ヴィルヘルムの方を見た。
■ヴィルヘルム > 貴女の言葉や笑みは,普段通りのものだった。
けれどその表情も,瞳も,顔色も…すべてが,いつもとは違う。
「…駄目だよ。嘘をつくなら,もう少し上手くやらないと。」
立ち上がって,貴女の方へと近付く。
けれど触れたりはせずに,貴女のすぐ近くで片膝を付いて…
「今,無理はしないでって言ったばかりだよ?…だから,駄目。
君の“大切な人”にはなれないけれど,僕だって,君のことを守りたいと思ってるんだから。
……だから,今は,ゆっくりと休んで。」
いつしか口調も“男”として自然な口調へと近づき,瞳は心から貴女の身を案じて,まっすぐに見つめる。
■クローデット > 突如変わった、青年の口調。
「守りたい」という言葉。真剣なまなざし。
「………。」
クローデットは、しばしヴィルヘルムの方を見て、固まっていた。表情も、失せさせて。
しかし…
「………何故、あなたに休養を命じられねばならないのです?」
表情が失せたまま、静かなトーンで口を開く。
静かながらもその口調は冷たく、突き放すようだった。
瞳の色に変調はない。これは、クローデット本人が抱く、「怒り」だからだ。
■ヴィルヘルム > 貴女の“怒り”を目の当たりにするのは珍しいことだっただろう。
けれど,ヴィルヘルムはむしろ冷静だった…というのも,怒りなら,これまでの人生で嫌というほど向けられてきたからだ。
「命じたわけじゃないよ,休め,なんて言ってないだろう?
ただ,体調が悪そうに見えたから,心配になっただけ。」
突き放すような言い方に,返す言葉は穏やかな口調。
けれど,少しずつ,言葉には感情がこもっていく。
「君が僕なんか問題にならないくらい,優秀な魔女だっていうのは知ってるし,
僕なんかじゃ想像もできないくらい努力してるんだろうって…そう思う。
だけど,僕だって人だから,考えることもあるし…心配になることだってある。
君の言う通りにしていたいし,君には笑っていてほしいけれど……今みたいに,それができない時だってある。」
言い終わるころには,青年は泣き出しそうになっていた。
怒りではない,悲しみとも違っている。
「僕が…君を傷つけるようなことを言ったなら,謝るよ。ごめん。」
「でも,もし…君が僕に,ただ思い通りに動く人形であってほしいなら…そう言って。
そういうことにはもう,慣れてるから。」
■クローデット > 「………傷つく?あたくしが、あなたに傷つけられる、ですって?」
クローデットの口に広がるのは、歪んだ月のような、笑み。
「彼女」の「声」の重さを、「怒り」が凌駕したものらしい。
顔色こそ悪いままだが、かつての覇気が、帰ってきたように思われた。
「それこそ侮辱ですわね。あたくしがその程度の人間に見えまして?」
立ち上がって、片膝をついているヴィルヘルムを見下ろす。
「あなたの心配など不要です。あなたの手は、あたくしの目標を達成するのに必要ありません。
関係を整理するのに、会う回数を重ねるのが馬鹿らしいだけのことを、余計に勘繰らないで頂けますか?」
そう言って浮かべる表情は、はっきり、「嘲笑」と取れるものだった。
■ヴィルヘルム > 自分を見下ろす貴女の表情は,あまりにも見慣れたものだった。
この島でではなく,故郷で何度も何度も何度も何度も…向けられた。
ヴィルヘルムは右手を握り締める。
その瞬間に,部屋を揺るがしそうな程の魔力の波が収束して……
「………なるほどね。」
……しかしそれは,解放されることなく,青年の中に戻る。
「僕は君を尊敬してたよ。
それは君がただ強いからじゃなくて…強いのに,無能な僕を拾ってくれたから。優しい人だったから。」
ヴィルヘルムは静かに立ち上がって,貴女をにらみつける。
「でも残念,君は優しい人でも,優秀な魔女でも,尊敬すべき人でもなんでもなかった。
どこにでもいる,ただの偉そうな魔女だ。」
それでもなお,瞳にも言葉にも怒りはこもらなかった。
ただ,失望と落胆の色だけが,滲み出す。
「そんなに自分の力に自信があるなら,僕のことなんか灰にしてしまえよ。
そうでもしなきゃ,僕はもう君の思い通りには動かないぞ?」
■クローデット > 部屋を揺るがしそうなほどの、魔力の波。それでも、クローデットは揺るぎなく傲岸だった。
クローデットの見立て通り、この青年には優れた魔力の素養があるのだろう。
…しかし、彼はそれを活用する術に乏しいし、それを得るための努力の積み重ねもない。
青年は、クローデットにとっての脅威たり得なかった。少なくとも、今は。
「ええ…残念ながら、あたくしの「情」は万人に開かれるほどには豊かではありませんの。
………それにしても、」
くすりと、冷たく笑う。
「まさかあなた、あたくしの思い通りにならないだけで、勝ったつもりでいらっしゃるのかしら?」
そう言って…クローデットが取り出すのは、ありふれた携帯端末。
「本当は、想定問答まで作ってから、示し合わせるつもりでしたけれど…そのようなこと、あなたももう望まないでしょう?
これから…今すぐ、委員会に「マリア・フォン・シュピリシルドが性別の件で相談に来た」と連絡を入れます。
あたくしは、供述方針を変えるつもりはありませんが…あなたに強制は致しません。
………どうぞ、好きに発言なさって、あたくしを陥れてご覧になればよろしいですわ」
そう言って、クローデットは顔に笑みを貼り付けたまま、端末に女性らしく美しい指を伸ばす…。
■ヴィルヘルム > ヴィルヘルムがそれを解放しなかったのは,2つの理由による。
1つは,貴女にそれが有効だとは思えなかったという打算的側面。
「…やっぱり,君は僕の思い通りには動いてくれないか。」
もう1つは,その魔力を別のことに使おうという建設的な思考。
とはいえ,クローデットが予想通り攻撃してこないのなら,それも蛇足に終わる。
「尊敬はできないけれど,君に感謝してる気持ちは変わらないよ。
だから,君を陥れるつもりは無いし…さっき約束した通り,変なことも言わない。」
でも,とヴィルヘルムは楽しそうに笑う。
「だけど…君が連絡を入れて,その僕がここに居なかったら,ちょっと面倒なんじゃないかな?」
貴女は見ているはずだ。ヴィルヘルムが貴女を庇った異能を。
その逆が可能なのだとしたら,ヴィルヘルムをここに確保しておくことは非常に困難だろう。