2017/04/03 のログ
クローデット > 「ふふふ…特別複雑に物事を考えているつもりはございませんけれど、そこまで浅い思考ではおりませんのよ。
………しかし、この期に及んで「感謝している」と言えるなんて、本当に愚かな男」

そう言って笑うが、青年を「愚か」だと言った時の言葉には、嘲りの響きはなかった。
…そこにあったのは、僅かな苦み。

「シュピリシルド様がお逃げになるなら、それはそれで筋書きに修正を加えるだけですわ。
…そもそも、どちらにお行きになるおつもりです?」

すっと、クローデットの目が剣呑に細められた。

ヴィルヘルム > 「本当のことだから,仕方ないよ。
 偉そうで,性格の悪い魔女でも……僕は,大好きだったんだからさ。」

皮肉を言っているわけではなかった。本心からの言葉だからこそ,悲しげに響く。

「逃げる先を教える馬鹿がどこにいるんだい?
 一つヒントをあげるなら,僕は,仲間を助けに行くよ。そして今度は,君たちから最後まで守り抜く。
 ……君にどんな迷惑がかかろうとも,ね。」

貴女も覚えているだろう。マリアだった彼が,かつてどんな場所に居たのか。
そしてマリアの言う“仲間”が,どのような人らであるのか。

クローデット > 「大好きだった」。その言葉を聞いて…クローデットの笑みが、消えた。

「………突き放しておいて、正解でしたわね」

無感情に、ぽつりと零された言葉。
青年が口にするのが過去形でなければ…間違いなく、「彼女」が暴れだしたに違いなかったから。
青年が、クローデットの冷たさに傷つくことも、もはやないだろうが。
そして…その冷たさが零れたのは、その時だけ。

「………何から何まで、材料の提供のし過ぎです。
それに…」

当然、クローデットには青年の語ることの内実は理解出来ていた。
それでいてなお、クローデットは不敵に笑う。

「あなたのかつてのお仲間が、これからのあなたと同じ道を歩むことを望む保証など、どこにもありませんのよ?」

そう告げる声は、場違いに甘かった。

ヴィルヘルム > 逃げる先を教える馬鹿がどこにいるのか。
そう言いながらも多くを零した青年は,本心を言えば今でも,クローデットに止めてもらいたかったのかもしれない。
けれどそれが叶わないことも分かっていたし,確かに冷たい言葉にも,傷つきはしなかった。

「分かってるよ…みんな,僕みたいに不器用な人ばかりじゃ,なかったしね。
 でも,中には僕みたいに馬鹿で不器用な奴も居るだろう?」

貴女は公安委員の名のもとに,ここでこの青年を捕縛することも,それこそ痛めつけることも可能なはずだ。
それをせずに,忠告ともとれる言葉を向けてくる貴女に,ヴィルヘルムもまた,場違いに笑いつつ,そう返した。

「…いままでありがとう。それじゃ,元気でね。」

そう言って笑い,最後に静かに頭を下げた。
それからゆっくりと,特に急いだり貴女を警戒する様子もなく出口へ向かって歩いていく。

クローデット > 「………馬鹿で不器用な仲間を、より救いのない道へ、道連れにするおつもりですか?
望んでいるかどうかも、分からないのに」

貼りついた、いつも通りの優しい微笑から、冷たい声が零れる。
ただ、実際のところ「馬鹿で不器用」であればこそ、裏に行くべきではないのだ。
堅実さを積み上げる希望は、表にしかない。裏では、割に合わない。
…もっとも、この島の社会のあり方の存続を望む者が救いのない道に落ちようと、クローデットの知ったことではない。

「…言われずとも。
闇の中に帰るのは勝手ですけれど…調子に乗って、「本能」を暴走させることのないようになさい?」

破綻させた上で闇に堕とすのは、描いたヴィジョンの一つだった。
止める望みは薄いし…何より、今のクローデットの精神状況では、青年を手元に留めておけない。

ヴィルヘルムの背中が遠くなって行くのを止めず、妙な忠告をして…クローデットは、端末で委員会本部に連絡を取り始めた。

ヴィルヘルム > 「そっか…そう言われると,その道を行くのは僕だけでいいかもね。」

自分はもはや,誰からも必要とされていないのだ。
そんなことは,分かっていた……全て幻想だったのだと。

ヴィルヘルムは今初めて,故郷へ帰りたいと思っていた。
あんな悲惨な場所でも,自分は確かに,必要とされていたのだから。

「……大丈夫,僕は“シュピリシルド家の魔女”に戻るだけさ。」

振り向いてから笑って,青年は部屋を出た。
それから数日が経っても,結局彼は過去の仲間たちを“助けに”は行かなかったようである。

異世界の魔女が一人,落第街の闇夜に紛れ込んだ。

ご案内:「クローデットの私宅」からヴィルヘルムさんが去りました。
クローデット > 「………指針のない「魔女」がどれほど惨めなものか、見物ですわね?」

委員会に連絡がつく直前、そんな言葉を零す。

「ええ…あたくしです。
申し訳ありません…過去に捕捉した学生にまつわることで、問題が発生しまして…。
あたくしも、感情の制御に失敗してしまったものですから…」

クローデットは、自らの失敗を出せる範囲で明らかにした。
付随する面倒は、悪意の表への露呈のリスクに比べれば安いものだ。

「…ええ、マリア・フォン・シュピリシルドという名を名乗っていた学生なのですけれど…
…はい、把握してはいたのですが、本人がそう生きるのを望んでいると、思っていたものですから…」

クローデットは、ヴィルヘルムに予告した通り、大筋の筋書きは変えなかった。

クローデット > 「ええ…可能性は低いと思うのですが、かつての違反組織の仲間の脱走を支援に現れる可能性があります。
空間の因果に干渉する異能の保持者ですので、少々対策を…」

そうして、一通りの話を済ませて、端末での通話を終わらせる。
…結局、仲間の脱走支援の警戒は杞憂に終わるのだが。

(………本当に、愚かな男)

きっと、クローデットと委員会を同一視してしまっているのだろう。
立証こそ困難だが、クローデットが彼にしたことを紐解けばそれだけでかなりの打撃になるというのに…結局、表全体を敵に回すような暴挙に出てしまった。

(…流石に、いきなりひいおばあ様の「網」にかかったりはしないでしょうけれど)

もう、「大切な人」の声の重さに怯えながら、他人の秘密を抱える必要もない。
クローデットの心の重荷は、確かに1つだけ、軽くなったのだ。

…それでも、クローデットは何故か、心の中にすきま風が吹くような心地を覚えていた。

ご案内:「クローデットの私宅」からクローデットさんが去りました。