2017/06/07 のログ
ご案内:「クローデットの私宅」にクローデットさんが現れました。
クローデット > その日の夕刻、クローデットは自室で卒業研究要旨を記入する書類を作成していた。
もっとも、やること自体はとっくに決まっているので、本当に記入と記名でさらりと終わってしまうのだが。

(…夕食を済ませたら、またあの「犬」でもからかいに行こうかしら?)

そんな、「大切な人」の犠牲者である「彼」には優しくないことを考えながら、書類の記入内容に不備がないことを確認して、机の上に戻す。

クローデット > 何と傑作だっただろうか。
毛並みの色と瞳の色、それと話すときの声くらいにしか、「彼」の名残はなかったのに。
塒をあんなにずたずたにしてしまうほど、衝動の制御に苦労しているように見えたのに。
恐れない風を示してやっただけで、忠犬か何かのように大人しくなるだなんて。

(他人を威圧しないように一生懸命身を縮めているところの、「可愛らしい」ことといったらありませんでしたわね?)

「魔女」として、「ケダモノ」は征してこそと心得、そしてそれに相応しい力を得るに至ったクローデットは、狼の形をした「バケモノ」を恐れることを、すっかり忘れてしまっていた。
「伝承」に登場する類の「怪物」は、往々にして「伝承」の根源を理解することで、抵抗しうる力を得られるものだし。

それは、彼女にとっては忌々しい存在である父親から、確かに「受け取ってしまった」知的営みの力でもあった。
「大切な人」には、著しく欠けているもの。

クローデット > それは、「彼女達」の密着関係に確かに入ったヒビだった。
クローデットの「大切な人」は、なぜクローデットが「狼」を恐れないのか理解出来ない。
クローデットは、自分の「大切な人」が、なぜ「バケモノ」で「遊ぶ」ことを許せないのか、理解出来ない。
だから…

《クローデット、どうして、あの「バケモノ」に近づこうとするの》

クローデットの頭痛は、あれ以来重さを、酷さを、頻度を増していた。

クローデット > 「大切な人」にとっては、クローデットがそこまで「遊び」たがるのもまた、理解出来ないことだった。
実際、クローデットもその情動に説明は出来なかっただろうが。

家の中で、確かに守られていた、愛されていた………支配されていた、クローデットは。
「魔女」として確かな力をつけ、受身であるだけでは飽き足らなくなった、クローデットは。

「家族に向けられた」情の一部を、他者に向けることを、無意識に欲し始めていたのだ。
それは、あまりにも歪んだ「自立」の発露。

クローデット > クローデットには、なまじ知性があった。
この種の感情を向ける相手は選ばなければならないと、判断する程度の。
尊重したいと願う相手…特に社会的に立派な大人…に向けるのは、大きなリスクを伴うと、理解する程度の。

結果、「表から逃げ出し」「他者に助けを求めることを知らない」「ケダモノ」が、その対象となったのだが…。

「………っ」

重過ぎる頭の痛みに、クローデットは歯を食いしばった。

これらの情動は、クローデットにも、「大切な人」にも、整理して説明することは出来なかった。
特にクローデットは、認知した瞬間、【レコンキスタ】の一員である自分を、疑ってしまう…疑うことが出来るようになってしまうから。

クローデット > クローデットの「大切な人」には、それらの情動を言語化する能力はなかった。
ただ、クローデットの情動が、家族とは別の方向に…よりによって「バケモノ」に分けられている状況を感知し…許さないと、クローデットに告げるだけ。
そして…その怒りを、クローデットが関心を向ける対象に、向けるだけだ。

(ひいおばあ様…どうして、「ケダモノ」で遊べるくらい強くなったわたしを、認めて下さらないのですか。
ひいおばあ様のために、わたしは、強い、「魔女」に…)

薄れ行く意識の中、何とかクローデットはとある魔法薬に手を伸ばして…。

ご案内:「クローデットの私宅」からクローデットさんが去りました。