2019/05/04 のログ
ご案内:「教室」に狗上 春華さんが現れました。
■狗上 春華 > ここは常世学園の教室の一つ。
時刻は放課後となり、生徒で賑やかだった教室は今はすっかり静かである。
唯一、二つの人影が見える程度で……。
女生徒「先生、ここの元寇についてのことなんですけど……」
春華「ああ、それ本当に神風……というより、台風が起きたんですよ?」
なんて、居残り勉強をしていた生徒からの質問に答えている、教師見習いの姿がある。
まもなくして、生徒は満足行く答えをえられたのか、教室を出ていった。
春華「……ふぅ。特にトチらずに出来ましたね、ええ」
と、一つ息を吐いて生徒を見送る。
まだまだ見習いと言えど、学生から見れば等しく教師として見られているのだから、油断はできない。
■狗上 春華 > 春華「……異能を持っている子が相手の学校だから、そういう歴史をメインに教えることになるかと思っていましたけど」
春華「案外、そうでもないんですねぇ……」
そう、しみじみとつぶやく。
まあ、それも当然と言える。大変容が"起きてから"の歴史より、"起きるまで"の方が、圧倒的に"嵩"が違うのだ。
主観として自分が知っている歴史、体感している歴史など更にそれよりも短く……。
春華「……いやいやいや」
随分弱気なことを考えていたような気がする、と小さく首を振って。
ご案内:「教室」にアリスさんが現れました。
■アリス >
放課後の空き教室。
復学の目処がついた旨を文書で提出しに来た帰りに、
教室にいる知らない教師を見つけて入ってみる。
というか、知らなくて当然か。
これだけ巨大な学校だし、知らない人もいる。
当然、四月から入ってくる生徒も教師もいるわけで。
「……あの…新しく来た先生かしら?」
「敬語ができなくてごめんなさい、私はここの生徒なの」
教室に入って、話しかける。
「私、アリス・アンダーソン。あなたは?」
普段はこんなことはしないのだけれど。
なんだか悩み事でもあるかのように首を左右に振っていたのが気になった。
■狗上 春華 > 春華「うぇああ!?」
思わず声を掛けられて、飛び上がりそうになってから。
春華「あ、あーっ……ええと」
落ち着いた様子で声をかけられたのに対しての、自分の浮足立った態度をこのまま続けるわけにはいくまい。
そう決めて息を吐いて。
春華「……歴史担当として今年からお世話になります、狗上春華ですっ」
無駄に胸を張って、そう返す。
■アリス >
驚いて声を上げる彼女に、少し鼓動が跳ねた。
大丈夫、落ち着け。悲鳴じゃない、断末魔じゃない。
PTSDを患ってから、妙に神経質になった。
「驚かせてごめんなさい」
「そう、歴史の先生なのね? あなたみたいな若い先生がやってくれるなら、来期は歴史の授業を取ってみようかしら」
くすり、と笑って。
「とはいっても、日本の歴史はあまり詳しくないから授業に出たらお手柔らかにね?」
「ええと……狗上先生は四月から常世島に?」
「だったら、この島は注意するべきスポットがいっぱいあるわよ」
■狗上 春華 > 春華「ええ、4月付けでこちらに」こくり、と頷いて
春華「あの、注意するべきってどういう感じでのなんです?」
春華「例えば、……こう、逆パワースポット的な」
彼女は、霊媒体質というわけではない。
しかし、彼女に狗神が憑依してからというもの、彼女はそうした神秘を感じ取れるようになった。
幽霊や、あるいは不可視の何か。それらが本当はどんな名前なのかを、彼女は知らない。
春華「それともその、ヨハネスブルグ的な……?」
旧世紀から、危険な街であるという伝説を受け継いでる街の名である。
酷い偏見もあったものだ。
■アリス >
「ならなおのこと気をつけないと、私は去年から今年にかけて14回死に掛けているわよ」
「ああ、もちろんとびきり不運なだけなのだけれど」
逆パワースポット……?
不思議な言葉を使う人だ。
パワースポットならわかる。滝とか神社とかだ。
「ううん、霊的とか地脈とか、風水的なあれこれは私は知らないわ」
「落第街の噂は聞いてる? この島にはスラムが本当にあるわよ」
「路地裏も危険だし、青垣山には敵対的怪異がいるし」
身振り手振りで危険を伝える。
でも方向音痴気味なので詳細な場所までは教えられそうにない。
■狗上 春華 > 「噂には聞いていましたけれど、……本当に、一つの島の中にいろんな物があるんですね」
敵対的怪異、という言葉には僅かに苦い表情をして。
ふと、自分の家族を奪ったあの鬼を思い出し。
「って、いやいや。14回って、平気だったんです?」
思わず、そう声を掛けてしまう。
■アリス >
「大きな島だから……狗上先生もうら若き乙女として気をつけないと」
ふと、表情が変わったのを見て、何か嫌なことを思い出させてしまったかと考えて。
でも一度に色んな話をしたから、何が引っかかったのかがわからない。
ここは話を変えるのが無難か。
「ううん、今は14回目の不運に巻き込まれた結果のPTSDで通院中」
「だから、今日は復学の届出を出しに来たんだけど……」
くしゃりと表情を歪めて。
「ちゃんと学校、来れるかは微妙ね」
■狗上 春華 > 「……」しまった。と、僅かに心の中で歯噛みする。
彼女にとっての、嫌な思い出を掘り返すようなことを聞いてしまった、と。
「復学、ですか」
そういえば、職員室にいたときに、そんな話をちらりと聞いたのを思い出して。
「その、……何か、心配事が?」
教師として、力になれることはないだろうかと、おずおずと問いかける。
■アリス >
近くの椅子を引いて座る。
両手で膝の辺りに麦藁帽子を持って。
「心配事はあるわね。今でも事件のフラッシュバックがあって」
「……授業中に心の傷が開いたら、って思うと心配だけど」
「でも仕方ないわね……魔術的処置、異能的処置、現代医学の三本柱で根治は一応可能って話だし」
先生に向けて、笑って。
「でもしょうがないわね。私は親友も事件に巻き込んだんだもの」
「私の不運に友達を道連れにした罰だわ」
■狗上 春華 > 「……罰、ですか」
私は、彼女の事情を知らない。
ただ、彼女がそうして自罰的に語るだけの凄絶なことが、きっとあったのだろう。
その重さを、私が語るわけにはいかない。
知ったふうな口を聞けるほど、私はうぬぼれてはいないから。
―――だからこそ。
「じゃあ、そうですね、先生が一つ、おまじないを教えてあげましょうっ」
■アリス >
「……おまじない?」
笑顔で首をかしげて。
「どんなものかしら? 私、おまじないは好きよ」
「ママとグランマに教わってから、色んなおまじないを知ってるし、知りたいわ」
今も震える手を麦藁帽子の中に隠して。
「狗上先生は、どんなおまじないを教えてくれるのかしら」
■狗上 春華 > 「うーん……そうですね」
自分が教えてもらったのも、ずっと前になる。
「怖くなったときや、どうすればいいかわからなくなった時に、ですね」
そっと、自分の手を胸に当てながら。
「自分の胸に、手を当てるんです」
「人の体には、その人以外の命にも、沢山のものが入っているんです」
「食べたご飯とか、家族の遺伝子とか、教えてもらった知識とか、色んなものが」
「落ち着いて、自分の中のそれの声を聞くんです」
そういえば、昔もこうやって、怖がりな自分を勇気づけるために母が教えてくれたっけ、と。
「そうやって、ちょっとの間でもいいので、目を閉じて、静かに耳を澄ませてみると」
「……もしかしたら、良い答えが見つかるかもしれないし……とりあえずは、落ち着くんですよ?」
支離滅裂かもしれない、と自分でも思う。
でも、おまじないとはそういうものだ。方法論であり、そしてそれに結果を見出すのはそれを用いた人々自身である。
■アリス >
とてもシンプルなおまじないだった。
自分の胸に、手を当てる。
狗上先生の言葉に合わせて、目を瞑って胸に手を当てる。
誰もが一つだけ持っている、鼓動が感じられた。
この中に“私”が生きているんだ。
あの惨劇にも止められなかった、心臓があるんだ。
「……いいおまじないね、狗上先生」
「それじゃ、発作が起きたら試してみるわ」
ふふ、と笑って胸に当てた手の平を見ると。
もう震えは止まっていた。
「狗上先生はあれかしら、熱血教師とかそういうのかしら?」
「とってもいいことを、初対面の生徒に教えてくれてびっくりしちゃったわ」
■狗上 春華 > 春華「熱血……なんでしょうか」
春華「でも私、バカヤローとかコノヤローとか、腐ったミカンとか言いませんけど……」
いまいち知っている例えが古い。
春華「でも、……いい先生にはなりたいな、って思いますね」
ふふん、と少しだけ得意げに。
■アリス >
「ふふ、確かに狗上先生はそういうタイプじゃなかったわね?」
「……なれるわよ、私が保証する」
そう言うと麦藁帽子を被りなおして。
「ありがとう、狗上先生。それじゃ私、もう行くわね?」
「あなたとはまた会いたいわ、またね」
そう言って椅子から立つと、教室の外へと歩いていった。
ご案内:「教室」からアリスさんが去りました。
■狗上 春華 > 思わずたじろいで、口角が上がりながらも何かを言おうとして、そのまま見送って。
「……ああもうっ、お礼、言えませんでしたっ」
つい、テンパってしまうところが出てしまったなぁ、と。
まだまだ自分の未熟さを感じるばかりである。
ご案内:「教室」から狗上 春華さんが去りました。