2020/06/18 のログ
ご案内:「第一教室棟 教室」にレイヴンさんが現れました。
レイヴン >  
「――つーことで今日はここまで。何か質問あるやついるか」

授業終了十分前。
余裕を持って授業を終わらせて質問を募る、この教師の授業のいつもの風景。
そしていつも通りなら特に質問もなく、数学の話をして終わるのだが、今日は違った。
一人の生徒が手を上げ「数学なんてなんの役に立つんですか」なんてふざけた様子で声を上げた。
小さめの失笑が上がる。

「――ま、お前らの年の奴はそう思うよな」

ふざけた質問ではあるが、しかし大事なことではあるだろう。
小さく呟き、チョークを持って黒板に数字を並べていく。
12193335。
八桁の数字。

「前教えたよな、素因数分解。この八桁、素因数分解してみろ」

きょとんとするもの、ノートに数字を書き写して計算するもの、隣の奴と顔を見合わせるもの、反応はさまざまである。

レイヴン >  
「あーやらんでいい。してみろっつったが、そんな時間はねぇ」

コンコンと黒板をノックし、注目を促す。

「まぁ素因数分解っつーのは時間掛かるんだわ。素数同士の掛け算はただ計算するだけだが、それを逆算するとなるとその何倍も時間がかかる」

そうしてその数字の下に、今度は掛け算の式を書いていく。
3×3×3×3×5×7×11×17×23。
計算すれば先ほどの数字になるだろう。

「この辺はP≠NP予想っつってな、興味あるヤツは調べてみろ。んで、この片方から解くと簡単だが反対側から解こうとすると難しい、っつー仕組みが暗号化複合化に使われてる」

詳しいことを話し出せばそれだけで一つの授業になってしまうので、詳しくは離さないが。
ここまで話して、

「数学っつーのはこういうことに使われてる――つってもお前らが聞きたいのはこういう事じゃねーわな」

レイヴン >  
「ここまでは数学がどう社会の役に立ってるかっつー話。こっからは数学がどうお前らの役に立つかっつー話だ」

じろりと教室に座る生徒たちの顔を右から左まで眺めて。

「まずそもそもな、俺がこうやってお前らに数学教えてメシ食えてんのはなんでかっつーと、数学やってたからだよ」

にい、と笑う。
教壇から降り、生徒たちの机の間を歩きながら話していく。

「早い話がお勉強出来るっつーのは金になるんだよ。勉強出来ればこうやって誰かにモノ教えて金が貰える。センセーやらねーでも家庭教師とか塾なんかのバイトで稼げるわな。もっとやりゃあ数学の未解決問題解いて賞金だって貰えるぞ」

さっきのP≠NP予想の懸賞金は確か百万ドルだったか。
ぐるりと教室を一周し、教壇に戻ってきた。

レイヴン >  
「正直なとこ、ガッコーでやらされる数学なんてお前らの生活にはなんの役にも立ちゃしねぇよ。使って精々三角関数か二次方程式ぐらいなもんだ」

日常生活において球の面積や体積なんて求めることなんてないし。
三角関数と二次方程式はまだ使わなくもないが、それ以外はほぼほぼ使わないだろう。

「だから勉強の内容なんてどうでもいい。ただ勉強して知識付けるってことはどっかでお前らの力になるし役に立つってことは覚えとけ――っと、良い時間だな。撤収」

と、そこで授業終了のチャイム。
生徒に号令を掛けさせ、授業終了。
次の授業があるものはその準備、そうでないものは各々の用事へ向かう。
自身は授業と雑談で使った黒板を消していく。

ご案内:「第一教室棟 教室」に山本 英治さんが現れました。
山本 英治 >  
学ランのアフロが授業の後に教師に話しかける。

「どうも、先生。先ほどの話、とても興味深かったです」
「俺にゃあ未解決問題は無理でも、授業で困らない程度には頑張りたいすね」

レイヴンの隣に立つ。
アフロがある分、背が高く見えるが。
彼より背はやや低い。

「あと、ここの部分がちょっとわからなくて……」

ノートを見せて、教えを乞う。

レイヴン >  
「ん……」

振り返る。
アフロ。
アフロだった。
その男は見事なまでにアフロだった。

「――おう」

号外で見たことがあるような気がする。
常世広しと言えどもこんなアフロは一人しかおるまい。

「こいつはここを展開したらここが消える。んであとはこうだ」

黒板に数式を書き写し、変形させていく。
邪魔な部分をとっぱらい、単純な式へと。
しかしアフロだ。

山本 英治 >  
「ああ……公式が…」

ノートにペンで教わったことを書いて。
一通り理解すると、頭を下げた。アフロが揺れた。

「ありがとうございます、レイヴン先生」

そう言ってノートを閉じると、柔和に笑って。

「どうです最近は? 生徒の様子とか……」
「こうも梅雨で雨が多いと、調子を崩す生徒もいるんじゃないですか?」

そう言って世間話モードに入る。
近くの椅子に座って。

「あっちはどうです、バイク。生徒の間で噂になってますよ?」
「レイヴン先生がかっこいいのに乗ってる、ってね」

カラカラと笑った。

レイヴン >  
「おう」

ぶっきらぼうに応える。
テストは厳しく難しいが、聞けばわかりやすく教えてくれる、という話は彼も聞いたことはあるかもしれない。

「別に、どうってこともねぇよ。それで崩す奴はそれ込みで動いてるだろうしな」

だから別に自分が心配する必要もないだろう、と思う。
教師としては助けを求められれば助けるくらいしかやることが無いと。

「……そういうお前はどうなんだ。チ〇ポ丸出しの写真すっぱ抜かれてただろ」

バイクの事を言われればげんなりとした顔。
あんなクソダサイーーと思っている――バイクがカッコイイとは。
号外に乗っていた写真の話で反撃。

山本 英治 >  
肩を竦めて、大仰に両手を広げた。

「そうすか。確かに、体調を赤の他人に心配されちゃ息苦しい」

写真のことに言及されると一本取られた、とでも言いたげに額に手を当てて。

「違反部活との本気の交渉を珍事扱いされちゃタマんないすよ」
「俺の一世一代の男伊達だったのに、女子からは嫌われる一方だ」

ノートを片手に持ったまま足を組む。

「先生、なんだかんだで授業内容が丁寧すよね」

レイヴン >  
「珍事……なぁ」

まぁ、確かに珍事だ。
珍事と言うか、チン事と言うか。

「まぁ中でナニやってたかは聞かねぇがな。そのままマッパで外出てくるヤツがいるか。自業自得だ」

そりゃああんな格好で出てきたら女子には嫌われるだろう。
馬鹿なのかこいつは。

「あぁ、別にフツウだろ。落ちこぼれなんか出したらこっちの評価が下がるしな」

なんせこれでお給料頂いてるもんでね、なんて皮肉交じりに。

山本 英治 >  
口元を歪めて破顔一笑。

「漢を見せてました」
「ちょっと興奮してて自分が裸だったのを忘れてただけなのに…」

携帯デバイスを落としただけなのに…みたいなことを言う。

「ハハ、そりゃー確かに」
「そのおかげで成績を落とさない生徒がいる。センセは評価が上がる」
「Win-Winな関係なワケすね」

愉快そうに両手を開いて。
エアコンの風でアフロが揺れた。

レイヴン >  
「――そうかい」

何も言うまい。
もっと別のやり方もあったろうに。
頭が痛い。

「もっと言やぁ、わざわざ補習やらなんやらせんでも全員赤点ナシになってくれりゃあ最高なんだがな」

そうすればこちらの仕事も少なくて済む。
しかしでけぇなアフロ。

山本 英治 >  
「……ダーティ・イレブンは………坂本たちは捕まりました」
「これが正しかったのか、今でもワカんないままです」
「一生、悩み続けるのが……風紀の責任なんだと思います」

肩を揺らして笑って。

「みんながみんな補習のない世界か、理想郷でも無理ですゼそりゃあ」

立ち上がって大きく伸びをして。

「風紀にタレコミ案件があったらまずご一報を願います」
「いい加減点数稼がねーとオトコが廃れる」

そう言う男のノートの表面には、可愛らしいマスコットが落書きしてあった。

レイヴン >  
「――強い異能を持ってりゃ出来ることは増える。そうなると、割となんでも出来るって気になるんだよな」

黒板の文字を消しながら。

「ただ、強い力っつーのはそれ相応の責任が付いて回る。それに気付かねーまま一生を終えるやつもいる」

全て文字を消し、手をパン、と払う。
白い粉が宙を舞う。

「そいつにゃお前がそれを気付かせた、ただそれだけの話だろ」

悪いことをしたらそれだけの罰が待っている。
それは悪事を働いたヤツの責任で、それを捕まえるのは当然の話だ。
野放しにしていたらまた別の誰かが損をするだけなのだから。

「次はせめてパンツくらい穿いとけよ」

山本 英治 >  
「……人に人を裁く権利なんて、本当にあるんでしょうか」

掌を見る。人を殺せる、この手を。

「捕まえて、罪を償わせて、将来あわせる顔もない」

掌をぎゅっと握る。自分の鼓動を握った気がした。

「それでも……俺は未来が欲しい………」
「誰もが笑って暮らせる未来が………」

たはーと顔を手で覆って。

「普段から良いパンツ履いとけって話ですよね? 男のエチケットだー」

レイヴン >  
「本気でそう思ってんなら風紀なんてやめちまえ」

バッサリと。

「人が人を裁く? 舐めたこと言ってんじゃねぇぞガキ。人を裁くのは社会であり法律だ。法律っつーのは社会に生きる人間の最小公約数で出来てんだよ」

ずい、とそのデカいアフロの真ん中にある額に人差し指を突き付ける。

「いいか。風紀だろうが公安だろうが、それはお前ら個人の主義主張で左右されるような組織じゃねぇんだよ。それは誰かの代理でしかねぇ。それを理解してねぇなら、とっとと辞めろ」

現実を突きつけ、睨みつける。
この世界はそう言うやつから死んでいくことをわかっている。

「――ちゃんとパンツは穿いとけっつー話だ」

山本 英治 >  
額に人差し指を突きつけられたまま。

「……すいません」

居心地が悪そうに言って顔を背ける。
わかっていなかった。
個人の意思なんて介在しようがない、歯車のひとつになることを。

今の自分には、未来を求める価値すらない。

「わかりました……パンツ、ちゃんと履きます…明日からは」

頭を下げて。

「ありがとうございました」

そう言って去っていく男の眼には、新しい輝きが存在していた。

ご案内:「第一教室棟 教室」から山本 英治さんが去りました。
レイヴン >  
「――それでも迷うんだっつーんなら、メシくらい奢ってやるから愚痴吐きにこい、山本」

去っていく彼の背中にそう声を掛けて。

「今日から穿け」

明日から、と言う言葉にもしっかりツッコミを入れる。
そうして彼の背中を見送ってから、自身も荷物を纏めて教室を後に。

ご案内:「第一教室棟 教室」からレイヴンさんが去りました。