2020/06/20 のログ
ご案内:「調理部室」に小金井 陽さんが現れました。
小金井 陽 > 「んーんーんーんー…やっぱ、ちぃーっと火力弱い…というか老朽化してるよなぁ。設定温度弄ってなんとかするしかないが…」

老朽化した型落ち品…四半世紀前レベルのオーブンレンジを使って、クッキーを焼いている調理部男子。難しい顔をしながら焼き具合を調整している。
普段は最新のオーブンや火力の強いコンロが配備されてる食堂の一角を借りているのだが、生憎今日は使われている。故に施設の老朽化が激しい部室で調理している次第だ。

小金井 陽 > 「ま、調理器具だけが全てを決めるモンでもねーとな、っと。」

エプロン姿に三角巾。片手にはボウル、逆手には泡立て器。
今焼いてるクッキーとは違うもの…しっかり温度や下ごしらえで準備しておいた材料を出し、バターを攪拌し始める。
空気をたっぷり含ませ、滑らかに。砂糖を加え、ふわふわと滑らかさを増すまで、がっちりと。美味しくなるように、念をこめて。

小金井 陽 > 混ぜている腕は細腕ながら、若木のように生命力に満ちて逞しい筋肉が張り詰めており、無駄な肉が無い。

じゃじゃじゃじゃじゃじゃっ…しっかり空気を含ませきったら、溶き卵を分け入れる…今度はゆっくり…全体に、分離しないように馴染ませて。
分け入れ分け入れ、生地全体がぽてっとするまでなったら、薄力粉を振るい入れて、さっくさっくと切るように。工程一つ一つを鼻歌歌いながら、楽しそうにこなしている。シンプルなレシピでも。

小金井 陽 > 「ほいっと、今日はコレでっと…」
取り出したるは、擂鉢でしっかり粉砕した、抹茶・ほうじ茶・紅茶…そしてザク切りにしたチョコレート。
四等分した生地に各々を混ぜ入れ、まとめ、冷蔵庫で寝かせ…・・・・

…料理のレシピ本を眺めながら濃厚なハンドドリップ珈琲を楽しみ、待つこと30分。寝かせた生地を取り出し、少し温めてから麺棒で引き伸ばして。
各々、『王冠』『星』『ハート』、そしてチョコレートはシンプルな丸のクッキー型で抜き取り、余熱していたオーブンで焼きいれる。

小金井 陽 > 「待っている間は…そうだな。」
調理器具を手早く、しかし丁寧に洗った後に、しっかり水気を拭き取り…
プリン作りに取り掛かる。

下ごしらえと準備…三度漉しして作り上げた、舌あたり滑らかなプリン液。それを、カラメルを敷いた耐熱ガラスに流し入れ、ほどよく熱した湯を張った鍋に湯煎して、トロ火で20分弱…

ぷるんっと固まった温プリンを鍋から引き上げ、一息。

小金井 陽 > ………そんな各種様々なクッキーやプリンを作っていれば、調理室外に匂いが漏れないわけがなく、様々な茶や生地、チョコの焼けるとっても芳しい香が前を通る生徒や先生たちには届くだろう。
ご案内:「調理部室」に群千鳥 睡蓮さんが現れました。
小金井 陽 > 「粗熱冷まして冷蔵庫…作るのは楽しいんだが、待ち時間がもどかしいな。」

そんなことをぼやきながら、
「…次は何つくっかな?」
また作り始める算段を始めた菓子バカ男子。そこへ…
「…おっ?」
ネコ目をぱちくりして、人の気配に気づく。

群千鳥 睡蓮 > ――調理部の小金井先輩って知ってる?

友人……未満の知人との会話、当たり障りのない会話のなかでふと気になるワードを耳に挟んだ。
足を向けたのは、この手帳の記述を増やしたいから、という単純な動機に他ならない。
ジャンクでカジュアルな食生活が素である自分にとって、スイーツ……とは縁遠い代物である。

(お菓子作りが得意で、優しそう。 ははん。「ママ男(お)」って感じかな)

脳裏に描く知人からの情報で作ったモンタージュは、ふくよかなえびす顔であった。御しやすそうだ。
食堂の一画でなく部室という閉鎖環境ならゆっくり話もできるだろう……甘い匂いがする。居るようだ。

「失礼します。 小金井先輩っていらっしゃいます……か」

部室の扉を開ける。不躾にならぬよう会釈をして、目元の視えぬかわりに口元が微笑んだ――そして小さな驚きの形。
そこに居たのはママ男ではなかった。調理途中の職人然とした男だ。

「ど、どうも、お邪魔しましてっ……あの、小金井先輩は?」

小金井 陽 > 「よぉ、俺に用かい?先輩、ってことは後輩ちゃんか。俺が小金井センパイ…小金井陽だぜ、よろしくな。」
にっかりと、先刻まで長時間の製菓に勤しんでいたためか、汗の滲む顔をタオルで拭いている、イメージとはかけ離れた細身の銀髪男子。

「てっきり、何か食いたいから入ってきたのかと思ったんだが、違ったか?」

頻繁にあることなのか、ストレートに聞いてくるネコ目男子。…実際、先ほどからの香りは空腹中枢をほわほわ刺激するのに十分だったりする。

群千鳥 睡蓮 > 「あなたが……ああ、えっと……一年の群千鳥(むらちどり)です。
 先日、こちらに編入してきました。よろしく――あ、いえ」

あわてて体裁を取り繕うと、深呼吸をしてから名乗る。変わった名字は名乗りやすい。
光沢のある銀の髪に――視線のわかりにくい前髪の裏から筋肉質な肉体も観察。
スポーツマンでも通じそうだ。お菓子作りに精を出す男子学生、どんななよっちい見た目かと思っていたけれど。

「えっ?い、いや……先輩の噂を聞いて、ちょっとおはなししたいな、って思って……そんな犬猫じゃあるまいし…!
 でも、ほんとうに良いにおい。 お菓子って、作ってる時はこんなふうに香るんですね。
 ……そうです、って言ったら、食べさせてくれるんですか?」

既製品しか知らない身だ。興味もなかった。製菓もしない、と自白しつつ。
視覚と嗅覚から興味をそそるお菓子のむれを見渡してから、苦笑しつつ小首を傾げた。
確かにちょっと、本日のカリキュラム的にも、糖分は欲しい。会話をするにもだ。

小金井 陽 > 「群千鳥ちゃんだな、よろしく…ん?なんか俺の顔についてるか?」

笑って、睡蓮の観察を察知する一見ただ明るいだけのように見えるセンパイ男子。
たまたま気づいただけか、あるいは。

「俺の噂?噂…んー、噂されるようなことあるか?」
ほぼ毎日調理部や食堂で菓子作りしているだけなのだが、とは本人の認識。
友人知人ツテで、作りたてのお菓子が広まってるとは露知らず。

「ああ、作ってる最中とかな、出来立てとかたまらん匂いがするぜ。腹が鳴る。
おう、群千鳥ちゃんが食いてぇんなら、食っていきな。たーんまりあるぜ。」

メカクレ少女にニッカリ笑いかけ、丁度焼き上がったクッキー…は粗熱を冷ますまで網の上で休ませ、代わりにさっき焼き上げてたプレーンクッキーを、まずは差し出す。

「紅茶がいいか、それとも珈琲か?」
さらに飲み物まで用意してくれるようだ。

群千鳥 睡蓮 > 「はい、一緒に授業を受けたひとたちから……お菓子づくりが上手で、優しい先輩だって。
 あはは、そうですよね駄目ですよねってえっいいの……これ全部?」

少し素がまろび出た。気風のよい風体になるほど、と思う。
あの女生徒たちが嬉しそうに話してくれたわけだ。
人懐っこげな笑みを作ると、失礼します、と調理台近くの作業椅子に腰をかける。
……熱気が凄いな。少し暑い。深呼吸。 視線がすっと先輩に向く。僅かな汗の気配。
――さっき、視線に気づかれた気もする。眼を合わせてくれるだろうか。

「そこまで……? ……では、コーヒーをお願いします。
 なんか……その、会ったばっかりなのに、ありがとうございます、色々。
 わたし、異能とか魔術とか、そういうののデータを集めてるんですよ。
 この手帳に、この眼で見たもの、私が感じたものを記す……そういう異能なので……
 ――あ、いただきます、ありがとうございます」

手品のように、古びた手帳を取り出してみせる。胸襟は開いてみせておく。
鞄の中のウェットティッシュで拭い、そして改めてクッキーを手に取る…まだちょっと暖かい。
いい香り。吸い込みたくなっちゃう。半分ほどさくり。……甘い。既製品の、強烈な甘さはない。
もむもむと咀嚼。嚥下。……ふうん、地味な味じゃないか。美味しいけど。
そう思いながら流れるように、心身の求めるまま二枚目を手にとってぱくついた。味わうために眼を閉じる――
本懐をするりと忘れて、砂糖とバターの芳醇さに魅入られる。

小金井 陽 > 「優しい…んー?菓子作りのちょいとしたコツを伝えはしたが、優しい、ねぇ?
おう、旨く食ってくれるんなら全部でもいいぜ?」

ーーーそんな視線を向けてみれば、髪で隠れた瞳越しでも、視線を合わせて。
「窓は開けてたが、さっきまでオーブン使ってたからな。熱気がすげぇだろ。
扇風機つけるか。他の種類のクッキーはちょっと待ってくれな。」
作業椅子に腰掛けた後輩女子の前に
…ふぅわり、バターと砂糖、小麦粉の芳しい香り…コンビニスイーツでは、まず楽しめないできたての香りだ。

「オッケー、そんじゃちょいと待ってくれな。」
ガリガリガリガリガリガリ…コーヒーミルで豆から粉砕して、それをドリッパーにセット。ケトルからポットに湯を差し入れて、温度調整してから…抽出し始める。それだけで、調理室に満たされる…ほぅ、と吐息をつきたくなるような深くみずみずしい焙煎香。

「なるほど、群千鳥ちゃんは情報収集的な異能か。俺の異能は、なんの変哲もない…ま、言うなれば『鑑定』みてーな異能だからなぁ。集めても、ガッカリさせちまうかもな…っと。
言い忘れてた、カフェオレにも出来るが、どうするかねっと。」

ーーざらっっ。
追加で差し出される……紅茶、ほうじ茶、抹茶、チョコチップの香り豊かなクッキー。
形もさまざまであり、みててわくわくするかもしれない。

…そして、プレーンクッキーも…少し冷まされていたから気づかなかったが、あとから…ふわり、ほわり。地味と思われた味は、後追いするかのように香味を重ね。…『地味』というものは短所ではなく、『何枚でも食べたくなる』という長所も兼ねていることに気づかされる。

群千鳥 睡蓮 > 「……ふァッ!? ンンッッ、……え、と、…ぶ、ブラックで……
 ご、ごめんなさい、話の途中で……美味しいです、すごく」

びくぅっっ。
金貨の宝箱をひっくり返したような焼き菓子のおかわりが供されると、意識がようやく現実に戻ってこれた。
彼の感覚、洞察力――気遣い、という形で端々から見える注意力に、油断などならぬ筈だったのに
あっとう間に三枚食べちゃった。『鑑定』とか言ってたが、そういう異能だと言われても信じられる。
未熟を恥じるように顔を赤くしつつ、口元を拭う。

「たしかに、新しいもの、未知なるものには心が踊りますけど。
 異能ってそれだけ切り離したものじゃなくて。
 個性というか……人によっては疾患や持病、悩み、コンプレックスにもなるみたいですけど……
 ……等しく価値あるものだって、わたしは考えてます――それに、先輩『鑑定』って言いましたよね。
 素材の目利きとかに、異能をつかわれているとか?」

それとなく探りを入れてみるが――だとしたら。
鼻孔に感じる芳しい匂い。茶葉から出したてのアレ……チョコチップもそうだ。
異能によってより分けられたものなのでは。空調がよくなった部屋でも汗がにじみ、ごくりと喉を上下させる。
すいません、と一言ことわって、ブラウスのボタンをひとつ追加で開けた。
震える指先で――ああ、迷う。 ひときわ目立つ緑色から手にとって――さくり。ああ、これ効く……!

「んんぅー……っ」

小金井 陽 > 「オッケ、ブラックな。
んでもって、ありがとよ。俺はな、作ったもんを喜んでもらうのが嬉しいんだよ。」
なんの陰りもなく赤心の笑みを向けて、喜びを向けてくる。

「ああ、異能と人の個性は切り離せないように感じるな。ここの生徒たちをみてると尚更そう思うぜ。等しく価値あるもの、ってとこもな。
ほれ、お待たせ。」
目の前に置かれる、白陶器に揺蕩う深琥珀の液体。
………目前に在れば、より深い香が鼻腔を、胃を…心を満たし、やわらかなリラックスをもたらす。どこか心が凝り固まっていれば、そこがむず痒くなるような、安らぎの一杯。

「単刀直入に聞くねぇ。おう、俺の異能はコレを作るのに使われてるぜ。…レシピの研究に、な。」
茶目っ気あるネコ目でにっかり。どうやら、使いようによっては戦闘行為でかなりのアドバンテージを取れる異能を、少し前までの睡蓮にとっては唾棄すべきような行為…『製菓』に使っていたようだ。このスイーツ系男子は。

「こっちの四種が出来立てだ。香りも味も一層たまんねーだろ。な。
…っとと、群千鳥ちゃん。大胆だな。俺も男なんだぜ?」
大胆に、大きめの制服の胸元を寛げる後輩の行為を忠告しながらも、ラッキーには預かり『警告料』代わりに一瞥。相当なボリュームを確認する、しっかり。

…そして、茶葉クッキーもチョコクッキーも、全てが既製品とは一線を画す風味と味わい…飲み物…目の前の珈琲が、今まで喉に流し込んでいたインスタントコーヒーとは全く別のものに見えて、たまらなく欲しくなる…!!

群千鳥 睡蓮 > 「それは――とても素敵な――志だと……はい。頂きます」

それどころではなかった。
彼を信じるならば、供された珈琲がクッキーの風味を損ねるように淹れられているわけがない。
相手の技術への信頼が十分だからこそ、焼き菓子で乾いた喉をこれで潤すのが怖くすらあった。
まあ、飲むんだけど。口元に近づけて、はたと香りに気づく。
猫かぶりは苦ではないと思っていたが、無自覚の疲れがあったのかも――ひとくち。

「……っはぁ…………、なるほど……つまり、製菓、目利き……それらはすべて人力、先輩個人の修練によるもの。
 食べたもの――いや、なんらかの条件下で対象を深く識る異能。と見受けます。
 うん……、凄い、です。 ……すっごく美味しい……」

嘗てなら侮っただろう相手には、賞賛の言葉に悔しさが滲む。
何の変哲もない異能は、翻って応用力の高さに眼を瞠ることが多い。しかし彼は戦場を此処に選んだ。
客の喜びが彼の勝利なのだとしたら、大敗を喫している気がして……その感情をも"奥義書"に深く刻み込む。
この男を識る。他の誰のことも識らねば。
――……ああ、爽やかな苦味。茶葉のかぐわしさ。チョコのほろ苦さ。うん、敗けてる。
どれだけ無様に幸せそうな顔を浮かべていることだろう――瞬く間、ずっと観られていても、食べてしまい……
言われて、ばっ、と襟を寄せた。 今までとは違う赤を頬に浮かべ、じっと睨む。

「……そこは、鑑定しなくていいです……失礼しました。はしたなかったですね。
 いいんですかね、ほんとになんか、夢中になっちゃいましたけど……」

ご案内:「調理部室」に神代理央さんが現れました。
小金井 陽 > 「へへ、ありがとよ。ああ、だいたい正解だ、あんまり活用はできてねぇんだろうけどなぁ…んでもってな、群千鳥ちゃん。初対面の先輩が差し出がましいこと言うようで悪いが……ちょいと、肩の力抜いてみな。」

ぽんっ、と、睡蓮の小さな肩を軽く叩くてのひら。

「嫌なことでもあったのか、少しキリキリしているように見えたからな。
……嫌なことがあったら、身体動かして、旨いもん食って、飲んで、ぐーっすり、寝ちまうのがいいから、さ。…少しは助けになれたら、嬉しいってもんだ。」
ネコ目を笑いの形に細め、人好きする笑み。この男は、人の喜ぶ様が好ましいのだろう。そう、思える笑い方だ。

「ふふ、悪い悪い。んじゃ鑑定結果は言わないでおくぜ。
いやいや、夢中になっちまっていいんだよ。…うまいもん食ってる最中ってのは、そういうモンだろ?」

小金井 陽 > 「お…新しい来客か?」

人の気配を感じて、そちらに目を向けるエプロン男子。
…そろそろプリンの具合も、いいかもしれない。

神代理央 > 喧々諤々和気藹々な会議を終えても、仕事が終わった訳では無い。
部室棟にて、細々とした雑務や話し合いを終える頃には本格的に疲れ切っていた。主に脳が。

「……流石に疲れたな。早く帰って菓子でも…?」

その時、疲弊した己の脳は、嗅覚が察知した甘い匂いを見逃さなかった。いや、嗅ぎ逃さなかったというべきか。
無意識に足が向かい、辿り着いた先は『調理室』の札がかかった一室。其処から、強烈に甘美で甘味な匂いが鼻孔を擽る。

「…入っていい、のかな。いや、ちょっと除くだけ…なら。ああ、でも、風紀委員が突然入ってきたら驚くだろうか…」

そわそわ、おろおろ、と。甘味を求める本能と、体面を気にする理性が鍔迫り合い。
その果てに勝利したのは――

「……あの、こんにち、は?」

恐る恐る、といった体で扉を開いて中を覗き込む。
甘味への欲求が、理性をラリアットした後に象で踏み付けた。

小金井 陽 > 「おう、こんにちは。腹減ったんかね?」

そうやっておずおずと調理室に顔を覗かせた男子を迎えるのは、ざっくばらんに、それでいて嫌味なく切り込んでくる銀髪猫目の男子。
…見れば、目の前にはクッキーと珈琲を嗜む女子が座っていて…甘美な香りはそこから…否、まだまだありそうだ。心躍る香りの元が…!

群千鳥 睡蓮 > 「……そこまで親切にしてくれても、わたしは先輩に何か返してあげられないですよ?
 嬉しいですけど、なんかそこまでしてもらえると、そわそわしちゃうな……」

あんまり優しくされたことってなかったな、とぼんやり考えた、頬が熱いままだ、どうしよう。
一瞬の接触でどこまで見えるだろう。恵まれたウィングスパン。それを支える靭やかな首から肩、背の筋肉。
収集系の異能では説明のつかぬ身体能力。平然と嘘を吐く精神性。
大人ぶって受け入れたふりをして、賢しく立ち回っているつもりで、
苦い敗北、大きな失敗、意識の転換点へのわだかまり、夜毎の焦燥、フラストレーション、その発散ができない苛立ち。
それを支える、  れで  しが 

「――ッ、いま……!?」

接触が条件。 それを許した自分の未熟さに、ぶわりと毛を逆立てて振り向いた――来客。

「……こ、こんにちは。 えと、……確か……風紀委員の?」

ボタンふたつあけたブラウスの胸元おさえて顔赤くして息が荒いけど、何に問題もない状況だ。
自然な笑みを作って迎えてから、先輩のお客様かな?と陽先輩を伺うのだ。

神代理央 > さて、調理室に訪れた少年の目に映るもの。
先ずはお菓子の山。ついで、しなやかだがしっかりと筋肉を身に纏った細身の男子生徒。そして、顔を赤くして胸元を抑える女子生徒。

「………邪魔をしただろうか。出来れば、部室棟は健全に利用して欲しいんだが…」

あ、もしかしなくてもこれはお邪魔蟲だっただろうかと。
何とも。何とも気まずそうな表情を浮かべるが、腹が減ったのかと問われれば少し恥ずかしそうにコクリ、と頷くだろう。

小金井 陽 > 「んー、別に何を返して欲しいってわけじゃねぇさ。あえてお願いすんなら…
そんじゃまたスイーツの試食役にでもなってもらうか。良い反応だった。」

頰を赤くする睡蓮の反応に、まだ暑そうだから扇風機強めるかとか、トンチキなことを考えつつ。

「いや、初対面だぜ群千鳥ちゃん…って言いにくいな。下の名前、教えてもらっていいか?

…そんでもって、そこ?なーんか勘違いしてるようだが、俺ァこの子に菓子を提供してただけだぞ??」
手作り菓子を女子に提供することも多い陽は、似たような誤解を数回過去に受けたこともあり、即座に目の前の男子生徒のびみょーな空気を察知して。

「そりゃ良かった…んじゃ、そこらへんの椅子に適当に座りな。出来立てのクッキーとプリンをご馳走してやンよ。」
誤解を受けて苦笑から、にっかりと。ちゃっちゃか理央の分も準備し始める銀髪エプロン。まだ自己紹介すらしてないのに、せっかち!!

群千鳥 睡蓮 > 「試食……。 え、わたしに得しかない、ような……いや、でも。
 ……いや。 そうですね、わたしで良ければ、ぜひ。 
 もらいっぱは悪いので、なにかお土産とかもってくるようにします」

小金井陽。遠慮を抑え込む。彼は強者だ。学ぶべきところは、たくさんある。

「あ、なるほど。 居るんですね……本当に!お腹すいて、先輩に頼る人…!」

そう言う合間にも注意深く観察する。
神代理央。落第街をふらついた時、その高名が幾らか耳に飛び込んできた。
意外にも可愛らしい顔に見合う甘味好き……あるいは、ここを紹介してくれた女子と同じ、小金井先輩目当てか。

「? …いや、私がお邪魔させてもらってます。取材、というか研究活動の一貫で来たんですけど。
 小金井先輩の親切から、クッキーごちそうになっちゃって……
 あ。 真面目な話をするなら、退出しますけど……」

自分はただの学生。小金井陽の異能は記させてもらった。
今しがた「真面目な話」をしてきたとは知らないし、先輩目当てなら悪いかな、と気を利かせるのだ。

神代理央 > 「…そうなのか?いや、別に健全な男女交際を否定するつもりは無いし、多少は目を瞑るが…」

と言いつつも『出来立てのクッキーとプリン』に心がときめいた。
しずしず、とでも言う様に歩みを進めると、案内された席へちょこんと腰掛けた。
落第街を闊歩している時の高慢な態度はこれぽっちも無い。だってそこに甘味があるから。

「…む、そうだったのか。邪推してすまなかったな。いや、真面目な話はもう飽きる程してきたところだ。今日は本当に――その、菓子の匂いに釣られただけ、だ
私の事は気にせず、彼の菓子を堪能すると良い」

部屋を訪れた理由があまりにあんまりなのでちょっと口ごもったりもしたが。
彼女の言葉に漸く合点がいくと、銀髪男子とメカクレ少女に交互に視線を向けた後、申し訳なさそうに頭を下げる。
それでも。気まずさ全開でも此の場から立ち去れないのは、視界と嗅覚から脳内に襲い掛かる圧倒的な甘味の暴力故だろうか。

小金井 陽 > 「ああ、んじゃ決まりだなっ。スイーツ部の試食係任命、だ。
お土産か。食材とか助かるな、いろいろ工夫して調理させてもらうぜ?」

なんかするりと試食係に任じられた睡蓮。
お土産の話をされれば、真っ先に食材が飛び出す製菓バカである…。

「菓子を楽しむのに真面目な話もなんもねーってさ。
ああ、気にすんな気にすんな。そりゃ男女二人同じ空き教室に居れば、そういう誤解も起こるときもあらぁなぁ。んで、そっちの…名前聞かせてもらっていいか?お前さんは、珈琲と紅茶どっちにする?」
崩した口調で笑い、理央の誤解をそういうこともあるだろうと肯定して。

その上で、目の前にこんもりと…紅茶・ほうじ茶・抹茶・チョコチップ・プレーンの多種多様なクッキーの山と、冷蔵庫から出したばかりのプリンを理央と睡蓮の目の前に差し出す。

小金井 陽 > 「プリンのほうは冷蔵庫から出したばかりだからな、固まりきらずにプルプルってより、とろふわな食感になってる。…んで、ちょいと待ってな。」

…手早く水と砂糖を小鍋で煮立て、カラメルソースを作れば、小さなボウルに入れた生クリームを冷やし撹拌して、ホイップクリーム…それにカラメルをミックスして、即座にカラメルホイップを完成させれば…

たぁーーーーっぷり。

プリンの上に載せる…とろふわカラメルホイッププリンの完成だ。できたてカラメルホイップの香りがたまらない…

「ほいっと、いっちょあがり。ホイップは甘さ控えめにしてあっから、この量でもイケるはずだぜ。…疲れた顔してっからな、甘味は良い薬だ。召し上がれ、ってな。」
にっかり。

群千鳥 睡蓮 > 「ではご相伴に預からせて頂きますね……あ、わたし、一年の群千鳥です。
 部活、委員会は未だ無所属ですが、こちら――異能を書き記す異能でして、
 今日は小金井先輩のところに、色々とお聞きしに来た次第で」

彼がなんだか疲れている……のはわかる。
(噂だけじゃあ、ゴロマキ虐めてヒャッハーしてるハッピー野郎かと思ってたが…)
気苦労はあるようだ。風紀委員も大変だ。珈琲をすする。なんて声をかけたものかな。
いつぞやの、公安委員会の女性の言葉が頭に過ぎる。それならば――

「いつも、ありがとうございます。 神代先輩」

守ってくれて。自分が守られる側かはわからないが。
珈琲を一口。そこでようやく、陽と理央の間で交わされている会話の内容を理解した。

「……。 ……??? ち、ちが、違う!そういうんじゃないですからね! 
 そう、試食係、試食係です、わたし!ただの! ……ほら神代先輩も。
 疲れとか悩みとか一気に吹き飛びますよ……――おぉ」

クッキーは上品だったが、次に供されたものは……どこか暴力的!
凄い。コンビニの上に白い膜が乗ってるプリンじゃない!
真っ先に食べたいが…まずは、彼に笑顔は戻るだろうか?注視しちゃおうね。

神代理央 > 「ああ、すまない。名前も名乗らずに菓子を漁ろうというのは卑しいものであったな。
私は神代理央。二年生で、見ての通り風紀委員だ。宜しく頼む」

朗らかに笑う彼に此方も安堵した様に吐息と笑みを零す。
そのまま飲み物を問われれば、少し考える様な素振りを見せて――

「…普段は珈琲だから、今日は紅茶を頂こうかな」

と、真面目な表情で答えながらも既に視線はクッキーとプリンで固定されている。
そのプリンに出来立てのカラメルホイップが注がれる。此れは間違いなく視界の暴力。

「……それじゃあ、頂き、ます」

恐る恐るスプーンを差し込んで。たっぷりホイップの乗ったプリンを掬う。冷蔵庫から取り出されたばかりで、ふわふわのひやひや。
そのプリンをぱくりと口に運び――

「……~~っ…!」

へにょり、と顔面が崩れた。ゆっくり味わう様に咀嚼していて言葉は発しないが、彼が作ったプリンに対する評価はその表情が雄弁に物語っているだろうか。

神代理央 > 「群千鳥、か。今彼にも名乗ったが、私は神代理央。しがない風紀委員だが、宜しく頼む」

名乗られれば、きちんと彼女にも名乗り返す。
何だかんだ、彼女の空間を邪魔してしまったのではないかという負い目はまだちょっと持っていたりするので。

「……別に礼を言われる様な事はしていないぞ?寧ろ、邪魔をしたのではないかと此方が礼と謝罪を申し出たい気分だ」

彼女の礼に、きょとんとした様な表情を浮かべる。
自分にとって、彼や彼女の様な生徒を守る事は"当然の義務"であり、そこに感謝の感情が発生するとは露程も思っていない。
不思議そうに首を傾げるが、ついで彼女が見せた仕草にはクスリ、と口元を緩める。

「…分かった分かった。では大人しく、試食係に徹するとしようか」

そんなに慌てなくても良いのにな、と余裕すら見える様な表情で言葉を返したのも束の間。
プリンを頬張れば、あっという間にその表情は陥落してしまうだろう。プリンおそるべし。

小金井 陽 > 「ンなかたっ苦しいことは言いっこなしだぜぇ。神代理央…理央っちだな。俺は小金井陽だ、よろしくな。」
さっぱりした笑顔で挨拶された。あとなんか速攻であだ名つけられた。っちって、お前。

「おう、ホットかアイスはどうする?・・って、さっき群千鳥ちゃんにも聞きゃあ良かったな、あっついのにホットコーヒー出しちまったぜ。」
アイスコーヒーを出せるのを失念していたことに少し表情を苦くして、容器を熱湯で温める準備から…そして、茶葉を用意する。

「おっおっ、良い反応してくれるじゃねーか。いいぞー。」
にっかにか…見るからに『うンま…〜〜〜!!!!』的な反応してくれる風紀委員くんに、猫目を細めてすっごく嬉しそうである。
冷蔵庫から冷やしたての、完全に固まりきってないプリンが、ふわっふわのカラメルホイップと一体化して、喉をすぅっと滑り落ち溶ける…シンプルながら丁寧に仕込まれており、舌触りも味わいも、癒しの空間の彩りとなるだろう。

群千鳥 睡蓮 > 不思議そうに瞠目したのはこちらもだ。礼に対する彼の発言の意図を理解しかねて。
生粋のノブリスオブリージュを見た気がした。
風紀と公安、両委員会が興味深くなるが――
衆目が彼らへの感謝と敬意を忘れた瞬間、「終わる」気はした。

「…………ううん。 ありがとう、ですよ」

だからこそ、マジかよ……と、空恐ろしさすら感じる光景であった。
噂の御仁が甘味好きであるということも、それをここまで解きほぐしてしまうプリンの甘みも。
小金井先輩への信頼は確かにあるが――自分はクッキーを既に食べている。
抗体は出来ているはずである。試食係。負けっぱなしではいられない。
……カラメルが茶色いソースの形してないプリンってはじめてだな。すくう、おそるおそる。ぱくり。 

「んん、んん……ッ! ……ああ……、
 こっちは、濃い……クッキーよりも………はぅ……
 おかしいな、ちょっと食べれば満足するやつじゃなかったけ、プリンて……。
 なんか凄い狭い世界に生きてた気がしてきた…………ふふ、じゃあ。
 ホットのほうが、好きなんですけどね、汗もかいちゃったし、アイスのおかわりを頂いても…?」

上目遣い。甘えていいのなら甘えてしまおうじゃないか。神代先輩は甘えさせてくれなさそう。

神代理央 > 「理央っち……!?いや、まあ、別に良いんだが…」

名乗りを上げた訳では無いにしろ、落第街に赴けば『鉄火の支配者』という悪役めいた名前で呼ばれる事もある。
つまり『鉄火の支配者りおっち』である。弱そうだ。

「んー…敢えてホットで頂きたいな。時間をかけて、ゆっくり味わいたい」

季節柄には合わないかも知れないが、会議を終えた脳内は冷えた紅茶を流し込むより、スイーツと温かい紅茶を合わせて堪能する事を選択した。
概ね満足のいく選択であったため、脳内会議において満場一致の採択。

「…いや、その、何だ。本当に美味しい。今迄色んな店を食べ歩いてきたが、此処迄美味しいプリンは初めて食べたかも知れんな」

漸く表情筋が落ち着けば、短い言葉に最大級の賛辞を。
人を褒める事に慣れていないので、ありきたりな言葉ではあるが、それでも精一杯。彼に此のプリンは美味しいのだと伝えようとしているだろうか。

「普段は砂糖を山盛りかけるくらい甘いものが好きなんだが…この甘さは上品で、なめらかで、それでいて涼やかだ。口の中でとろける、などという陳腐な表現は使いたくはないが…ううむ、料理に対する語彙力が足りないな…」

神代理央 > 「…ふむ?まあ、群千鳥がそういうなら素直に受け取っておこう。意地を張るなんて、眼前の甘味に失礼だからな」

今一つ彼女の礼の意図を掴みかねてはいたようだが、それでも真摯に向けられた言葉には穏やかな笑みで応えるだろう。
その笑みも、プリンによって穏やかさ5割増しくらい。委員会の同僚が我が目を疑うくらいには、ぽやぽやしているだろう。

「むう、プリンへの賛辞では負けていられんが…此処は負けを認めよう。やはりスイーツへの感性は女子の方が鋭いと言うべきなんだろうか…」

何に対して対抗心を持っているんだ、という理性はプリンと一緒に胃の中へ。
彼女の言葉を真剣な表情で聞き入りながら、再びプリンを掬ってぽやぽやする。
甘えさせてくれ無さそう、という感想を抱かれた事についても、察する事の出来ないくらいには理性が甘味。

小金井 陽 > 「おー、じゃあ理央っちだ。」
どことなく困惑してる気配の理央に構うことなく、楽しそうにくっくっと笑って甘味を頬張る姿を満足そうに見て。

「分かった、そんじゃあポットで淹れるか・・・ちょいと待ってな。
クッキーも悪くないが、プリンもなかなかのモンだろう?ちょいと固め方を甘くしてみるとな、ホイップに絡めると蕩けるような味わいがますますたまらねーんだ。

んでもって、群千鳥ちゃんはアイスコーヒーのおかわりだな。おう、待ってな。」

そう言って、今度はティーカップの方にも湯を注いでから…ティーポットの湯を一度捨てて、茶葉をIN…勢いよく、沸騰した湯を注ぎ込んで、香りの良い茶葉が湯の中でくるくる躍る…
蒸らしている最中に、豆を砕き、ドリッパーにセットして…

「ほらよ、お待たせ。ミルクと砂糖は自由にな。」
丁寧に抽出したクッキー群との相性が抜群すぎるダージリンを、ポットサービスめいて理央の目の前に。茶葉の渋みが出ないように、既にティーポットの中の茶葉は引き上げ済みだ。

小金井 陽 > 「ーんでもってお待たせだ、群千鳥ちゃん。
これがな…楽しいんだ。」

イタズラっこのような笑い方で…睡蓮の目の前で、砕いた氷をたっぷり入れたひんやり涼やかなグラスを持ってきて、その上から、あつあつの珈琲をとろとろと……


……ぱき…ぱきぱきぱき…ぱきききききっっ…ぱきんっ……
……目の前で、あっつあつの珈琲急激に冷やされ、風味と香りが閉じ込められる。
氷が割れる様子も、みるみるまに溶けて、それでも残る様子も、見るからに美味を予想させるもので……
「ほいよ。ちょいとだけ待ってから飲むと旨いぞ。」
そうして完成したアイス珈琲を、睡蓮の目の前に差し出すのだった。

群千鳥 睡蓮 > 「……なるほどね」

自分だけだといまいち理解できないものの、理央の有様を見てみれば、
さっきよりもすんなりと、陽の言っていることが理解できるような気がした。

「え?わたしの勝ち?やったーって喜んでいいのかな。
 …わたしはなんか変な気分ですよ。
 ここでクッキーとプリン食べてなきゃ、神代先輩とこうやって、
 美味しいとか、嬉しいを共有することって、なかったんじゃないかって――ね……
 お、なんですか、なにかおもしろいことしてくれるんですか?」

頬杖ついて、神代理央という人間を前髪の奥から見つめた。
悪戯っぽい視線。仮面の下、行儀悪くスプーン揺らしながら。
視線は珈琲に……荒削りのかき氷。
なにが起こるのか、視線はグラスと、小金井先輩をいったりきたりする。
注がれる珈琲には、ぱちぱちと瞬きして……感嘆符を浮かべて、手をあわせる。

「あー、楽しいヤツ。 小金井先輩、もうお店開いちゃっていいんじゃないですかね…♪
 そっか、アイスはアイスで違う淹れ方するんだ。濃いめに作って……、あ。
 ね、神代先輩はやらないんですか、試食係。
 いろいろお店、巡ってるんでしょ? 経験というか、知識というか……
 (あたしの食べる)スイーツのクオリティアップとか、小金井先輩助かるんじゃないかなー、って」

どおです?って二人を見渡してみよう。いかに。 

神代理央 > 「…好きに呼んでくれて構わないが、外ではちゃんとした名前で呼んで欲しいものだな」

流石に外で理央っちなどと呼ばれた日にはちょっと威厳がマッハでヤバイ。これでも生真面目な委員で通しているつもり……なのだ。

「…くっきー」

プリンに誘惑されていたが、目の前には『私を忘れないでよ』と言わんばかりの多種多様なクッキーが並んでいる。
だが、プリンをきちんと完食してから召し上がりたい…。しかし、だからといってプリンを食する事を急ぎたくはない…!

「……私の分は取っておいてくれよ。あぁ、紅茶、有難う」

誰も取るとは言っていないのに、念押ししてしまう当たりちょっと情けない。
そんな自分を誤魔化す様にコホン、と咳払いした後、差し出されたカップをそっと持ち上げる。

「…折角入れてくれたんだから、最初は砂糖もミルクも無しで頂こう」

何時もなら、砂糖どばーのミルクどぼーなのだが。
今日は彼の腕を信じてみようと一口。

「……良い香り、だな。紅茶とは、こうして味わうものだったのか…」

一応、上流階級の生まれ。高い茶葉の紅茶も、それなりに嗜んできた。値段だけで言えば、今迄飲んできた紅茶の方が高いのだろう。
だが、これは違う。味は勿論だが、暖かい感情が籠っている様な気がする。
己の資産も、親の権威も、何も関係ない。此の紅茶を美味しく飲んで欲しいのだという、彼の想いが。

「…とても美味しい。安直な表現しか出来ないのが申し訳無いが、美味しいよ」

神代理央 > 「…確かにな。廊下から漂う匂いに負けていなければ、こうして穏やかな時間を過ごす事も。群千鳥と話をすることも無かっただろう。そう考えると、スイーツ様様、といったところだな」

己を見つめる彼女を見返すと、クスリ、と微笑んでみせる。
今見せている己は普段の姿ではない。普段、任務に当たる自分の姿は此の穏やかな空間には———
其処まで思考が至ると、無意識に彼女から視線を逸らせてしまうのだろうか。

「…む?試食係、か。そうさな、彼が良いのであれば是非とも引き受けたい役職ではある。
…というか、そもそも此処はその…部活動、なのか?部員が他にいるなら、それなりに賑わっているのかと思ったのだが」

すんごい今更な事を尋ねながら、二人に向けて首を傾げてみせるだろう。
部というより、同好会の類か何かかと考えながら、それは実に勿体無い話だとも思っていたり。

小金井 陽 > 「ああ、外では風紀委員としての威厳も保たねぇといけねーからな。んじゃ、外では理央だ、りおっち。」
スイーツ部の中での呼び名、ということなのだろう。堅苦しいのは苦手というのは心の底かららしい。

「急冷式っつってな。すぐにアイス珈琲を作る時のやり方なんだ。」
そんな豆知識を披露しながら、洗い物に取りかかり始めるエプロン男子。

「…少し凝り固まってた眉間がほぐれたようで何よりだ。

風紀委員の仕事も、学園全体の助けになってくれっからな。正直ありがてぇよ。
…ただ、まぁ、真面目にやりすぎてねーか?いい加減にやれとは言わねーけど、時々自分にご褒美くれてやりな。頑張ってるりおっち自身によ。」
洗い物をしながらのんびりと、スローモーなほどの口調で理央に話す猫目。
…紅茶の香りか、クッキーの誘惑か、プリンの甘味か。あるいは、目の前のアイス珈琲の芳しさか。あるいは、すべてか。その忠告が素直に届くような柔らかい空間が、ここにはあるかもしれない。

「ん?りおっちも試食係してくれるのか?そりゃ助かるな、なにしろ今は俺と涼子パイセンで二人しかいなくて、今しがた群千鳥ちゃんが試食係に入ってくれたくれーだからなぁ。」

…本当にスイーツ同好会だった。というよりも、部を名乗れないのではないか?

群千鳥 睡蓮 > 「……まあ!わたしみたいなのと仲良くなって、神代先輩に良いことがあるかは――保証しませんけどね。
 風紀を乱さぬよう、今後も邁進していきますけど(――校内喫煙と麻薬所持は黙っておこう)!
 あはは、とりませんよ。 独り占めしていいもんじゃないです、し……」

逃げた視線。なんとなくで逸らした動きではない。
理由を識るには、今後、「支配者」の顔と権能を見せてもらうしかないk…
あれ、あたしいままでクッキー何枚食ったっけ……?
容姿も体型も…自信は、ある。けども……先日ラーメンの後のアイスをやったばっかりだ。
もぞもぞ。自分のお腹にふれる。うん、過剰にぷにってはいない。指を押し込む。6LDK。
プリンをすくう。ぷゆゆん。黄金の祝福が柔らかく揺れる――唇をひらく。
赤い舌にそれを乗せた。こくりと嚥下。甘い。雪のように儚い。このままカロリーも消失すればいいのに。

「はぁ……♥ ……晩飯抜こ……」

自分がここまで、甘味が好きだとは思ってなかった。
かしゃり。氷の擦れる音が好きだ。両手でグラスを支える。火照った身体を冷やす。
ブラックが至上と言うほどの拘りはないが――雑味は要らない。苦味と酸味。
汗ばむ喉が一度二度。潤った。うん、あたしは頑張れる。偽りでない活力が笑みに宿る。

「確かに、デキャンター冷やすんじゃ時間もかかりますもんね。
 すっごく美味しいです…♥ ……ほんとにお金出させて欲しいくらいで。
 ……へええ? お菓子作りとかやりたい人おおそうですけどね。
 本格的だから入りづらいとか……同好会だとあれですか、予算があんまり出ないとか?
 確か、部活とかでも学生個人の経済活動は認められてたはず……ですけども」

グラスを揺らす。からから。たゆたゆ。小気味いい氷の音。
明らかにクッキーへの手付けが鈍くはなったが、珈琲を楽しみつつに疑問をぶつけた。

神代理央 > 「そういう事だ。まあ、砕けた雰囲気の風紀委員というのも悪くはないかも知れないが…私は、そうはいかないからな」

今更、年相応の少年の様に和気藹々と過ごすのは難しい。
だからこそ"外では"と言ってくれた彼に、微かに笑みを浮かべてみせる。
此の部屋では理央っち。そして一歩外に出れば、風紀委員の神代理央。それで良いではないか。

「……気遣い感謝するよ。正直、此処迄気を緩めてしまうとは思わなかった。才能なんだろうな、味もそうだが、此の場の雰囲気も含めて」

穏やかな時間。それは、焦がれる以前に己には縁が無いと思っていたもの。その欠片を与えられた此の場所で、プリンを口に運び、紅茶で喉を潤しながら瞳を細める。

「…部員二人では、確かに部を名乗るには…というか同好会も微妙だな。良く此の部屋の利用許可が下りたものだ。
…涼子?……まさかとは思うが、それは雪城涼子、という名の女子生徒では無いだろうな…?」

確か彼女もスイーツが好きと言っていた。しかし、いや、まさか。
もしそうなら世間は狭すぎないかと思いながら、首を傾げてみせる。

小金井 陽 > 「あと、冷蔵庫の容量も足りねえしな…
ははっ、腕がプロ並みになったらその時はお願いするとすっかな?
なんでか今のところ少ねぇんだよなぁ。ん?部費?同好会扱いだから出てねぇよ?俺の自腹。所謂趣味だな。」
…………あっけらかんと言い放つ。このスイーツバカ、思った以上にスイーツバカだったようだ…なお、アイス珈琲はブラックであっても、濃くはあっても飲みにくくはなく、グイグイいけてしまうくらいに飲みやすい、クリアな味わいだ。

神代理央 > 「友人関係というのは、損得勘定で築くものでもあるまい?
逆を言えば、二人が校則違反を犯しても庇ってやる事は出来ないがね」

少女の内心露知らず。
若干らしくない言葉を返しながら、クッキーは取らないと告げた彼女に冗談めかした口調と共に肩を竦めてみせる。
少なくとも此の場において、己についた二つ名を名乗っても誰にも信じて貰えはしないだろう。

「予算……そうか、予算か……」

そのまま甘味に舌鼓を打っていれば、ふと彼女の言葉に動きを止める。真面目な部活動運営と、担架取得と、資金繰りの現実的な問題点を聞けばふむ、と考え込む様な素振りとをした後、ゆっくりと口を開いて――

「それなら、その。もしよければだが。私もこの部活動に入部させてはくれないだろうか…?」

小金井 陽 > 「いろいろ苦労してんなぁ…ま、休みたい時ゃ気軽に顔出せよ、りおっち。
才能…実んとこ俺ぁ不器用だからなぁ。ま、あるとすりゃ、コレを楽しめる才能くらいかね。」
そう嘯き、先刻まで珈琲をドリップしていた機材や製菓道具を指差し笑う。

「人数がいねーと予算も下りねぇしな。まぁ、無いなら無いなりで…ん?そりゃ試食係って範疇でなく、ってことか?」
猫目をぱちくりさせて、小首を傾げる。なんか猫っぽい。

群千鳥 睡蓮 > 「では同好の士として、先輩後輩として……礼儀と敬意は失せずに。
 これからよろしくおねがいします、神代先輩。 今後、なにかあれば…♪」

たとえばそれは、自分が彼の敵ではない状況に限る友情か。
風紀委員。落第街の風説。彼が言ってのけた友人関係という言葉。
面映ゆく美しくも、扱い次第で壊れるようなガラス細工を受け取った気分。
――校則違反、犯してるからな。火遊びはやめとこ……今はまだ友達でいたい。

「えー……なんかもったいないですね。
 こんな美味しいお菓子と珈琲いただいてるのに、不自由があるってなると……
 ……人数合わせくらいにはなれますけど、査定でちゃんと活動が見られてないとかなったら困るな。
 試食係として広報…いやでも目立つのはな……でも新作とかは今後も食べさせてもらいたいしぃ……
 うーん……ん? ちょっとまって神代先輩、変なところで葛藤してませんでした?」

唇を尖らせた。無欲――とまでは言うまいが、質実剛健なスイーツ職人に足りない足回り。
完全に籍を置くとまではいくまいが、協力したいところはあった。一飯の礼、試食係の義務。
そんな思索のなかでも、同席している相手の言葉を聞き逃すほど迂闊ではなかった。
あくまで外側からだが、妙な論理の飛躍が見られた気がして、ぐるんと理央のほうに振り返る。

神代理央 > 「そうだ。先ず部員が足りないのだろう?ならば先ず私が入部すれば取り合えずプラス1名だ。まあ、未だ部を名乗るには心許ないが…」

先程迄のぽやぽやした姿はない。
寧ろ、何だか無駄にやる気すら感じられる。やる気というか、熱意というか。

「そして、私が入部した際には学園からの予算など気にする事は無い。全て私が出そう。少しばかり、金には余裕があってな」

「材料、設備、その他必要なものエトセトラ。
幾らあれば足りるか分からんが…まあ、幾らでも構わないさ。全部出す」

それは、中小企業にどかどかと融資を決めた銀行員の如く。
無駄に真面目な表情で「で、幾ら欲しい?」と言葉を締め括りる。
どうやら、此の部活動を本気で大きくしようとしている…様だ。

小金井 陽 > 「カフェテラスのほうで修行兼ねてバイトしているってのもあるが、
それでもまぁ、高額機材には手ェ出ないな。
あのな、群千鳥ちゃん。お前さんに無理して働かせたり目立たせたりするこたぁしないからよ、のんびりと試食係を続けてくれよ。」
楽な状況ではないだろうが、それでも笑い、今の状況を楽しみすらしてるように見える製菓師。ある種、自らへの楽しみに向き合い『戦っている』ようにも見える。…それも、苦境を楽しみながら。

小金井 陽 > 「ああ、そりゃ部として形を成してくれば話をもっていきやすいから…な…ん・んー?りおっち??なんか、さっきと違くねぇか?」

目を瞬かせて、全身からゆらりと熱気すら出しているようにも見える理央を見て。

「…………おーい、おいおいおいおい、おいぃい!?!!
なんか話デカくなってねぇか!?!いや、俺ぁ常日頃から身の丈にあった菓子作れてりゃいい…いや、いいわけじゃねぇが今はいいんだが!?」
一瞬ポロっと本音を溢しながらも、理央の暴走にツッコミを入れて。
…そのこぼれた本音は、間違いなく情熱に満ち満ちたものである。

神代理央 > 「…ん、此方こそ宜しくな。群千鳥。何かあれば、の何かが穏便なものであることを祈っているよ」

揶揄う様な言葉で笑みを浮かべながらも、その口調は穏やかでゆったりとしたもの。友人、或いは同志に向けた様な言葉は、普段の己からは出ない声色だろうか。

「……ん?そうかね?特に妙な葛藤をしたつもりは無いのだが。
美味しいスイーツの安定供給の為に、少しばかり小遣いを切り崩そうと思っただけの事さ」

ぐるり、と此方に振り返った彼女に返すのは悪戯っ子の様な笑み。
にんまりと、しかし自信に満ちたその表情は、彼女が決して思い違いをしている訳では無いと暗に告げている様なものだろうか。

神代理央 > 「良いか。身の丈にあった努力というのは確かに大事だ。だが、それで小金井は満足なのか?
環境が。時間が。そして何より金が。それらが揃えば、もっと高みを目指してみたいとは思わないのか?」

突然の仕事モード。もうぽやぽやしていない!
(無駄に)熱弁を振るいながら、プリンの最後の一かけらを堪能し、彼に視線を合わせる。

「皆に広めようじゃないか。美味しいスイーツを。暖かな空間を。心安らげる場所を。
それを成就させる為に、私を部員として迎え入れる気は無いか?」

断じて怪しい何かの勧誘ではないが。
ずい、と身を乗り出すと、彼から零れ落ちた本音の情熱を煽るかの様な言葉と共に、じっとその瞳を見つめるのだろう。

群千鳥 睡蓮 > ――プリンをキメてトぶ奴はじめて見たわ。
グラスを両手に持ったまま呆然と、出資者としての顔を見せた理央を眺めた。
どこぞの企業の御曹司と話は聞いていたが、私財を一部活に注ぎ込もうとはなんたる剛毅。
――存外面白い奴かも。 口端が無意識につり上がり、鋭い笑みを作り出す。

「それに……小金井先輩の『身の丈』が、神代先輩のご出資ってことなんじゃないですか。
 要するに能力が認められて、スポンサーが名乗り出た。
 前例の枚挙に暇なしの、普遍的な経済活動の一端です。
 まあ、神代先輩はあんまり経済的な利益とか考えてなさそうですけど……!」

じゃあ追撃してみよう。金持ちと職人が組んでくれれば個人的にも有り難いし。
男ふたり、形は違えど甘いものに掛ける情熱、本気というものには敬意を払う。

「もうおひとり居る同好会……?の方も交えての話になると思うんですけどね。
 まこと勝手な話になりますが、今回この部室を使ってることも含めて……
 いろいろ大変みたいなので、小金井先輩がお菓子作りに専念できる環境があれば。
 わたしも嬉しいし、きっといろんなひとの笑顔に繋がりますよ……たぶん!」

卑怯かもしれないが、いいじゃないか、羽ばたいても。

「……ま、もし賑わっても――
 こうやってひっそり楽しむ機会は今後も期待しちゃいますけど、ね。
 もうひとりにもお会いしたいなー。あー、幸せ……」

にしし。クッキーもう一枚食べちゃお。

小金井 陽 > 「そりゃすべてが満足とは言わねぇけどよっ!にしたっていきなりんなこと言われてもよ……っあー、くそっ…!」

もやもやを引っ掻くように、銀髪頭に手をあてて、わしゃわしゃわしゃわしゃっとかき乱す…って熱弁しながら食うんかい…!!って心の中でツッコミしながら。

「ぐっ…群千鳥ちゃん、お前もか…!?!」
ブルータス並みのバックアタックを喰らって戸惑い汗かくパイセン…認められるのはありがたい、菓子が喜ばれるのは嬉しい…しかし、それを理由に、突然に強力なバックアップをもらっていいものか…


………ひとしきり、わしわし頭を掻いてから。どことなく、不貞腐れたような、根負けしたような顔になり。なんとなく、不機嫌な猫そのものの表情だ。
「……ったく…そんなに期待されりゃあ、な。……わーったよ、やってやるよ!!グダグダ言うのは無しだっ全力でやってやらぁ!!ただ、涼子パイセンにも話しっかり通してからなっ!!」

怒ったような…その実、全身全霊で認めてもらった照れ隠しを含めた、理央と睡蓮への返答。それは、吹っ切れた肯定だった。

神代理央 > 「何を言うか。一応、利害も考えての事ではあるぞ?
スイーツ、甘味は所詮は嗜好品だ。だが、その嗜好品を楽しむ余裕すら無い者も此の島には存在する。
であれば。そういった者達にも彼のスイーツを振る舞えれば、多少の社会貢献活動と言えなくも無いだろうさ」

ものすごい後付けではあるが、風紀委員の過激派として会議で熱弁を振るった己が、まさかスイーツ部に資金を投資するなんて誰が想像出来るだろうか。そのギャップで多少イメージが緩和されないかなーとも思っている。緩和されなくても金は注ぎ込むのだが。

「………まあ、そうだな。常に満員御礼の場所では、こうして会話を楽しむ事も出来ない。偶にはこうして、穏やかに過ごす時間も設けなければな」

とはいえ、彼女の言葉には一理どころか万理ある。
小さく微笑んで同意する様に頷くと、此方も手を伸ばしてクッキーを齧るのだろう。
口の中で蕩ける甘みに、再びぽやぽやしていたり。

神代理央 > 「チャンスが訪れるのは何時だって突然で、それを掴む者が成功者足り得る。…と、堅苦しい事を言うが、そう気負う必要は無い。金は幾らでもあるから、好きなだけお前の望む料理やスイーツに力を入れて欲しい。それだけだよ」

結局は其処なのだ。一口食べて惚れ込んだ彼の料理の腕前を、もっと高めて欲しい。それをもっと多くの人に知って欲しい。
色々と熱弁を振るったり後付けで利害も考えているとか言ってみたが、最後に行きつくのは、そこ。
出逢ってまだ数刻も経っていない彼に、己に残った良心を金に換えて注いでみようと決めたのだ。

「……あー…そうだな。うん。話は、ちゃんと通さないとな…」

ただ、もう一人の部員――雪城涼子。
また説教とか無いだろうな、とちょっとアンニュイな気分になりながらクッキーを飲み込んだ。

群千鳥 睡蓮 > 果たしてこの強者、金を得て変わらずに居られるのかしら。
前髪の隙間から、興味をそそられた猫のように、瞬きをせずにじっと陽を観察。
いや。容易く変わってもらっては困る。手帳を開く。
そこに小金井陽の記述は増えていた。増えるたび、ほんの僅かだけ、自分は強くなる。
…しかし、張り詰めれれば鋼とて折れる。それを教えてくれたひと。
アイスコーヒーで喉を潤す。僅かにほぐれる。

「――うん。 すききらいはあるんだろうけど。
 甘いものというか、まあ、小金井先輩がつくってくれてるっていうのもあるのかな。
 ちょっとわたしも色々あったんで、楽になったところが……あったり、なかったり。
 まぁ、神代先輩ほどじゃないですけどねー?
 こういう気持ちを広く伝えるのが、神代先輩の辣腕なら……期待しちゃうかな」

がんばってくださいね。見上げる瞳もまた試すような色。
彼はきっと愚直な人。歪な炎を見つめるように。
面白い人たちと知り合った――面白い、美味しい。
この気持ちをいつか天秤にかけるときが来るまで、こんなゆるい時間をまたここで過ごしたい。

「ところで、リョーコさん……でしたっけ?
 どんな人なんです? いっしょにスイーツ同好会してる相方さんって」

本当に他愛ない女子高生のように、燃える男子ふたりにそれとなく聞くような。
そんな一幕を、しばらくのあとまで続けたことでしょう。 

ご案内:「調理部室」から群千鳥 睡蓮さんが去りました。
小金井 陽 > 「…さっきのお前さんの目の色を見ると、多分に私情が入ってそうな気がするようにも思えるんだが…ま、今更四の五の言わねーさ。」

私情バリバリの理央の心意気をなんとなく察知しながらも、その情熱は本物であることは疑いようがなく…苦笑しながらも、その情熱に応える心構えを、始める。

「ああ、勿論群千鳥ちゃんもりおっちも気軽にどんどん試食に来てくれよ。…いや、来い。焚きつけた分は、食ってもらうからな?」
にぃっかり……今までで一番輝く…否、凶悪なまでの笑みを浮かべるネコ目男子。なんだろう、この肉食獣めいた…食われる…いや、食わされるっ…!!

小金井 陽 > 「さらりと恐ろしいこと言うなオメー?!!金は一般的には有限だよ!!無限じゃねーよ!?!どこから突っ込んでいいかわかんねーよ大事に使うからな!?!」
それでいて、出資は受け入れる心構えはもうできている様子なのが、なかなか胆力はあるのかもしれない。

「ほっほぉ、群千鳥ちゃん。そう言われちゃぁ…いろいろと試食三昧してもらうしか、無くなるよな?」
料理人への殺文句には笑顔で。…乙女のお腹の、ピンチ…なるたけ低カロリーをリクエストしたほうがいいかもしれない…!

「ああ、涼子パイセンか。時々ムシャクシャしたときにスイーツ作りに来るみてーだから、そのときにでも捕まえれば…」
そして、今現在は不在のもう一人…陽と一緒にスイーツ部(同好会)を立ち上げた女性について、語り出すことだろう。二人の気が済むまでーーー

神代理央 > 「過去は過去。今は今――と、割り切れぬのもまた事実ではある。
だからこそ、時には忘れてしまう事も大事なのだろうさ。ほんの一瞬、一時だけ。例えば、美味しいお菓子を食べている時くらいはな」

色々あった、と告げる少女にはこなれた尊大な笑みを。
過去を踏み付け、今を踏み台にして明日を目指す己に取って、自分も他者も過去などどうでも良い事だった。
過去を忘れ去ってはいけない。忘れたら成長出来ないのだから。
しかし、時にはその重荷から解放されても良いのだろうと、偉そうな口調で彼女に告げるのだろうか。

「ああ、勿論私情だとも。寧ろ、私情無くして会ったばかりの男のパトロンになるものか。…まあ確かに無限とか幾らでも、というのは言い過ぎたな。すまない。幾らあれば事足りるのか、教えてくれれば嬉しいんだが…。
それと重ねて言うが、気負う必要は無い。ただ、期待している事だけは覚えておいて欲しいな」

己に取って、買い物の基準は大体兵器である。
業務用冷蔵庫を買うノリと、某国の戦闘ヘリとか某国の戦車とかを買うのは同じノリだ。
それだけの資金を投入した神代家は、よもやスイーツにその金が使われているとは夢にも思っていないだろう。神代家の野望の明日はどっちだ。

「……望むところだ。これでも、スイーツは別腹と信じている派でな。腕が上がらなくなるまで、作って貰おうか?」

情熱故の凶悪な笑みには、フフンと高慢な笑みを。
しかしてその高慢さは、普段のものとは違う。彼の情熱を受け止めるかの様な、そんな笑みだったのかもしれない。

「……中々。うん、そうだな。小金井に負けず劣らずのお人好しというか何というか――」

そんな雑談に花を咲かせながら、穏やかな時間は過ぎていくのだろう。

ご案内:「調理部室」から小金井 陽さんが去りました。
ご案内:「調理部室」から神代理央さんが去りました。