2020/07/18 のログ
ご案内:「第一教室棟 保健室」にラピスさんが現れました。
■ラピス > ひょこん。今日も保健室にやってきたへっぽこ教師は、革のトランクを携えていた。
薬師としての調合道具や様々な材料を修めたそれは、伝手で揃えた特注品だ。
トランクの中は見た目以上の容量があり、色々詰め込んで取り出せる仕様。
外装のお洒落な雰囲気もあって、お気に入りの一品だったりする。
「さってと、今日も今日とてお仕事ですよぅ」
今夜の仕事は、教師ではなく薬師の方。机上にトランクを乗せて、カチリと鍵を開く。
次いで中から取り出すのは、小型の薬研と乳棒、乳鉢、それからいくつかの黄金色の玉。
向こうが見える程に透き通ったそれは、少女の魔力を吸着させた琥珀。
これを砕いて糖蜜で固めれば、舐めるだけで魔力を底上げ・回復する飴玉が出来上がる。
「それじゃ、まずは砕きましょうか。」
金属製の薬研。その船の上に琥珀を置くと、同じく金属製の薬研車で幾度か叩いて砕き割る。
ある程度小さな粒へと変わったならば、次いで薬研の上でゴリゴリと、粉末になるまで轢き潰す。
ごりごり、ごりごり。静かな室内に、一定の間隔で金属の擦れる音が響く。
ご案内:「第一教室棟 保健室」にセレネさんが現れました。
■セレネ > 流石に、連日で休むわけにはいかない、と
フラフラな身体のまま学校に来たまでは良かったが。
やはり普段通りとはいかないのですぐさま保健室まで連れ込まれたのが朝からの出来事。
いつの間にか眠ってしまっていたのだろう、真っ白の清潔なベッドの上で目が覚めた。
身体が軋む。
聞こえづらい耳にも何となく聞こえる、一定間隔で何かが擦り潰される音。
「…あー、誰か居るのですか…。」
身体が起こせない。
だから力ない声で同じ室内にいる彼女に声をかけた。
■ラピス > ごりごり、ごりごり。それなりな重量を持つ薬研車は、一往復毎に琥珀を砕く。
ぱき、ぺき、と時折聞こえる破砕音も、慣れてしまえば中々に耳障りが良い。
それは、口の中で氷や飴玉を噛み砕くような音。あれは癖になるものだ。
それから、皿に薬研車を数往復。最初の一つを粉砕し終えて、手を止めた刹那――。
「ありゃ、先客さん、居たのですね。うっかり気づきませんでした。
起こしちゃってごめんなさい――経過を見ましょうか。大丈夫ですかー?」
誰何の声に、これはしまった、と言葉を返しつつ、ひょいと椅子から降りる。
酷く弱々しい声音は、聞いたことのあるような。それも、顔を見れば分かるはず。
さてさて、どなたかしらとベッドに近づいて行く少女だが――。
「……って、セレネちゃんじゃないですかっ、どうしました!?」
――寝ていたのは、仲良しで顔馴染みな彼女だった。どうやら大分弱っている様子。
一体何があったのか。事情を知らぬ少女は、とりあえずパタパタと枕元へと寄っていく。
彼女が何かを話すのに、無理して身を起こさなくても良いように。
■セレネ > 聞こえた声は見知った声。
……あぁ、これは不味ったなぁとの言葉は胸中に。
己と知るやいなや、パタパタと駆けてくる相手に口元だけ苦笑を浮かべた。
「あは、は。いやぁ、ちょっと…その、魔力不足でダウン中です…。」
お香を焚きながら考え事をしていたら
うっかり魔力回路を絞るのを忘れてて暫く魔力が洩れてましたーなんて。
――言ったら怒りそう。
片方の目は見えないので、前髪で覆ってしまっている。
だから心配そうに己を見る相手を片目でしか見られない。
■ラピス > 眼前で弱々しく笑みを浮かべる彼女。伏せる理由は魔力不足とのこと。
彼女は月光浴で魔力を補充すると聞いた。最近は梅雨の天候不良で、魔力補充が上手く出来ないことも。。
また、彼女は魔術の心得があるとも言っていた。魔力回路の調整にも自信がある、とも。
そこから導き出される答えは、魔力を消費する用事があったか、或いは――。
「――もしかして、先生が渡したお香、使ったんですか?
それにしては、セレネちゃんからお香の匂いがしないのですが……」
――教師が作った、魔力回路を強制的に開くお香の服用結果だ。
もしも魔力をごっそり失ってしまったならば、その時はすぐに駆け込む様にと話したはず。
いずれにせよ、まずすべきことは症状の確認とその緩和だ。経緯は後で構わない。
「……セレネちゃん、隠さず正直に答えてくださいね。
前に一通り、セレネちゃんが魔力足りなくなった時の話を聞きました。
軽度で疲労感や筋肉痛、中度で五感に症状が出る、という話でしたね。
――様子を見るに中度以上の症状が出ています。不調を詳しく、教えて下さい」
先に会話した内容を思い出しつつの問診。ついでに教師自身の魔力回路を意図的に開く。
ゆらりと陽炎のように立ち上り、拡がっていく淡い緑色の燐光。少女由来の魔力だ。
周囲の空気に魔力を含ませれば、少しばかりは楽になるかも知れない、という算段での処置だった。
■セレネ > 聞こえづらい耳を何とか澄ませ、相手の言葉を聞き取る。
「…え、と。
お香を使ったのは…その。一昨日でして。」
一日放置してました。
相手には嘘はつくべきではないと思い、素直に話す。
「――不調は。
…全身の慢性的な痛みと疲労感、それに視覚と聴覚に異常が。
片目は完全に見えない状態です、ね。両目じゃないだけマシでしょうけど…。」
言いながら、見える方の目が追うのは彼女自身の魔力の色。
己の色と違う、優しい淡い緑の色だ。
「お香を焚きながら考え事なんて、するべきじゃないですねー…。」
■ラピス > 「――セレネちゃん、後でお説教です。覚悟しててくださいね」
あれ程言ったのに。少女は嘆息しつつ、じろりと彼女へと視線を向ける。
彼女とは仲良しだ。それが変わることはない。しかし、約束を守らないなら当然怒る。
へっぽこ少女だって、いつもニコニコなわけではないのだ。
「全く、大分やばいじゃないですか。機能は何してたんですか?
――魔力、そんなにすぐ回復するものじゃないでしょうに……」
ちょうど今調合していた飴も魔力を回復する力はあるが、即効性は皆無だ。
或いは彼女に魔法薬を投与してもいいが、今は手持ちの有り合わせがない。
そもそもそれを作るために、今日保健室に居たのだし、何より調合は大分時間がかかる。
さて、どうしたものか。頭の中で考えをこねくり回しつつ。
「……一応、手段は三つありますね。
一つは、先生が今調合している飴玉。大分長くかかりますが、少しずつ回復してくれます。
次は、先生の魔術で月の精霊を呼び出して、擬似的な月光を生み出す方法です。
これは、先生の魔力がどのくらい持つかが問題ですね。まぁ、あんまし期待はしないでください。
あとはまぁ、それ以外の方法を取るか、ですが……」
彼女に視線を向けて、むむー、と呻いてから。
「まぁ、命に別条はない様ですから、セレネちゃんの意見も聞きましょう。
それと、治験の間に考え事するなんて命知らずな行為は今後しないように。良いですね?」
とりあえず当分は彼女を治験に使うのはやめよう。固く心に誓った。
■セレネ > 「――はい。
あ、あと。…その。この事は暁先生にはご内密にお願いします…。」
お説教でも何でも受けるから、だからこの事は彼には言わないで欲しいと。
それだけは、聞いて欲しい。
「途中で不調に、気付いて…。
で、下弦の月でしたけど当たらないよりマシかなって思って
補充してたのですけど…間に合いませんでした。」
補充量より漏出量の方が多かった。
これは己の計算ミスだと反省する。
「二つ目の方法は、貴女に負担がかかりますから…。
飴玉、も気にはなりますけれど…。
その飴玉、可能ならいくつか頂いても宜しいですか。」
魔力のリジェネ効果のある飴玉とは、と興味が湧いた。
別の方法、あるにはあるけれど、も。
…受けてくれるかなぁ。あの人が。
「別の方法、あるにはあるんですけど…。
――承知しました…以後気を付けます。」
とりあえずは動けるまで回復しなければ三つ目の行動に移れない。
しょげた表情で頷いた。
■ラピス > 「言える訳ないじゃないですか。監督不行き届きで先生がやばいですし。
――しかし、恋は盲目と言いますけれど、ここまでとは、ねぇ……」
彼女が無茶をした事実を告げれば、彼は必ず怒る。そして呆れる。そんな気がする。
事実がどうかはわからないが、そんな光景が思い浮かんだから、閉口するしかない。
とは言え、彼にバレずに完治する、というのもなかなか難しくないか、とも思うのだが。
「今はただでさえ梅雨で天気が不安定なのですから、想定が甘いです。
先生に声をかけてから、とかであればすぐに対処も出来たのですよ?
セレネちゃんは、何事も自分だけで片付けようとするのが悪い癖です」
こつん、と拳を握って、彼女の頭を軽く小突く。この位はしてもいいはずだ。
処置に関して、こちらの身を案ずる言葉には嘆息しながら。
「セレネちゃんが勝手をしたなら、先生も勝手をしますよ。負担なんかどうでも良いです。
――飴はもちろん処方しますが、劇的な効果は見込めないので、他と併用が望ましいのです」
魔力の回復効果は、単純に琥珀に含んだ魔力をゆっくりと摂取するだけのことだ。
彼女の体内に少女の魔力を入れて、時間をかけて彼女の魔力に馴染ませる。
飴玉だけで、彼女がとこから起き上がるには、幾つ必要かもわからない。
「……それか、後思いつくのは、先生の魔力を直接セレネちゃんに分けてあげるか、ですね。
やり方はまぁ、房中術の応用になるので、あまりおすすめはしませんが……」
治験を兼ねての情報収集で、魔力の受け渡し方なども蔵書を紐解いた。
その中で読んだ一冊には、身体接触を起点とした術式なども存在していた。
使う機会などないだろう、と知識として頭に入れていた事柄だから、勧めるつもりはない。
なにせそういうことは、そういう相手とするものだろうし、というのが教師の思いだった。
■セレネ > 「ぃえ、その、あの、確かに片思いはしてますけども、
こ、今回は私の自業自得なので…。」
若干焦る。相手の想像は己も同じで、
きっとあの人は怒るだろう。だからこれは何としても秘匿しなければならない。
完治はせずとも、動けるようになれれば問題はない。
「…昔から、一人で何でもやってきたせいなのでしょうね。
頼れるような人って殆どおりませんでしたから。」
彼女の小さな拳が己の頭を小突いた。
あう、と小さな声を上げてはしょんぼりと。
「えぇー、うー…でも…。」
今回の事は自業自得なのだし、だからこれ以上相手に負担をかけるのは申し訳ない。
飴は処方してもらえると聞くと、ちょっと安堵。
「房中術……あぁ…あー、なる、ほど。
うーん…。」
実際応急程度ではあれど”それ”をしている身としては、複雑な気持ち。
男性とはあるが、同性同士は経験がない。
「…一人、心当たりがある、ので…。
その人を頼ってみようかと。
先生も、その、同性とは…複雑でしょう、し。」
言ってて恥ずかしくなってきた。
赤く染まる顔を前髪で隠そうとしながら。
■ラピス > 「そんなになるまで放っておいて、言い訳できるとお思いですか?
まぁ、先生としては、セレネちゃんがこっぴどく怒られるのも有りだと思いますが」
それでギクシャクするのは可愛そうですからね、とは内心で。
とは言え、彼女が動けるようになるまで、というのも中々難しい。
どれほど魔力が回復すれば動けるようになるかは、少女的に未知数だ。
飴と月の精霊で足りるのか、それとももっと必要なのか。
自分までヘタれる訳にいかないから、不用意に錬成できないのも問題だった。
「あのねぇ、昔は昔、今は今です。それとも、先生は頼ってもらえないですか?
遠慮しなきゃいけない程、頼りない存在ですか?だとしたら、未熟を猛省します。
ですが、そうでないのなら、頼りなさい。これは、お願いじゃないです。命令です」
彼女に選択肢を与えたら、彼女が抱え込む選択を選ぶ。
だから、選ばせない。その程度には、しっかり怒っているのだから。
「でももなにもないです。呪うなら、手間かけさせた浅慮なセレネちゃんを、です。
どうして人には気を使えるのに自分をぞんざいにするんですか。それで悲しむ人も、居るんですよ?」
このまま説教を始めてしまいそうだから、ふぅ、と息を吐いて堪える。
今は冷静さを欠くべきではないのだ。彼女のためにも。
「あー……その心当たりが、暁先生だったら普通にバレますよね。
ヘロヘロで向かうのですから、詰問されたら隠し通せないでしょうし。
――あぁ、先生はそこらへん気にしないので、こっちは気にしなくて良いです。
セレネちゃんがどうしたいか、だけ考えてください。どうしたくないか、でも良いですが」
赤面する彼女を見ながら、しかしへっぽこ教師は平常通り。
中身はどうあれ、効果的なのは確かなのだ。少なくとも、飴玉よりは、確実に。
■セレネ > 「……。」
相手の言葉には確かにその通りだと口を噤んだ。
だが、中度程度の魔力不足なら動けるようになるまでは
そこまで大量にという事でもない。
必要なのは”動ける”事だから、平常に歩ければそれで良いのだし。
「いえ、決してそんな事は…。
――…分かり、ました。すみません…。」
普段は可愛らしく優しい相手が今回ばかりは怒っている。
それもそうか、と納得してはコクと小さく頷きを。
続けられる相手の言葉には、一応の理由はあるけれど。
それを言ったら更に怒られそうだから黙っておいた。
「ぅっ…!
せ、先生?そこは気にするべきでは…?
た、確かに効果的なのは…その、分かってますけど…。」
心当たり、大正解。
そして同性相手でも気にしないとの言葉には、ちょっと困惑した。
そっちも平気なのかと少し唖然としながらも。
「…じゃあ、飴と月の精霊を喚ぶ方法でお願いします。
動ければ大丈夫なので…そこまで長く喚んで頂く事はないと思います。」