2020/07/19 のログ
■ラピス > 「余りに無理が過ぎる様なら、連座で怒られるのも覚悟で言っちゃいますからね。
それが嫌なのであれば、ちゃんと自愛してください。医者の指示は絶対。分かってますね?」
正式な医者ではないが、保健室の中ではしっかり保険医である。
彼女が他の患者を診るなら、告げそうな言葉で先手を打っておく。
こういう時に逃げ場を与えると、有耶無耶になりかねないのだから。
「本当に分かってます?―― 一度約束破ってるんですから、疑われるのは覚悟の上ですよね?
……先生だって、セレネちゃんを信じたいので、分かってください。お願いですよ」
相手が大事だからこそ、怒る時はしっかりと怒らねばなるまい。
彼女がどうあれ、彼女を大事にしていることを、表にしなければなるまい。
表現しなければ伝わらないし、こうした思いは、どれだけ表現したってし足りないのだから。
「人を好きになるのに、性別とか関係ないですからねぇ、昨今は。
それに、親愛からの情交ではなく、必要な施療としての行為ですから。
あぁ、セレネちゃんに親愛の感情を持ってないわけじゃないですよ?
勿論、先生はセレネちゃんがお望みなら甘い夜に耽るのも構いませんけども」
へっぽこ教師は、そういう面も割とフラットで、割と何でも許容する。
それに、相談事で時折、同性での恋愛やら何やらの話を聞く機会もある。
それ故か、偏見などは持っていないし、忌避感などもなかったりする。
ともあれ、彼女が望みを告げるなら、少女はコクと頷いて。
「それじゃ、まずは飴玉ですが、糖蜜でも良いですかね?
固める過程を必要としないなら、今すぐに用意できますので。
あとは、擬似的な月を用意するのですから、琥珀じゃない方が良いですよねぇ」
まずは術式の準備だ。ぱたぱたと机上のトランクに駆け寄ると、取り出すのは糖蜜の瓶。
薬研の中に糖蜜を垂らすと、後は数度匙で掻き回してから小皿の上に。彼女に処方する回復薬だ。
次いで、トランクを漁って取り出すのは、乳白色の球体をあしらったペンダント。
ぐい、と引き抜き、糖蜜の皿と机上の琥珀を一緒に持って、もう一度パタパタと彼女の元へ。
「ほい、それじゃ、まずはこれを手元に。月長石のネックレスです。
月を模すので、同じ様な色味で、丸っこいものをとりあえず用意しました。
それと、お口開けてくださいな。糖蜜、流し入れてあげますから……」
彼女の準備が整うまでに、ベッドの上の空いた場所に琥珀を幾つか起き並べる。
少女自身の魔力を染み込ませた、儀式用のブースター代わりだ。
後は、小さく呪文を唱えると、彼女に渡した月長石が淡い燐光を放ち始める。
月の精霊を宿した球体。その淡い光は、どれほど彼女の助けになってくれるだろうか。
後は、彼女の口元に時折糖蜜を含ませながら、側で精霊を宥めすかし、少しでも長く居てもらえる様に気を配るのみで。
■セレネ > 過去、此処まで他者に怒られたのは初めてで。
正直どう反応すれば良いのか分からずただ頷くだけ。
それとやはり相手は己をよく見ていると感じた。
逃げ道が少しでもあれば、あれこれ理屈をつけて逃げるだろう事柄を
悉く潰されてしまっている。
同じ医療従事者故、よく頭が回る。
「言葉で示すより今後の行動で示しますよ…。
其方の方が確実です。」
いくら言葉で言い連ねたとて、行動は心理を如実に表すのだ。
それは痛い程よく知っているし、それで手酷く裏切られたのだから。
「ふぇっ…?!」
顔の熱が増した。そういう話はまだ生娘らしく、慣れないので動きづらい首を細かく振って。
一瞬彼女と…なんて想像が働いてしまったけれど、それは、その、うん。
見た目も含め不味い気がした。
身体が上手く動かないのでどう顔の熱を冷まそうか悩みつつ、
相手の言葉をただ受け入れて。
駆けて行った彼女が持っていたのは、己が首に掛けている
ムーンストーンと同じペンダント。
厳密に言えば、己のこれは自身から零れた神格なのだが。
「あ、有難う御座います…。」
時折糖蜜を口に運ばれつつ、相手が喚んだ月の精霊に目を細めて。
その際、己の髪が淡い蒼の光を帯びているのが分かるだろう。
「…貴女は、精霊魔法も扱えるのですね。」
精霊とは契約していない身なので、それは羨ましいと思ってしまった。
■ラピス > 今の少女は、教師としてより、一人の友人として怒っている。
それも、彼女を大の仲良しと認めたから、という感情があってのもの。
先生と生徒、という枠は、今の彼女を相手にするなら不要なのだから。
「えぇ、お願いします。その代わり、しっかり見守ってますから。
怪我でも病気でも何もなくても、先生はセレネちゃんを見てますからね?」
彼女は誠実だ。言葉にしたなら、嘘にはするまい。
そこは信じているから、後はとやかく言わないことにする。
口うるさく言い過ぎても、それは不信の現れなのだから。
「――おや、顔を赤くするなんて、想像でもしましたか?
ふふ、これでも先生ですからね。優しくしますよ、その時は」
くすくす。本気か冗談かわからないからかいを滲ませる。
流石に彼女がそう望まぬ限り、そういう遊びをするつもりはない。
或いは本気になるにしても、だ。必要な施療でない限りは。
等と話しつつも、ふわふわと浮かぶ月長石の制御は忘れない。
気を抜くとすぐに消えてしまいそうな、淡い光を保ちながら。
「先生自身が半精霊なので、その縁から手伝ってもらってます。
勿論、対価は必要ですから、後でたっぷりわがまま言われますけどね」
苦笑しながら、糖蜜を舐める彼女を撫でる。ぽふぽふ、なでり。
我慢して不安だったろうに、不便だったろうに。そんな労りの思いを込めて。
後はそのまま、彼女が眠りにつくまで看病し、そのまま少女も寝落ちることに。
翌朝、彼女が動けるようになっていたら、とりあえずは一安心。
その後、お茶会じみたお説教が始まったことは言うまでもない――。
■セレネ > あぁ、彼女は己を生徒としてではなく一人の友人として扱ってくれている。
それに嬉しさを感じると共、己が”名”を告げてしまおうかと思う気もあり。
「…貴女に嘘はつけなさそうだと、改めて感じました。
私も心理学は学んでいるのですけどね…やはり独学だと難しいものもありますから。」
見られているという意思は、それは良い抑止力となる。
今後は無茶は出来ない…というより、無茶をしても隠し通せない。
だから、彼女には全てを明らかにせねばなるまいと。
「へぅっ!?
い、い、いえ、べ、別にそんな事は…っ!」
遊ばれてしまっている。
何とか引かせようとしていた熱は相手の言葉により悪化した。
「…ほぅ、貴女は半精霊…なのですね。
精霊は我儘だってよく聞きますからねぇ…。」
己は今は半神だけれど。
いつかは元に戻りたいものだと思う。
元は弱くも一柱であったから。
「ねぇ、先生。
私の”本当の名前”は――。」
彼女が一人の”友人”として扱ってくれるなら。
己もそれに応えようと。
微睡みに落ちつつも、己が真名を告げて。
ただ”これ”は、決して口外してはならぬとだけ伝えて。
一時の眠りに就いた後、待っていたお説教には頭を下げるばかりだった。
ご案内:「第一教室棟 保健室」からラピスさんが去りました。
ご案内:「第一教室棟 保健室」からセレネさんが去りました。