2020/08/07 のログ
ご案内:「第一教室棟 屋上」に月夜見 真琴さんが現れました。
ご案内:「第一教室棟 屋上」にキッドさんが現れました。
■月夜見 真琴 > 「失敗したな」
高く、甘いこえで、呟きを紫煙のように吐き出した。
影の降りた銀瞳を細める。
照りつける日光が、麦わら帽子の鍔から雨だれのように滑り落ちる向こう、
イーゼルには蒼穹と白雲が写し取られていた。
「急に暑くなった――この雲ならば海と共に見上げたい」
筆を動かすうでは、真夏の暑気に汗ばんでいる。
このままだと火傷しそうだな、と一発描きの習作の進退を見極めた。
庭園の中央にイーゼルを立て、椅子に座って日中を過ごす女の気持ちは暗い。
傍らに置いたボトルクーラーには、まだ十二分のミネラルウォーターが残っていて、
それが一層悩ませてくるのだ。
「しかしだ。 檻に戻れば義務が待つ。夏場と冬場は色々と忙しい。困ったものだ。
行き詰まっているのだよ、いっそ飛び去ってしまいたいな?
さて、そんな時――おまえならどうする?」
■キッド >
「檻をぶち破って青空の下で自由に気ままに……退屈と束縛は、俺の趣味じゃねェ。」
屋上の前にいた少年は、ヘッと鼻で笑い飛ばして答えた。
孤高のガンマンが求めるのは自由と刺激。
飛び去ってしまいたいなら力づくでも飛び去り
それこそ力強く鷹のように羽ばたくのも悪くない。
咥え煙草、臭いの無い白い煙が屋上中に漂い始めた。
「尤も、アンタの"ソレ"は許されないだろうがね。一応、初めましてだな?」
含みある言葉を残し、カツ、カツ、とわざとらしい位の足音を立て近づいてくる。
炎天下の日差しに、ホルスターに携えられた銀の大型拳銃が爛々と輝いた。
キャップの奥、目深にかぶられた向こう側で、碧眼が静かに真琴を見据えていた。
少年は職務に対してはある程度生真面目だ。
"監視対象"となる人間の事に関しては、ある程度資料は目通ししている。
とは言え、基本的にやっていることは風来坊。
風のままに、道行くままに悪を裁く。そんな連中と接触することはないと思っていたが
矢張り狭い学園の中、そう上手くはいかないようだ。
ふぅ、とわざとらしく白い煙を吐きだし真琴を見下ろした。
「さて、お互いに自己紹介は……必要かな?」
■月夜見 真琴 > 「おや? 此処はまだ、やつがれに許されている庭のはずだが。
そうでなくなったのなら済まないな」
からかうような含み笑い。
自分に許されていないものとは、果たしてどれのことだろう。
そちらを振り向かずに、青の乗った絵筆を肩越しに見せた。
「牛追い小僧だったかな? たしか"刑事課"の。
保安官よろしく、投げ縄で引っ立てにでも来たのかな。
だとしたら御手柔らかに頼むよ、この服は気に入っているんだ」
この時間にそういうの、よくやっているななどと笑って。
暇人はお昼にテレビを見ていることが多いのだ。
無防備に背を晒す。隙だらけの小さい背中。
「おまえの風紀活動にも、できる限り協力はするつもりだよ?
鼻つまみ者なりに仲間意識はあるのでね。
話せと言われれば話すし、手伝えと言われれば許される範囲で手伝うとも。
ただ偶然ここに訪れて、やつがれに出会ってしまった幸運の持ち主なら――そうさな。
暇つぶしの話に付き合えというなら、少しの間は手を止めても構わんよ」
身体を後ろに倒して、帽子が落ちないように左手で支えた。
逆しまの銀瞳が、彼の面差しをなぞるようなまなざしで見上げる。
■キッド >
「よく言うぜ。本来なら豚箱にいってるような女が、"許し"なんて口にするかい?
百歩譲って、こんなモンは日和った連中の"お情け"だろうよ。」
少なくとも監視対象になえりことは彼女はした。
過激派と誹られるキッドは、何時だって"悪"の気配に敏感だ。
そこに老若男女の区別はなく、等しく弾丸で裁かれるべき対象。
精々地下牢行きがいい所なのに、"充分過ぎる"自由が許されている。
ハッキリ言えば、不可解だ。此の島で毒を以て毒を、なんてする必要があるのか、と。
「……よくご存じなこって。ろくでなしのクソガキ、キッドって言えば
少しは名も売れたか?ヘッ……縄を使うかどうかは、俺が決めるさ。」
「アンタにゃ、虫取り網でも充分は羽虫かもしれないがね。」
何とも妙な雰囲気の女だとキッドは思った。
鼓膜を揺らすような声音、飄々とした態度。
"口が上手い"と言えばそうだが、見透かしたような態度が癪に障る。
……妖精は時に、人間の子を攫ってしまうと言う話を聞いた事がある。
成る程、ならこれは魔性と言う奴かも知れない。
得体の知れない、女の奥底。但し、キッド"は"……。
「ヘッ、爪弾き同士はお互い様ってか?
幸運?アンラッキーの間違いだろ?お互い、"ツイテない"って嘆いて
その辺で傷のなめ合いみてェにピクルスでも齧ってるのがお似合いかもしれねェな?」
それに臆する事はない。
銀を見下ろす碧眼は"冷ややか"だ。
躊躇なく、それが裁く対象であるかどうかを見極める為には踏み込む。
「悪いな、それなら展覧会は先送りだ。
ああ、当然聞きたい話は山ほどあるぜ。」
「─────アンタの事について、だ。」
「ああ、安心しろよ。別に録音も何もしてねぇし、俺は見ての通り何もない。
部署でもそれなりに"爪弾き"食らっててな。つまり、"オフレコ"ってことさ。」
まずはわざとらしく両腕を広げてみせた。何もないぞ、と。
勿論拳銃は何時だって気を配っている。
この距離でも、"自分が抜く方が早い"絶対的自信があった。
■月夜見 真琴 > 「やつがれは真面目に職務を全うしていただけなのに」
さも心外だと言いたげに悲哀に満ちた声でうたう。
とはいえ彼の語る言葉は一言一句、書類上に綴られた事実。
公の第一級監視対象である三者はそれぞれ違った経緯でその首輪を架せられた。
この女は正規学生風紀委員の立場から、牢に押し込められた素行不良生徒。
「爪弾きなどと謙遜はするな。おまえは頼もしい風紀委員だよ。
おまえに頼る者も多いだろう?
いいや、"率先して動く者"に無自覚に頼る者、が多いというのが正しいか。
"放っておいても勝手にやってくれる"者は有り難いからな、今もそうさ。
しかし若干危ういところもある、やつがれの眼にはそうみえる。
自由を標榜するものほど何かに縛られているものだ。
見えざる鎖に足をとられぬよう心を引きちぎられぬよう気をつけろ。
ああ、ハンバーガーは最近あまり食べていないな」
冷たい瞳をまじまじみつめて、微笑を深めた。
彼が影になっているが、空はまばゆい、なによりこの姿勢はつらい。
姿勢を戻した。筆を置く。
立ち上がり、椅子を回転させ、彼と正対して座る。
「ほう? この様な"罪人"を口説きに来るとは物好きだな?」
今度はにっこりと笑顔を見せた。嬉しいよ、と言いたげに。
首を傾いだ。真っ直ぐ伸びた白髪が、肩から流れて広がった。
隙だらけだ。キッドという男の自信は決定的に裏付けられている。
例えば対した"罪人"があの眼帯の剣士であれば話は違ったろうが。
まさか撃つまい。そう思っているかのような自信が月夜見真琴にはあった。
■キッド >
「真面目、ねェ……。」
普通なら何を、とでも言いたい所だが
その悲哀の真意はともかく
言葉のままで言えば理解しなくもない。
そう、『風紀』を護るというその観点。
但しそれは、全てを過程を無視して結果のみに目を向けた話。
この女の目的などは一切知らない。
書類上で言えばキッドは、彼女の言葉は正しいと思う。
思うからこそ……。
二本指で挟んだ煙草を、口から離す。
「────いいや、"爪弾き者"さ。お互いな?」
真っ向からその甘言めいた声音は否定した。
「単純に俺達は"目立ちすぎ"なんだよ、ティンカー・ベル。
アンタの目的とか趣味とかは知らねェし、興味もねェが……
どれだけ効果があっても、身内から疎まれちまったらただの"社会悪"にすぎねェ。
『頼られてる』んじゃない、『都合がいい』だけなのさ。アンタだって、わかるだろう?
"物は言いよう"って言うけどな、気持ちのいい言葉に靡く連中ばかりじゃないってことさ。」
出る杭は打たれる、と日本にはそういう言葉があるらしいが、その通りだと思っている。
彼女の言う言葉もある意味正しい。
誰かがやらなきゃいけない事を、率先して自らやる。
何処かで有難がってる連中もいるだろう。"アイツがいれば、アイツがいれば……"と
『責任』と言うものをソイツに全て押し付ければ解決する、体のいいスケープゴート。
でもそれは、要は最終的にただの生贄、世間様から見ればただの"悪"。
それを自覚していながら"過激派"を謳われているのは、譲れぬ決意が少年にはあるからこそであり
それを自覚しているからこそ、彼女の言葉は違うと言える。
口元に浮かべる笑みはにやけ面……ではなく、やや薄いもの。
冷ややかだった碧眼が見せる色は、"憐れみ"だ。
「わかったかい?ティンカー・ベル。アンタの言う事は、"今更"なんだ。」
何もかもを自覚した上でやっている。
此の危うさも何もかも、自覚した上で"それしか知らない"、と。
引きちぎられたとすれば、もうそれは初めからだ。
「……ま、今度機会があれば奢ってやるよ。」
煙草を咥え直せば、ニヤリと口元は歪んだ。
「ふ、つい美人を見ると口説きたくなっちまってな。
色々聞きたいのさ、アンタが監視対象になったワケや……」
右手に添えられた拳銃。
わざとらしく緩慢な動作で見せつけ
指先は軽く波打ってみせた。
「────他の個別監視役の連中に、"何をしたか"、な。」
冷ややかな声音が、暑い空気に響いた。
まさか撃つまい、その通りではある。
だが、"今は"撃たないだけだ。
長身もあるが、その威圧的空気は"本気"だ。
鷹のように鋭い目は、"嘘"を許さない。
その返答次第では、此の凶弾は簡単に弾ける。
これが、"ろくでなしの法"、爪弾き者のやる事だ。
■月夜見 真琴 > 「"今更"ではない」
首を横に振って、微笑みを深めた。
「おまえがそうやって物事を弁えている時点で、
おまえの心にはどこかで歪みが溜まっているのさ。
大局(だれか)の"都合のいい"存在に甘んじている者。
決意や覚悟という言葉で、みずからを誤魔化し、
麻薬のように、痛みを鈍らせて、引き金を引いている――
"のだとしたら"、それは"今"起こっていることだ。だから」
あくまで自分が見たままの印象であることを裏付けるように。
そっと長いスカートの下で足を組み、両手は椅子につけてだらりと。
「大丈夫なのか?」
微笑みは神妙な顔になり、銀の瞳を細めて覗き込む。
「やつがれは、心配なのだよ、キッド。おまえのことが。
大事な"風紀委員(なかま)"だからな。
杞憂なら勿論それで構わない。
心配性の先達が無用な世話を焼いたものだと、年寄りの冷や水を甘んじておいてくれ」
傍らのペットボトルを取り上げる。
飲み切ることを考えていないがもしものことを考えた2リットル。
両手で支える。あまり力が強くないのか。
ティンカー・ベルというには些か神秘性を欠いた生物的な所作で、
喉を潤した。暑い。遠い蝉時雨に、ため息をついて。
そして真っ直ぐ彼を見た。拳銃を見せられて。
視線はそれを認識してから、キッドの視線を見る。
「…………?」
問われたことに目を丸く。
「なにも?」
不思議そうに声をあげた。
資料に書いてある通りだよ、と言いたげに。
「ああ、不幸が続いたな。心苦しいことだ。
が――そうさな、逆に問うてみようか。
おまえ、やつがれが"何をした"と思ってそれを問うたのだ?」
■キッド >
全く以て、その通りだ。
彼女の言葉は否定はしない。
但し、"だからこそ"彼女の言葉は間違ってる。
「……フ。」
鼻で笑った。
吐き出す白い煙が夏の青空へと伸びて消えていく。
さながら千々れた雲になり損ねたかのように消えて
何処にも見えない、ただっ広い青空に、何もなかったように消えていく。
「"知ってる、だから今更なんだよ"。」
全部承知の上でやっている事だ。
誰かの都合の良い存在だとしても
自分の事を誤魔化していても
煙に巻く事も全部、全部、承知の上で此処にいる。
ろくでなしのクソガキ。如何なる犯罪も許しはしない。
凶弾そのものと言うべきそれを、何時までも演じ続けている。
そういう"決意"だ。誤魔化しと言われようと、何と言われようと
敢えて言うなればそれは、"死ぬまで解けない呪いだ"。
ペッ、と煙草を足元に吐きだし、足で踏みつぶした。
火のない所に煙は立たない。
このまま言の葉遊びに付き合ってもいいが
そう言われて、『大丈夫なのか?』等と言われるのなら
"こうするのが一番早い"。
キャップの奥、穏やかな碧眼が真っ直ぐと銀色を見据える。
「──────大丈夫ですよ。月夜見先輩。」
煙に巻く必要もない。
『ストレート』な言葉を選んだ。
たった一言、"少年"の一言で十分だと思った。
そうでも言っておけば、相手なら理解してくれるだろうと思うから。
相手がペットボトルを取り上げるのに合わせて、懐から取り出した煙草を咥えた。
ライターで火をつけ、再び白い煙が立ち上り始めた。
もうそこに"少年"はいない。
立ち上る煙と共に、全て消えてしまった。
一時の、暑さが見せた幻に過ぎないのだ。
「……アンタの冷や水は、人の肝を冷やす液体窒素の間違いじゃないのかい?」
なんて、冗談めかしに言い放ってやった。
既に冷ややかに冷え切った視線を向けたまま、碧眼を細めた。
「『何をした』?『何もしてない』んなら、"あんな"報告書上がるかよ。
それとも、全部"不幸が続いた"で通すつもりかい?馬鹿げてるな。」
「"不幸"ってのは、意図的に起こさなきゃ立て続かねェよ。」
グリップを握ると同時に瞬時のそれは引き抜かれた。
夏の日差しを乱反射する鈍い銀色の大型拳銃。
殺意をより鋭利、スマートに、わかりやすく伝える人類が作り出した凶器の一つ。
薄暗い銃口を真琴の額へと向け、煙草を咥えたまま煙を吐きだす。
「……なら質問を変えるぜ?お前、全員"何言いやがった"?」
■月夜見 真琴 > 瞑目して、その少年の声を咀嚼するような間を持って。
「そうか。ならばもう言うまいさ。
すまなかったなキッド。きっとこの暑さのせいだ。広い心で許せ」
それ以上踏み込むことはしなかった。
ただ穏やかな、柔らかな面差しで、それを諾々と受け入れただけだ。
「――"撃つ覚悟"。 はたまた"撃たない覚悟"。
さいきんはやる気に満ちた後輩がふえているな
やつがれとしてはうれしいことだが」
そう、瞼の裏にあの白い少女、フィスティアの蜃気楼をうかべる。
楽しそうに脚をパタパタと揺らしていたが。
額に向けられた照準に、初めてといえる表情を見せた。
険しい顔だった。 悪を暴かれようとする隠れた悪らしい顔だ。
「なるほど、おまえの目的はそれか。
やつがれを撃ちたいのか。
決意。その孤独の正義の名の許に」
低く抑えた声でもって、彼の正義を遇した。
「おまえ、相手に合わせて話題は変えないか?
三人の監視員とは、無論会話はしていたとも。
多くを語り尽くせぬほど、共に言葉を交わしたな。
まあ、それ以上の甘い話を求められたら、"していない"としか答えられないが」
難しい顔をして、思い出すように視線を彷徨わせた。
彼らと過ごした思い出は、悪いものではなかったと。
回顧して回顧して、思い起こした果て、視線は再び少年に。
「やつがれがただ口にした言の葉で、奴らの"不幸"を仕組んだのだ、と?
ははぁ。 なるほどな。なるほど。 そうだな、妥当な推測と言えような」
唇が三日月を描く。
「"そうだ"と言ったら――どうする?」
その銃口。どうせハッタリだろう? と。
■キッド >
「─────ああ。」
広い心で許してやろう。
だが、"ろくでなし"が許せない事は一つだけある。
どうする?その言い終える直前に、空気が爆ぜた。
まるで爆発音と見間違うほどの轟音。
学園に相応しくない音が響くと共に、凶弾は弾かれた。
狙いはその腹部。45口径の威力は伊達ではない。
当たれば肉が簡単に弾け飛び、中の臓物もただで済むまい。
"そう言う武器"を携帯用にチョイスしている。
何処に当たってもただでは済まない。"かすり傷以上"になる武器を。
呆気なく引かれた引き金、炎天下に爆ぜる音に彼女は如何に……?
■月夜見 真琴 >
空に舞う、麦わら帽子。
■月夜見 真琴 > 腹腔に一発。
額に意識を逸らされた瞳が、撃ち慣れた者の速度に反応できるわけもない。
それはあまりに呆気なく。いつものように起こった。
細い腰は白い腹部に、まず黒い穴を穿ち、
じわじわと広がっていく、赤い染み。
なるほど、弁えているな。
少年が撃ってから、頭のなかは冷静に考えた。
その身体が落ちる。
まずは膝から落ちて、立っていられなくなったまま、熱射に炙られた床に倒れた。
腹部を掌で抑えようと、流れ出てくる血が、身体の下に水たまりを作ろうとしているのは止められない。
"腹部"は、要するに――"そう死ねない"場所だ。
「…………、……」
空いた片方の掌は――意味もなく、伸ばされ、地面を掻いて、握りこぶしを作る。
時折びくり、と震えながら、浅い呼気を繰り返すばかりの矮躯がそこに在る。
■キッド >
その握りこぶしを開かせるように、容赦なく少年の足が伸びる。
勢いをつけて、上から踏みつけようとする魂胆だ。
血だまりの鉄臭さと硝煙の臭い。"何時もの事"だ。
鋭い鷹の目はずっと少女を見下ろし、瞬き一つもしない。
回るシリンダー。銃弾は常に込められている。
リボルバー構造の銃に、ほぼ弾詰まりはあり得ない。
倒れ伏したその体。赤く染まる白雪に銃口が再び向けられる。
「────ハッタリだと思ったか?尾ひれついてるワケじゃねェんだよ。」
"過激派"の名はお飾りじゃない。
如何なる軽犯罪を見逃さず、如何なる悪さえ処断する。
"ろくでなし"のクソガキ。
その引き金は、余りに軽い。
「頭狙わねェのはお情けじゃねェぜ?"まだ聞いてない事"があるからだ。」
言葉遊びは結構。
そんなもの一つで狙いがぶれる程じゃない。
即死はさせないが、このまま放っておけばどのみち失血死。
"制限時間"を作る事により、より此方の立場をハッキリさせている。
「……何の目的で『不幸』を仕組んだ?お前は、何が目的なんだ?第一級監視対象。」
「洗いざらい話してもらうぜ?どうせ、"お互い"ろくでもねェってのはわかってんだ。」
「今日がたまたま、"ツイてない"だけさ。」
「それとも……」
■キッド >
「────"嗤って見せろよ"……って、挑発した方が、滅ぶ悪党には際立つと思うかい?ティンカー・ベル。」
■月夜見 真琴 > 赤く咳き込んだ。
絶妙に"死ねない"場所を穿たれた身体は、あまりに脆い。
拳銃で穴を開けられてなお動けるなどというのは戦士の素質だろう。
激痛と出血によるショック。反射で握った拳は、踏みつけられた反射で開させた。
絵を描くための指が損傷する。
ならば歯を食いしばる音の横で、絞り出したような涙を溢れさせた。
「……うそ、だよ」
血の絡み、老婆のように嗄れた声で、問いにはいらえを返すとしよう。
「不幸は、起こる……」
唇を静かに……血の気を喪いつつあるなか、"嗤わせた"。
たまたま、三人連続で、不幸が起こることもある。
そう、血痰を絡む舌先で、紡いでやる。
「私は……ただ、まじめに、がんばっていた、だけなのに」
涙に掠れたその声は、
「みんなが、わるものにして……」
悲哀に満ちたかそけき音を、
「……かなしい、なあ」
血溜まりの波紋に吹き付けた。
ふわり、と麦わら帽子が血だまりに重なる。
「実際、そこまで迷わず引き金を引けるというのは才能だな。
おまえ、もう少し尋問しようとか確認しようとか、
人を信じようとする心の持ち合わせがないのか?」
そうやって少年の真隣に立っていた月夜見真琴は、
麦わら帽子の下から、穴の空いた習作を眺めて嘆息して見せた。
■キッド >
「────フン。」
不愉快そうに、鼻を鳴らした。
即座に引き金を絞る直前───その銃口が真横を向いた。
再び弾かれた銃弾は、破裂音と共に虚空を裂いた。
青空目掛けて飛んでいく、何物も射貫く事のない虚しい銃声。
硝煙立ち上る銃口をずらせば、"真隣"にいた真琴へと再び向けられる。
「よく言うぜ、三流芝居に付き合わされた俺の身にもなってくれ。」
ケッ、とあからさまに不機嫌そうに吐き捨てた。
あの状態なら避ける事すら難しいと思っていたが
"そう簡単に処理"出来るなら、"監視対象"になんかする必要もない。
キッドはこの16年間を全て弾丸に込めてきた。
一流の戦士と自負する気は無いが、悪に対して微塵も油断も、慈悲もない。
露骨に嫌そうにゆがめた顔を真琴へと向け、体ごと向き直る。
「お褒めに預かり光栄だな。だが、それをアンタに話す理由はねェな。
アンタこそ、あんな"嘘っぱち"見せつけておいて
お涙頂戴とでも言うのかい?笑えるな、よっぽど三流ドラマのが出来がいい。」
鋭い眼光は未だ光は衰えず、銃弾はまだ中に残っている。
少なくとも、その目は"相手の事は"信用してはいない。
「アンタこそどうなんだ?人の心があるなら、"素行不良"なんて起きないと思うんだがね?」
■月夜見 真琴 > 「おい、やめろ。 銃をおろせ。
そういうものを向けられながら冷静に話せるほど、剛の者ではないのだ」
再びポイントしてくる銃口に対して、
ホールドアップしながら、身体がじっとりとした汗に湿っている。
発砲、銃声。それに、涼しい顔で居られるほどの、戦闘への慣れはない。
「そうか?泣かせる芝居を心がけたつもりだよ。
それとももっと、哀れを催す形でおまえを糾弾するべきだったか……」
幻像、倒れ伏した少女、麦わら帽子、血溜まり。
それがふわりと太陽でない光を発するなり、無数の蒼い蝶の形を成して、
夏の重たい空気のなかを飛び上がっていく。
やがては光の粒子に消えていく――幻惑魔術。
「さすがに"どこからどこまで"とは明かさんが」
軽い足取りでイーゼルのほうに歩みを進めて、穿たれた穴から向こう側を覗き見る。
振り返ると少し物言いたげな顔をしたが、まあいいか、と肩を竦める。
幻術を破る方法はいくつもある。
たとえば、彼が"妙だ"と思った瞬間に、茶番の幕引きはキッドの手に委ねられる。
彼は文字通り、"態々付き合ってくれた"わけだ。
いつでも躊躇いなく撃てる、という警告を実証してみせる代わりに。
「心の在り処を証明せよ、と?
――――ふうむ、そうさな、哲学にはとんと疎くてな。
だが、なぜと言われれば理由はこう応えよう」
先ず、この場では彼を納得させねばならないか。
違反部活への「対処方法」においてみなされた素行不良。
■月夜見 真琴 >
「"正義"のためだ」
■キッド >
「下ろせってな……自分の立場考えて言ってんのかい?……チッ。」
確かに所謂危険人物認定は受けていても
立場上は同じ"風紀委員"。
だが、そんな事を気にするなら初めから"撃っちゃいない"。
組織に所属してようと、それだけは変わらない。
もう一発撃ってやろうが、妙に毒気を抜かれた。
舌打ち交じりに、拳銃を握る片腕を下ろした。
その間にも視界は切らない。"何時でも撃てる"。
「アカデミーならここでボロクソ言われてるぜ?それとも、そんなモンで俺が止まると思ってんのかい?
だったら、アテが外れてるぜ。女の涙一つで止まるんなら、"俺は"初めからいない。」
張られた過激派のレッテルは間違いじゃない。
銃を使う程でないことにも容赦なく発砲し
時には違反生徒を"殺し"もした。
それを糾弾する連中もいた、後ろ指差す連中もいた。
──────だからどうした?
今更、外野の声なんて気にするわけもない。
此処にいるのは"ろくでなしのクソガキ"ただ一人。
吐き出される白い煙の向こう側、キャップの奥に潜む碧眼は
常に『覚悟』によって眼光を保つ。人間が持つべき、強固な意志、"芯"とも言えよう。
その為なら何でもやる。
そう、何でもだ。その強い覚悟は在る種、皮肉にも彼女の言葉にシンパシーを感じてしまう。
「『正義』ねェ……。」
腐っても彼女は風紀委員に身を連ねている。
とはいえ、この女のどこからどこまでを信用していいか測りかねる。
『正義』、実に陳腐な言葉だと我ながら思う。
それを実行する己も、大概だ、と。
怪訝そうな表情のまま、言葉をつづけた。
「その為に、アンタは周りの連中をダシにしていいってのかい?
……アンタが潰した悪党も監視役も、ろくな終わり方はしてない。」
違反活動部の連中はともかく、監視役が三人ともあんなことになるとは思えない。
偶然にしては出来過ぎだ。報告書には、教唆の証拠も痕跡も見当たらないと書いてあった。
だが、そんな字面だけの事を信用していたら、"こんなことはしていない"。
この女は間違いなく、何かに関わっている。
それを確かめないと、気が済まない。
キッドは、職務に対しては大層生真面目だ。だからこそ、"こんな方法"しかしらない。
「──────わかった……。」
このままはぐらかせて終わるよりはマシだ。
あんまり"安売り"みたいな真似はしたくないし、精神面の"リスク"もある。
咥えていた煙草を離し、再びそれを踏みつけた。
■キッド > ……一度、二度、瞬き。
相手が相手なら、この時点で終わってるかもしれない。
今はそんな事どうでもいい。
もう一度銀を見据える視線の覚悟の色は変わらない。
険しい表情のまま、両手で握った銃を真琴へと向ける。
「……答えてください。月夜見 真琴"先輩"。」
僅かに額に脂汗が滴る。
荒っぽい口調から、丁寧な、分相応の礼節を弁え
「あの幻の中で見せた『涙』は"嘘"ですか?"本当"ですか?」
最初の時とは違う。銃口は震え、狙いはやや定まらない。
表情には僅かな焦燥感が滲み出る。
だが、こういう方法しか知らない。
相手の事を見極めるには、これしか知らない。
本当に"悪党"なら、煙に巻かれるかもしれないし、此れを機につけいれられるかもしれない。
"薬物中毒"の己の心の弱さは、己自身が良く知っている。
けど、此れしか分からない。"ろくでなし"としてではなく
"一人の少年"として、月夜見 真琴へと向き合い、問いかけた。
手の震えは、この間にも酷くなる一方だ。それもそのはず。
■キッド >
──────人を撃つ行為なんて、怖いに決まってる。
■月夜見 真琴 > 震える少年の前で。
両手で再びもたげたペットボトルを煽り、どうにか平静を取り戻すと。
「おまえに銃を持たせている者の気が知れんな」
あらためて向き直る。その上で肩を竦めた。
両手で麦わら帽子の位置を直して、大きなため息。
「やつがれがここで『本当だ』と言って納得したら、おまえは本物の無能だぞ」
ペットボトルを置く。視線を真っ直ぐ"少年"へとむけて、
叱るような声で語りかけた。
困った奴だな、と眉を寄せながらも、再び椅子に座って脚を組む。
「趣味で幻術を修めている奸物に、真偽を問うなど自殺行為だろうさ。
おまえはさっきまで"真実"を掴み取っていたはずだろう。
たとえそれが"事実"と違う事柄であっても構わない、と。
そこで仕留め損なってくれたおかげで、命拾いしたわけだがね」
唇はうっすらと三日月を描いて。
「やつがれは、ひとを欺くことがすきだからな。
ばれるかばれないかの境目が、もうたまらない。
『絶対にばれないウソ』など、あまりに退屈だ。
そんなやつがれが、おまえにおまえの望む"真実"をくれてやると思うかな?
騙され、陥れられ、苦悶に身を捩るおまえを望んでいるかもしれないよ?
砂でできた真実を取りこぼしたおまえに、もうやつがれは撃てまいよ」
そうあっさり言ってのけた上で。
「人間としてはおまえに撃たれて死ぬなどまっぴらだし。
風紀委員としては、後輩を無能者に堕してやることはできないな。
何よりほら、一発目までならまだ暴発事故だぞ。
始末書を受理する者次第では、"相手が月夜見だからなあ"と情状酌量もつくだろうさ」
細い指先で、穴の空いた晴天を指差した。台無しになった習作だ。
二射目の痕跡は少なくとも此処にはない。弾痕が残らなければ幾らでも弁舌は効く。
「銃を降ろして話そうじゃないか。
そうしたら、そうさな、ヒントのひとつくらいはくれてやるとも」
■キッド >
「誰かのせいじゃありません、『全部自分で決めた事』です。」
誰かに持てと言われた訳でも無い。
"あの時"銃を握った時から、多分この宿命は決まっていた。
だから、極めた。肌身離さず持った。持ち歩けるように何でもやった。
そうするように押し通した。気が知れないというなら、尤もだ。
"自分は相当、気がふれた人間だ"。
「…………。」
本当に何と言うか、昔見た事ある。
子どもの頃、そう。"悪い大人"のイメージ。
影で人を操って、掌で踊らせて、最後は身から出た錆で破滅する。
稚拙なイメージだ。現実は案外、そうならない。
こんな"悪意"を滲みだす人間、良く知っている。
"自分の両親がそうだった"から。
震える銃口、滲む脂汗。
恐怖からじゃない。薄らぼやける視界も全部、自分の"弱さ"からだ。
それでも視線は逸らさず、しっかりと真琴と見据えた。
そう、それこそ幻覚をずっと見据えて、蜃気楼に惑うようなものかもしれない。
馬鹿な事の自覚はある。だけど、だからこそ。
……幻影と踊るなんて、飽きる程やった。
思わず、口元が緩んだ。
「……先輩……。」
「貴女も意外と、口が下手だ。」
■キッド >
──────引き金を、引いた。爆音が三度、屋上に響く。
■キッド > ────但し、そんな狙いでは当たるはずも無い。
真琴の遥か頭上を通り抜け、弾丸は再び青空へと返った。
肩を上下に揺らし、息を荒げながら息を呑む。
力ない笑みを浮かべながら、それでも銀色から目を逸らさない。
「貴女が…、さっき…言ったばかりだ…納得したら、『無能』って…。
そんな相手…ッ、言、葉…に、乗って…銃口を下ろせる、はずもない……。」
勿論、真琴の言うように"事実"と異なる"真実"のまま処断するのも良いだろう。
だが、自分の手に在る法はそうではない。
些細な悪も許しはしないが、『そうでないものを撃つ』事は出来ない。
だから、それをハッキリさせる為にこんな"無茶"の一つや二つしてみせる。
そう、馬鹿なんだ。馬鹿だけど、仕方ない。所詮"ガキ"一人の思いつく事なんて、たかが知れてる。
「けど、一つだけ……言え、る……貴女の、『言葉』は…信用でき、ない…。
けど、『嘘』は、信用出来る……。」
それだけは、ハッキリとしてる。
明確な悪意の言葉。何処までが本当かは図れない。
そこまで賢い自覚もないし、彼女のように口も回らない。
だからこそ、明言する。
『騙され、陥れられ、苦悶に身を捩り、砂でできた真実を取りこぼしても、お前は"嘘吐き"だと、何時でも撃てる』
それが、少年が相手の事を唯一信用する事だ。
ほんの少し、勘違いかも知れないが、相手の事を図れた気がする。
そして、その上で愚直なまでに残り3発、引き金を引く程愚かではない。
「……いい、でしょう……下ろします。…僕、も…一つ、話、たい、から…。
ッ……その前に、"一服"、いいですか……?」
硝煙が立ち上る銃口を向けながら、尋ねる。
激しい動悸が収まる事をしらない。
■月夜見 真琴 > 流石に顔が青ざめる。
撃たれた事にではなく、少年がこの状況でも引鉄を引いたことにだ。
「なぜ銃を向けられているか弱いやつがれの前で、
銃を向けている者のほうが追い詰められているのか不思議で仕方がないのだがな」
二発目は無かった、とは言えても。
三発目となれば誤魔化せるかどうか。
挑発が過ぎたかな。彼は丸め込もうとしても"撃てる"人間らしい。
見誤っていた。"撃ててしまう"才覚の在り方。
「流石にもう庇い立てはせんよ。
さっきから厚意を無碍にしてくれる後輩だ。
ああ、構わんさ。落ち着くまで好きにしろ。
震えた指で銃を構えられていては、なにをされるかこわくてしかたがない」
大きく息を吸って、吐いた。
「言っておくが警告はしたぞ?
それでも撃ったおまえへの処遇、少しそっけなくなるとおもうが構わんな?」
言葉を弄するよりも、落ち着くまで待とう。先達の役目と弁える。
立ち上がり、今しがたまで座っていた椅子を示した。
「まあ、座れ」
■キッド >
碧眼はこの間、ずっとその銀色から逸らした事はない。
人間には才能と言うものが有るらしい。
ともすれば、少年に才能は"無い"。
宿す瞳の決意、そう此れは言い換えてしまえば"執念"。
────……そして、"狂気"だ。
歪んでしまった少年の精神の在り方を、ありありと示す決意。
"それほどまでに彼の思春期は、歪み切ってしまった"。
狂人であれば、引き金を引く事すら容易い。
「……どう、も……。」
掠れる声で、煙草を咥える。
ライターで火をつければ、三度屋上は白い煙が沸きだした。
ふぅ、と煙を吐きだすころには、冷ややかな眼差しが帰ってきた。
「……フ、初めから期待しちゃいないさ。
始末書、書くのは得意でね?まぁ、"ただで済む"と思っちゃいないさ。
それに、Peace keeper<コイツ>を握った時から、地獄への片道切符は当に切ってる。」
そもそも嘘吐きの口添えなんてまっぴらだ。
わざとらしく、拳銃を揺らして見せつけてやった。
そして、約束通り銃口を下ろし、ホルスターへと戻した。
但し、右手は添えたままだ。
煙草の煙を堪能しつつ、口元はニヤリと笑う。
「レディーファーストだ。そんな体で、炎天下を立ってるの辛いだろ?座れよ。」
売り言葉に買い言葉と言わんばかりに、返してやった。
■月夜見 真琴 > すとん。
一度は上げた腰を落ち着ける。
脚を組み、腕を組んだ。嘆息。
「いまいち格好がつかないじゃないか。それに視線が高くて首が疲れる」
拗ねたように呟きを零す。見ていて心配になる豹変ぶりだ。
自然、扱いは病人に対するものとなるのは自然である。
「まあ体力には自信がないゆえ、有り難く甘んじておくが――そうさな。
ではまず、おまえの話から聞こうか」
ペットボトルを手に取った。銃口に晒された身体を落ち着かせたい。
吹き出す汗のぶんを補充するため、嚥下する。
一口一口はやはり小さいから時間がかかる。
「ぷぁ。いつまでおまえが話せる状況でいてくれるかわからないからな」
■キッド >
「ヘッ、嘘吐きの次はカッコつけかい?
"背伸び"してもそんなモンなら、世話ねェな。」
皮肉一つ煙と一緒に吐き出せば少しばかり屈んでやった。
目線位はあるだろう。御覧の通り、そこに"少年"はいない。
夏の日差しが見せた陽炎の幻。そこにいるのは、"ろくでなしのクソガキ"だ。
鼻で笑い飛ばせば、キッドはわざとらしく肩を竦めてみせた。
「話って言っても、難しい事じゃねェ。俺も、余計な"手間"は踏みたかない。簡単な話だ。」
二本指で煙草を挟めば、口から離して
青空目掛けて煙を吐きだした。
「アンタの庇いだてなんざ期待してねェ、アンタに好き勝手動かれんのも俺は許せねェ。
だったら、こうだ。俺がアンタの個別監視役<ヒーロー>になってやるよ。」
「上からしても丁度いいだろ?爪弾き者がやった"不祥事"に
誰も触れたくないような"鼻つまみ者の監視対象"を"監視"する"責任"。」
「前例宜しく消えりゃ、厄介者が一人減るし、そうでなけりゃ、アンタは一生俺に怯える事になる。」
「……どうだい?"ゾッとする"話だろ?」
少なくとも、キッドは己の狂気に対して自覚がある。
相手がともかくとしても、学園の白昼堂々三発も発砲したのは責任問題だ。
始末書もそうだが、それ以上に責任追及されてもおかしくはない。
だったら、"厄介者同士"仲良くしておけば、上にとってはどう転んでも美味しい話と言う訳だ。
尤も、それが通ればの話。だが、彼は己の『正義』の為なら何でもやる。
にやけ面を崩さぬまま、宣ってみせた。
■月夜見 真琴 > 「ことわる」
と。すげなく一言で、その申し出を却下した。
「おまえはまず病院へ行け」
却下事由の最も優先度の高いものから順に伝えていく。
監視されるべきは目の前の少年だ。
「たとえやつがれが、おまえの妄想通りに"監視役潰し"を行っているとして。
おまえはどうせ、このままでは、やつがれが何もせずとも、遠からず破滅する。
それをまた、やつがれのせいにされては堪らない。
たとえおまえがなんと言おうと、周りはやつがれを糾弾する」
嘆かわしげに首を横に振る。
そして、ひどく深刻そうな眼差しで見つめた。
「"ヒーロー"が必要なのはおまえのほうだ」
そう、"ゾッとした"。
壊れかけの人間が、更に壊れようとしている有り様に。
酷く哀しげな瞳で、首を大仰に横に振った。
「それはやつがれの役目ではない。
やつがれに、ひとを救うことも、導くこともできない。
ただ聞いたことに対して、思ったまま助言をするのが精々だ。
その程度でしか風紀委員会の役に立てない鼻つまみ者だ。
おまえの傷の痛みを、嘘で騙してやれるならまだよかった。
だが、おまえはやつがれの言葉を信じないのだろう?
ならば、いまのやつがれが、いまのおまえにできることはなにもない。
壊れるとわかっていて、自分の傍に後輩を置く先達ではない」
目を伏せて、ため息とともに告げた。
「やつがれは他者を欺くことが好きだ。
陥れられた者が苦しみ悶える様も好むよ。
滅びの様に美を見出し、創出に役立ててもいるさ」
だが、と言葉を継いで。
「やつがれは風紀委員だ」
そして、
「やつがれの"正義"は」
■月夜見 真琴 >
「 」
■月夜見 真琴 > そのためになんでもやってきた。
そう、静かに言葉を紡いだ。
「信じるかどうかはおまえの勝手だ。
"素行不良"の理由を語れと尚言うなら、
やつがれにとっては"それがすべてだ"としか言えんよ」
まぶたをもちあげ、銀色の瞳を開いて。
「だれにでもいい。 頼れ。救われろ。
いや。やつがれの悪意しか信じられないのなら、こう言ってやる。
"壊れかけの玩具を壊しても、面白くもなんともない"と」
立ち上がり、穴のあいた習作を片付けにかかる。
自分にできることは、この場にはもうないとわかった。
■キッド >
「…………。」
信じるも信じないも、己次第。
だったら、その言葉も好きにさせてもらおう。
拳銃に添えた右手も解き、毒気な抜けたように掌を空へと向けた。
『お手上げのポーズ』
「成る程、ね。そりゃ、ビッグニュースだ。」
「まぁ、それはそれとして、だ。アンタ何か勘違いしてるんじゃないか?」
随分と人が変わったように心配してくれるものだ。
だが、彼女の評価もあながち間違いじゃないが
そんなものは何処吹く風とにやけ面は崩さない。
「風紀だのなんだの、立場なんざどうでもいい。
俺がぶっ壊れて糾弾されてんなら、ソイツは"思惑通り"って奴だ。」
そう、初めから拒否される気などなかった。
"キッドは悪を許しはしない"。
如何なる立場にいようと、その存在を許すわけにはいかない。
弾丸が届かないならあの手この手で"何でもする"。
そう、彼女と同じだ。
己を時限爆弾と称するなら、その心臓にもつけてもらおうか。
四人目は鎖付きの爆弾。幾ら風紀委員と言えど
第一級監視対象の爪弾き者。
"厄介事"を自ら背負う大局(だれか)の"都合のいい"存在なら
それこそ拒否する連中のが少ない事は知っている。
「……それに……。」
白い煙を吐いて、鼻で笑った。
碧眼の冷ややかさはもうなく、何処かを遠く見つめるようだ。
「"救われてるよ、此の瞬間もな"。」
……それを救いと呼ぶには余りにも烏滸がましいものだろう。
それでも、少年にとってもう"それしかない"。
他人の手を取るなんて、"罪人"がしてはいけない。
それも病気と言うならば、『夢遊病』
解けない呪い、少年が見るアウトローヒーローの夢。
「……さて、そろそろ連中に話を付けにいかねェとなァ?当然、ついてきてくれるよな。"相棒"。」
■月夜見 真琴 > 穴のあいたカンバスを取り上げると、高いところにある頭を軽く小突いてやろうとするだろう。
避けられたりしてもまあしょうがない。話が通じていない。
"ことわる"と言った。それは、揺らぐことではない。
「夢をみる時間は、おわりだ。
"麻薬中毒の二重人格者など、傍に置いておけるものか"」
肩をすくめれば、"悪意"で以て制してやり、こちらは帰路へつく。
イーゼル、カンバス、絵筆の類。
大荷物だ。教室棟だから、倒れてもまあどうにかなるといえばなるが。
「おまえには、解決すべき問題が多すぎる。
やつがれの手には余るよ。無力の砂をこれ以上噛みたくはない」
脚を進めた。
階段室のかたどる日陰に逃げ込む。
炎天下に、体力を奪われていたのは事実だ。
「"こちら"に来るな」
静かにつぶやいた。
「……"自分の正義"のために、戦うことさえ許されなくなる」
血を吐くように。
叶うなら、ずっと"そっち"に居たかったのに。
肩越しに振り向いた銀色の瞳は、羨望の眼差しで睨む。
涙を溜めて、銀の業火が闇のなかから少年を呪う。
「先達としては、まあ、そんなところだ」
軽くかぶりを振って、いつもの調子を取り戻せば。
「またやつがれがくだらん手管で委員を魔道に引き込んだ―、とか。
そういう噂が立ってしまっては、ますます遊びづらくなる。
ばれるかばれないか、その境目を歩くのがたのしいのだ。
……銃で撃って白黒つけたいおまえとは、些か不倶戴天であったのかもしれぬな」
そう、ひらりと手を振って、扉を開いて姿を消した。
ご案内:「第一教室棟 屋上」から月夜見 真琴さんが去りました。
■キッド >
小突かれた。だからといってどうしようもない。
何処か苦い笑みを浮かべて、白い煙を吐いた。
「終わらないさ。」
何時までも終わらない。
そう言う現実<ユメ>だ。
嫌われ者で結構、そういう役割だ。
アウトローと言うのは、得てして"そう言うもの"だ。
「……ヘッ、だからって"逃がす"かよ。」
どうなるかは此方とて分からないが
何時だって"悪"を逃がす気は無い。
"そういう役割"だ。
さて、どう始末をつけるか。
軽く首を鳴らし、己も屋上を後にした。
ご案内:「第一教室棟 屋上」からキッドさんが去りました。