2020/08/25 のログ
羽月 柊 >  
「なら良いか。
 すまないな、なにぶん教師に成りたてでな。
 君の緊張を解す何かしらの言葉でも見つかれば良いのだがな。」

そう言って男は目を伏せる。
空いた隻手を軽く掲げ、パチリと指を鳴らせば、
漂っていた涼気が青年の周りにもやってくる。
エアコン下とまではいかないが、随分と涼しくなることだろう。
これは簡易的な"魔術"だ。この島には間違いなく異能や魔術といったモノがありふれていて、
ベンチに座る男は簡単にそれを使ってのけた。

こういう相手には、恐らく己の友人である教師の方がするりと馴染むのだろうな。
そんな風なことを脳裏に思い浮かべるのだが、
彼の振舞いを自分が体現出来るはずもなく……。

「もしかすれば、夏季休暇が終われば、
 君の授業を受け持つこともあるかもしれん。
 
 俺は羽月 柊(はづき しゅう)だ。
 『魔術』『異世界学』『竜語』などを教えるつもりをしている。」

霧島 孝介 > 「はは、いやぁ…おぉ!?」
首の後ろに手をまわして、汗をかく。
暑さによるものではなく、緊張による変な汗。
そのことを見透かされたようなセリフにさらに言葉に詰まって、どのような言葉で返そうか思考していれば。

涼しい風が吹いた。
エアコンが掛かった密室とはいかないまでも、炎天下では嬉しいほどの涼気。
彼が指を鳴らした瞬間から、温度が下がったことを不思議そうにして。

「魔術、異世界、竜語…おお、すごいっすね。それじゃあ、その竜が言ってることも…?」
理解のスピードは遅い方ではない。むしろ早い方だ。
恐らく、彼の指パッチンを合図に魔術が行使されたのだろう。
自分は異能は持っているが、魔術について詳しいと言われれば、そうではない。

これが魔術。その神秘を肌で感じていると彼の自己紹介が飛んできて、それに応じるように自己紹介をする。

「あ、俺の名前は霧島 孝介(きりしま こうすけ)です!1年です!よ、よろしくお願いします!」

羽月 柊 >  
「あぁ、よろしく。"霧島"。
 …魔術の方には馴染みが無いか?」

とりあえずは相手にも冷気の魔術をかけたまでは良かった。
しかして良く考えればこっちは座っている状態。あちらは来たばかりで立っている。
自分の気の回らなさに内心溜息を吐きながら、ベンチの空いている所を指して座るか? と。

「あぁ、彼らと俺は会話出来ている。
 とはいえ、今は手製の翻訳魔術で俺たちは会話しているがな。
 
 竜というのは《大変容》が起きてから様々な種類が地球に流入してきている。
 《大変容》以前から"隣人"として居た個体からも、
 言語の体系化が進みやすかった種族だな。」

小竜二匹は孝介を見上げ、キュキュイ、キュキュイと鳴いている。
君の名前を呼んでいる。と男は話す。

男の言葉はもしかすれば、専門用語が多く感じられるかもしれない。

霧島 孝介 > 「あ、はい…異能しか、持ってないもんで」

その異能も十全に操れているかと言えれば微妙なラインである。
一応使えはするが…あまり使わないというか、使う場面に遭遇しないというか。
しかし、魔術はこうも便利ならちゃんと勉強する価値もあるのだろうか、と思考する。

彼の声掛けを聞いてはっと我に返る。
相手、特に年上が気遣っているのなら、とベンチの少し間をあけて座って。


「へ、へぇ~…」

知らなかった。何せ、その様々な種類の竜の一匹にも触れなかった男である。
非日常なんてものは画面の向こうのアニメや紙の中の漫画で展開されるものなのだと考えていたからだ。
唯一、彼の中で一番近かった非日常である異能も隠して生活してきたからである。

端々の専門用語は一応ちゃんと勉強してきたから理解できるものの、関心しかすることが出来ずに、小竜に鳴き声を上げられれば、不思議そうに手を振って。
俺の名前を呼んでる、と言われればちょっとだけ嬉しくなる。

羽月 柊 >  
手を振られれば、二匹のうち一匹。
紅い一角の方が柊の傍を飛び立ち、可能ならば青年の膝上に留まろうとする。
爪は鋭いが、抵抗しないならば傷付くこともないだろう。

「…そうか、俺も……今は"君と同じ"になるんだな。
 もしかすれば、君の方が異能に関しては先輩やもしれん。

 ……俺が、つい最近まで"無能力"だったと言って………君は信じるか?」

なんて、青年の様子を見ながらそう話す。
"無能力"。それはただの人間。あまねく異能も、魔力も、能力も無い。ただの無力な人間。
今しがた魔術を使って見せた教師は、己をそう称した。

「まぁ、"無能力"とて、学習次第ではこうして魔術を使うことは可能だ。
 方法は様々だがな。」

霧島 孝介 > 手を振ってると、飛んできた一匹。
うおっ、と肩をビクッとさせ驚くが、じっとして膝上に乗られる。
竜がこんなに間近に…と目をキラキラさせ、その光景を見つめ、あわよくば撫でようとする。

特段動物が苦手や嫌いというわけではない。
実家では犬を飼ってたし、野良の猫には好かれてよく膝に乗られたものだ。
犬猫と竜を一緒にするという極めて失礼な話ではあるが。

「え、先生と同じ?いやいや…信じられないっすよ!だって、こんなに…!」

こんな竜を従えて、魔術を使える人が無能力だったなんて。
しかも、そんな人が教師をしているだなんて、信じられない。信じようがない。

「そ、そういう過去みたいなのって初対面の生徒に言っていいもんなんですか…?」

恐らくこの先生には何か過去があるのかもしれない。
とりあえず、その過去の地雷を踏まないためにもそう問いかける。

もしトラウマでも踏んづけてキレられたら、対人経験値がマイナス以下の俺のメンタルが死ぬ。
そうならないためにも、彼の表情を伺って、話題をどう転がそうか迷って。

羽月 柊 >  
乱暴にしない限り、白い小竜は撫でさせてくれるだろう。
サイズにして長い尻尾を含めなければ手の平大。
撫でられればふわふわの尾がぴょこぴょこと膝の上で揺れた。
キュイキュイと鳴いて心地よさそうである。

「なにせ、俺に異能が発現したのはこの夏だからな。
 それまでは旧科学と同じく、完全に理屈で奇跡を再現する"魔術"のみだった。
 身体から溢れる魔力なくとも、そうして魔術は使えるモノだとも。」

そう言って指を鳴らせば、空中にぽんと青い炎が灯る。
熱気を感じることもなく、ただただ燐光のように揺らめく。

「……少なくとも俺は、俺の失敗を生徒の糧にしてもらえるよう、教師になった。
 そうあれば良いと言われて教師になった。

 突かれて痛い過去も多くあるが、君たちが俺のような思いをしなければ幸いだとな。」

霧島 孝介 > 撫でて、鳴いている様子を見ると嬉しそうに「おぉ」と声を上げる。
このサイズだと猫というよりインコやハムスターに近い感じなのかもしれない。
その感覚で、首の根元や背中を撫で続ける。

「この夏って、マジで最近じゃないですか!
 へぇ…魔術も異能も、俺にとっちゃすごい力ですよ。今出した人魂だって…」

魔術で作られた炎を人魂と失礼極まりない例えで称して。
その手の神秘や本来秘匿されるべき超常は彼にとっては全てが新しく新鮮で心躍る現象なのだ。
なのでどの程度でも、どの魔術でも、『使えること』が彼にとってすごいことなのだ。

「あ、そ、そうですか………」

(やっちまったぁ~~!
 余計ちょっと、あれな空気になってるやんけ!?どう声を掛けるのが正解なの!!)

心の中で叫ぶ。
対人経験値の絶望的な不足。それのせいで彼の発言にどう返すべきか完全に見失う。
とりあえず、可愛い小竜を撫でながら、視線は俯いて少し変な汗をかく。

羽月 柊 >  
「……まぁ、やはり己のやり方一辺倒とはいかんな。
 知人の教師のように勇気づけてやれれば良いモノだが。」

もう一度指を鳴らせば、人魂と思しき炎はパンと弾け、
時間的には少し早い花火を見せる。

立ち上がると、足腰を調整して俯いた青年に視線を合わせた。
 
「口が下手ですまんな。
 だが、学ぼうと思えば学べるとも。俺が出来たようにな。
 これでも、生徒の頃は成績が下の方だった。

 異能だって正直、まだ詳細すら分からん。
 ……俺は、君たち生徒と共に、これから成長していこうと思っている。」

そう言って……笑おうとしたのだが、
まぁ、なんというか、困ったような笑みで、下手くそで、不器用な笑みだった。

「……まぁ、ヒトには合う合わんがある。無理に俺の授業を受けろとは言わんとも。」

霧島 孝介 > 「お、おぉお…!」

花火のように散る炎に目を輝かせる。
やっぱりすごい。こんな魔術、明日から自分ができるか、と聞かれたら絶対にできない。
この人自身は認めないだろうけど、魔術に関しては恐らくプロレベルの技術を持っているのだろう。

ふと、立ち上がってこちらに視線を合わせた彼に少しびっくりとしつつも
視線を逸らすのは失礼だと思い、まっすぐそちらを見て

「あ、は、はぁ…」

彼の言葉を受け、若干困惑気味にそう返す。
だけど下手くそな笑みを見た瞬間に、この人は悪い人ではないのだと。
きっと本当にいい教師なのだと悟って、その後の彼の言葉に咄嗟に口を開いて。

「お、俺は!あなたの過去も知らないし、異能も魔術もまだまだ分からないことだらけですけど!
 魔術を習って、今の自分を変えれるなら、成長できるなら!」
 
 俺は、あなたの授業を受けたい」

初めて出たであろう、自分の本音。
まさかこんな言葉が自分から出るとは思わず、発言した直後に口元を抑える。

羽月 柊 >  
青年の勢いで出たであろう言葉を聞いて、
ぱちくりと思わず桃眼が瞬く。

学園に学べる場はいくらでもある。
だから、自分の性分に合った場所に行くのが一番良い。
そこに自分が居る必要は全く無い…そう言ったつもりだったのだ。

「……そうか、ありがとう。霧島。
 …少なくとも、君の言葉は俺をまた一つ、歩ませてくれた。」

だから、彼の物語に己が登場して良いと言われて、驚いてしまった。

「……もし今の君の言葉が、自分を変えたいと、成長したいというのが本心なら、
 今君は…確かに少し変われたのかもしれんな。
 これは俺もうかうかしていると……君に追い越されかねん。」

そう言って姿勢を戻して立った。
膝上の、ベンチの上に居た小竜たちがぱたたと飛び立った。

霧島 孝介 > 自分らしくない言葉に少し恥ずかしくなりつつも
どうやらその言葉はこの場において正しい言葉であったようで。

「あ、いえ、俺なんて全然…」

頭を掻いて、なぜだか照れ臭そうにそう告げる。
そんな大それたことをしたつもりはなく、ただ単に
神秘に触れさせてもらった彼の魔術があまりにも魅力的であったためである。
あと、小竜にも触れる機会が欲しかったためである。

「お、追い越すなんて俺はまだまだ全然…
 まず魔術は使えないし、バイトも何もやってないし、社会的な経験とか、恋愛とかも…」

謎の謙遜なのかよくわからないことを言い始める。
素直に褒められるのはちょっと慣れていないこの男。
毎回言っているが、対人経験値がマイナスなので、こういうシチュエーションは初めてなのである。

しかし、少し、本当に少しではあるが、彼の言葉通り、霧島はこの瞬間に変われたのかもしれない。

羽月 柊 >  
「人間、やってみなければ何が起こるか等わからんさ。
 まだしたことが無いというならば、
 どれかにもしかすれば、宝石の原石が眠っているかもしれん。
 例え原石なくとも、それが好きなれば、俺のようにいつか成就もするだろう。」

自分もまた、こんな年齢になってから急に異能が発現するほど、大きな変化を経験したのだ。
故に、少しだけ先を歩く男は、青年に向かって話す。

この男も、褒められ慣れていない。
何かに対してろくに素直にもなれやしない。
だから、不器用にしか笑えない。


「そしていつか、自分が歩んだ道を、『己の物語を誇れるように』……なるかもしれん。
 まぁ、俺はまだ誇れるかというと分からん。
 しかし、1人の生徒にそう言われて、俺は教師になった。

 だから君もこれから、様々な経験を積むと良い。
 時に惑い、時に止まることもあるだろうが、な。」

マイナスならば、プラスになる余地がある。
哀しみを知っていれば、嬉しさは大きくなる。

目の前の男が、そうであるように。

霧島 孝介 > 「…確かに…」

腕を組んで、彼の言葉を嚙み締める。
まだ16年しか生きてない自分。しかもその大半は異能や魔術に触れずに過ごしてきた。
なんと勿体ない16年だったのだろうか。異能を持っていながら、なぜもっと早くここに来れなかったのか。
少しの後悔の後に、新しい考えに移る。

(…いや、今から、だろ)

そう今から始めればいいのだ。
まだしたことないことを、これからしたいと思っていることを、今から始めるべきなんだ。
そうすれば、やがてもっと不思議なこと、楽しいことがあって、更なる出会いがあるはずなんだ。

「…はい!」

彼の言葉に力強く答えた。
マイナスをプラスに出来るようにもっと、もっといろんなことをしよう。
知らなかったことを知ろう。もっといろんな場所へ行こう。

いろんなことをして、変わろう。
青年はそう決心した。

羽月 柊 >  
「…良い返事だ。」

そうして男はまた下手ながら笑って見せた。
食べかけだったメロンパンの残りを小竜たちに食べさせ、
お茶のペットボトルを片付けて、袋に纏める。

「ここには、良い教師も良い生徒も多くいる。
 もちろん、その反対もいて、あまねく異世界のモノも、不可解なモノも、君のすぐ傍に生きている。

 何か惑うことがあれば、俺個人の知見で良ければ力は貸そう。
 君が知り合う誰かしらも、きっと力を貸してくれるだろう。
 とはいえ、最後の判断は君自身が決める事だがな。」 

気が付けば、男の休憩時間は終わってしまった。
けれど良いのだ。彼もまた、得られるモノがこうしてあったのだから。

「…俺はそろそろ図書館に戻る。
 霧島、またどこかでな。」

そうして男は小竜二匹を連れ、屋上を去っていく。
少しの間だけ、青年に冷気を残したまま。

ご案内:「第一教室棟 屋上」から羽月 柊さんが去りました。
霧島 孝介 > 「は、はい!ありがとうございます」

彼の言葉に頭を下げる。
先人の助言は大事なものだ。
それが間違ってなければ、だが…多分この人は間違ったことは教えないはず。

「あ、はい!またどこかで…!」

離れていった彼と小竜たちへ手を振る。
最初に夢想した美少女とは結局会えはしなかったものの、いい時間を過ごすことが出来た。

やらなかったことをやってみよう。
新しいことに挑戦しよう。

もしかしたら、その中で新たな何かが始まるかもしれない。
そういう期待を込め、彼も屋上を後にした。

ご案内:「第一教室棟 屋上」から霧島 孝介さんが去りました。