2020/08/28 のログ
羽月 柊 >  
「自分が通っていた頃からは、確かに様相は変移している。
 組織や仕組みそのものは激変の渦中というよりは落ち着きも見えるが、
 確かなモノが出来たとて、彼らやはり、成長しゆく子供たちなのだな。
 まぁ、成長するのは俺たち教師とて、そうなんだろうが。

 ……責任重大か。権限が"外"ほど無いとはいえ、そうだな。」

なんてことのない会話。
友人を解消する気にはならなかった。それこそ起きた事に対する逃げだと思った故に。

だから忘れられなかった。
相手にだけ記憶を押し付けて、自分が、自分だけが、
のうのうと覚えていないなんていうのは、嫌だったのだ。

それでは友人になった意味が無い、と。


「……本当に君というのは………。
 メリットが無いことを、簡単に言ってのけるのだから困る…。」

そう言いながら口元を覆っていた手を離して、手元の鞄を開く。
目的のモノがある場所が分かっていると言わんばかりに中身を見ず、
軽い金属音と共に何かを出してくると、無言で相手の前に差し出した。

それを受け取るならば、ストラップにねじまきがついた小さな箱。…"あの日"の鍵だ。

ヨキ > 「ヨキは生徒であったことがないからな。
彼らの命を擦り減らすような日々を、外からしか知らぬ。
それでも、見ているだけではらはらする――子供たちは、常に何かに必死だ。

教師はいつでも手が足りん。
だからこそ、“生徒として”この学園を知る君が教師として戻ったことは……喜ばしい」

ふっと笑う。
“あの日”に垣間見せた獣性も、今日この時の穏やかさも、同じヨキだ。

「メリット?」

は、と鼻で笑う。

「友人関係に、メリットやデメリットが要るものか。
何が起こっても受け止められる自信があるから、友人なのだ」

不敵な笑みと共に、差し出された鍵を受け取る。

「――何だ。ヨキにこれを預けてくれるのか?」

羽月 柊 >  
「…生徒であったことは無い、か。
 立場が一つ変わるだけで、視点というのは全く違うからな。
 かつての生徒としていえば、子供の頃はやはり視野は狭くなりがちだ。
 それは知識的にであったり、見解であったり、環境であったり様々だが…。
 まぁ、学ぶことの多さを考えれば…故に、目前のことに必死に…"なっていた"。

 …しかし、同じとはいかずとも、彼らの隣で苦楽を共にした君が、
 全くもって外側ではない…だろう?」

この常世学園の教師の立場は、少々変わっている。
自分たちはある意味、生徒と生徒に挟まれた存在だ。

立場が上の"生徒"には、逆らうことは出来ない。
そういったモノは、己らにとって上司にすらなり得る。

故に、確かに彼らを導く存在であっても、
通常の島外の教師よりも……生徒に近いのではないかと。

今は同じ教師として、己を外側だという彼に何かしら思う所を覚えて、そう言った。


今の男は"あの日"見せた何もかもを捨てた彼ではない。
いつもの常に思慮を続ける…研究者。


「……そうか。君がそう言うなら、俺もそう在れるように努力する。
 ただなんというか、何度言われてもこちらが申し訳なくてな………。」

一方的に寄り掛かっているようにすら思えてならないのだ。
だから、返せる限り返したくなる。

そうして、少し声量を落とすと、ヨキに何か男は伝えている。

羽月 柊 >  
鍵について伝えた後に

「……それにしても、葛木一郎か。
 教師になってからは…逢えていないな。
 てっきり夏季休暇中は帰省なりしているとばかり…人探し?」

己のターニングポイントの一つとなった青年の話に首を傾げた。
『真理』を求める事件の中で出会い、唯一拾い上げた写し鏡の彼。

ヨキ > 「そうだな。部外者よりはよほど近い。
さりとて――子供ならではの焦りと熱は、本人にしか判らぬものだ。

ヨキは人の姿を取ったときから、ずっと大人としてこの街に交じっていた。
自分にはなかった子供の時分を、間近に感じ取り、学ぶために。
それが教師をやっている理由のひとつだと、そう思うよ」

二人から離れたテーブルで、おしゃべりに興じる生徒のグループ。
それを遠くに見ながら、目を細める。
その眼差しは、子どもを羨むようにも、あるいは見守る親のようにも見える。

受け取った鍵を手のひらに包み込み、視線を落とす。

「ふふ……まったく君は真面目だよ。
それなら存分に、君の思うとおりにヨキに尽くしてくれればよい。
だがどうしたって、ヨキは自由だ。ただ在るがまま生きているだけなのだと、気楽に思ってくれ」

耳打ちされた内容に頷いて、鍵を丁重に仕舞い込む。

「ああ。同じ風紀委員の友人を捜しているそうだ。
ヨキも詳しくは聞けておらぬでな、本人に確かめた方が確実だ。

斯様な閉じた島とはいえ、これだけの広さと人だかりだ。
行方が知れずば、一苦労だろうて」

羽月 柊 >  
いつまでも気恥ずかしさに目線を逸らしている訳にも行かず、ヨキの表情を改めて見た。

「…難儀だな、君も。
 俺からの言では、保証にはならんかもしれんが、
 君は子供たちと一緒に楽しみ、学んでいるように見えるとも。
 俺が雑踏と切り捨てていた所にまで手を伸ばして、その全身でな…。

 ……上手いこと言えればいいのだがな、なんといえばいいのだろうな…。
 まぁ、大人である俺たちには、一定の責任やらから逃れられんのは事実だがな…。」

傍ら、セイルとフェリアたちは、
リザードマンの生徒がやってきて、遊んでいた生徒と共に会話を繰り広げていた。

彼らも今は己ら教師に近い立場で生徒と接している。
……ある意味、ヨキと似た部分はあるのかもしれない。
柊と共に在る故に、異邦の出ながら付加された立場。


「頼りっぱなしは性分じゃあないんだ…。
 今まで接してきて君がそう言うのも、なんとなく分かって来てはいるんだがな…。」

きっとこれは見栄でもあって、意地でもあって、捻くれている所で…。


「…同じ風紀委員の、か…風紀委員に復帰したんだな。
 色んな意味で風紀委員に知り合いはいるが、逢えるなら…そうだな。
 
 ここは学園とはいえ安全じゃない場所は点在する…葛木を探してみるよ。
 教えてくれて感謝する、ヨキ。

 ……"俺が居る"と言ったのを、向こうが覚えていてくれれば早いんだが。」

友人を探して駆け回っているのなら、すれ違いになっているのかもしれないと思いながら。

ヨキ > 「ふふ、ありがとう。共に楽しもうと……そうしようとは努めているさ。
今更生まれを嘆いたとて、詮無いこと。
だからこそ、ヨキは何事にも全力でありたい。
幸いにも、子供のようなヨキを支えてくれる友人にも恵まれたことだしのう」

笑う。
へそのない異形の腹。母のない証。柊はそれを目にしている。
穏やかに話しながら、傍らの友人を見た。

「これからはヨキと君とで、互いに支え合うがよかろう。
もはや遠慮も要らぬ仲だ。

――ヨキからも、葛木君の話を聞いてみるとしよう。
生徒の困りごととあらば、放っては置けん」

さて、とベンチを立つ。

「ヨキはそろそろ、仕事に戻らねばならん。
くれぐれもまた倒れることのないようにな」

去り際に、思い出したように。

ごく自然な仕草で、投げキッスをひとつ。

にやりと笑って、ロビーを後にした。

ご案内:「第一教室棟 ロビー」からヨキさんが去りました。
羽月 柊 >  
知っている。
似ているようで違う、傍らの友人を。
触れ合った、"隣人"で在る彼を。

生まれついて何も持たなかった無力な人間は、知った。
魔術を習得しても、異能を持ってもなお、無力なことにそう変わりはしない。
この世の全てに…男は抗えはしないのだから。

故に、柊は静かに語る。

幾年もの年月を経て、久しぶりに素直に友と呼べる相手に。


「生まれも経た年月もどうこうは出来んが、
 そうだな…互いに無理をしない範囲で……支えて行ければ良いと思う。
 君が全力というのなら、俺は…少しばかり後ろから。
 
 ……助かる、ヨキ。
 こちらも何か分かれば、そちらに連絡しよう。」

立ち上がった相手に頷く。

と、悪戯に投げキッスを受けて、視線を泳がせて頬を掻いた。
空いた手のほうで、小さな動作で別れを告げながら。

「……全く、本当に他人の心を動かすのが上手い…。」

ぼやいた声は、ヨキにはもう届かない。


それからしばらくの間、男は生徒と戯れる小竜を見守っていた…。

ご案内:「第一教室棟 ロビー」から羽月 柊さんが去りました。