2020/09/14 のログ
ご案内:「第一教室棟 保健室」にレオさんが現れました。
NPC > 『ガーゼと包帯は変えましたから、また汚れたら別のに変えて衛生的にしてくださいね。
 あまり触らないのと、右手はあんまり無理に動かさない事
 …はい、おしまい』

昼休み、保健室で先生に言われながら包帯を付け替えて貰った。
止血はちゃんと終わったが、傷がたんと塞がるまでは手当をしないといけない。
他の傷はかすり傷だが、肩に関しては脱臼と深い裂傷を受けているのだ。
適切な治療が必要なのは間違いない。

『今日君のクラス、次の授業体育だろう?保健室使っていいから、休んでおきなさい。
 連絡入れておくから、授業に出て体動かしにいったり、絶対にダメだからね』

レオ > 「ははは、ご迷惑おかけします…」

手当をされた青年は絆創膏と包帯まみれの上半身を晒しながら、椅子に座って静かにそう言う。

実はこの男、風紀委員として戦闘を行い、怪我を負った為にそのまま仕事の後に治療を受けたのだが…
その戦闘で受けた神経毒の解毒で注射器を刺されそうになった途端、逃げ出して自分で応急手当をしていたのだ。

その後何事もなく授業を受け、委員会の仕事を行い、夜に公園で倒れた所を通りがかった生徒に見つけられ、救急車に運ばれ治療を受け、そして今、と言った具合である。

「…でも先生、その、大した怪我じゃないので体育の授業くらー……」

その言葉を続けようとしたら、先生に睨まれた。
しょぼん。

レオ > 『じゃあ、私は席外しますから、君はベッド借りていいから、休んでくださいね』

そう言いながら先生が立ち去る。


「‥‥…」





そっと窓から出ていこうとする。



パァン!!!
立ち去った筈の先生が、勢いよく扉を開けた。
ビクッ!として、青年が止まる。

先生 >
レオ > 『ベッドで

    休んで

    なさい』

レオ > 「‥‥はい」
青年は体育の授業に出るのを諦めた。



そして先生が改めて立ち去り、部屋には青年一人だけになる。
……仕方ない、休もうか…
授業には出たかったけど、出たら怒られそうだし……

そう思いながら、脱いでいたシャツを手に取り着ようとした所で…
足がふらつく。

「っ、と……」

実際、足りてなかったのだ休息が。
ここ最近ロクな場所でも寝ていなかった。
雨の中で眠りこけ、体調を崩した日もあった。
それに加えて昨日の負傷で毒も受けていた。

それでも学校には通い、風紀の仕事は続けていたのだ。
その疲労が、昨日の夜一気にあふれ出した。
ただそれだけの事だ。


ふらつきながら、ベッドの方にいって、そのままベッドに倒れ込むようにする。
服を着るのも諦め、そのまま手放す。
手放された服は、ベッドの横にそのまま落ちた。

「しょうがない、少し…寝よう。
 寝て、起きたら授業もど……って、しご………」

そこで、青年の意識は途切れた。

レオ > ――――夢を、見た。





少し昔の事。
この島に来る前の事。
色々な場所にいって、刀で、沢山の怪異を”斬って”いた頃。
禍狩り人、という集団に…所属していた頃の夢。

『―――へぇ、君が。
 ホントに若いのね』

―――その人は、僕の先輩だった。
綺麗な人だった。
赤い目をした、真っ直ぐな、白い髪を一つに結った女性。
鬼と言われる存在の混血で、凄く力の強い人だった。
普段はキリっとしていて、厳しそうな印象を受けたけど…偶に笑う姿が、綺麗だった。

何度か、”仕事”を一緒にした先輩。
僕らの仕事は、基本的に一人で請け負って、一人でこなすものが多かった。
理由は『その人でしか出来ない仕事』に、なるからが多いから。

怪異の討伐は、決められた形の欠けたパズルに、欠けた部分のピースをぴったりはめるようなケースが多かった。
それの怪異を祓う事が出来る能力を持たなければ、足手まといにしかならない事も、よくある事だった。
複数人でやる時は、何等かの理由があった時。
彼女といっしょに仕事をする時の理由は、概ね、一つだった。

『君と共に…っていう事は、そうか。
 ああ、頼りにしてるよ』







―――僕が担う仕事は







『万が一の時は、君が私の首を刎ねておくれよ』

”不死”である先輩に何かあった時の、介錯役―――

女性 > ―――先輩。

『うん?』

―――僕といるの、嫌じゃないですか?

『なんで?楽しいよ。
 若い子は珍しいし、こんなに誰かといっしょに仕事することもなかったから』

―――いえ、そうじゃなくて……

『そうじゃなくて、何?』

―――先輩は、不死なんです…よね

『そうだよ?』

―――僕は……力の関係で、不死の怪異の対応に回る事、多いので。
僕は、不死者にとっては天敵のようなもの…じゃないですか。
…そんな僕といるの、怖く…ないですか?

『んー…』

女性 > 『―――どーう、だろうね。
 そんな事考えた事もなかったから。
 長い事不死やってると、その辺の感覚、薄くなるからなぁ』

先輩は、あっけらかんと笑った。
一人でいるときは、鋭い刃みたいな印象を受けるのに。
喋るときは、そんな印象が吹き飛ぶほど、よく、笑った。

『……でも、さ
 普通の人なら、当たり前の事じゃない、やろうとすれば殺せるなんてさ。
 でも、そうだとしても普通は殺そうとはしないでしょ。
 まぁ、こんな仕事やってたら普通に殺そうとしてくる人とやり合う事もあるけどさ……

 でもそんな事で怖がってたら、みんな何も信じれないじゃない。
 普通の人はそう。
 だから気にする事なんてないじゃない?

 …レオ君はいい子だしネ?』

自分に向けてそう言って微笑む先輩は、本当に何も思っていないようで。
死の気配が生まれつき感じれた僕には、その”普通”というのが、あまりピンとはこなかった。
でも……先輩の言う”普通”という声が、妙に聞き心地良くて。
少しの興味を覚えた。

女性 > 『それに、さ

 私らみたいな不死は”死ねない”からさ。
 程度は違えど悲しいんだよ。

 …私は君がいると、少しほっとするよ。
 私は、”死ねるんだ”って。
 普通の人みたいに、終わりが来る。
 その方法が、あるんだって。 

 …君には、ちょっと悪いけどね?』

先輩が、少し苦笑する。
先輩は、喋るときによく体を動かす人だった。
動作が大きくて、長くて細い髪が動きに釣られて揺れる。
その揺れる髪が、凄く綺麗だった。

レオ > 先輩と共に街を歩くのが、好きだった。

色々な事を教えてくれるのが、嬉しかった。

よく、ごはんを奢ってくれた。払うと言っても、絶対に僕にはお金を払わせてはくれなかった。

美味しそうにご飯を食べながら、色々な事を話す先輩を見てる時間が、密かな楽しみだった。

子供に見られるのが、少し不満だった。

はやく大人として見られたかった。

色々な場所を、一緒に見た。

レオ > 先輩の事が、好きだったんだと、思う。
レオ > 「―――――先輩」


夢を見ながら、言葉が零れる。
保健室に、小さな言葉が空に浮かんで、消える。
開けっ放しだった窓から入った風が、カーテンを揺らす。

そこには、ベッドに倒れ込むように眠る青年が一人。
シャツも傷に、肩や腹に包帯が巻かれた上半身が、そのまま晒されている。
それ以外には、誰も、いない。

レオ > 「―――、―――……ん、ぁ…」

目が覚めたのは、夕方になってからの事だった。
窓から茜色の光が差し込み、影は眠る前より、深い色をしていた。
外からの風にすこし肌寒さを感じで、それで、目を覚ました。

「……結構、眠ってたな」

靜かな保健室に、青年が一人。

夢を…見ていたな。
懐かしい夢を…
いや…そんなに前の事じゃ、なかったか。
ずっと遠くに起きた事ような気がする。
それくらい、遠くに来た。

レオ > 3度、人生の転機があった。

1度目は、禍狩り人になる前。僕が、異能に目覚めた出来事。

2度目は、師匠に会った事。禍狩り人に、なった事。

3度目は、禍狩り人を、やめた事。

―――先輩を、殺した事。
そこで、僕は、砕けた。
砕けて、そして……常世島にやってきた。

…それでも結局、こうして人を斬っている。
おなじような事を、続けている。
逃げた先で、逃げる前と同じ事を、延々と…繰り返していた。

レオ > 「……まだ、仕事まで時間あるな」

もう少し、ゆっくりしよう。

ご案内:「第一教室棟 保健室」に月夜見 真琴さんが現れました。
月夜見 真琴 >  
ゆっくりと扉が動く。
間隙からこっそりと、静かな室内を覗き込む銀色の瞳があった。
そして意識が――どれほどかはさておき――覚醒している様子を見て取ると、
瞳がぱちりと開いて、室内にひそやかに踏み込んだ。

「――おや。 起きていたか」

病院を見舞うかのように、近くの椅子を引き寄せて、
ベッドの傍らに腰掛ける。

「恪勤精励、意気軒昂。 正直ここまでとはおもわなかった。
 ずいぶんよくやってくれているようだな、レオ」

まっすぐに伸びた白髪に気をつかう仕草。
穏やかな微笑でもって、寝台に休まる後輩をねぎらう。

レオ > 「……先輩?」

少しぼんやりとした視界で、その姿を見た。
白い髪。
色々の事を思い出す、髪の色。

「…ぁ」

焦点が合ってきて、その姿がしっかりと認識される。
違う―――

「―――月夜見先輩?」

風紀委員に入る直前、列車の中で出会った、最初の風紀の先輩。
あの時も思った。
あの髪が、色々なものと、重なって見えると。

少しふにゃっとした笑みを浮かべて、彼女の言葉に返事をした。
「……おかげさまで、何とかやれています。

 …‥せいれいかっきん?…えっと…」

月夜見 真琴 >  
「そうとも」

頷いた。
なにが視えたのか、と察することは、できた。
彼が視たもの――「真実」は、何かはわからない。
ここにはない何かを視たとて、ここにある「事実」は、

「やつがれはどうしようもなく、月夜見真琴さ」

銀色の瞳で、彼を穏やかに見守った。
椅子の背もたれに体重を預ける。

「元気にまじめにがんばっている、ということさ。
 ようく褒めているよ。あとは息抜きと休み方を覚えれば上出来だ。
 せっかくの気鋭の凄腕だ、潰れてもらっては困る」

人差し指を立てた手を、筆を繰る様に動かして。

「――"鉄火の代行者"。 仰々しい二つ名で呼ばれたものだな」

ささやくような甘い声で、含み笑い。

レオ >  
美しい白髪。
真っ直ぐに伸びた髪が妙に視界の中で存在感を放っていたのは、つい先ほどに見た夢のせいか。

「『鉄火』の…代行者。
 そう呼ばれてるんです…?」

テストをしてくれた先輩が、大怪我をして戦線を離脱した。
それで苦しむもう一人の先輩を、偶然目にして…
彼がいない間の代行が少しでもできないかと。
自分は『鉄火の支配者』ではなく、『代行者』だと。
そう、先日の戦いで名乗った。

あれを、聞いていた人間がいたのか。
……あぁ、取り逃した一人か。
まさか、こんな直ぐに人に異名をつけられるなんて。


でも、鉄火の代行者、か…
ただの代行者、と言ったつもりだったけど。
…まぁ、いいか。

「ははは…仕事にまだ慣れなくて。
 言われた通り人手が足りないみたいですし、何より……先輩達が今、不在ですから。
 穴埋めに少しでも貢献しないといけないですから、ね」

すこし苦笑する。
新参の自分がやるには荷が勝ちすぎるのは、自覚していた。

月夜見 真琴 >  
「常々、だれかに視られているとおもったほうがいい。
 落第街において、あれに連なる者としての箔はもとより、
 それ単一でも力強い響きを持つ呼び名となってしまえば――、
 なるほどなかなかに美しい。これから謹んで背負わされるといい」

愉快そうにころころと笑った。
脚をぱたぱたと揺らす子供じみた仕草の横で。

「いずれ重責となろうとも」

その囁きを混じらわせた後に、彼のことばにうなずいた。
謙遜まじりの姿勢に対しては目を輝かせ、上機嫌に声をはずませる。

「素晴らしい姿勢だ。おまえのような者を待っていた。
 やつがれの"正義"のためにも、十二分過ぎる逸材といえる。
 だがおまえが理央に続く戦線離脱者になってしまえば、意味はない。
 昼から眠っていたそうじゃないか。視えざる疲れに殺されぬように」

心配で見に来たんだよ、と苦笑で締めくくった後に。
あらたな問いをむけた。

「――それとも、戦場そのものになにかを求めているのかな」

銀の双眸が、じっと少年をみつめた。

レオ >  
「……」

見えざる疲れに殺されぬように。
耳が痛い言葉だ。
自分の命の危険は、直ぐに分かる。
それこそ降り注ぐ弾丸の雨の中、迷うことなくそれらを掻い潜り進む事が出来る程。
だが、しかし
静かに身を蝕む疲労は
たとえ命すらも落としかねなくても、変化が緩やかで見定め難い。

生まれつき死の気配が見える青年にとっては
眼前に現れる鉛弾よりも、体に積み重ねられた疲労の方が
よほど、脅威だった。

「…別に、そんな事はないですよ。
 成り行きと言いますか……気が付いたらこうなってただけで。
 
 前にも言いましたけど、本当は”普通”の方かいいくらいですよ」

小さく苦笑する。
普通を求め、この島に来た。
その仄かな願いはいとも簡単に潰えた。

まぁ、仕方ない。
そう、笑った。
諦めるように。

月夜見 真琴 >  
「何も起きず、何も起こさない――だったかな」

思い起こすようにして、視線を窓の外にむけた。
出会った時に伝えられた、彼の"普通"。

「孤眼心刀流」

夕焼け。赤々として沈みゆく太陽を眺めながら、ぽつりと呟いた。

「理央との訓練も、戦闘の記録も視させてもらっている。
 影の世に在りと語られていた秘剣も、実物を目にすると不思議な心地だ。
 あるのだろうと思っていた反面、ほんとうにあったのだなと」

いくらか伝え聞いていたあの噂話が事実であれば。
彼が"普通"でないことなど、出会った時から知れていた。
奇妙な鍛え方がされた指の筋肉。励ます時に触れた腕の太さと硬さ。
戦う者の体つき。だから蹴り込んだ。

「あれら絶技秘奥も、流されるままに修めてきたのかな」

少しばかり踏み込んだ問いかけになろう。
だからこそ、問う口調はどこまでも柔らかい。
顔をそむければ軽い世間話にもなろう。目覚めまでの、軽い体操のようなもの。

レオ >  
「――…知ってるんですか」

自分の剣術は、孤眼心刀流は。
人を斬るのに特化した業じゃない。
表に出ない、秘匿されるべき存在を斬る為の物。

故にそれらを斬る剣技も、秘匿され世にでるべきではなきもの。
”ない”ものとして扱われるのが、正しいもの。
それも…噂として知られているのか。
本当に常世島は凄いな…

「…流されて覚えれるものではないですよ。
 修行も厳しかったし、何度も死ぬかと思ったし……
 使うだけで体が悲鳴を上げる事もありますし。
 今日も、ちょっと無理したので……体のあちこちが痛いですしね」

特に、先の戦いを終わらせた一撃は体のあちこちを痛めた。
そういう業。使いすぎればいくら鍛えていても、体の方が保たない常軌を逸するもの。

そんなもの、覚えようとするならば……
”人の領域”を踏み越えようとする行為を…
”他人に言われたから”なんて理由で、踏み込めない。

「…弧眼流を覚えた時は、色々…やらなくちゃいけないって思ってた事があったんです。
 今、何もない状態から覚えようとしたら…多分、無理ですね」

苦笑した。
”やらなくちゃいけない”と言ったそれらから目を逸らすように。

月夜見 真琴 >   
 
 
「何を殺そう、と?」
 
 
 

月夜見 真琴 >  
 
 
問いかけは簡潔だった。
柔らかく、静かな表情のまま。
 
 
 

レオ >  


「―――」
 
 
張り付けた笑顔が、崩れた。


「それ、は…――――」

レオ >  
何を 殺そうと
何の為に、尋常ならざる剣を覚えたのか。
何を成そうとしたのか。
そして、何を成せなかったのか。

端的で、短い……柔らかい口調の筈のそれは
言の葉で出来た薄く薄氷による透明な刃のように、突き付けられる。



「……――――」

言葉が、詰まった。

月夜見 真琴 >  
「義務感や目的意識であそこまでの領域にたどり着いたとなると。
 切実な理由であろうとは見当もつこう――まして"剣"」

結句、それにどれだけ美しい理由が付随していたとしても。
その表情を。"レオ"を見つめながら。

「斬ったのだな」

かつてはあったらしい、"やらなくちゃいけないこと"。
それが過去形で語られた時、少年にとってそれは過ぎ去った熱と心得た。
では今は、と考えるのは自明だった。

「――そのうえで。
 おまえは、"いま"、戦場になにを求めている?」

柔らかく、甘い声で。
手を伸ばした。彼の額に、やわらかな掌を乗せる様。
さきほどと同じ問いかけを、仮面のはがれた顔に問うた。

「戦いを忌避するなら。
 おまえは最前線でも取り得る選択肢はあったはずだ。
 しかしおまえは理央の代行まで成そうとするほどに、
 積極的に戦場に出る理由を求めているかのように思えた」

一拍、置いて。

「生きて帰ってきてくれるならそれでいい。
 翻って――おまえは、必ず。
 生きて帰ろうと、しているか?」

レオ >  
―――この人は。
柔らかな言葉で、僕の方へと歩み寄ってくる。
その歩はゆっくりで、確実で
小さくて、泡沫のように淡く、でも、実際に迫っている。

その姿にあの人を重ねたせいなのか。
沁み込むように心が濡れる。

額に触れられた事に、触れられてから気が付くほど。
気が付いても、拒む事を考えさせないほど。

迫っている事を、許してしまいそうなほど。
緩やかで甘い―――


「―――僕は」

触れられた掌の熱が、人の温度が額を通して体を巡る。
この人が、自分の中に入っていく。
そんなような気が、した。





自分がふさぎ込んでいた心の音が、鳴る。

レオ >  




                  「死にたいんです。」





                     死にたい。
                 もう、死んでしまいたい。
                何も無くなってしまいたい。
                歩みを止めて、楽になりたい。
               
                  今日のこの日も。
                    眠る夜も。   
                   超える明日も。

             全てが無くなって、何も考えなくなりたい。

              全てを投げ出して、消えてしまいたい。
 
 

月夜見 真琴 >  
 
 
「ではなぜ自ら命を絶たない」
 
 
 

レオ >  


「”生きて”と願われたので。」
 
 
 

月夜見 真琴 >  
「"言霊"か」

駆動する理由をきいて、ただそっと、額から頭に。
掌を這わせて、髪をゆっくりと撫ぜた。
少年は呪われていた。すくなくとも、そうみえた。
たとえそれに、どういう意味合いが乗っていたとて。
むける側と、うけとる側で、言葉の意味などいくらでも変わる。

「なるほど」

すこしだけ、困ったように笑顔を作ると。

「では」

ぽん、と頭を叩く。

「死なないでくれ、レオ。
 生きて帰ってきてくれ。
 やがては理央と比翼になろうおまえに、死んでもらうわけにはいかない。
 そして、先達として、おまえを前線に推薦したものとして
 やつがれに、理央に、そして多くのものに。
 ふれた時点で、おまえはだれとも他人ではいられない。
 "レオ・ウイットフォードの死"は、それだけ大きな意味を、既に持ってしまっている」

息を吸い込む間を取って、

「"殺されたのだから願いを不意にしてもしょうがなかった"などと。
 その誰かに、斯様に赦しを請わせるようなことは、させたくはない」

と、告げた。
くだらなかった。
月夜見真琴は、心からそう思った。
"選んだ"のは――"選ぶ"のは。
常に己なのだ。
自分の苦しみを、他人の願いを理由にする者を。
赦す気にはならなかった。

「戦場に出続けることは止めないが。
 風紀委員である以上、生きて帰ることは厳命だ。
 おまえは機構に組み込まれたものであり、無意味な死は赦されない。
 そのなかで、"死にたくない"と思えるような理由を探せ。
 やつがれが、"正義"を後から見つけたように。

 ――これは"命令"だ。いいな」

レオ >  
「‥‥‥‥」

頭を叩かれる。
ぽん、と髪が揺れる。
項垂れるように、視線が落ちる。


”死なないでくれ”
”赦しを請わせるようなことは、させたくはない”
”これは命令だ”

「…………………‥‥………………………」

青年は、既に歯車の壊れた絡繰りだった。
止まる事も、進む事も、自分ではもうできなかった。
それを動かす代わりの歯車を、何時も他者にゆだねている。

”求められれば。”
”願われれば。”
”命令されれば。”


”それに応じて動くしかない”
”壊れた、絡繰り”


「……はい。
 わかってます。

 死ぬ気は――――ありません
 ちゃんと、生き残る気で…戦ってます、から」

自分を崖に放り投げるような真似は、しない。
捨て身の戦いを、する訳ではない。
死ねないから。
死んでは、ならぬから。

そう、思った矢先
重ねられた言葉が、壊れ身を刺す。




”理由を探せ”
”死にたくないと思えるような”



「―――――――――は、い」

既に壊れているその絡繰りに、それ以上の言葉は、出ない。

月夜見 真琴 >  
「うん」

やわらかく、微笑んだ。
彼の心が救われる様子は、すくなくとも真琴からは視えなかった。
そして、それで良かった――そもそも、そんなことは。
おこがましいことだ。"救ってやろう"などと。
誰かが、誰かを救おう、などと。

「レオ」

呪いに呪いを重ねれば良い。
だが、結局のところ。

「それを選んでくれるなら、嬉しい」

"選ぶ"のは。

――――おまえだ。

だから。

「レオ」

聞き分けが良い。
たとえそれが、さて、天使の救いなどではないにせよ。
彼が少しでも長く駆動し続けるというのなら。

「いい子だ」

――あまく、ささやくように。

「傷が完治するまで、休みなさい。
 こちらから委員会には報告しておく。いいかな」

レオ >  
「―――、―――――……」

傷が完治するまで。
長期の、休養。

「―――それは、ちょっと…嫌です」

疲労は、ある。
けど、疲労であって、傷じゃない。
命に迫る傷はない。

何より……

「―――沙羅先輩という方に、書類仕事を手伝って欲しい、と言われているので。
 …戦闘は、傷が癒えるまで控えます。
 元々治癒系の力が効きにくい体質らしいので…
 その辺は、弁えていますから。

 …でも、体を動かさない範囲で、仕事は…したいです。
 それは…ダメでしょうか?」

月夜見 真琴 >  
「――ああ」

わずかばかり間が空いた。
すこし意外そうに目を丸くしてから。

「うん、そういうことならいいと思う」

言うことを跳ね除けられたというのに、機嫌はすこし上向いた。
微笑みには柔らかさでなく、喜色が混じった。
"嫌です"と言われた時に、とりわけ嬉しそうな反応をした。

「そもそもやつがれに、あれするなこれするなという権利はないのだが」

扱いの上では同じ"風紀委員"だし、何より自分は"監視対象"。
強制力などないに等しかった。
たとえ流されるように決めた手伝いであっても、
そのうえで意思でもって否定されたことが愉快だった。

「そうしたい、というのならそうしなさい。
 戦場では最大のパフォーマンスを発揮できるように。
 そして戦場以外の風紀委員としての仕事も、
 沙羅や他のみんなに、しっかり教えてもらってくるといい」

だから少し甘くなる。本当は休ませるべきなのだが。
そうして笑った女はといえば、今後のことを決めたことで、
役目を終えたように居住まいを改めた。

「傷の扱いにはとみに気をつけるように。
 さて、何もないなら邪魔にならぬようやつがれは帰ろうと思う。
 さいごになにか、あるかな?」